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栽培技術の革新とデータで未来の食を守る、MIRAIの植物工場

栽培技術の革新とデータで未来の食を守る、MIRAIの植物工場

世界で問題となっている食料問題。その一つの可能性として注目されるのが植物工場だ。

今回、植物工場の草分け的存在でもある、MIRAIが自社工場の改善にIoTを活用しているという。

一体、どんなデータを取得し、何が実現されているのか、MIRAI株式会社 取締役社長 野澤永光氏はじめ、工場を支えるみなさんにお話を伺った(聞き手:IoTNEWS 代表 小泉耕二)

植物工場の可能性、そして課題

IoTNEWS小泉耕二(以下、小泉): まず植物工場の概要について教えてください。

MIRAI 野澤 永光氏(以下、野澤): 工場が稼働し、出荷を始めたのが2014年なので7年ほどになります。現在500平米強の栽培室が2つあります。

MIRAI株式会社 取締役社長 野澤永光氏

栽培室では収穫、苗の植え付け、パネルの移動などを行います。作業者の方にはインナーTシャツ、靴下、防塵服、ヘアキャップ、マスク、全てMIRAIで用意したものに着替えていただきます。作業着のクリーニングも他業者に頼むのではなく、全て工場内にある洗濯機と乾燥機で行っています。

小泉: かなり厳重ですね。

野澤: 我々は全く農薬を使わない栽培を行っているので、病害虫の侵入や、病気が蔓延するのを防ぐ必要があります。

農薬を使っておらず、虫もいない、土もつかないという点で、様々な人に利用していただいています。

小泉: 作った野菜の利用者の方はどのような方が多いのですか。

野澤: BtoBがほとんどです。スーパーのデリカコーナーや飲食店など、青果コーナーだけではなく「食品」として提供される商品に多く利用されています。

食品工場の方達にとって、植物工場の野菜の方が洗う手間が少なく、異物混入チェックの負担も減ります。

従来の露地栽培のほか、ハウスで行う水耕栽培もありますが、その場合太陽光を利用します。そうすると太陽や天気の影響はどうしても受けてしまいます。

結果的に季節によって野菜のサイズの変動や、台風などの影響で栽培自体難しくなることで、野菜の大きな価格変動が起きてしまいます。

しかし食品として提供する側は定番メニューのサラダやお弁当の値段はなかなか変更できません。食品工場の方達は、年間を通して予め原価計算を行うのが難しい状態です。

そうした中、植物工場の野菜が、安定調達のための大きな選択肢の一つになっていると思います。一方植物工場の課題もあります。

ご覧いただくと分かるのですが、栽培している棚にはかなりの段数があります。それぞれの段別に温度・湿度・水流・pH値など、たくさんの情報を取得したいのですが、そうするとかなりの数のセンサーを要してしまいます。

植物工場の棚の様子。一つの棚に多くのトレーが配置されている。

野菜の価格自体が一個数百円という中で、設備投資することで費用対効果があるのか、そこまでしなければならないのか、について考える必要があります。

一方で、生産が安定していない時や、野菜に不具合があった場合でも、原因追及するだけの情報量がないと困ります。

また、季節によって人気の野菜は違いますから、品種の割合の変更や、今まで作ったことのない品種を作るときは環境が変わります。個別のデータを細かく収集したいという思いと、費用対効果のバランスは、私たちも今模索しているところです。

小泉: そのバランスはとても難しいところですね。そうした試行錯誤の中、現在取っている情報、または取りたい情報をもう少し詳しく教えてください。

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必要なデータを最小限のコストで取得する工夫

藤原 大樹氏 MIRAI株式会社シニアエンジニア(以下、藤原): 現状取っているデータは、温度、湿度、二酸化炭素、流量、EC(電気伝導度)などです。電気伝導度は電気の通しやすさを表す指標なのですが、これを見ることによって培養液の中の肥料成分の濃度を間接的に見ています。

MIRAI株式会社 シニアエンジニア 藤原大樹氏

弊社の工場では、パネルをスライドして収穫していきます。手前のものを毎朝収穫し、奥の空いたスペースにまた苗を植えた新しいパネルをはめ込んでいきます。

こうすることで365日、毎日収穫することができます。ですからデータもすぐに集まります。

一方、パネルを動かすということは、データを取るべき対象物が移動してしまうということです。そこで現状は、野菜が通るポイントに定点でセンサーを設置しています。そして通過したことをモニタリングやゲートウェイの内部のデータ処理を工夫することで追いながら、どのパネルがどういう履歴を辿ったかを計算と作業データとを突き合わせて把握しています。

また、一番生育環境が厳しいと思われるポイントに重点的にセンサーを置き、一番生育が悪い箇所を是正していけば全体が改善されていく、という手法をとっています。

今後はコストをかけずに局所的な野菜の数値を測りたいと思っています。そのため、センサーの開発を行い、カメラを設置して画像認識を活用したモニタリング機能も実装する予定です。

クラウドのプラットフォームには、インフォコーパス社のSensorCorpusを用いていて、共同でプロジェクトを進めています。

SensorCorpusの画面が並び、それぞれの状況がすぐわかる。

小泉: デバイスも社内で開発・改造を行っているのでしょうか。

藤原: 現状センサー類は既存のものを使っているのですが、一部は自作、試運転しており、自社開発を進めているところです。

既製品でも、安い海外製のものはクオリティーが高くない場合があります。国内のメーカーのものはすごく精度がいいのですが、機能リッチで値段が高く、数を入れることができません。

ですからミドルレンジのものを現在自社で開発しております。インフォコーパスからもデバイスの会社の方を紹介していただいて相談しているところです。

そして、様々なセンサーを設置することで、新たな情報を見るという取り組みも試していきたいと思っています。

小泉: 現状取れているデータで、可視化することによって得られるメリットはどういったところなのでしょうか。

藤原: 「収穫量の予測」と「原因追求」の2点が大きなメリットです。

植物工場は比較的安定して収穫することができますが、生育過程の環境に応じて、多少なりとも収穫量が変動してきます。

大まかな収穫量の目安から、10%程度のブレが発生することがあります。その際、遡って温度や湿度などの変化から先々の収穫量の予測をし、起こった原因の追求をする、という両面があります。

小泉: なるほど。収量の予測をし、営業フェーズでどれくらいの量を出せるかという話をしなければいけない、というのが一点。

もう一点は、目標収穫量に対して、例えば95%の収穫だった場合、なぜ5%少なかったか、チェックするためにデータが活用されるのですね。

ちなみにこの工場全体ではどれくらいの収穫量があるのですか。

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技術革新×データの重要性

野澤: もともとは1日1部屋300kg程度の収穫量でした。しかしSensorCorpusを導入している栽培室では400kgになりました。

収穫量が増えた直接的な理由は、デジタルそのものではなく、栽培技術を改良したからです。

具体的には主に光・空気・水(培養液)の三要素を変えました。

光は照明そのものを変え、培養液は環境数値の変更、空気であれば温度・湿度・風のコントロールを変えました。育て方も「こうあるべきだ」という考え方を逆転して栽培してみたら、大きく重さもあるグリーンリーフを収穫できるようになりました。

左が栽培技術を改良したグリーンリーフ。右が従来のグリーンリーフ。左の方が大ぶりだ。

小泉: 左の技術改良をしたグリーンリーフは、大きさも重さも違いますね。この工場でしかこの大きさの収穫は行えないということでしょうか。

野澤: そこで必要になってくるのがデータです。

栽培技術の結果を、感性や直感という経験をベースに成り立たせたくはありません。属人的になってしまい、誰かがいなければならない状態になってしまうからです。

今後我々はこの装置やシステム、運営ノウハウを国内外で収めていくというビジネスも展開していきます。

ですから、栽培技術が定まったらそれを見える化し、第三者でも行えるようにしていく。現実をトレースし、分析をかけることによって将来どうなるか予測していく必要があると考えています。

データの数値を映し出す、見学室のパネル。

小泉: そうすると、ある程度の特別な知識や経験は必要でも、その技術自体、特殊技能ではなくなってくる可能性もあるのでしょうか。

野澤: そうですね。ただ、やはり最後仕上げる「目」というのは人も必要です。データと人、両輪が揃うことで成長するビジネスだと考えています。

また、今後設備やノウハウを収めていく際に、経営の視点もとても重要だと思っています。

もともと私は営業として2012年旧みらい時代から働いていますが、2017年4月よりMIRAIの取締役社長に就任しました。営業から社長になって感じるのは、「経営側」「現場の生産者」「デジタル技術者」が、三位一体になることが必要だということです。

例えば、今までは何か問題が発生した際、データを見た技術者の主張と現場の生産者の主張が対立した時、最終的にはどちらかが折れるという状況でした。

それでは本来の問題に関係なく、その場の力関係によって物事が判断されてしまいます。経営者が指示や判断を下すのにも、現場を知らなければどちらの意見が正しいのかわかりません。

もちろん現場に入れるときは入りますが、入れない状況もあります。
例えば海外に設備を収めた場合はすぐには行けません。現場が海外にあり、現場の先のお客様と、現場の先の技術者がそれぞれやり取りを始めてうまくいってない時に、運営する責任者として話ができるかどうかが重要だと考えています。

小泉: 現地にいかなくてもノウハウの供給もできるわけですね。消費地に近いところに工場が建てばロジスティクスの費用も削減され、環境配慮にも良いですね。

インフォコーパスのSensorCorpusを導入したことでのメリットはどのようなことでしょうか。

野澤: インフォコーパスと出会う前は、経時変化のグラフはあるものの、「センサーの位置がどこにあるべきか」「培養液の交換をいつ行うべきか」「建物の電力使用量」など、様々なことをうまく見ることができていませんでした。

また、こうした(無線通信を遮断する可能性がある)鉄のラックや水がある植物工場で、どのような通信が適切なのか、我々も、既存ベンダーも分かっておらず、通信エラーが起きていました。

栽培技術に関しても我々が未熟だったこともあり、出てくる数字が良いのか悪いのかの判断も難しいという中、試行錯誤を行い、ようやく紐解きができてきた時にインフォコーパスさんと出会いました。

社内の中での基盤ができている状態で、柔軟性の高いSensorCorpusとの相性がとても良かったと感じています。

左:MIRAI株式会社 取締役社長 野澤永光氏 右:IoTNEWS代表 小泉耕二

生産者としてノウハウを着実に貯めていき、それをベースに各ベンダーに協力してもらいながら設備を開発していかなければならないと考えています。

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世界で必要とされる持続可能な社会づくり

小泉: それでは最後に今後の展望をお聞かせください。

野澤: 一つは再生可能エネルギーの導入です。再生可能エネルギーの開発を行っている企業の方とともに事業を展開していくことを検討しています。

しかし再生可能エネルギーはどうしても高額なものになります。設備費を抜きにして、単純に電気代だけで考えても高額になってしまいます。

ですから、例えば電源地域特有の補助金の活用や、デマンドレスポンスなどを組み合わせて考えていく必要があると思います。

高い蓄電器を買うという発想だけでなく、植物工場とその地域の電力バランスをセットで考えていくというものです。

また、そもそも工場での電気使用量の削減を行うことも重要です。野菜を維持しながら電力の削減を行うため、カメラなどで野菜の状況を把握し、空調を特定の時間帯であれば風量を削ったり、切ったりする。

さらに、そもそも照明の配置を見直すことなどで電力効率をよくするといった、一つ一つの積み重ねが大事だと感じています。

同時に、こうしたひとつひとつの技術を活用してできた野菜も、売り先がなければいけません。つまり販売できるマーケットの構築がとても重要だということです。

技術だけが先行するのではなく、実態と合わせながら、事業として継続生のある歩み方をしたいと思っています。

小泉: 海外への展開はもう決まっているのでしょうか。

野澤: ノルウェーの企業の方とは3年越しほどのお付き合いをしているのですが、ようやく去年の12月に契約を行い、今年6月に設備とシステムを輸出することが決まりました。来年の1月ごろに種まき、野菜の収穫が行える状態になっていると思います。

ノルウェーは寒い時だと−20度程度になりますので、野菜がつくれません。また、谷と山が多いため太陽光を利用するハウスも少なく、冬はほとんど輸入でまかなっているそうです。

そうした環境の中、植物工場を導入することにより、自国の土地で作った野菜を増やせるというのは利点だと思います。

今後は栽培支援も行っていくので新たな挑戦ですね。

小泉: また新しいデータやノウハウが蓄積されそうですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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