CES2026レポートの第四弾はLGについてだ。
LGは2年前、自社のAIをどのように位置づけるかを検討する中で、「人々が本当に必要とするAIとは何か」を追求した。
その結果、LGが提供するAIは「人を理解し、人を思いやる存在」であるべきだという結論に至り、AIビジョンを「Affectionate Intelligence(優しい知性)」と定めた。
これは昨年のCES2025で発表されたものだが、CES2026では「Affectionate Intelligence」がデジタル空間から現実空間へと進出した姿を提示し、その問いに対する答えを示したといえる。
「Zero Labor Home(労力ゼロの家)」という未来像
しかし、実際にAffectionate Intelligenceを実現しようとしても、家庭ごとに習慣や考え方が異なるため、家事などの行動をAIで最適化するのは容易ではない。さらに、家庭は感情が交錯しやすく、個々人の行動も多様だ。
一方、世界各国で高いシェアを持つLGは、国や文化、家庭ごとの生活習慣や家電の知見を蓄積してきており、AI時代における明確なアドバンテージを有しているという。
多様な家電の製造・流通力、ブランドへの信頼感も大きな強みだ。
LGはこれらのアドバンテージや強みを生かし、人々の家庭における労力とストレスを軽減し、豊かな時間を取り戻すことを目指している。
単なる自動化による「面倒くささの排除」ではなく、「Affectionate Intelligence」を家庭にインストールし、人が「本当にしたいこと」に時間を使えるようにする、それが「Zero Labor Home」の価値なのだ。
機能的価値ではなく、提供価値を明確に宣言することで、LGはグローバルリーダーとしての地位をより確固たるものにしようとしている。
「Zero Labor Home」を支える3つのAIプラットフォーム
LGのAIブランド「ThinQ」は、2011年のCESでスマート家電ブランドとして発表され、2017年には全製品を対象とするAIブランドへと拡大した。
現在、ThinQは以下の3つのプラットフォームとサービスによって構成されるスマートホーム・エコシステムを形成している。
ThinQ ON
ThinQ ONは、AIスマートホームのHUBとなるプラットフォームだ。
これまでは「テレビつけて」「エアコン消して」といった定型文での指示が基本だったが、ThinQ ONでは自然な会話で家電を操作したり、ユーザーの意図をくみ取り、最適な提案を行う。
LG製品だけでなく、Matterにも対応した他社製品も一括管理ができる家中のスマート家電の頭脳となる存在といえる。
ThinQ UP
ThinQ UPは、家電をスマホアプリのようにアップデートできるサービスだ。
2022年以降の製品が対象で、元々搭載されていなかった機能の追加や、利用習慣に合わせたカスタマイズが可能だ。
ThinQ Care
ThinQ Careは、家電の状態をAIがリアルタイムで監視し、トラブルを未然に防ぐためのカスタマーケアサービスだ。
突然壊れたら困る生活家電の予知保全だけでなく、製品を適切に利用するアドバイスもしてくれる。
例えばエアコンのフィルター交換や洗濯機の洗剤の量が多すぎるといったことも伝えてくれる。
多機能化する家電を使いこなせるようにするのではなく、ThinQ ONによるユーザーの意図をくみ取った家電制御、ThinQ Upでは生活習慣に基づく機能拡張を提供、ThinQ Careでは、長期的な最適稼働を実現し、「Zero Labor Home」が具現化されていくというイメージだ。
進化するAI家電と高まるセキュリティの重要性
今回発表された「LG OLED evo W6」は、77インチと83インチの2モデルを展開し、わずか9mmの薄さを実現している。
世界初となるTrue Wireless OLEDで最大165Hz対応することにより、超低遅延の4Kロスレス映像・音声を提供している。
Google GeminiとMicrosoft Copilotを搭載し、スポーツの試合情報から気分に合わせたコンテンツ提案まで行えるほか、空間演出用の映像生成機能により、リビングを 「オリジナルギャラリー」に変えることも可能だ。
また、Voice IDによる個人識別で、視聴履歴やウィジェットをユーザーごとに最適化する機能も備えている。
さらに、LG SIGNATURE冷蔵庫にはLLM(大規模言語モデル)が搭載され、Gourmet AIが85品以上を認識し、焼き色通知、食材や保存方法などを会話形式で提案する。
LG SIGNATUREオーブンレンジのGourmet AIでは食材や料理を認識し、最適な調理モードを選択するだけでなく、調理状況をカメラでトラッキングし、最適な仕上がりを通知することができる。
AI家電になると自動で動作する家電が増えること、さらに、ユーザー情報の収集が基本となることからも、デジタルセキュリティの重要性も高まる。
その需要に対し「LG Shield」がユーザーの情報を保護することはもちろん、外部からのアクセスや誤動作などを検知する機能を強化している。
今後は物理的なカギや防犯のみならず、家庭デジタルセキュリティも市場として注目されていくはずだ。
家庭用ロボット「LG CLOiD」はカテゴリーの象徴となるか
CES2026でのLG World Premiereの象徴的存在が、家庭用ロボット「LG CLOiD」だ。
これは「Home Specialized Agent」と位置づけられ、物理的作業もこなせる「ThinQ ON」と言える。
視覚・聴覚を備え、状況センシングや会話ができるだけでなく、2本の腕と5本の指を持ち、人間のような動作を実現する。
さらに無線接続により家電や住宅システムと連携し、日々のストレスや手間を最小化する「Ambient Care」を提供する。
そもそもLGは7年前からホテル・病院・飲食・空港など向けの産業用ロボットを多く生産しており、多くのノウハウを蓄積している。そのノウハウをベースにCLOiDは開発された。
Ambient Careの実現のためには様々な作業を24時間365日を数年継続することが求められるため、コア技術としてLGが持つ技術を結集しモーター・ギア・制御システムを精密に統合したアクチュエーターを開発。
その結果、滑らかで人間的な動きを実現している。
さらにLGではVision Language Action(VLA)にも強みがあるという。
VLAはロボットが「見て、理解し、動く」という3つのプロセスを、一つの巨大なAIモデルで統合して行う最新の技術だ。
これまでのロボットは、「カメラで物体を認識するAI」「言葉を理解するAI」「腕を動かす制御プログラム」が別々に作られており、それらを別途繋ぎ合わせる必要があった。
VLAはこれらを統合することで、より人間に近い柔軟な動作を可能にする。
VLAへはこれまでもLGが多くの投資をしており、研究開発に取り組んでいる領域で、LGのVLAモデルはAIアルゴリズムにより複雑な物理的タスクを実行可能とし、限られたデータ量でも性能を迅速に最適化するという。
さらに効果を高めるため、パートナー企業との協業を通じ触覚・力学データを含む大規模データセットを構築中ということだ。
アプライアンスロボット市場の顕在化に期待
SamsungとLGはともに「AIが家と家電を制御する世界」を描いているが、CLOiDのようなアプライアンスロボット(家電AIロボット)に関しては、LGがカテゴリー創造に本気で取り組み始めたように思えた。
昭和時代、家庭にテレビ・洗濯機・冷蔵庫・自動車が普及したように、2030年代以降は「アプライアンスロボットが一家に一台」となる可能性が見えてきた。
CES2026の発表時ではコンセプトモデルではあるが、戦略性が明確な製品であるため、アプライアンスロボット市場を切り拓くであろう商用化の発表を待ちたい。

