新しいモビリティーサービスの社会実装に挑戦し、地方の移動課題および地域活性化に挑戦する地域や企業に対し、経済産業省と国土交通省が支援を行う「スマートモビリティチャレンジ」。
2019年6月21日に開催された「スマートモビリティチャレンジシンポジウム」では、経産省・国交省から「パイロット地域」「先行モデル事業」に選出され、多様な経済活動と連携し地域全体を活性化するMaaS(=モビリティ・アズ・ア・サービス)に取り組む5つの自治体が登壇し、講演を行った。
最後は島根県大田市より、過疎地における定額タクシーを中心としたMaaS構想が発表された。
森山昌幸氏
講演では冒頭、大田市政策企画部まちづくり定住課課長の藤原和弘氏(トップ画像)より市の概要が紹介された後に、交通に関するコンサルティングやシステムを製造・販売する株式会社バイタルリードの代表取締役・森山昌幸氏より、MaaS構想についての具体的な説明があった。
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過疎化・高齢化が進む町の交通課題
今回、バイタルリードの森山氏が説明したMaaS構想の実証実験の対象地区は、大田市にある温泉津町井田地区。人口563人のうち後期高齢者人口30.9%、年少人口割合5.0%と、市内でも特に人口減少と少子高齢化が進んでいる地域であるという。
森山氏は、温泉津町井田地区において3つの交通に関する課題があることを述べた。
日常生活における路線バスの不便さ
1つ目は日常生活における路線バスの不便さである。
森山氏によれば、温泉津町井田地区でも路線バスは走っているが、スクールバス機能を中心とした経路・時刻であるため、高齢者が買い物など、日常生活の移動手段として利用するには不便であるという。
バスの代わりに自家用車が重要な移動手段となるため免許の返納は進まないが、一方で自家用車を保有する費用の負担感は大きい、と森山氏は語った。
交通業者のドライバー不足
2つ目は交通業者のドライバー不足だ。
特に深刻なのが中山間地域のタクシー事業者。売り上げが低く、ドライバーの収入も非常に低い上に、不規則な勤務体系であるために、若者の雇用が進んでいないと、森山氏は語った。
公共交通の維持・存続にかかる財政負担
3つ目はバスなどの公共交通機関を維持・存続させるために、市の財政負担額が増加していることだ。
住民の人口減少などにより路線バスの利用者は減少し続ける一方で、市がバスの路線維持にかけている経費は年々増加し、ほとんどの路線の収支率は5%未満であると、森山氏は述べた。
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定額タクシーを中心としたMaaS構想
こうした温泉津町井田地区の交通課題に対応するため、定額タクシーを中心としたMaaSを構想したと、バイタルリードの森山氏は語る。その具体的な取り組みは以下のようなものだ。
定額タクシーの実証運行
まず1つは定額タクシーの実証運行を、2019年11月より4か月間実施すること。
井田地区内の地域拠点や交通の結節点を走る月3,300円の定額制乗り放題タクシーを運営し、免許を保持しない、あるいは自分で運転できない高齢者が、自宅からバスや駅といった公共交通機関の乗り場へと移動できるようにするという。
MaaSアプリの構築・実証
定額タクシーの実証実験と並行して進められるのが、スマートフォン向けのMaaSアプリの構築・実証だという。
このアプリで定額タクシーの運行状況の確認や予約、決済を出来るようにすると、バイタルリード・森山氏は語る。
また、路線バスの運行状況の確認など、他の交通機関との乗り継ぎをスムーズに行う機能も持たせる予定だという。
他の分野のサービスとの連携
バイタルリード・森山氏は、定額タクシーのサービスを交通機関だけでなく、他の分野のサービスと連携させていく予定だと語る。
その取り組みは、温泉津町井田地区にある井田まちづくりセンターとの協働による「小さなビジネスづくり事業」として展開していくとのこと。
他の産業との連携は、地域の経済振興や人手不足の解消に加え、小さなビジネスで得た収益によって定額タクシー運営のコストを抑える目的もあるという。
講演では、スーパーや道の駅で売られている農産加工品の集出荷を定額タクシーが請け負うなどの具体例が紹介された。

