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垣根をこえたデータ連携が、モビリティ革命を加速する ―SORACOM Discovery 2019レポート11、電脳交通・トヨタコネクティッド・JapanTaxi・akippa登壇

株式会社ソラコムが主催する日本最大級のIoTカンファレンス「SORACOM Discovery 2019」が7月2日、グランドプリンスホテル新高輪(国際館パミール)で開催された。本稿では、その中で行われたセッションの一つ、「基調講演パネルディスカッション:モビリティ革命を超えて 〜今取り組むべきモビリティ産業の現実解〜」の内容について紹介する。

登壇者は、トヨタコネクティッド株式会社 専務取締役の藤原靖久氏、JapanTaxi株式会社 代表取締役社長の川鍋一朗氏、akippa株式会社 代表取締役社長の金谷元気氏。そして、モデレーターは、株式会社電脳交通 取締役COOの北島昇氏がつとめた。

タクシーは元祖シェアリングエコノミー

本講演では、自動車関連ITサービスのトヨタコネクティッド、タクシー配車アプリのJapanTaxi、駐車場予約サービスのakippaが登壇。「モビリティ革命」というテーマは共通していても、それぞれ異なる事業を展開する3社が集まった。3社の議論をモデレートするのは、同じくモビリティの分野で活躍するスタートアップ電脳交通の北島氏だ。

電脳交通は2015年に徳島県で設立。タクシーの配車システムの開発や、タクシー会社の配車業務受託運営サービスを展開している。北島氏個人としては、今年の1月まで中古車販売大手のIDOMで執行役員をつとめ、月額契約でクルマを乗り換えられるサブスクリプションサービスなど、先進的なモビリティサービスを早くから推進してきた。

垣根をこえたデータ連携が、モビリティ革命を加速する ―SORACOM Discovery 2019レポート、電脳交通・トヨタ・JapanTaxi・akippa登壇
(左)株式会社電脳交通 取締役 COO 北島昇氏、(右)JapanTaxi株式会社 代表取締役社長 執行役員CEO川鍋一朗氏

タクシー配車用アプリケーションを手がけるJapanTaxiの代表取締役社長 川鍋氏は、日本最大のタクシー事業会社である日本交通の代表取締役会長でもある。

「日本でタクシーが誕生してから、今年で108年目になる。高額所得者しか買えない車を、誰でも共有できるようにしたのがタクシーだ。タクシーは元祖シェアリングエコノミーといえる。それから少しずつコネクテッドになった。無線で音声のやりとりができるようになったのが、昭和30年代。そこから徐々に車両にGPSが搭載され、タクシーが日本のどこにいるかわかるようになってきた」(川鍋氏)

そして今では、スマートフォンによって顧客がどこにいるのかわかる時代だ。つまり、タクシーの位置も顧客の位置もわかる。そうした情報を使って、最適にタクシーと顧客を結びつけるのが、タクシー配車用アプリケーション「JapanTaxi」の役割となるわけだ。

タクシー配車用アプリケーション「JapanTaxi」

サービスの内容はシンプル。タクシー車両の後部座席に搭載されたタブレット(JapanTaxi Wallet)に表示されたQRコードをアプリで読みこむと、到着前に支払いの手続きをすませておくことが可能。「来年3月までにタブレットを搭載したタクシーがいっきに増えていく予定」(川鍋氏)だという。タブレットには音声翻訳デバイス「POCKETALK」の機能や広告サービス、株式会社ottaが提供するIoT見守りサービス「otta 見守りサービス」も実装されはじめている。

また、JapanTaxiでは昨年から、複数の人が1台のタクシーをシェアする「相乗りタクシー」の実証実験を国土交通省と連携して行っている。2020年には法律が改定され、いよいよスタートする。

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ソラコムのSIMを搭載した車を遠隔コントロール

トヨタ自動車とコネクテッド分野の事業を手がけるトヨタコネクティッド。その事業の要となるのは、下の図にあるモビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)だ。世界中の車から上がってくるデータを使って、テレマティクス保険やライドシェアなど、あらゆるモビリティサービスを手がける。

トヨタ自動車が展開するモビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)の概要図

2018年以降、トヨタの新車には順次コネクティッド機能が標準搭載となっている。一方、中古車や他メーカーの車には、ソラコムの「SORACOM IoT SIM」(旧称:「SORACOMグローバルSIM」)を使ったGPSトラッカーを車に搭載することで、MSPFとつなげることができる。GPSトラッカーのAPIや基盤システムはすべて自社で開発。アプリケーションは、サービス事業者がAPIを使って開発することが可能だ。

こうして車がつながると、トヨタと顧客双方にとってどのようなメリットがあるのだろうか。トヨタコネクティッド 専務取締役の藤原氏は次のように述べた。

「新車を購入する際、世界のクレジットカードの与信基準は年収300万円。つまり、年収が300万以上なければ新車を買えない。ところが、世界で年収が300万円以上の人は、実は2.8%(1.7億人)しかいない。一方、年収が100~300万円の人は10億人いる。当社としては、新車を買えないこの10億人に対して、顧客になってもらえるサービスを提供したい。そのためには、車の走行データに紐づけてローンを組めるようなしくみが必要だ」

実際に、同社ではGPSトラッカーを搭載することで、走行データを収集したり、遠隔操作で車を停止させるしくみを実装している。6月からはいよいよトライアルを開始。本講演では、車の走行履歴やリアルタイムの位置を確認するデモを藤原氏が披露した。

(左)トヨタコネクティッド株式会社 専務取締役(トヨタ自動車株式会社 コネクティッドカンパニー e-TOYOTA部 主査) 藤原靖久氏、(右)akippa株式会社 代表取締役社長 CEO 金谷元気氏

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垣根をこえたデータ連携が、新しいサービスを創る

akippaは、全国の空いている月極や個人の駐車場を一時利用できるサービスだ。ユーザーは、アプリを使って簡単に予約と決済ができる。ユーザーも駐車場のオーナーも、アプリの登録は無料。ユーザーが駐車料金をakippaに払い、akippaはその50%を駐車場オーナーに支払うしくみだ。

駐車場シェアリングサービス「akippa」

akippaを立ち上げた理由について、同社CEOの金谷氏は次のように述べた。「コインパーキングは現地に行って初めて満車だとわかる。これが不便だと社内のメンバーで共感したことが、akippa立ち上げの背景だった。調べると、東京と大阪だけでも1秒間に94,000台の路上駐車台数があり、そのうち半分の人は駐車場がないことが理由だと判明した。一方、コインパーキングは不足しているものの、月極や個人宅のスペースは3,000万台分以上あった。こうしたミスマッチを解消したかった」

現在、akippaの会員数は130万人。2017年の50万人から、ここ1年少しで80万人増加したという。累計の拠点は、日本全国で28,000拠点だ。

なお、akippaとソラコムは2017年から、不正駐車を防止するための実証実験を行っている。たとえば月極の駐車場には、契約をしていないのに勝手に車を駐車する人がいる。そこで、現地に専用のデバイスを設置し、車が近づくとソラコムのプラットフォームにデータが送信されるようにしておく。そのデータとakippaの予約情報を参照し、もし合わなければ不正駐車とわかるというしくみだ。

三社の取り組み内容を聴いたうえで、モデレーターの北島氏は、「IoTによって、モノやクルマがインターネットとつながることはもはやあたりまえになってきていることがわかる。次に問題になるのは、集まってきたデータをどう解釈し、他のデータとかけあわせ、新しいサービスをつくっていけるかだ」と述べた。それについて、JapanTaxiの川鍋氏は次のように語った。

「ドライブレコーダーから、道路周辺の画像が大量に収集できている。本来は、事故の原因を確かめることが目的だ。それを他の用途へ使えないか検討している。たとえば、画像に映った情報からナビ情報の精度を上げることができるはず。また、画像には人も映っているため、警察と連携して防犯などに使うこともできるかもしれない。タクシーは各地を満遍なく、しかも一日中走っている。センサーでもカメラでも、タクシーが走れば走るほど、データは増える。それをどう活用するかが、今後の大きな課題だ」

akippaとトヨタは業務提携を行っている。「ビジネスの協業に加えて、両社が持つデータをかけあわせると、どんな知見が得られるか」という北島氏の問いかけに対し、akippaの金谷氏は、「akippaは利用するために本人確認が必要なので、クルマの位置だけではなく、運転している人(ドライバー)も特定できる。そこにトヨタがもつクルマの位置データなどを合わせれば、大きな価値が生まれる」と話した。

トヨタコネクティッドの藤原氏は、「トヨタではクルマのデータは集まってきている。しかし、人に対してはまだ不十分だ。今のトヨタのビジネス構造では、お客様が車を手放すと、トヨタはその顧客と接点を持ちにくくなる。本来は、その顧客の接点の中から、顧客に合ったクルマやモビリティの手段を提案するべきだ。今後は、お客様一人一人との接点をさらに増やせるようにデータの集め方の構造を変えていく必要があると考えている。その意味で、akippaのようにモビリティの接点を多く持っている企業と協力することで、よりよいサービスをつくることができると考えている」と述べた。

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モビリティ革命は地域の交通課題をいかに解決するか

経産省と国交省が連携して行う「スマートモビリティチャレンジ」では、地域の交通課題を解決するため、企業と自治体が連携してモビリティサービスのモデル構築を進めている。

こうした地域課題に向けた取り組みについて、akippaの金谷氏はJリーグのサッカークラブと行っているプロジェクトについて紹介した。

「地方にはJリーグのサッカークラブがあり、毎週試合を行う。車で試合を観に行く人が多いため、ひどく渋滞し、地域住民に迷惑がかかっている。あるクラブの事例では、2017年の最終節で駐車場の渋滞が3.5時間だった。そこで、2018年から駐車場の利用(1,400台)をすべてakippaを通じて予約の方式にしたところ、3.5時間の渋滞がゼロになった。駐車場の予約システムが、渋滞を解消する有効な手段になっている」(金谷氏)

JapanTaxiの川鍋氏は、次のように語った。

「地域課題の解決においては、どう頑張ってもビジネスとして成り立たないという現実も残念ながらある。そこで、タクシーと呼ぶのかは別として、人もモノものせるタクシー的なモビリティの手段がカギになる(たとえば、一つの大型のタクシーに複数の配達員が乗りこんで業務を行うなど)。最低のコストで、最大の成果を求める必要がある。大きな構造改革を伴うため、難しい課題だ。ただ、いずれにせよ人が中心の社会づくりが重要。車に相乗りして地域住民の交流が深まるような、ぬくもりのあるモビリティ社会を目指したい」

トヨタコネクティッドの藤原氏は、「最近は、高齢者の運転が問題になっているが、GPSトラッカーを使うことで高齢者の危険運転を防止することができると考えている。たとえば、トラッカーから集まってくるデータをもとに、高齢者の免許返納の基準を定めるという方法がある。これによって、事故を未然に防ぐことができる」と話した。

では、免許を返納した高齢者は、買い物や病院にどうやって行けばいいのだろうか。藤原氏は、「免許は返納しても、車は自宅の駐車場に置いたままにする。その個人宅の駐車場はakippaを使って管理し、シェリングのしくみをつくる。若い人は高齢者を買い物につれていく代わりに収入を得たり、クルマを1日自由に使えたりする。地方の大学生と高齢者を見守る都市。実現できるかはわからないが、そんなアイディアを考えている」と語った。

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