株式会社FAプロダクツは9月7日、東京都内で「Smart Factoryセミナー2018」を開催した(共催:株式会社電通国際情報サービス)。
同セミナーは今年で5回目の開催となる。初回は70名程度だったが、今回は定員の150名を超える170名以上が参加。IoTやAIの活用に対する製造業の高い関心がうかがえる。
本セミナーでは、参加した企業が翌日から速やかに取り組みを始められるよう、概念論から実例に即した各論まで網羅的にカリキュラムを展開。本稿ではその模様をダイジェストで紹介する。
トップ画像:株式会社FAプロダクツ 代表取締役社長 貴田義和氏
製造業を取り巻く環境、現状は「危機感」
冒頭、基調講演として経済産業省 製造産業局 参事官(デジタル化担当)の徳増伸二氏が登壇。初めに、政府が掲げるビジョン「Connected Industries」の概要について説明した。
徳増氏は、「Connected Industries」において”つながる”のはモノだけではなく、「熟練者と新人」など、ヒトとヒトのつながりが重要であり、目指すべきは「人間本位の産業社会」であると説明。また、「大企業だけのものではなく、地域・中小企業でこそうまく発展させていきたい」と述べた。
次に「我が国の現状」として、経産省・厚労省・文科省の3省が共同で本年5月に更新した18年度版「ものづくり白書」についてその概要を説明。特に、約4,500社からのアンケート回答から見えてきた、次の4つの「危機感」を指摘した。
- 人材の量的不足に加えて質的な抜本変化に対応できていないおそれ
- 従来「強み」と考えてきたものが、変革の足かせになるおそれ
- 経済社会のデジタル化等の大変革期を経営者が認識できていないおそれ
- 非連続的な変革が必要であることを認識できていないおそれ
徳増氏は、従来から日本企業が培ってきた「現場力」は財産であるとしたうえで、人手不足・デジタル革新が進む時代においては、その「現場力」を再構築する「経営力」が重要になってくると述べた。
「Connected Industries」の進捗については、「データ流通」について「ものづくり・ロボティクス分科会」の取り組みを紹介。「我が国の製造業の強みは良質な『リアルデータ』だ。その価値を最大化するには、競争と協調をバランスさせつつ、プラットフォーム間が緩やかにつながるしくみの構築が必要だ」と徳増氏は述べた。
自動化の使い所:戦略立案から設計、機器制御まで
次に、株式会社電通国際情報サービス(ISID)の岡内英巳氏が登壇。初めに、企業がスマートファクトリーの実現を目指すにあたり、「後付けの成果探しをしてないか」と問いかけた。
スマートファクトリーと言えば、設備の稼働データを収集・分析し、生産性の改善に活かすなどの取り組みが一般的だ。しかしそれは、「ビジネスの成功に紐づいていなければならない」(岡内氏)として、経営指標に直結した成果を出すことの重要性を指摘した。
その上で、製造業でニーズの多い「自動化」を進めるにあたって、重要なポイントとして「儲かる戦略を明確にすること」、「コンセプト段階からつくりこむこと」、「永続的なしくみに落とし込むこと」の3点を紹介。
3つ目の「永続的なしくみに落とし込むこと」においては、「どんなに上流の戦略やコンセプトがよくてもエンジニアリングがうまくいかないと収益につながらない」(岡内氏)として、「戦略層」と「エンジニアリング層」を統合する「生産システムズエンジニアリング」の手法を紹介した(上の画像)。
この方法では、設計段階から試作(生産シミュレーション)を行うことで、生産目標値(QCD)の達成に必要な要求を早期に保証。これにより工程の不具合を低減するとともに、手戻りなどの無駄を減らし市場投入スピードを上げることができる。
続いて、SAS Institute Japan株式会社の辻仁史氏が登壇。SASは「アナリティクス」のソフトウェアを開発するグローバル企業。米国に本社を構え、世界に約14,000名の従業員がいる(日本は約300名)。
製造業向けにさまざまなソリューションを提供する同社だが、今回は機器の「自立制御・最適化」について、タイヤ製造の顧客事例をもとに説明した。
タイヤ製造では、温度や圧力などのこまかいパラメータの調整が品質に大きな影響を与える。従来は熟練者の「暗黙知」によって品質を確保してきたものの、やはりその「ばらつき」は排除できない。
そこでSASは、エッジに”脳”(AI)を搭載することで、機器を自立制御するソリューション「Event Stream Processing」(ESP)を展開。その結果、品質のばらつきをおさえ、工程能力指数を13%向上させた。
従来から工場で使われているPLCは、シーケンス(順番)の制御しかできない。しかし、ESPではMES(生産実行システム)とPLCの間に”脳”の機能を仕込むことで、状況の変化に応じてPLCに指示を与えることができる(下の図)。
次ページ:ロボットの導入もデジタルツインで
ロボットの導入もデジタルツインで
次に、株式会社オフィス エフエイ・コム 代表取締役社長の飯野英城氏が登壇。同社は自動化・ロボット設備や製造管理ソフトを提供するエンジニア集団(本社:栃木県小山市、従業員:170名)で、2,000工場以上の導入実績がある。
講演の主なテーマは、ロボット設備の導入におけるデジタルツインの活用だ。従来だと、顧客とベンダー間で何度も設計の打ち合わせを行い、工場に設置後も不具合なく稼働するかどうかをテストする必要がある。
しかしデジタルツインを使えば、設計の段階からデジタル空間でロボットを動かすことができるため、そうしたプロセスを短縮できる。飯野氏によると、同社のソリューションを活用することで納期を3か月短縮できるという。
実際には、企業が自社工場に新しいロボットを導入する場合、次のプロセスを辿ることになる。
「要望まとめ・構想設計」→「仕様定義」→「基本設計」→「詳細設計」→「製造・出荷前テスト」→「現地調整・総合テスト」→「引越し・ユーザーテスト」→「本稼働・運用」
飯野氏は、この各プロセスにてデジタルツインを活用することで作業がどれほど効率化されるかを、一つ一つ説明した。
「顧客からは(実機の動作確認の)エビデンスが欲しいとよく言われる。しかし、デジタルマニュファクチャリングではエビデンスは”目の前”にある。デジタルの中でものづくりができてしまうのだ」(飯野氏)
続いて、FAプロダクツの貴田氏が登壇。「Smart Factory化が進まない理由と解決策」という題目で講演を行った。
貴田氏はスマートファクトリー化の現状について、「残念ながら進捗は悪い(国内全体で)。さまざまな取り組みが進められていると聞くが、実際には大手の自動車メーカーの事例が多い。最も大きな課題は労働力不足だ。多くの企業が、受注があっても対応できない状況にある」と述べた。
また、IoT化が進まない理由について、「省人化に対して、IoT化は効果の金額換算ができず、投資回収の計算が難しいこと」や「ITの知見がある企業が少ないこと」などをあげた。
そのような状況を脱却するには、「スモールスタート」(リスクなくスタートし、大きく育てられること)が重要となるという。そこで、貴田氏はスモールスタートに必要となる管理項目を解説するとともに、同社のパッケージシステムを紹介した。
また、FAプロダクツのパッケージを導入するアズビル金門白沢の佐藤氏が登壇し、「膜式ガスメーター」の生産工程において、1台のサーバでデータを一元管理している事例を紹介。FAプロダクツはパッケージとサポートの提供のみで、アズビル金門白沢がすべて自社で運用を進めているという。
「これからIoT化を始める方は、費用対効果を算出するためのスターターキットを使い、スモールスタートを切ってほしい。その後の拡張については、当社は汎用品の組み合わせでソリューションを提供していきたい」(貴田氏)
次ページ:製造業の未来といまやるべきこと
製造業の未来といまやるべきこと
次に、「スマートファクトリー化に『クラウド』は本当に必要か?」というテーマで、パネルディスカッションを実施。FAプロダクツ 代表取締役会長の天野眞也氏、神戸デジタル・ラボ 取締役 村岡正和氏、MODE Inc. ジャパンカントリーマネージャーの上野聡志氏が登壇した。
上野氏はまず、製造業では「クラウド」が殆ど活用されていない現状について説明。その理由について、「セキュリティ」が論点となった。
社内に20名弱のホワイトハッカーのチームを持ち、セキュリティソリューションの管理・開発を行う神戸デジタル・ラボの村岡氏は、「クラウドとオンプレミスの安全性は等価だ」と述べた。
「クラウドにデータを集約すると障害点(システムの弱点)は1つだが、工場ごとにサーバがあれば障害点はその分増える(100工場あれば障害点は100個)。障害点が増えるとコストも増大する。比較例を挙げればきりがないが、先入観にとらわれず、どちらが安全かよく検討してほしい」(村岡氏)
また上野氏は、Web業界と製造業の違いについて、「Webの場合、仕様定義はオープンソースだ。しかし、工場のデータは外に出ていない」と指摘。
それに対して天野氏は、「お客様から頂く仕様定義は古すぎることが多い」と指摘。製造業はクローズドである分、生産技術の担当者が、最新の設備仕様を知る機会が限られていることが問題だという。
設備の導入は、「生産計画→生産ラインへの投資→仕様定義→要件定義→SIerによる見積もり」というプロセスで進められる。従来では、「要件定義」以降をベンダーが担うのが普通だった。
しかし天野氏は、「これからはデジタルツインでお客様が求める設備・工場をつくり、お見せする。だから、生産計画が決まった時点で声をかけてほしい」と呼びかけた。
最後に、IoTNEWS代表/株式会社アールジーン 代表取締役の小泉が登壇。IoTやAIの活用で激変するグローバルの状況について解説した。
小泉は、8月31日から9月5日までベルリンで開催された世界最大のコンシューマーエレクトロニクスショー「IFA2018」を取材していたが、そこでキーワードとなっていた「Co-Innovation」の概念について説明した。
テレビは高解像度化・大型化が進む一方で、インターネットの接続もニーズとしてある。しかしテレビで高速通信を行おうとすると、高性能チップが必要であり、従来は難しかった。ところが、IFA2018では高性能チップを搭載したテレビが登場していた。これには、スマートフォンで高性能チップが量産され、価格が低下したことが背景にあるという。
「当たり前のことに聞こえるかもしれないが、自分とは全く関係のない業界でのイノベーションが、ある日突然自分の業界にイノベーションをもたらす(Co-Innovation)可能性があることを意味している」(小泉)
小泉は、2016年のCESで発表された、BMWの「サイドミラー」を必要としないクルマに言及。「2年たったいまでも、サイドミラーが付いたクルマが多く走っている。しかしこれもCo-Innovationにより、いつサイドミラー市場がなくなるかわからない」と述べた。
しかし、市場がなくなることを心配していても仕方がない。「関係ないと思われる分野でも、自分たちのコア技術が使える市場を探すために、世界で何が起きているのかを知ることがとても重要だ」(小泉)
小泉は、こうした状況で製造業が勝ち抜くための方法として、土木建築業のデジタライゼーションを実践する建機メーカーのコマツや、エコシステムによってスマートホーム事業を展開するアメリカのNest、デジタルツインによって創業3年でEVの商用化に成功したドイツのe.GOの事例などを紹介した。
【関連リンク】
・FAプロダクツ(FA Products)
・「ものづくり白書」(経産省)

