製造業の未来といまやるべきこと

次に、「スマートファクトリー化に『クラウド』は本当に必要か?」というテーマで、パネルディスカッションを実施。FAプロダクツ 代表取締役会長の天野眞也氏、神戸デジタル・ラボ 取締役 村岡正和氏、MODE Inc. ジャパンカントリーマネージャーの上野聡志氏が登壇した。
上野氏はまず、製造業では「クラウド」が殆ど活用されていない現状について説明。その理由について、「セキュリティ」が論点となった。
社内に20名弱のホワイトハッカーのチームを持ち、セキュリティソリューションの管理・開発を行う神戸デジタル・ラボの村岡氏は、「クラウドとオンプレミスの安全性は等価だ」と述べた。
「クラウドにデータを集約すると障害点(システムの弱点)は1つだが、工場ごとにサーバがあれば障害点はその分増える(100工場あれば障害点は100個)。障害点が増えるとコストも増大する。比較例を挙げればきりがないが、先入観にとらわれず、どちらが安全かよく検討してほしい」(村岡氏)
また上野氏は、Web業界と製造業の違いについて、「Webの場合、仕様定義はオープンソースだ。しかし、工場のデータは外に出ていない」と指摘。
それに対して天野氏は、「お客様から頂く仕様定義は古すぎることが多い」と指摘。製造業はクローズドである分、生産技術の担当者が、最新の設備仕様を知る機会が限られていることが問題だという。
設備の導入は、「生産計画→生産ラインへの投資→仕様定義→要件定義→SIerによる見積もり」というプロセスで進められる。従来では、「要件定義」以降をベンダーが担うのが普通だった。
しかし天野氏は、「これからはデジタルツインでお客様が求める設備・工場をつくり、お見せする。だから、生産計画が決まった時点で声をかけてほしい」と呼びかけた。

最後に、IoTNEWS代表/株式会社アールジーン 代表取締役の小泉が登壇。IoTやAIの活用で激変するグローバルの状況について解説した。
小泉は、8月31日から9月5日までベルリンで開催された世界最大のコンシューマーエレクトロニクスショー「IFA2018」を取材していたが、そこでキーワードとなっていた「Co-Innovation」の概念について説明した。
テレビは高解像度化・大型化が進む一方で、インターネットの接続もニーズとしてある。しかしテレビで高速通信を行おうとすると、高性能チップが必要であり、従来は難しかった。ところが、IFA2018では高性能チップを搭載したテレビが登場していた。これには、スマートフォンで高性能チップが量産され、価格が低下したことが背景にあるという。
「当たり前のことに聞こえるかもしれないが、自分とは全く関係のない業界でのイノベーションが、ある日突然自分の業界にイノベーションをもたらす(Co-Innovation)可能性があることを意味している」(小泉)
小泉は、2016年のCESで発表された、BMWの「サイドミラー」を必要としないクルマに言及。「2年たったいまでも、サイドミラーが付いたクルマが多く走っている。しかしこれもCo-Innovationにより、いつサイドミラー市場がなくなるかわからない」と述べた。
しかし、市場がなくなることを心配していても仕方がない。「関係ないと思われる分野でも、自分たちのコア技術が使える市場を探すために、世界で何が起きているのかを知ることがとても重要だ」(小泉)
小泉は、こうした状況で製造業が勝ち抜くための方法として、土木建築業のデジタライゼーションを実践する建機メーカーのコマツや、エコシステムによってスマートホーム事業を展開するアメリカのNest、デジタルツインによって創業3年でEVの商用化に成功したドイツのe.GOの事例などを紹介した。
【関連リンク】
・FAプロダクツ(FA Products)
・「ものづくり白書」(経産省)
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。