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【前編】「製造業特化型」×「高速クラウド」のIoT基盤「FA Cloud」が始動、その全容と3社共同開発の狙いとは —FAプロダクツ、MODE、神戸デジタル・ラボ

【前編】“現場特化型”が日本の製造業IoTを加速、FAプロダクツ、MODE、神戸デジタル・ラボの高速クラウドサービス「FA Cloud」

株式会社FAプロダクツ、MODE, Inc.(本社:米国カリフォルニア州)、株式会社神戸デジタル・ラボの3社は、製造業に特化した高速クラウドサービス「FA Cloud」を共同開発し、9月末より提供を開始する。

「ものづくり」の現場でIoTデータを活用する場合、その計算処理はオンプレミスで行うか、クラウドで行うかの2択となる。初期投資や運用のコストにおいてはクラウドにメリットがあるが、現状では製造業に特化したクラウドサービスは市場に少なく、とくに設備のリアルタイム監視や分析で必須となる「時系列での高速データ処理」と「セキュリティ」に課題があった。

このほど3社は、製造業の現場を熟知するFAプロダクツが提供してきたIoTプラットフォームにMODEの「高速時系列データベース技術」を採用し、関係データベース(リレーショナルデータベース:RDB)と比較して、最大約2,000倍の高速処理を実現。各種アプリケーション開発とセキュリティ対策においては神戸デジタル・ラボが参画し、新たなソリューション開発を進める。

今回、3社より「FA Cloud」の詳細について話を伺うとともに、IoTNEWS代表の小泉耕二も加わり、総勢4社・6名で日本の製造業IoTの課題と対応策について議論した。その内容を前編と後編に分け、紹介していく。本稿では前編をお届けする。

「FA Cloud」はオープン・プラットフォーム、APIを公開し各種ソリューションと連携

製造業に特化した高速クラウドサービス「FA Cloud」の概要図(提供:FAプロダクツ)

IoTNEWS代表 小泉耕二(以下、小泉): まずは、「FA Cloud」の概要についてご説明いただけますか。

株式会社FAプロダクツ 貴田義和氏(以下、貴田): FAプロダクツでは、(製造業IoTに必要な)稼働監視や予知保全を行うためのシステム基盤、センサー、IoTゲートウェイ(タッチパネル付き)を既に提供しています。そこから集めたデータを活用するには、工場内のオンプレミスか、クラウドのいずれかのデータベースを使うことになります。

これまで、弊社のパッケージ製品のほとんどがオンプレミス用でした。しかし、MODEさん、神戸デジタル・ラボ(以下、KDL)さんと一緒に、FA業界に特化したクラウドサービスの開発を進め、この度リリースしました(7月3日に同社プレスリリース)。

徹底的にFA(ファクトリーオートメーション)のしくみに合わせ、しっかりと属性分けした時系列のデータを、高速に引き出すことができます。そのため、速く分析ができ、早く答えを出せることが特徴です。

これはデータプラットフォームであり、その上にさまざまなアプリケーションがのってきます。当初はダッシュボードなどの標準アプリを用意し、順次、稼働監視や予知保全となどの機能やBIツールを提供していきます。

また、工作機械メーカーさんやシステムベンダーさんなどが提供するソリューションとも連携が可能です。APIを公開し、誰がアプリを開発してもいいという、オープンなプラットフォームです。

株式会社FAプロダクツ 代表取締役社長 貴田義和氏

オープンで、すぐに導入でき、値段も安価。さらに高速にデータ分析ができ、セキュリティの要素も強いクラウドのデータベースは、FA専用(工場向け)では市場にありません。そうしたものを業界で初めてつくりたいと考えました。

一方、お客様目線で考えた場合には、現場で取ってきたデータをクラウドのデータベース上で管理し、分析や解析を行う文化が浸透していないという実態があります。その理由としてよくあがってくるのが、セキュリティの問題です。

ただ、工場の中でデータベースを管理する「オンプレ」よりも、パブリック(クラウド)のデータベースを使っていた方が安全であるという考え方もあります。「FA Cloud」はその点も考慮してつくっており、セキュリティの面でもかなり自信を持っています。

小泉: 工作機械から集まってくるようなとても細かいリアルタイムデータを、そのままクラウドに上げるという話ではないですよね。

ある程度データがたまってから、1分間に1回などのデータ量に抑えてクラウドに上げるという処理を行わないと、インターネット回線には限界があると思います。

貴田: はい、そうした前処理は当然必要ですし、「FA Cloud」の特徴においても重要なポイントになります。

次ページ:MODEの「高速時系列データベース技術」で、必要な時にすぐデータを取り出せる

MODEの「高速時系列データベース技術」で、必要な時にすぐデータを取り出せる

株式会社FAプロダクツ 天野眞也氏(以下、天野): 本件のきっかけをお話ししますと、リレーショナルのデータベース(RDB)だと、とにかく処理が遅いという課題があります。データをすべて上げないにしても、現場のセンサーデータは膨大ですから。

たとえば、データの取集を始めてから、その機械が1年後に故障したとします。いつその兆候があったのだろうと調べようとして、過去1年のデータを見ようとしますよね。ところが、それを読み込むのに数分かかるのです。

もっと高速にならないのだろうかと考え、国内のクラウドサービスベンダーさんを探してきました。そこで、MODEの上田学さん(MODE, Inc. Co-Founder兼CEO)とお会いし、ご相談したところ、「弊社の得意とするところです」と回答をいただいたのです。MODEさんの高速時系列データベース技術は、まさに「FA Cloud」の根幹を担う部分です。

株式会社FAプロダクツ 代表取締役会長 天野眞也氏

小泉: どれくらいのスピードと粒度のデータを扱えるのかが、MODEさんと組むことの意味だと思います。実際には、どれくらいのレベルなのでしょうか。

MODE, Inc. 上野聡志氏(以下、上野): 弊社の技術では、毎秒といった比較的高頻度のデータに加えて、データ解析用であれば、振動データなど10 ms(ミリ秒)なども扱うことができますが、今回ポイントとなるのはデータの蓄積側だけでなくデータ取り出し側なんですよね。

さきほど天野さんがおっしゃったように、分析のためにデータを取り出す時の速度が、RDBと比較して最大2,000倍で実現できる、というのが弊社の強みです。

工場などの稼働データを集めるとその量は膨大になります。そのデータを時系列に“ひゅっと引っこ抜く”というのが僕らの技術です。分析屋の目線でも、ハードウェアを実装する側の目線でも、メリットがあると思います。

MODE, Inc. 日本代表 ジャパンカントリーマネージャー 上野聡志氏

天野: いま、現場ではどういう状況かと言いますと、「データロガー」と呼ばれる、データをためる専用の機械が使われています。十万円から数百万円のものまであり、ノートパソコンの中にインストールするようなタイプのデータロガーもあります。

工場内の色々なところにそのようなデータロガーがあり、データはたまっています。しかし、それをあとから時系列でそろえて見るにはものすごく苦労するのです。

ですから、“データの倉庫”のように一つの場所に集約しておくことで、あとから何でもできる。それが「FA Cloud」の特徴です。

次ページ:多数のホワイトハッカーが在籍する神戸デジタル・ラボが、セキュリティ対策を監修

多数のホワイトハッカーが在籍する神戸デジタル・ラボが、セキュリティ対策を監修

小泉: 神戸デジタル・ラボ(以下、KDL)さんは、どのように連携されているのでしょうか。

株式会社神戸デジタル・ラボ 村岡正和氏(以下、村岡): MODEさんはIoTのデータストレージの部分を担われていますが、それ以外の「FA Cloud」に必要なミドルウェアやフロントエンドの実装が、SIerである私たちの役目です。

さきほどお話にあったように、MODEさんは非常に高性能な時系列データベースをお持ちです。それによって、「大量のデータを高速で捌けるか」ということを、私たちは(SIerとして)気にする必要がありませんから、全体として大きなコストバリューになると考えています。

また、「FA Cloud」を製造業の方々に使っていただく際に重要なポイントは、セキュリティです。弊社はSIerでありながら、単独でセキュリティ事業部を持っています。そこには約20名のホワイトハッカーが常駐し、セキュリティの診断業務を行っています。

ですから、(ユーザーの)セキュリティを担保できるとともに、セキュリティを意識したシステム構築が可能です。インフラにおいても、アプリケーションにおいても、信頼性の高いシステムを提供できることに弊社のバリューがあるのではないかと思っています。

株式会社神戸デジタル・ラボ 取締役 新事業創造係長IoT班長 村岡正和氏

小泉: MODEさんのしくみを使うと、データを集めて設備の稼働状況を「可視化」するなどはできます。御社(KDL)が開発するのはそれより上のアプリケーションになると思いますが、たとえばどのような機能がありますか。

村岡: おっしゃる通り、可視化であればMODEさんだけで可能です。弊社としては、日本国内の企業それぞれに合わせた細かなケアが、最終的にはお客様のユーザーエクスペリエンスに大きく貢献するところだと思っています。

たとえば、同じダッシュボードでも、お客様の事業部ごとにグループをつくり、画面ごとに管理権限を分けるといったことは、あまり実装されていません。そのあたりの細かな実装が、弊社の役割になります。

上野: たとえば、「ガントチャート」がありますね(下の図)。

村岡: ええ、ガントチャートがまさにそうです。

上野: ガントチャートは、日本のお客様がよく見たがる機能です。ただ、面白いことに、US(アメリカ)では、ガントチャートを欲しいというお客さんはほとんどいません。

小泉: それはなぜですか。

「FA Cloud」の管理画面の一例:右下にあるのが「ガントチャート」で、製造ラインにある各デバイスの稼働状態を時系列で把握することができる。

次ページ:製造業のプラットフォームは、「現場寄り」か「マネジメント寄り」のどちらかであるべきだ

製造業のプラットフォームは、「現場寄り」か「マネジメント寄り」のどちらかであるべきだ

上野: USの場合はシンプルに、機械のオン・オフを見たり、数字だけを見たりするのが一般的です。「ガントチャート」のように、そこまでしっかりと見たりはしません。おそらく日本の方が、ITシステムが“現場寄り”だからです。USだと現場というよりは経営の人たちが見るので、そこの違いだと思います。

小泉: なるほど。貴田さんは、日本でガントチャートが求められる理由は何だと思われますか。

貴田: データをもとに、その設備が何時から何時まで動いたか、あるいは何時から何時まで止まっていたか、ということをデータサイエンス的に分析するだけだったら、ガントチャートは要りません。日本人は、科学的な分析をするだけではなく、止まっている機械の割合がどれくらいかといったことを、“ぱっと見で”わかるような画面を求める傾向にあります。

機械は必ずしも故障で止まるのではなく、部材を待っているなどで仕方なく止まることもあります。「止まっている機械の率がこの帯の中でこれくらいある」ということを、きちんと現場と共有するのです。

小泉: 機械が、「1時間の中で、合計10分間止まっていました」と「1時間の中で、1分間の停止が10回ありました」では、日本人にとっては意味合いが全然違いますよね。

貴田: そうですね。それをきちんと現場と共有し、現場が自ら改善をするような文化ができているのでしょう。

株式会社アールジーン代表取締役/IoTNEWS代表 小泉耕二

天野: やはり、日本の製造業は“現場寄り”なのだと思います。アメリカは、“マネジメント寄り”です。現場がいちばんえらい、というのが日本の工場の文化なので、現場がわかるためのガントチャートが必要なのです。上位側の概念では、数字だけでいいのでしょうが。

村岡: 欧米各国では仕事のセクショナリズムが非常に厳しく、「こうした問題を解決するのは、データサイエンティストの仕事だ。現場は関係ない」というように、役割が明確になっています。

ところが日本では、改善業務や日本発といわれるアジャイルプロセスのように、みんなで仕事を共有するのです。マネージャーがするような仕事を現場がしますし、データの解析も現場がします。

小泉: いいことですよね。

村岡: すごくいいことです。日本はそのようにセクションが破壊されやすい分、ビジネスがスモールになる場合もあります。ただ、状況の変化に対し、適応する能力の高いチームができやすいと思います。そういう部分にマッチしたユーザーインターフェースをいかに提供するかということが、「FA Cloud」においても重要になってきます。

株式会社FAプロダクツ 森松寿仁氏(以下、森松): 現場のオペレータの方と経営層の方で、見たい情報は非常に異なっています。現場では、リアルタイムで見たいというニーズが高いですが、経営層の方はいま売上がどうなっているのか、在庫がどれくらい余っているのか、そういうことを知りたいのです。いまの市場にあるクラウドサービスのほとんどが、経営層向けです。

株式会社FAプロダクツ Smart Factory事業部 技術部 マネージャー 森松寿仁氏

天野: 僕らのこだわりでもあるのですが、製造業向けのツールは、マネジメント(経営層)向けか現場向けか、必ずどっちかに決めた方がいいと思っています。現場向けのツールをつくるべきであれば、そっちに寄せるべきです。その中間にあるようなツールがいちばん困ってしまいます。

その点、僕らの「FA Cloud」はあくまで、「現場が使えるものだ」という打ち出し方をしています。

(後編はこちら

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