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CAD内で全設計プロセスが完結、他メーカー部品のワンストップ提供も実現した「RAPiD Design」の最新版 ―ミスミFA企業体社長(※) 中川理恵氏インタビュー

CAD内で全設計プロセスが完結、他メーカー部品のワンストップ提供も実現した「RAPiD Design」の最新版 ―ミスミFA企業体社長(※) 中川理恵氏インタビュー

経済産業省は2020版ものづくり白書で、日本の製造業の戦略として「設計力強化」を明確に打ち出した。デジタル化の進展に伴い、競争力の源泉がエンジニアリングチェーンの上流、即ち「設計」にシフトしていることが背景としてある(※2)。

特に3DCADを活用した効率的な設計手法は、製造業DXの要だ。だが一方で、部品のCADデータの入手や仕様変更に伴う作業によって、エンジニアの創造的な設計活動の時間が奪われているという実態もある。

こうした課題を解決するために開発されたのが、ミスミの生産設備や生産装置用部品CAD データライブラリーソフト「RAPiD Design(ラピッドデザイン)」だ。PCに無料でインストールして「SOLIDWORKS」(ダッソー・システムズのCADソフト)にアドオンするだけで、部品のCADデータ入手から見積もりまでをCAD内で完結することができる。

本年9月7日にはフルリニューアルし、従来のミスミブランド部品に加えて25メーカーのCADデータもRAPiD Designからワンストップで提供することが可能になった。RAPiD Design最新版の詳細と背景について、株式会社ミスミ FA事業体 代表執行役員 企業体社長(※9月末現在)の中川理恵氏に話を聞いた。

ルーツは40年前にあり、ミスミ「設計×DX」の歴史

ミスミは生産設備や生産装置向け部品の製造と販売を手がけるものづくり企業。取り扱っている部品の数は3,100万点で、業界最大のラインナップだ。世界に22の工場、17の物流センターを展開し、ものづくり産業の社会インフラを支えている。

ミスミのものづくりの基本は、MTO(Make To Order:受注製作品)の確実短納期にある。ベトナムなどの拠点で大量に半製品(半完成品)をつくり、それを各国の最終仕上げ工場に在庫する。その後受注すると仕上げ加工をし、標準2日目の短納期で出荷するしくみだ。

ミスミはこれまで一貫して生産設備や生産装置の設計プロセスに革新をもたらしてきた。その歴史は、1977年の紙カタログによる「標準化」に端を発する。当時、部品の発注には図面の作成が必須だった。だがミスミは、カタログから部品の形状や材質、寸法を選ぶだけで、図面を書かずに部品を発注できるしくみを業界で初めて展開した。しかもMTOの生産・物流基盤により、価格と納期もカタログからわかる。2006年にはWebカタログもリリースした。

ミスミ設計ソリューションの変遷

そして近年では、「3DCADと連動した設計ソリューションの開発に力を入れてきました」と中川氏は語る。

一般的に、生産設備や生産装置に必要な部品は「規格品」と「図面品」で半分ずつ程度に分かれる。たとえばある1つの設備をつくるのに100個の部品が必要だとすると、規格品は約50個、図面品は約50個となる。

ミスミが1977年にスタートした標準化手法により、多くの部品が「規格品」として発注できるようになった。だが、それ以外の「図面品」の発注にはやはり図面の作成が必要だった。

そこでミスミが2016年にリリースしたのが、3DCADで図面品を即時発注できる部品調達プラットフォーム「meviy」だ。設計者が作成した3DCADデータ(図面)をブラウザ上にアップロードするだけで、即時見積もりと最短1日出荷が可能だ(meviyについてのインタビュー記事はこちら)。

それに対し、2018年8月にリリースした「RAPiD Design」は、部品(規格品)の選定からCADデータ入手、見積もりを含む全設計プロセスを「CAD上で完結」することができるサービスだ。

「meviyとRAPiD Designという両輪によって、お客様の装置部品の一式(規格品と図面品)をカバーすることができるようになりました」と中川氏は説明する。

次ページ:PCにインストールするだけで、SOLIDWORKSと連動して使える無料のアドオンソフト

※2参考記事:2020年版ものづくり白書で注目すべき3つのポイント ―経済産業省 中野剛志氏インタビュー【前編】

PCにインストールするだけで、SOLIDWORKSと連動して使える無料のアドオンソフト

RAPiD Designでは、部品リストの中から欲しい部品を選ぶだけで、CADデータがSOLIDWORKS(ダッソー・システムズのCADソフト)に直接インポートされる。そのため、部品のCADデータを入手するためにわざわざWebカタログを開く必要がない。

これまでミスミ部品のCADデータを入手するには、ミスミのWebカタログをブラウザ上で開く必要があった。さらにそこから商品選定→型番作成→CADデータの入手→ZIPファイルの解凍→インポート配置→保存といった作業が発生する。

1部品をCADに取り込むにあたり、およそ5分の時間がかかる。1設備あたり100個の部品が必要であれば、500分が設計とは直接関係のない時間に使われることになる。こうした非効率な作業の手間を削減し、設計者がより付加価値の高い設計・開発活動に専念できる環境をつくりたいという思いから、RAPiD Designは開発されたという。

「設計とは本来、創造的な仕事のはずです。ただ、実際には設計と直接関係のない作業に優秀なエンジニアの労力が割かれているのが現状です。私たちには、こうした状況を何とかしたいという思いがありました。ワンクリックで必要なデータがすぐ入手できる。そんな設計アプリを目指して、RAPiD Designを開発しました」(中川氏)。

RAPiD Designなら設計変更も簡単。右側に表示された画面のプルダウンを使って仕様を変更し、「モデルに反映」と「型番付き保存」をクリックすれば、設計変更が完了。(チュートリアル画面※3)。

設計者の困りごとで特に多いのは、設計変更に伴う「手間」だという。設計はいったん完了しても、さまざまな要因から図面の変更が生じる。そうすると、再びWebカタログを開き、CADデータをダウンロードしたらまたCADソフトに戻って保存・解凍、配置、保存という作業を、設計変更があった部品の数だけ繰り返さなければならない。

またこのとき、仕様変更に伴い部品表(発注表)も更新しなければならないが、更新漏れで誤発注が生じることもある。

設計変更におけるRAPiD Designの効果は明快だ。まず、1部品あたりにかかる時間はWebカタログを使うと5分。これに対してRAPiD Designを使うと、40秒に削減できる(▲86%)。Webカタログを開き、代替部品のCADデータをダウンロードして解凍……という手間が省けるからだ。SOLIDWORKS上で変更したい部品を選び、プルダウンで寸法などを変えるだけで変更が反映される(上の図)。

また重要なのは、部品表(発注表)のファイル名に型番の変更が自動反映されるため、誤発注の心配もなくなるということだ。中川氏は次のように言う。

「企業によってBOM(部品表)生成の手法はさまざまです。たとえば、SOLIDWORKS上のデータをエクセルにコピー&ペーストして部品表を作成しているお客様もいます。ただしこうした方法では、CAD内で仕様を変更しても、部品表の情報を更新し忘れてしまうことがあります。これが誤発注の原因となります。RAPiD DesignではCADデータの仕様変更が自動で型番に反映されるシステムとなっており、誤発注を防止することができます」

RAPiD Designは2018年8月に日本と中国を皮切りにリリース。その後も韓国、台湾、北米、欧州などで順次展開している。現在(2020年8月時点)グローバルで82,000人の利用者がいる。事例も続々と出てきており、たとえば日本電産マシナリー株式会社では、社内の業務改善調査で、ある1週間の設計業務時間を計測したところ、稼働5日で5.5時間の設計時間の削減を実現したという(※4)。

RAPiD Design最新版では、従来のミスミブランド部品に加え25メーカーの3DCADデータを初収録

そして9月7日、RAPiD Designはフルリニューアルし、従来のミスミブランド部品に加え、SMCやTHKなど25メーカーの3DCADデータを初収録した。これで総部品点数は従来比9倍の450万点まで拡大。収録されたすべてのCADデータをSOLIDWORKSに直接インポートし、自由に設計変更することが可能となった。

これまで、各メーカーのCADデータを入手するには、次のようなプロセスが必要だった。まず、各メーカーのWebサイトを訪問してログイン。このとき、それぞれのメーカーごとにログインIDとパスワードの管理が必要だ。次に欲しい部品のCADデータをダウンロードし、ZIPファイルを解凍し、CADソフトにインポートする。そして設計変更時には、この作業を何度も繰り返さなければならない。

たとえば、THK部品のCADデータも、RAPiD DesignからSOLIDWORKS上に直接インポート可能。(チュートリアル画面※3)。

RAPiD Design最新版では、各メーカーのCADデータをRAPiD Designの画面からワンストップで入手可能。一覧から必要な部品をクリックすれば、立ち上げているSOLIDWORKS上に自動的にインポートされる(上の図)。

他メーカー部品データのワンストップ提供は、利用者からするとメリットが明確である分、いとも簡単に実現されたかのような印象を受ける。しかし技術的には、高いハードルがいくつもあったという。

「特に難しかったのが、膨大にある部品のCADデータと型番の紐付けです。CADを生成しているシステム側とカタログ上の商品の型番(ID)を合致させるには、非常に高い情報の精度が必要だからです。これについては各メーカー様のご協力と弊社の社員の努力により、ようやく実現にこぎつけることができました」(中川氏)。

RAPiD Design最新版によって、エンジニアは設計時間を大幅に削減することができるだろう。たとえば、「UV遮光ボックス」という装置を例にしてミスミが試算した結果によると、▲58%の時間削減が見込まれる(下の図)。

「UV遮光BOX」を例にした場合の削減効果。総設計時間は▲58%の削減が見込まれる。※従来手法における「新規部品選定」と「設計変更」の1部品あたりの時間が6分と5分で異なるのは、前者では必要な部品を探し出す作業に約1分を要するためだ。また、メーカー品の新規部品選定の17分は、実際に各メーカーのWebページを訪問して部品データを入手するのに必要な時間の平均として計算されている。

次ページ:若手設計者をアシストする5つの新機能

※3 「RAPiD Design」のチュートリアル一覧はこちら
※4 「RAPiD Design」の事例の詳細はこちら

若手設計者をアシストする5つの新機能

RAPiD Design最新版に追加された5つの「アシスト機能」

また、今回のフルリニューアルでは、新たに5つの機能が追加された(上の図)。まず、「部品リスト自動作成/一括見積もり機能」では、SOLIDWORKS上に構成した装置(アセンブリ)の部品リストをワンクリックで自動生成することが可能。また、その部品リストは一括で自動見積もりすることもできる。

「部品リスト自動作成」機能。BOM作成と見積りの手間を削減することができる。(チュートリアル画面※3)。

「設計事例集」では、利用シーンを想定したさまざまな装置アセンブリの事例が用意されており、それぞれまるごとダウンロードすることが可能だ。ただし、事例集は部品数が多いため、テンプレートというよりは事例として参考にするために提供されている。

それに対し、もう一つの新機能である「部品組合せテンプレート」では、よく用いられる部品の組み合わせがテンプレートとして用意されている(部品数は平均で4~5個、多くて10個)。事例集に含まれる個々の要素をテンプレートとして切り出しているのだ。

インポートしたテンプレートはRAPiD Designで必要な仕様に変更して利用することが可能。なお、この事例集とテンプレートは、ミスミがこれまで蓄積してきたものづくりのノウハウや経験をもとにつくられている。

「部品組合せテンプレート」機能で、生産設備や生産装置の個々の要素をCAD上に直接インポート可能。(チュートリアル画面※3)。

これらの新機能はたんに便利なだけではなく、習熟度がまださほど高くない若手エンジニアを「アシスト」する役割としても期待される。「RAPiD Designの反響が最も大きいのは、実は中国です。若手の設計者が多い中国では、おそらくRAPiD Designのような設計のアシスト機能のニーズが高いのだと思います」(中川氏)。

また、RAPiD DesignにはAI(機械学習)を使ったレコメンド機能も搭載されている。顧客の利用データをAIが学習することで、「部品Aを使うときはだいたい部品Bも一緒に使っている」といった予測に基づいて最適な部品を推奨するしくみだ。

熟練者のノウハウや「痒いところに手が届く」機能をデジタルサービスに組みこむということは、どの分野のDXでも課題であり、多くの企業がもがき苦しんでいるのが現状だ。しかしミスミはmeviyに続きRAPiD Designまで、いとも「自然に」実現しているようにみえる。秘訣はどこにあるのだろうか。

「もちろん簡単ではなく、社内では人知れずたくさんの苦労があります。一方で、弊社はものづくり企業であり、実際に生産技術の現場をもっていることがDXにおける強みの一つではないかと思います。また、弊社には新しい取り組みにチャレンジすることが好きな人たちが集まっていることもあり、DXの取り組みについても現場はとても積極的です」(中川氏)

RAPiD Designの進化はこれからも続く。今後は対応メーカーを25社から順次拡充していくことを計画しているという。また最後に中川氏は、今後の展望について次のように語った。

「製造業のデジタルツインを構築する上で、3DCADを用いた設計は欠かせません。その中でもRAPiD Designの特徴は、CADデータの入手から設計、見積もりまでのプロセスを包括していることです。つまり、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンを統合する役割を担うのが、RAPiD Designです。今後はより広くメーカー様にデータ提供をいただきながら、設計者の皆様が創造的なものづくりに専念できるような環境の構築を進めていきたいと思います」

※3 「RAPiD Design」のチュートリアル一覧はこちら

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