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「プラットフォーム」はなぜ必要なのか、その分類と理想像 —八子知礼×小泉耕二【第9回】

「プラットフォーム」はなぜ必要なのか —八子知礼×小泉耕二

IoTNEWS代表の小泉耕二と、株式会社ウフルCIO/株式会社アールジーン社外取締役の八子知礼が、IoT・AIに関わるさまざまなテーマについて公開ディスカッションを行う連載企画。本稿では、第9回をお届けする。

「プラットフォーム」は曖昧な言葉だ。Microsoft Azureも、「LANDLOG」(土木建築業)や「Field System」(製造業)などの業界別プラットフォームも、社内のデータを一元管理するプラットフォームも、Googleの検索エンジンも、すべて「プラットフォーム」だ。

一体何が異なっており、何が「プラットフォーム」として共通の要件なのか。

提供する側からすれば、世の中にさまざまなプラットフォームがあっても構わないだろう。しかし、それを利用する側は困る。

たとえば、中小・中堅規模の製造業にとって必要な「IoTプラットフォーム」とは何だろうか。大手企業が構築する”大きなプラットフォーム”につながった方がいいのだろうか。それとも、自社で閉じたプラットフォームを利用し、虎視眈々と生産性向上をはかればいいのだろうか。

八子と小泉がその答えを探る。

プラットフォームをつくるのは大変

小泉: この放談企画も、今回で9回目となります。これまでは製造業やロジスティクス、小売・物流、スマートシティ、AIと個別のテーマで議論を進めてきましたが、今回は「プラットフォーム」に焦点を当て、より全体感のある話をしていきたいと思います。

八子さんにお尋ねしますが、(プラットフォームに関して)この半年間、どういうことがありましたか。

八子: 私は年初に、2017年は「エッジ元年」、2018年は「プラットフォーム元年」だと言いました(※)。

特に、「業界別のプラットフォーム元年」だと提唱してきました。昨年、ファナックの「Field System」やランドログ(コマツ・NTTドコモ・SAP・オプティムの合弁会社)の「LANDLOG」がプラットフォームとして立ち上がったのは記憶に新しいと思いますが、今年も次々とリリースされつつあります。

[資料DL可] どうなる?2018年のIoT/AI -八子と小泉が語る、2018年のIoTとAI、CESレポートセミナー・レポート

小泉: (世の中では)「つくる」のは順調に進んでいると。一方、「活用」についてはどうですか。

八子: 実は、「つくる」方もうまくいっているわけではありません。

小泉: そうなのですか。

八子: はい。どういう“カタチ”のプラットフォームにするべきかというプランニングの段階、ないしはデータは溜まってきている企業でも、それをオープンプラットフォームにしていく道筋が定まっていない。そういう会社さんがまだ多いのです。

小泉: なるほど。ファナックの「Field System」も、発表されてからしばらくはコンセプトの段階が続いていましたね。それが、昨年の末頃から、展示会で(アプリの)画面を見せたり、データ連携の方針を発表したりと、具体的な話が出てきました。

ですから、プラットフォームを「つくる」のは難しいのだなという印象でした。八子さんは多くのプラットフォームの立ち上げに関わられていますが、実際はどうですか。

八子: つくるのは大変です…。

小泉: どういうところが大変なのでしょうか。

ここから、IoTNEWS Premium Member限定の内容です。

八子: IT基盤を構築するだけでも、半年以上の開発期間が必要です。あとは、色々な会社さんとアライアンスを締結する、なおかつアプリケーションを一緒につくっていくことになると、1社あたりで短くて3か月、長くて半年かかります。

さらに双方が貯めたデータを合わせてアプリケーションを開発するということになると、1年がかりの仕事になっていきますね。

しかも、アライアンスを組む企業は複数あるわけです。複数の企業と半年ないしは1年の長丁場の検討を、限られたリソースをかけて行わなければならないということになると、ゼロベースの状態からプラットフォーム化の検討を始めても、2年くらいかかるのが普通です。

小泉: 最近のアジャイル的なものづくりの仕方であっても、2年くらいはかかるということですね。そもそも、データ連携はかなり難しいことです。企業にはそれぞれ独自の情報システムがあり、仕事の進め方も違います。

IoTプラットフォームの場合には、それがさらに現場に密着することになるので、余計に難しいのではないかと思います。

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“そんなプラットフォーム”なら、つくっても意味はない

八子: 「プラットフォーム」とひとことで言うと、ITの基盤があって、そこにどんどんデータが貯まっていけばいいじゃない、という発想になりがちです。

「IoTプラットフォーム」ということであっても、それでいいと思います。ただ、私がさきほどから申し上げている「業界別プラットフォーム」は、ITの基盤ということだけでなく、(その基盤を使って)どうやって新たなビジネスを生み出していくかという、「ビジネスプラットフォーム」の要素の両方を含むのです。

なおかつ、ITの基盤においても、色々な機械からデータが上がってくる層、そのデータを蓄積して分析ができる環境に整える層、さらにそれを外部の人もデータ活用できるようなAPIやライブラリー群を整える層。この3層構造にスライスすることが必要です。

この構造がきちんと整理されていないと、自分はいまどこの部分をつくっているのか、どこの議論をしているのか、わからなくなるのです。そういう状況に陥っている企業さんをよく見かけます。

株式会社アールジーン社外取締役/株式会社ウフルCIO(チーフ・イノベーション・オフィサー) IoTイノベーションセンター所長兼エグゼクティブコンサルタント 八子知礼

あるいは、(プラットフォームの議論をしているはずなのに)いわゆる「サイロ型」の、業界のニッチな領域の技術開発の話に終始してしまうことがあります。それでは、どう考えてもプラットフォームにはなりえないのです。

その中に貯まっているデータを複数の会社さんに幅広く使っていただくというような発想になれば、プラットフォームにもなりうるわけです。しかし、どうしても自社の技術開発、かつ数社だけの“クローズドプラットフォーム”の議論に陥ってしまっています。

なおかつ、扱うデータも現場の非常にニッチな領域のデータであることが多く、それをどう活用をしたいのかというところがなかなか見えてこない。もしくは活用したとしても、ニッチな人たちの業務アプリケーションにしかならない。

そうすると、そもそもそれは「プラットフォーム」というような大きなテーマを掲げて取り組むべき話だったのだろうかと、疑問が残ります。

小泉: それは要するに、数社間のシステム連携ができるくらいの業務アプリケーションでしかないということですよね。

八子: そういうことです。どう考えても、数社での“クローズドプラットフォーム”なのです。そこにどんどんデータを蓄積していくと、当然ながらストレージコストがかかってきます。

そうすると、それをペイするだけのアプリケーションは、その数社だけでは到底つくりえません。その結果、「これは儲からない。なぜそこまでしてつくる必要があるのか」と、そういう話になります。

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“大きいプラットフォーム”と“小さいプラットフォーム”の両方が必要

小泉: 「エコシステム」ということが念頭にあれば、多くのステークホルダーが自分たちの利益を確保しながらみんなで一つの価値を生み出すもの、というマインドセットになります。それは必ずしも、ITシステムのことである必要はありません。

八子: 「エコシステム」と「パートナリング」は違うと思っています。デジタルの世界においては、途中からあまり手をかけなくても、自然発生的にビジネスが拡大していくというモデルになっていないとうまくいかないのです。これがエコシステムの意義です。

しかし、(多くのプラットフォームには)そういうベーシックなしくみが想定されていない。たとえば、なぜ私たちウフルが「IoTパートナーコミュニティ」を運営しているかというと、参加した方たちにアプリケーションを勝手につくってもらいたいからなのです。

「勝手につくる」というのは、プラットフォーマー側からすると都合のいい話ではありますが、アプリケーションをつくる側の人にとっても、そのプラットフォームの上でビジネスをした方がおいしい、もしくはユーザーがたくさんいるということが担保されているのです。

ところが、「サイロ型」のプラットフォームということになると、少ないユーザーしかいない。他社がそのプラットフォームを利用する価値があるのか、ということまで考えていないのです。

自己増殖的にアプリケーションが増えていくということまで考えているプラットフォーマーというのは、きわめてわずかだと思いますよ。

小泉: でも、そうすると製造業で1個、スマートシティでも1個というように、大きなプラットフォームだけがあればいいという話にもなってしまう気がします。

株式会社アールジーン代表取締役/IoTNEWS代表 小泉耕二

八子: 実際には、「オープンプラットフォーム」とクローズドな「データマネジメントプラットフォーム」(DMP)の両方が入り混じることになります。

「オープン」の方に要求されるのは、そこに参画する企業がある程度データを持っていることです。そのためには、それぞれの企業が自社の中にDMPを持っていなければなりません。自社のオペレーションに活用でき、データが一元的に管理されていて、「このデータは出すが、このデータは出さない」というように取捨選別できるようなものです。

業界全体のオープンなプラットフォームがあったとしても、それはDMPとのコネクションである程度成り立つような、“多段構造”にならざるを得ません。

そういう意味では、“大きなプラットフォーム”の下に複数の“小さなプラットフォーム”があり、なおかつそれが部分的には相互接続されるので、一つの業界が一つのプラットフォームで完全統合されるということはないと思います。

小泉: なるほど。

八子: かつてGEの「Predix」が登場した時、すべてあのプラットフォームに席巻されるのではないか、という議論もありました。しかし、やはり向き不向きがあります。また「Predix」の場合はライセンス契約が前提となっているため、契約できる企業も限られます。

そうすると、大企業や資金を持っている会社しか使えないことになります。それでは、エコシステムが途中から広がらないですよね。それが、いまGEの「Predix」があまりうまくいっていないように見える理由ではないかと、個人的には思っています。

次ページ:Googleの検索エンジンに見る、成功するプラットフォームの要件

Googleの検索エンジンに見る、成功するプラットフォームの要件

小泉: プラットフォームはとりあえずつくればいいというものではないということですね。明確な意図があって、仲間を巻き込んで、その人たちがさらに仲間を呼び込めるような状態にしなければ意味がないと。

八子: その通りです。

小泉: 戦略的に考えるとそれは理解できるのですが、世の中に広がったプラットフォームの例を見ていると、必ずしもそうは見えません。

たとえば、Googleの検索エンジンです。あれは何も最初から、色々な人たちを呼び込もうとしたわけではないですよね。ただ、その基盤を使って広告を打ったりとか、SEO対策の会社が勝手にできたりしました。

ITが生み出す“横に広い資産”をみんなが使ってビジネスを進め、儲けていく。そのように仕込まれている部分もあるのでしょうけど、最終的にはみんなが勝手にやっているイメージが強いのです。成功しているプラットフォームというのは。

八子: ですから、ビジネスプラットフォームもある程度最初は仕込んでいくのですが、途中からは勝手に使われるようなしくみにする必要があるのです。

さらにその場合には、どの部分を自社の“強み”としてプラットフォーム上に実装していくかということを考えなければいけません。Googleの強みは、テキストの検索による広告のモデルだったわけです。

Googleの発展形には、「Google Home」があります。あのスマートスピーカーそのものは安価に売られていますよね。あれではペイしないでしょう。しかしGoogleは、音声の検索エンジンのエージェントを使ったリファレンスモデルをつくることが目的です。

Androidの1号機を出した時と同じように、それ自体は儲からなくていいけれども、自社の強みを実装したビジネスモデルで成り立っているということをリファレンスモデルとして提示したのです。

殆どのプラットフォームというのが、その“強み”が実装されていない。普通なら、自分の一番強い部分はクローズドにしたいですからね。

小泉: これからのプラットフォームに求められる要件も、Googleと同じ“強み”の部分ということになりますね。そして、さらに必要なことは、Googleが取れなかった領域のデータを取ることですよね。

なぜなら、Googleがどんなに頑張ったところで、工場のデータは取れません。インターネットにつながっていて、検索されたりするわけではありませんから。

八子: そうです。インダストリアルの場合には、現場のデータがあり、その中から自分たちが得意とするアプリケーションをつくったり分析を行う手法が確立されていること。なおかつ、その確立された分析手法やアプリケーションが、そのプラットフォームの中の“キラーアプリケーション”として提供されることが必要です。

そして、その“キラーアプリケーション”は、それ自体で儲けるためのではなく、無償で提供されていることが望ましい。

そうすると、「データは豊富にあります。成功しているモデルがあります。では、のりますか、のりませんか」という話をパートナー企業さんに問いかけることができます。特にB2Bの領域においては、そういう“お膳立て”がしっかりとなされたうえで仕掛けないと、パートナー企業さんはのってきません。

あと、GoogleやAmazon、Apple、Facebookなどと違うのは、インダストリアルな領域ではさまざまな設備が組み合わさって成立しているということです。ですから、インダストリアルな領域の場合は、複数の企業でニュートラルにプラットフォームの運営がなされているということがきわめて重要です。

小泉: データを吸い上げられるだけ、と思われてしまいますね。

八子: ええ。ですから、コマツの場合はLANDLOGを立ち上げました。他の大きなプラットフォームも、ニュートラリティを担保できないのであれば、どこかのベンダーがつくったプラットフォームということで終わってしまう可能性があります。

次ページ:カギとなるのは、“小さなプラットフォーム”の中身

カギとなるのは、“小さなプラットフォーム”の中身

小泉: たとえば「工場」とひとことで言っても、さまざまです。そこに大きなプラットフォームが登場して、「うちの工場はここにのるべきかどうか」という状況になった時、企業は何を決め手にすればよいのでしょうね。

八子: 中小・中堅の企業の方は、大手企業が「このプラットフォームにのってくれ」と言ったとしても、判断できないと思いますよ。

自分たちのデータが貯まっていれば、その大きなプラットフォームにコネクトできるようなしくみをつくることができます。しかし、今からデータを貯めないといけないとすると、そもそもそこにはつなげない。

もしくは、そこにのろうとしても、すさまじいコストがかかります。利用料だけかかって自分たちのもとにデータが残らないのでは、インセンティブが働きません。

どこの会社もそうですが、まずはデータが貯まっている必要があります。あとは、それをどう活用するのか、“大きなプラットフォーム”に対してどのデータを出し、出さないのかということを、ある程度社内で議論できるようにしておかないといけないでしょう。

小泉: これまでは「バックミラーをつくれ」と指示されたら、それを一生懸命つくればいい時代でした。それが、そのバックミラーをつくる際のデータを活用してビジネスにするなんて、何をしたらいいのかわからないですよね。

そこで戸惑うのは当たり前だと思いますし、「それで商売になるよ」と言われたところで、“はてなマーク”が100個くらいつくような感じが否めません。

八子: そうかもしれませんが、デジタルツインの環境に移行してシミュレーションの精度を上げようとした場合には、自分たちが関わるバリューチェーンの外側、たとえば現場のオペレーションの担当であれば、調達、設計、マーケティングなどの部門にまで拡張せざるを得ないのですよね。

バックミラーであれば、実際にバックミラーがどういう環境で使われるのかということを、自分たちがモニタリングしなければならないというマインドに変わらないといけないのです。

つい先日、鏡メーカーの(株式会社)ジャパンディスプレイが、象徴的なプレスリリースを発表していました(※)。彼らはこれまで完成品を手がけることはなかったのですが、今後は完成品のマーケットに出ていく。なおかつIoTによって顧客の情報を継続的に収集していくというビジネスモデルに大きく変貌しようとしているのです。

どの製造業においても、このようなマインドセットを持っていないと、この先うまくいかないことは明白です。

ジャパンディスプレイ、鏡がディスプレイに変化するIoTドア「FULL HEIGHT MILAOS」を開発

小泉: これだけ世の中が大きく変わっているわけですからね。地方の製造業の方とお話ししますと、「仕事が減ってきている」、あるいは「これからどうしていいかわからない」という話を聞くことが多いです。

しかしながら、技術はあっても、海外向けのホームページがないなど、IoT云々ではなく、シンプルに営業活動をあまりしている感じがしないのですよね。

八子: そうですね。「プラットフォーム」というと、現場から上がってくるIoTデータばかりを想定しがちですが、いまお話しされたようなWebページやマーケティングのプラットフォームも普通になければなりません。

小泉: 今回のお話では、横に広いプラットフォームで、エコシステムを志向したものが望ましいという話が前半に出ましたが、それは業界全体をまとめるような“大きなプラットフォーム”の話でした。

足元で、そんな大きなものをつくれないという人たちも、これまでのように産業機器にセンサーを付けて稼働状況のデータを集めるということだけではなく、他社とつながり、自社のバリューチェーンを統合するような“小さなプラットフォーム”も必要であるということがわかりました。

その“小さなプラットフォーム”と“大きなプラットフォーム”との間でしっかりデータ連携を行い、その結果として大きなビジネスの価値を生み出していくことが重要です。本日はありがとうございました。

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