協創を通じ、IoTビジネスを推進する「IoTパートナーコミュニティ」(事務局:株式会社ウフル)は12月18日、9つのワーキンググループ(WG)における1年の活動成果を共有する場「IoTパートナーコミュニティフォーラム」を開催(場所:東京都港区「ザ・グランドホール」)。本稿ではその中から、セキュリティWG、ブロックチェーンWG、FoodTech WGの発表の内容をダイジェストでお伝えする(物流WG、IoT×AI WG、ヘルスケアWGの内容についてはこちら)。
【セキュリティ】「テストベッド構築」と「IoT保険」の2テーマを推進
「セキュリティWG」では、「セキュリティテストベッド構築」と「IoT保険」の2つのテーマで活動を進めている。「テストベッド構築」の取り組みを始めた経緯について、同WGのリーダーをつとめる株式会社セゾン情報システムズの樋口義久氏(冒頭写真・左)は次のように説明した。
「IoTビジネスを始めるにあたっては、まずPoCを行う。しかし、その時点ではセキュリティのことは考えず、後回しになる現状がある。また、本番環境でセキュリティ構築をするならいいが、PoCの運用のまま進み、セキュリティが再考されないことも多い」(樋口氏)
そこで、同WGでは「IoTのセキュリティに強い人材を育成し、コンサルティングをできるしくみをつくろう」と考えた。そして、その支援を行うためにはまずテストベッドを構築し、それをもとに啓蒙活動を行うこととしたのだ。具体的には、昨年の9月に東京都立産業研究センターの公募型共同研究テーマ「中小企業のIoT化支援事業」に採択され、それ以降1年をかけてテストベッドを構築し、セキュア検証も完了させた。
このテストベッドは、「IoTのビジネスを始めたいが、セキュリティの知見がない」、「セキュリティ対策が必要なのはわかるが、何をしたらいいのかわからない」、「自分たちでPoCを組んだが、そのシステムがセキュアなのかどうかを検証したい」という人に向けて、実体験をもとに脅威や対策を学べるしくみになっているという。今後は、このテストベッドを活用したセキュリティの啓蒙活動にも注力していくとのことだ。
次に、「IoT保険」のテーマについて紹介する。IoT保険の開発プロジェクトを始めた経緯について、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社の古賀俊輝氏は、次のように述べた。
「IoTビジネスを始める企業に向けた保険をつくりたいと考えた。クルマに乗るのであれば自動車保険に入る。それと同じように、新たにIoTサービスを提供する企業のリスクヘッジを提供するのがIoT保険だ」
古賀氏は、「IoTに限らず、保険はリスクをゼロにすることはできないことが前提だ」と説明。なぜなら、被害を未然に防ぐための対策は可能であっても、「残存リスク」は回避できない。「インシデントが発生した後にどうするかを考えるのが保険の役割」(古賀氏)。また、そうした「ゼロにできない世の中のリスク」に対して、「合理的かつ最小限のコストで立ち向かえるしくみをつくることが、保険会社としての社会的意義」だと説明した。
では、同WGで開発したIoT保険とはどのようなものなのだろうか。古賀氏は次のように説明する。
「IoTとは、モノのインターネットである。そのため、モノに関わるリスクとITシステムに関わるリスクがある。モノを提供するメーカーにおいては製造物責任法(PL法)に準拠したPL保険、ITではサイバーセキュリティ保険、つまり情報漏洩などに対処する保険がある。IoTはこの二つを融合させたものだ。しかし、今はこれがばらばらに提供されている。そこで、新たに両方を包括した保険を開発した」
この新しいIoT保険は、来年の1月から販売される予定だ。また、現時点ではIoTサービスを提供する企業向けの保険となっているが、今後はIoTサービスを利用する企業や個人に向けた保険も検討していくという。
【ブロックチェーン】個人データを安全に利活用できるしくみを実証
「ブロックチェーンWG」は今期、パーソナルデータを安心・安全に利活用できる「BCPDS(ブロックチェーン・パーソナルデータストア)」(※)の開発と実証実験を行ってきた。
「パーソナルデータ」とは、「個人情報」そのものだけではなく、スマートフォンやウェアラブルから取得した移動・購買履歴や健康などの多様なIoTデータを含む言葉である。こうしたパーソナルデータを活用することで、サービスを提供する事業者は大きなメリットを得られる。たとえば保険会社であれば、健診機関の健診データのみならず、ウェアラブルから取得したバイタルデータなどを加えることで、その人に最適な保険契約の提案が可能になる。
しかし、現時点ではパーソナルデータの利活用には課題があるという。ブロックチェーンWGのリーダーである株式会社セゾン情報システムズの佐々木勝氏(冒頭写真・中央)は次のように説明した。
「事業者が顧客のデータをすべて管理しようとすると、大量のデータを管理・蓄積しなければならない。それはリスクもコストも大きい。また、自社の顧客のデータしかわからない。真の顧客ニーズなどを見つけようとした場合には、自社ではリーチできないデータにも目を向ける必要があり、自社だけではそのリスクとコストに見合ったメリットが得られない」(佐々木氏)
一方、個人(顧客)からすると、「自分のデータがどこで誰に使われているのかわからない」、「提供しても自分にとってメリットがあるのかわからない」といった不安があることが課題となっている。
そこで、同WGが開発したのが、「BCPDS(ブロックチェーン・パーソナルデータストア)」である。BCPDSのポイントは、「データは個人が管理する」しくみであるということだ。個人は自分が同意した目的と相手にのみデータを提供するため、上述した個人の不安は解消できる。また、事業者としても、自社が必要なデータを必要なタイミングで収集できるため、データを蓄積するリスクとコストの軽減が可能。また、他社由来のデータも収集可能であるほか、正当なデータ利用をしていることを客観的に証明できる。
同WGでは、既にこのBCPDSのしくみを使った実証実験を、大手食品メーカーで行った(本年11月19日~12月14日)。この企業は社員の健康維持や向上を経営戦略の一環として積極的に取り組んでおり、その手段としてパーソナルデータの利活用を検討していた。その際に、「会社がデータを収集・管理しない」、「必要十分なセキュリティを備える」といった条件があったが、BCPDSであれば対応できるとして、実証実験が実現した。
具体的には、参加社員にFitbitとBCPDS実験用アプリを提供。日々のFitbit活動量データを会社アカウントに提供するというシナリオでBCPDSの実用性を検証した。その結果、延べ216人分の活動量データが正しく取引できることを確認。さらに、ブロックチェーン上にすべてのデータに対する提供・参照のログが記録されていることも確認できた。
今回、BCPDSの実用性を実証できたため、今後は引き続き同食品メーカーと第2弾の実証実験を行っていく予定。協業できる企業も募集中ということだ。
※12月21日、株式会社セゾン情報システムズよりリリース。
【FoodTech】飲食店のIoTからフードサプライチェーンの全体最適を目指す
「FoodTech WG」では、「フードサプライチェーン」の全体最適を目指して活動を行っている。フードサプライチェーンとは、食品が生産されてから、消費者のもとに届くまでのバリューチェーンを指し、工場、流通、飲食店など関わってくるフィールドは様々である。
同WGのリーダーを務める株式会社セカンドファクトリーの千葉隆一氏(冒頭写真・右)によると、FoodTechとはそのフードチェーン全体を最適化するためのテクノロジーを意味する。そして、その中でも今期は「飲食店」「小売」「消費」を包括する「サービステック」の領域に着目し、実証実験を行ってきた。
セカンドファクトリーが運営する飲食店にて、実際に行った取り組みは多岐にわたる。その一つが、「リアルいいね!ボタン」という店の食事や雰囲気に対して簡単に顧客のアンケートを取得できるしくみだ。「データを取って終わりではなく、分析も行った。その結果、スタッフのモチベーションにつながることもわかった」(千葉氏)
また、スマートフォンから食事の注文などが行える「TRIENT」(セカンドファクトリーが既に商用化しているサービス)を活用。これにより、店内がIoT化されてなくても、スマートフォンがあればユーザーのログを取得することが可能になる。一方、スタッフにもビーコンをもたせ、その行動を可視化。接客の回数や時間が売り上げにどう影響するかを検証した。分析の結果、次の改善のアクションにつなげるためのダッシュボードも作成した。
IoTを活用した店舗内のデータ取得については、セカンドファクトリーが運営する「海の家」で実証実験を行っているが、それは「オフィスIoT WG」のテーマとなるため、追って紹介したい。
IoTの取り組みの必要性について、千葉氏は「飲食店の利益を最大化するためには、PDCAを高速で回す必要がある。そのために必要な手段がデータサイエンスだ」と説明。しかし一方で、飲食店ではPoCを行ったとしても、商用化に至っていないケースが多いという。その課題を「ビジネスモデルどうする問題」と表現し、次のように説明した。
「飲食店はメガチェーンとスモールチェーン、個店に分かれる。そのうち、メガは全体の売上の17%を占める。同じ飲食でもビジネスモデルはまったく異なる。具体的には、材料費(F)や人件費(L)のバランスをどうとるかという話になるが、その方法は100店100様だ。そのため、商用化のためには解決すべき課題はどこにあるのかをこまかく整理して、アクションを進めていく必要がある」
また、フードサプライチェーンの全体最適という視点においては、「そもそも『食』はアナログの世界のものだ。これからは、その現場(飲食店)における顧客ニーズを生産サイドにフィードバックするしくみも必要になるだろう。そのため、今後も飲食店での取り組みを中心に、全体最適を目指していきたい」と述べた。
(レポート3はこちら)
【関連リンク】
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