tripla株式会社は、「革新的なテクノロジーで最高のおもてなしを旅行者へ」をミッションに掲げ、観光産業に向けたサービスを展開する会社だ。
現在、同社が柱とするサービスは2点ある。1点目は宿泊施設向けの多言語AIチャットサービス「triplaチャットボット」、2点目はSaaS型の宿泊予約エンジン「triplaホテルブッキング」である。
triplaはどのような理由で、triplaチャットボットとtriplaホテルブッキングを立ち上げたのか。そして、この2つのサービスを通して、観光ビジネスにどのような変化をもたらしたいと考えているのか。
tripla株式会社 代表取締役CTO 鳥生格氏、同代表取締役CEO 高橋和久氏にお話を伺った。(聞き手:IoTNEWS代表 小泉耕二)
triplaがこだわり、ゲームチェンジャーを目指す訪日旅行客向けサービス
IoTNEWS 小泉(以下、小泉):まず、triplaを立ち上げたきっかけを教えてください。
tripla 鳥生(以下、鳥生):きっかけは2つあります。1番目のきっかけは、サラリーマン生活の中で「社会にインパクトを与える仕事がしたい」という気持ちが芽生えた事です。2番目のきっかけは、ビジネススクールに通い、ビジネスに精通する事で「自分も新しいビジネスを立ち上げたい」という気持ちが湧いた事です。
小泉:ビジネスのターゲットを、観光業界に絞った理由は何でしょうか。
鳥生:起業した当時、モノ消費からコト消費へ、というフレーズが盛り上がっていた事、そして同時期にインバウンドが騒がれ始めていた事が理由です。
この2点から、マーケットの拡大が見込まれる観光業界、特に訪日外国人に向けたビジネスにフォーカスを当てることにしました。
小泉:triplaチャットボットを作られたということですが、そもそも宿泊施設向けのAIチャットボットサービスを始めた理由や経緯は何でしょうか。
鳥生:理由は2点あります。1点目は、「旅行の事前準備に対応するサービスを作りたかった」という事です。この背景には、triplaがこれまで提供したサービスの変遷があります。
弊社が最初に立ち上げたサービスは、訪日外国人向けに、飲食店等の「メニューを翻訳する」アプリでした。これは、現場の担当者がサービスの利用方法を説明できない、アプリの利用者がWi-Fi環境を用意できない、といった問題で上手くいきませんでした。
次に、「triplaアプリ」という、多言語対応のノウハウは活かしつつ、チャットを通じて、旅先のレストランの予約やタクシーの「手配が出来るアプリ」を開発しました。
このサービスを提供していく中で、ほとんどのユーザーが、旅行前にアプリを利用している事が分かりました。
そこで、旅行前に宿泊先や飲食店予約、レンタカー予約などの準備に利用することを想定した、「チャットボット」を開発しました。
小泉:triplaチャットボットを始めた2点目の理由は何でしょうか。
tripla 高橋(以下、高橋):2点目は、「ホテルという、リピート客が生まれる場所でサービスを勝負したかった」事です。
旅行においてリピート客が生まれるビジネスは、レストランの予約とホテルの予約、この2つにほぼ限られています。それ以外のビジネスでは、ほとんどリピート客は生まれません。そのため、リピート客が生まれるビジネスを対象にしよう、と考えました。
一方、チャットサービスのノウハウを上手く応用し、新サービスを立ち上げる事はできないか、という思いがありました。そこで、リピート客の生じるホテル向けのチャットボットサービスを立ち上げました。
旅行業界に特化したチャットボットが、ホテルにまつわる様々な質問に回答
小泉:triplaチャットボットはどのような事ができるのでしょうか。
高橋:チャットを操作しながら説明しましょう。
triplaチャットボットは、ホテルのホームページのトップ画面右端に表示されています。この部分をクリックすると、チャットボットとやり取りを行うためのボックスが出てきます。
そして「ご質問を文章で入力してください」の部分に、ユーザーはホテルに質問したい事項を入力します。小泉さん、試しに何か質問をしてください。
小泉:朝食は付きますか。
高橋:はい、「朝食は付きますか」と入力しました。すると、朝食付きプランのご案内をチャットボットが回答します。このように質問事項を入力してチャットボットとやり取りを行います。言語については、日本語・英語・韓国語・中繁体・中簡体の5言語に対応しています。
また、ホテルによっては、チャットボットを立ち上げた段階で、予めホテル側が良く聞かれる質問事項が表示される場合があります。
小泉:仮にAIが回答できない場合はどうなるのでしょうか。
高橋:AIが回答できない場合は、対応が2パターンあります。
1点目は、「申し訳ありません。回答できません」とチャットボットが答えるだけのパターン。これは、ホテルがチャットボットのやり取りのみ、サービスを導入している場合のパターンです。
2点目は、リアルオペレーターが対応するパターンです。例えば、お客様が意味不明の発言を入れると、「オペレーターに繋ぎます」とチャットに出ます。そして、弊社で待機している25名のオペレーターが5ヶ国語対応で回答します。
triplaチャットボットの回答率は92%であるため、チャットのやり取りだけで十分満足しているホテルが多いです。しかし、それでも「残りの8%にもしっかり回答したい」というホテルについては、オペレーター付きのサービスを提供して、そのホテルの顧客満足度を向上させています。
宿泊予約や飲食店予約、レンタカー予約など、旅にまつわる予約をワンストップ対応
小泉:一問一答のやり取り以外に、triplaチャットボットで出来る事はあるのでしょうか。
高橋:あります。1つは宿泊予約です。
部屋の予約については、2つのパターンがあります。1つは弊社が提供する宿泊予約エンジン「triplaホテルブッキング」に繋がるパターンです。これはチャットのメニューにある「宿泊予約」を押すと、自動的にtriplaホテルブッキングの画面に飛ぶ、というものです。triplaホテルブッキングについては、後ほど説明します。
2つ目は、チャット内で予約が出来るパターンです。この場合、メニューの「宿泊予約」を押すと、チャット内に空室検索の一覧が表示されます。そして、部屋の種類・宿泊プランを
選び、決済方法を選択することで、すべてチャット内のやり取りで部屋の予約が出来ます。
小泉:宿泊以外にも、予約できるサービスはありますか。
高橋:あります。例えばレンタカー予約です。このレンタカー予約はJR東日本レンタリースの予約システムとAPI連携をしており、チャット内で営業所・レンタルする日付・返却時間を指定して予約を行う事が出来ます。
鳥生:レンタカー以外では、レストランの予約が出来ます。
高橋:レストランの予約については、「ぐるなび」と連動しています。例えば、ホテル近くのレストランに行きたい場合、ジャンル・予算を検索して予約を行う事が出来ます。ちなみに、レストランの予約については外国語表記に変える事が出来るため、海外からの観光客も利用できます。
鳥生:これもレンタカー予約と同様に、APIによって他社の予約機能と連携しています。当初はAIチャットで予約を行っていました。しかし、AIよりAPI連携の方がコンバージョンは高いということで、このような形になりました。
業界特化型のチャットボットだから、導入の手間が極小化
小泉:triplaチャットボットについて、他社のサービスと異なる特長はありますか。
高橋:特長は2点あります。
1点目は、初期設定の手間やコストがかからないことです。
他社のチャットボットサービスではFAQの作成を導入企業側に任せてしまう場合が多いです。しかし、ホテル業界はITに対してナレッジの高い人が少ない。FAQを作るだけでも精一杯の状況です。
triplaチャットボットについては、弊社側でホテルのホームページや、既存メディアの掲載情報をチェックしてFAQを作ります。つまり、初期設定についてホテル側は何もしなくて良いのです。そして、初期費用がかからず、ランニングコストのみで導入する事が出来ます。
2点目は機械学習です。弊社のリアルオペレーターが待機している際、その裏で機械学習をさせているのです。
他社のサービスですと、ホテル側で機械学習を行います。しかし、いざ取り組むとなると、専属の人間が3,4人ほど必要になるため、ホテル側は却ってコストが増えるのです。
小泉:確かに大抵のチャットボットサービスでは、導入企業側がFAQを作ります。一方で、サービスの提供企業がFAQを作成した場合、運用していくと想定とずれたものになる場合があります。
高橋:はい、私もそう思います。しかし、triplaチャットボットはAIの回答率が92%と、他のサービスと比べて高い回答率です。
鳥生:triplaチャットボットの品質は、他のどのサービスよりも優れていると思います。その理由は、ホテル業界に特化しているサービスだからです。ホテル業界に一極集中して機械学習を行えば、あらゆるホテルで利用できるチャットボットサービスを作る事が出来ます。そのため、業界特化型というアプローチを取りました。
予約者の体験を改善することで、予約率を向上するtriplaホテルブッキング
小泉:「triplaホテルブッキング」についてもお伺いします。これは、SaaS型でのホテル予約システムということですが、そもそもSaaS型で提供しよう、と考えた理由は何でしょうか。
鳥生:理由は2点あります。
1点目は「OTA(オンライン・トラベル・エージェンシー:オンライン旅行会社の予約サービス)レベルのUI/UXを、ホテルの公式サイトで実現したかった」という事です。
小泉:ホテルの公式サイトのUI/UXは、レベルをアップさせる必要がある、という事ですね。
高橋:はい。既存の宿泊予約システムは、かなり昔に作られたレガシーなシステムです。その結果、UI/UXが古くなってしまっています。
オンプレミスの古い予約システムを使っている場合、ホテルの公式サイトで予約を取ろうと思った場合、違うドメインに飛んでしまう場合が多いのです。さらに、飛んだ先の画面デザインがユーザー目線で作られていないため、どこに何を入力すれば手続きできるのかが良く分からない、という難点があります。
また、コストの問題等で、はじめにシステムを作った企業が開発を続けることができなくなり、システムを今風なものに改善出来ていないという問題もあります。
それならばSaaS型の予約エンジンを提供し、ホテルの予約システムを改善しようと考え、開発したのがtriplaホテルブッキングです。
小泉:triplaホテルブッキングに取り組んだ理由の2つ目は何でしょうか。
鳥生:2点目は「ホテルの公式サイトを経由した予約の利用率を向上する仕組みが提供したかった」という事です。
現在、ホテルの公式サイトを経由した予約率の全国平均は6%です。残りの94%は、オンライン旅行会社のサービスを使った予約です。そのため、ホテルはオンライン旅行会社に手数料を払い続けています。
しかし、ホテル側としては、公式サイトでの予約を増やしたい。それならば、ホテルの公式サイト経由の予約率が上がる仕組みを持った予約エンジンを提供し、支援しようと考えました。
わずか4ステップで予約が完了
小泉:triplaホテルブッキングでは、どのように予約を行うのでしょうか。
高橋:デモ画面を使って説明しましょう。
まず、ホテルのホームページトップにある「宿泊予約はこちらから!」と書かれたアイコンをクリックします。すると、そのホテルの宿泊プランが表示されます。ユーザーが宿泊プランを選択すると、お客様情報を入力する画面が出てきます。この画面で情報の入力を終えると、後は決済方法を選択すれば予約が完了します。
つまりユーザーは、プランの検索、選択、お客様情報の入力、支払い方法の選択という、わずか4ステップで、部屋の予約が出来るのです。
また、triplaホテルブッキングは、ドメインを遷移せず、ホテルのドメインで予約を完了する事が出来ます。
オンライン旅行会社の予約サービスより、ホテルの公式サイトからの予約料金がベストレートになる仕掛け
小泉:先ほど「ホテルの公式サイトからの予約率を上げたい」という事をおっしゃっていましたが、これに関してはどのように対応しているのでしょうか。
高橋:オンライン旅行会社の予約サービスの料金と、ホテルの公式サイトの予約料金を比較し、公式サイトの料金が高い場合は、自動的にオンライン旅行会社の予約料金を調整する(一番安い価格になる)仕掛けを入れています。これにより、ホテルの公式サイトにおける予約料金を、確実にベストレートで提供し、予約率のアップに繋げます。
小泉:確かに料金が一番安ければ、公式サイトでの予約客が増え、ホテルはオンライン旅行会社に手数料を支払う必要が無くなります。
Googleで検索していても、最近はオンライン旅行予約会社の金額と、ホテルの金額が横並びで表示されますよね。
高橋:今までホテル業界は、このベストレート機能への取り組みに熱心ではありませんでした。その理由は2点あります。
1点目は、近年インバウンドで潤っていたため、提供価格について深く考える風潮が無かった事です。2点目は、ITに特化した人材を抱えられるホテルグループが少なかった事です。
小泉:今まで注目されていなかった点に目を付けたのですね。
高橋:はい。このサービスについては、今のところ競合がいない点がポイントです。
小泉:ベストレート機能以外にも、triplaホテルブッキングの特長はありますか。
高橋:あります。それはホテル会員登録への誘導です。
既存の予約システムにおいては、ホテル会員登録への誘導が徹底していませんでした。そこでtriplaホテルブッキングは、通常価格とホテル会員価格を併記し、「会員登録を行えば、この金額で泊まれます」という形で、会員登録を促します。なお、会員管理やポイント管理の仕組みも弊社で開発しています。
今後に向けた3つの施策
小泉:今後の展望について教えてください。
高橋:今後、弊社が取り組みたいと考えているテーマが3点あります。
1点目は「ホテル会員アプリを開発し、会員を増やす仕組みを作る事」です。
ホテルの公式サイトにおける予約率を引き上げるには、ホテルの会員数を増やす事が有効です。ホテルの公式サイトを経由した予約客を調査すると、その6割が会員メンバーである事が分かりました。つまり会員メンバーが増えれば、ホテルの公式サイトからの予約率を引き上げる事が出来るのです。
しかし、ホテルの会員を増やすためには、既存の会員プログラムを変える必要があります。例えば既存の会員プログラムでは、いちいち会員カードを持ち歩かなければいけない、といった難点があります。
そこで弊社では、チェーンホテルに向けて会員専用アプリのようなサービスの提供を構想しています。これならばカードを所持する必要がなく、ホテル限定の特典などをアプリで勧める事が出来ます。
小泉:2点目のテーマは何ですか。
高橋:2点目は「triplaチャットボットとtriplaホテルブッキングのシナジーを生み、ホテルのリピーター増加につなげる事」です。
triplaチャットボットの利用客は、ホテルの宿泊に関心を寄せている顧客であり、ホテル会員になる可能性も高い。
そこで、チャットの利用客に向けて会員登録を勧めます。さらにtriplaホテルブッキングで予約を行う際に充実した会員サービスを提供し、リピーターになってもらうように促します。
小泉:3点目のテーマは何ですか。
鳥生:3点目は「ホテルが所有するデータを活用し、ユーザーにより良いプランをプッシュ型で提案する仕組みを作る事」です。
ホテルは大量の顧客情報を取得していますが、現状それらを活用できていません。そこで、データを活用したプッシュ型のビジネスをホテルが展開できる仕組みを作ろう、と思っています。その際には、チャットボットサービスを活用し、ユーザーに合わせた情報を提供する事も考えています。
小泉:確かに、データに基づいた有益な情報を、チャットボットが教えてくれれば便利です。
鳥生:はい。特にホテル会員のようなユーザーであれば、そのようなサービスを期待するはずです。
高橋:現在、ホテル業界では、マーケティングアプローチがほとんどされていません。例えば出張の宿泊客を特定し、その客に向けてリピート利用を促す情報を伝える、といった事が出来ていません。既存のシステムが足枷になっているからです。ならば、その点を我々がサポートし、変えていくお手伝いをしたいと思います。
小泉:本日はありがとうございました。

