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WeChat Payと無人コンビニの実態、日本の電子決済はどうなるのか -深セン決済事情レポート

私は、6月末に深センを訪れ、電子決済の波に関して、WeChat Payを運営するテンセント社の関係者に対するインタビューを行った。本記事は、インタビューでわかったことと、実際に現地で起きていることについてレポートする。さらに、日本の電子決済が進むのに必要と考えられる要件についても考察する。

WeChat Payが広まったきっかけ

日本では、なぜWeChat Payなどの決済手段が、こうも中国に広がっているかについてはあまり言及されず、その現象だけがレポートされることが多い。

実際に関係者にその経緯を伺ったところ、「もともとQQというスマホゲームなどのサービスを行っていて、インターネット上での課金は進んでいた。中国では、お年玉(紅包(ホンバオ):RedPacket)をあげあう習慣があり、それを2014年に行ったところ、予想以上のやり取りがあったのです。しかし、このお金を実際に使いたいという要請が大きくなり、少額決済ができる仕組みを実店舗で実現しました。これがWeChat Payの始まりです。」という。

つまり、ネット上にたまった莫大な現金を、吐き出す先として、既存の技術で店舗への導入負担が少なく、かつすぐ使える方式としてQRコードをつかったペイメントサービスが始まったのだという。

そして、クレジットカードの料率よりも、安い手数料であったため、店舗側は歓迎し、爆発的な導入へとつながったのだ。

これをきっかけに、WeChat Payを運営するテンセントの金融部門は、このペイメント方式を活用したサービスを次々打ち出す。

WeChat Payの場合、WeChat(LINEのようなチャットツール)に決済手段がついているという印象が強く、いわゆる電子決済のためのサービスというより、CRMと一緒に提供できるものとなっているのが特徴的だ。

WeChatの中に、外部企業が作ることができる「mini Program」なるものを使って、決済に紐付いた様々なアプリケーションを企業は提供している。

例えば、空港にバーガーキングがあるとする。店舗の床や壁にWeChat用のQRコードが印刷されているので、それをアプリでスキャンし、確認画面で承認するとバーガーキングの会員となり、すぐクーポン券などが発行される。

もちろん、メッセージングサービスとも連携していて、店舗からのメッセージも来ることとなる。

また、決済の時は基本的に、自分のIDが書かれたコードを読み取ってもらうか、逆に店舗が準備しているコードを自分のアプリで読み取るかという、シンプルなやり方で使えるようになっている。

例えば、店舗のレジでお会計金額が確定した時、自分のバーコードをアプリで表示、読み取ってもらい、確定すると支払いが終わる。

深セン電子決済レポート
自分のバーコードを読み取ってもらって決済する場合

逆に、無人店舗では、商品についているバーコードを自分のアプリで読み取って、確定すると支払いが終わるといった使い方だ。

商品のバーコードを読み取って決済する場合

このシンプルなやり方を覚えておけば、シェアバイクであっても、無人店舗であっても、店頭商品の購入であっても、同じ手順で購入をすることができる。

店頭の商品に決済用のQRコードがついていて、決済の時はこれを読み取って支払うという方式もそこら中で見かけた

唯一面倒なのはアプリを立ち上げないといけないことだが、財布を取り出して、お金を数えて、とやっていることを考えると、それほど面倒ではないといえる。

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広がる無人店舗

深センには、意欲的な無人店舗が何種類もできていて、中国人であれば実際に試すことができる。

当初、アンテナショップ的にやっていると教えられた無人店舗だが、案外普通に使っている人が多いところを見ると、テストサービスとはいいがたい状態でもあるといえる。

万引や、強盗の被害がありそうだと懸念する声があるが、決済手段としてのWeChat Payは個人の与信情報と紐ついているということと、町中いたるところにカメラが設置されているため、そう簡単に逃げとおせないということもこの仕組みが機能しているポイントだといえる。(一方で、ある意味管理社会だから成り立っているともいえる)

無人コンビニ QR方式

QRコード方式での無人コンビニでは、WeChat Payやアリペイのアプリで棚のQRコードを読み取る。承認すると陳列棚の鍵が開く。その後、商品についているバーコードを読み取り決済をすますというやり方だ。

商品を選んでQRコードを読み取る

無人コンビニ RF-ID方式

RF-ID方式での無人コンビニでは、棚を開けるところまでは同じだが、商品にRF-IDがついているので、それを棚から取り出すと反応して決済を行うというものだ。

無人スーパー

無人スーパーも出入り自由だ。商品についているバーコードをアプリで読み取り決済をするだけでよい。

無人餃子店

餃子店のミニアプリを立ち上げると、メニューが表示され、商品を選ぶ。そして決済すると、厨房から餃子が運ばれてくる。

顔認証ケンタッキー

ケンタッキーでは、顔認証によって個人を識別し、商品購入ができる機械が設置されていた。

シェアバイクなども、広い意味でいえば無人でサービス利用ができるもので、前述したとおり監視社会であること、与信がきちんとできていることを前提にしたサービスは今後も増えていくことが考えられる。

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どうなる?日本の電子決済

とても便利なQR決済だが、日本人が深センに行ったときは使えない。

理由は簡単で、中国国民ではないからだ。そもそも、中国国民であることを前提にしていて、中国の銀行システムとも連携しているため、方式としてはいわゆる「デビット方式」となる。

決済したとき、口座にお金がなければ決済もできないという極めてシンプルなこの仕組みは、後払いとなるクレジットカードでは与信判断が難しい貧困層にも利用が広がった。

その一方で、店舗での決済にかかる手数料率は、「国際クレジットカード > 国内クレジットカード > WeChat pay」という状況なので、多くのヒトがWeChat Payを使うと当然、それしか使えないお店というのが登場するのだ。

この理屈でいくと、ローカルな店舗であるほど我々外国人はクレジットカードで決済することができなくなるのだが、その通りだ。しかも、この方式であれば偽札の被害も考えなくてよいし、店舗に現金を置く必要もないので、店舗運営者からするとバラ色の仕組みなのだ。

よく、「現金で決済しているのが外国人くらいだ」といった記事を見かけるが、それが当たり前なのもよくわかるだろう。

別に、現金がダメで、電子決済が便利だから利用者視点で広がったというのは片方の見方であって、いろんな背景から店舗側も電子決済が良かった。ということが良くわかる。

つまり、きちんとしたマネージャや、店主がいないお店では、「WeChat payのみの決済」となる理屈もよくわかるだろう。

翻って、日本の電子決済事情を考えてみる。

すでに、SUICAなどのようなICカード方式がそれなりに広がっているが、決済手数料率は決して低くない。

この状態で、利用者の利便性だけを問うても、店舗側がやりたくはならない。しかも、このICカード方式は、QRコード方式より圧倒的に利便性は高いが、WeChat PayのCRM連携を見ていると、必ずしも決済だけが便利であればよいということにはならない。

一方で利用者側は、現在可処分所得がある世代に関しては、いきなりデビットカード方式は厳しいといえる。それができるなら、すでにデビットカードが普及しているはずだからだ。

現状では、クレジットカードを使ったプリペイド(チャージ)方式をとりつつ、自動チャージの方式で電子決済のサービスを組み立てるのがよさそうだ。

しかし、子供など、そもそもクレジットカードを持てないヒトについては、やはりデビットカード方式が必要になるのかもしれない。

つまり、電子決済の普及のカギとなるのは、

ということだといえるのだ。

現在LINEがこのポジションとしては最も近いところにいる状態だといえる。日本でも、お財布を持たない時代がすぐそこに来ているのかもしれない。

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