協創を通じ、IoTビジネスを推進する「IoTパートナーコミュニティ」(事務局:株式会社ウフル)は12月18日、9つのワーキンググループ(WG)における1年の活動成果を共有する場「IoTパートナーコミュニティフォーラム」を開催(場所:東京都港区「ザ・グランドホール」)。本稿ではその中から、ウェアラブル活用WG、オフィスIoT WG、災害対策WGの発表の内容をダイジェストでお伝えする。
※他の6つのWGの内容についてはこちら。
【ウェアラブル活用】高圧ガスの納入をハンズフリーで可能に
「ウェアラブル活用WG」のリーダーを務める株式会社Enhanlaboの座安剛史氏(冒頭写真・左)は、ウェアラブルの重要性について次のように説明した。
「IoTで収集したデータを使う主体が人間であるのなら、デジタルとアナログの『繋ぎ目』として五感が必要だ。特に視覚と聴覚は重要であり、IoTデータから人間が行動を変化させるために欠かせない」
そこで、同WGではEnhanlaboからメガネ型ウェアラブル端末「b.g(ビージー)」を提供。「b.g」を装着すると、映像が映ったディスプレイを、実風景に重ねてわずかな視線移動で見ることができるため、作業をハンズフリーで行うことが可能になる。
さらに、同WGでは「b.g」と連携する他のセンサーデバイスやアプリケーションを開発する企業や、実証実験の場を提供する企業とエコシステムをつくり、活動を行っている。今期のターゲットは、高圧ガス(LPGや産業ガス)の納入を行うエネルギー関連企業だ。
高圧ガスの納入は、高度な知識と経験を必要とする業務である。タンクローリーを運転し、納入先の現場に停車する。すると、眼の前には大きなガスのタンクがあり、複雑なガスの配管とバルブが張り巡らされている。手順を間違えれば大事故につながりかねない。そうした現場では、「負のループによる人不足」が起きていると座安氏は述べる。
「高圧ガスの納入は危険度の高い業務であるため、安全のために企業としてはベテランだけを配置するようになる。すると、ますます属人化が進み、ノウハウが蓄積されない。そのため、教育はベテランがOJTで行うが、新たに教育を受ける人材が今は不足している状況だ」(座安氏)
また、高圧ガスの納入においては、たとえベテランであってもマニュアルは不可欠である。なぜなら、産業ガスの受け入れ設備(タンク)は国内に数千本あり、製造年月日やメーカーによりバルブの配置や数が異なるため、ドライバーがすべて覚えることは不可能。しかも、高圧ガスの納入の場合は雨天の場合でも行われるため、マニュアルを見ながらの作業は困難をきわめる。
そうした課題を解決するため、同WGではウェアラブルを活用し、ハンズフリーで作業ノウハウを共有・伝承できるしくみの構築を目指した。具体的には、作業者は「b.g」の他、ヘルメットにカメラを装着。ガスのタンクに電子タグを貼りつけ、それをカメラで読み取ると、注文の内容と一致した場合にのみ個別のマニュアルが「b.g」のディスプレイに表示されるしくみになっている。
現場の状況はカメラを通して中央監視室の担当者と共有され、音声によるコミュニケーションが可能。伝票の入力も音声で行う。また、マニュアルは「〇〇ヨシ!」という呼称を音声認識し、次の作業へ自動で移行するしくみだ。
実証実験は順調に進みつつあるが、課題もあるという。たとえば、「間違ったバルブを回した場合にアラートが鳴るしくみが必要」(座安氏)。また、現場は騒音が大きく中央監視室からの声が聴こえにくいため、「話しかけますよ」という合図を行う工夫なども必要だという。いずれの課題においても、同WGのパートナーと連携を強化して進めていきたいという。
今回の取り組みの重要性について、座安氏は次のように語った。
「すべての設備をゼロベースでつくれば、完全自動化の設備をつくれる。しかし、それは現実的ではない。企業の収益を支えているのは、既存の設備の部分だ。そうしたレガシーの部分に対して、どうメンテナンスを行い、オペレーションを確立していくかが企業にとって大きな課題だ」
【オフィスIoT】海の家でIoTデータ収集のテストベッドを構築
「オフィスIoT WG」では今期、「海の家」(※)の屋内/屋外にセンサーを張り巡らせ、IoTデータ収集のテストベッド構築を行った(20社、33名で活動)。
オフィスIoTなのに海の家、というのは大変ユニークな取り組みだが、これは前回のレポートの「FoodTech WG」とも関わるテーマであり、複数のWGが互いに連携しながら「課題解決」のために柔軟に活動を進めていく点はIoTコミュニティフォーラムの特徴でもある。なお、当然、海の家で構築したテストベッドは汎用的なしくみとして、オフィスなどの用途へも展開されていくことが想定されている。
今回の取り組みでは、海の家の「ありとあらゆるところ」にセンサーを設置。温湿度がわかる環境センサー(オムロン株式会社が提供)を厨房などに設置するだけでなく、10名の店舗スタッフに「MEDiTAG」(ホシデン株式会社が提供)をつけ、位置情報やストレス、血圧、転倒検知など様々なヒトのデータを取得した。それらの環境やヒトのデータに、店舗の売上データをかけあわせ、分析も実施。実証実験は今年の8月4日に行われた。
「現場」では予期せぬ様々なことが起こりうる。センサーを設置すればすぐにデータを取得し、分析できると思ったら大間違いだ。そこで、今回のテストベッドでは「ありとあらゆるところ」に設置したセンサーの位置や条件について詳細な検証を実施。そこで得られた知見について、同WGのリーダーを務めるM-SOLUTIONS株式会社の植草学氏(冒頭写真・中央)が一つ一つ解説した。
たとえば、厨房のフライヤーの周辺は明らかに人の体感温度は高い。しかし、当初に設置したセンサーのデータを見ると、予想よりも低い温度だった。原因を調べると、その位置だとフライヤーで発生する熱が棚で遮蔽されるとともに、通気性がよいため温度が上がらないことがわかった。そこで、ヒトの体感温度に近い位置にセンサーを設置しなおすなどの対応がなされた。こうした細かなノウハウがIoTデータ収集においては重要となるのだ。
また、「MEDiTAG」を使ったストレスの分析については、「興味深いことに、1日の営業で2回ストレスが高くなるタイミングがスタッフに共通してあることがわかった。また、位置情報などのデータとも組み合わせ、ストレスが高くなる位置やタイミングの分析が行えることもわかり、このノウハウはオフィスなどにも活かせる」と植草氏は述べた。
なお、同WGでは以上の知見を実ビジネスへと幅広く展開するため、定期的にセミナーを実施。「協創」の取り組みを積極的に進めている。
※「SkyDream Shonan Beach Lounge」(株式会社セカンドファクトリーが運営)
【災害対策】各社のソリューションを結集して公募案件を受注
「災害対策WGの活動方針は『案件受注』だ」。同WGのリーダーを務める三井共同建設コンサルタント株式会社の弘中真央氏(冒頭写真・右)は冒頭でこう述べた。
同WGに参加する企業(7社1大学で活動)がそれぞれで公募案件などにアプライし、まずは案件を受注する。その際に用いるソリューションは各社で既存のものを持ち寄り、まずはスピード感を持って実績をつくることを目指している。
第1弾の成果として、今期は徳島県美波町の水害対策ソリューションを受注。以前に、同WGの参加企業である株式会社SkeedがPoCを実施していたことが背景にある。その成果をもとに、Skeedが徳島県の公募案件に参加したところ、受注に成功。ソリューションは同WGの各社のサービスを持ち寄ることで実現した(下の画像)。
具体的には、Skeedの水位/温度センサーを、水害が想定される田圃への用水路やため池などに設置。さらにSkeedの通信ネットワーク、ウフルのクラウド、アステリアの「Platio」を使って「人出不足の中、少人数でも管理できる」という美波町のニーズに対応したソリューションを構築した。
もう一つ、進行中の取り組みが傾斜センサーを活用した地滑り対策のソリューションである。この現場は三井共同建設コンサルタントの既存業務先であったことが背景だ。本件も美波町の例と同様に、各社のソリューションを持ち寄り、現在、PoCを進めている最中だ。「課題はある。現場の事務所にゲートウェイを置いても電波が届かず、自分たちでソーラーパネルを付けて動かすなど、試行錯誤を続けている」(弘中氏)
一方、「継続的にWGの活動を行うためには、各社が案件を受注してPoCを進めていくだけではなく、WG全体で案件を取り、新たなソリューションを構築していくことも必要だ」と弘中氏は述べる。そこで、上述の取り組みで培ったノウハウを活かしながら、新たな公募案件にチャレンジ。ターゲットに選んだのが、「広島サンドボックス」の3年間で10億円という大規模な公募案件である。
土砂災害と避難誘導ソリューションというテーマで、同WGの参加企業だけではなく、他の企業や研究機関を巻き込んで応募した(2研究機関、1行政、10社)。残念ながら受注はできなかったが、得られた成果もあるという。「今回、協業を行った13機関の中で、他の取り組みを一緒にやろうという話も進んでいる」(弘中氏)。
また、弘中氏によると、これまで三井共同建設コンサルタント単独では、IoTの取り組みを進めるような機会は少なかった。しかし、「自ら働きかければ、他社を巻き込んで新しい取り組みにチャレンジできることがわかった」と述べている。
「災害対策WG」は来期から「地域創生WG」へ名称を変更するという。「災害だけにこだわっていてはもったいない。もっと色々なことができる企業がWGにはそろっている」からだという。来年1月には新たな公募案件があり、早速チャレンジしていく予定だ。
【関連リンク】
・IoTパートナーコミュニティ

