日本の物流倉庫や工場に約100万台あるといわれるフォークリフト。三井物産エレクトロニクス株式会社(以下、MBEL)は、IoT技術でフォークリフトの安全と稼働状況を遠隔で監視する「FORKERS(フォーカーズ)」を展開し、昨年その第1弾として、無線LAN環境で利用できるサービスをリリースした。
そして本年9月より、新たに「LTEモデル」を正式発売した。初期費用は無線LANモデルの198,000円に対し、LTEモデルは128,000円で、月額3,500円(LTE通信費込み)で提供。3年間で「LTEモデル」16,000台の導入を目指す。
また、FORKERSの派生製品として、大型フォークリフト用の安全監視ソリューション「FORKERS EYE バリア」とフォークリフトの爪が荷物を破損しないよう手元のモニターで爪先を確認できるソリューション「FORKERS EYEイーグル」もリリースし、「FORKERSシリーズ」としての拡充を進める。
このほど、FORKERSシリーズの詳細について、MBEL ソリューション事業本部 事業本部長/FORKERS 総合プロデューサー 丸恒樹氏に聞いた(聞き手:株式会社アールジーン代表取締役/IoTNEWS代表 小泉耕二)。
なお、FORKERS立ち上げ時に同社に行ったインタビュー記事はこちら。
初期費用が大幅に下がったLTEモデル
「FORKERS(フォーカーズ)」では、センサーとカメラを搭載した車載機をフォークリフトに設置する。センサーは、急発進/急停車/急旋回などの「危険運転」を検知。その際、その前後10秒、計20秒の動画がセンサーデータと共にクラウドにアップロードされ、管理者のPCやスマートフォンで遠隔監視が可能となる。管理者はそのデータをもとに、オペレーターへの注意喚起と安全運転の指導を行うことができる。
また、RFIDを搭載したカードをフォークリフトの車載機にかざすことで、運転する個人を特定できるため、オペレータ―(運転者)ごとの運転状況を確認し、管理することができる。
三井物産エレクトロニクス(以下、MBEL)が「FORKERS」を立ち上げた背景について、丸氏は次のように語る。
「フォークリフトの作業現場では、毎年2,000件弱の人身事故(労働災害)が発生しており、その内30名近くの方が命を落としています。フォークリフトを安全にお使い頂きたいというのが我々の思いであり、FORKERSの最も重要なミッションです」(丸氏)
そこで昨年、企業の安全性と生産性の向上のため、FORKERSの無線LANモデルをローンチした。しかしその後、新たな課題が見えてきたという。
「フォークリフトはかなり動き回ります。加えて、物流企業の倉庫というのは天井が高かったり、防火壁があったりして無線LANの設置費用が高額になることがあります。たとえばフォークリフトを50台持つ倉庫の規模だと、無線LAN端末を設置するだけで1,000万円以上掛かってしまうこともありました」(丸氏)
そこで今回、LTEモデルをリリースした。これにより、車載機を取り付ければすぐにFORKERSのサービスが利用できる。
注目すべきは、その料金設定だ。従来の無線LANモデルでは、初期費用の198,000円(フォークリフト1台あたり)に加えて、無線LANの設置費用も別途必要だった。それがLTEモデルになると、フォークリフト1台あたりの初期費用は128,000円に下がり、月額3,500円(LTE通信費込み)で利用できる。
LTEモデルのコストメリットについて、丸氏は次のように説明する。
「企業の安全担当の方は、皆さんFORKERSのような安全ソリューションを導入したいのですが、社内を説得できない、あるいは費用対効果をうまく説明できないという方がいらっしゃいました。そういう方々のためにFORKERSの費用対効果を次のように説明しています。
まず、初期費用128,000円に工事費用21,500円を足すと、149,500円です。これを5年で償却する場合、月当たりの償却費用は2,492円となります。これに月額の使用料3,500円を加えた5,992円がFORKERSの月当たりの費用となります。ちなみに、1日に換算すると200円です。これがFORKERSにかかる費用となります。
効果については、まずは事故予防です。先ほどフォークリフトの事故が多いというお話をしましたが、現場で労働災害が一回起こると、直接損害だけでも数千万円クラスの損失になります。それに加え、お客様の荷物を破損して信頼を失うとなると、事故による企業へのダメージはきわめて大きいのです。
二つ目として、車両の削減効果があります。FORKERSの車両グループの稼働状況を見ると、稼働率の低い車両を一目瞭然で把握することができます。
その結果、例えば2.5トンのフォークリフト1台を削減出できたとすると、フォークリフト1台分250万円ほどが節約できたことになります。お客様の中にはFORKERS導入効果として、これを目標とされる方もいらっしゃいます。
三つ目はレポート作成人件費の削減効果です。FORKERSではフォークリフトの稼働情報はすべて自動報告されますが、これを人が行うとなると相当な人件費がかかります。
とあるディーラーさんに聞くと、フォークリフト1台のレポートを作成するとなると、1日仕事になるそうです。例えば、フォークリフト20台を使っている職場でフォークリフトのレポートを作成しろと言ったら、20日かかるわけですが、FORKERSでは月12万円ですみますが、人が作成するとなるとそれにかかる人件費は、それではすまないでしょう。
また、人件費もさることながら、フォークリフトの稼働のレポートを作成するというのは『仕事』というよりもいわば『作業』となってしまうと思うので、やらされる社員のモチベーションも上がりません。
以上、三つがFORKERS導入により得られる効果となります」(丸氏)
次ページ:LTEモデルの新機能とドラレコとの比較
LTEモデルの新機能とドラレコとの比較
LTEモデルの発売開始にあわせて、「FORKERS」には動画アップロード機能と動画呼び出し機能が追加された。
前回のモデルでは、センサーが「危険運転」を検知した場合のみ、その前後の動画がクラウドに自動アップロードされる仕様になっていた。
この機能に加え、LTEモデルでは、オペレータ―自らが車載器に接続されている動画アップロード用機器の「アップロードボタン」を押すことにより、その前後10秒、計20秒の動画をアップロードできる機能や(動画アップロード機能)、管理者が任意の時間の動画をクラウドから呼び出す機能も加わった(動画呼び出し機能)。
今回のLTEモデルの発表に合わせ、FORKERSとドライブレコーダー(ドラレコ)の違いを示したのが上の表だ。丸氏は次のように説明する。
「最初の三つはドラレコには付いておらずFORKERSだけの機能です。ドラレコは、フォークリフトごとの動画は取得できますが、オペレーターの認識はしていないのでオペレーターごとのデータ集計、管理はできません。
また当然ながら、FORKERSのようなクラウド経由の全自動報告機能や、車両管理・保守メンテの機能もついていません。車両管理・保守メンテ機能は、例えば、フォークリフトの『爪』(荷物を持ち上げる部分)の長さをどれだけ変更したかなど、従来、お客様がエクセルを使って個別に管理していた車両・車種データを、FORKERSに登録し一元管理することもできますし、保守・メンテナンス情報をFORKERSに入力しておけば、次の保守メンテの日が近づいてきた時に、自動的に通知が届くようになっております。
『閾値設定』機能とは何かというと、FORKERSの場合、導入時にお客様と一緒にどのような運転を危険な運転とみなすかというセンサーの閾値を設定することが可能です。
この機能は、一部のドラレコには付いていないという認識なのでドラレコの方は△とさせて頂きました。FORKERSの場合は、導入時にお客様と一緒に設定させて頂いた後、クラウド経由で一度設定した閾値を変更することも可能です。
もう一つ重要なのは『バンプ』(地面の段差や凸凹)の誤検知を取り除く機能です。バンプによる『ガタンッ』といった縦方向の揺れを危険運転と誤認識してしまうと、オペレーターの危険運転に対する意識が低下してしまいます。FORKERSでは、バンプを危険運転として誤検知しないような工夫が盛り込まれています。
安全性の向上については、ドラレコの場合、導入時は頻繁にSDカードを取りだし、オペレーターの運転のチェックを行うものの、暫くするとSDカードを取ってくるという作業が大変なため、動画を確認しなくなってしまうという話をよく聞きます。
FORKERSの場合、すべてのデータが自動報告されていつでも確認が可能ですので、より管理者に対する負荷が少なく続けられるというメリットあります。ですので、これもFORKERSの方に軍配を上げさせて頂きました。
次の普段の運転のチェックは、SDカードのドラレコの用途として、『指差し確認をきちんとしているか』、『肘をついて運転してないか』など普段のオペレーターの運転を見たいというニーズがありました。
FORKERSは、危険運転をした時に初めて動画が配信されるという仕様となっておりましたので、この用途には適さないと言われていたのですが、このほど、月に10分だったら10分と指定しておけばオペレーターの普段の運転の様子を撮った動画が自動的にFORKERSに報告されている機能を付けることとしました。
この機能が追加されることにより、管理者はSDカードを取りに行くことなく、モニターの画面上の動画アイコンをクリックするだけで、すぐに動画を見ることができるようになります。ですので、これも今は×ですが近い将来◎になるという評価をつけさせて頂きました。
最後にコストですが、これはドラレコの方が月額の使用料がかからないので安いことは変わりませんが、FORKERSも前機種の198,000円から128,000円とだいぶお求めやすくなったのと、車載機以外に無線LAN設置費用等の余分なコストがかからなくなっておりますので、控えめではありますが〇とさせて頂きました」(丸氏)
来年のロードマップとして、LTEモデルのオプション機能として、バッテリーフォークリフトのバッテリー寿命を把握し、さらにその寿命をのばすためのソリューション「ボルトマスターズ」を計画しており、これを付けるとフォークリフトのバッテリーを延ばすことができ、さらに費用対効果の説明がしやすくなるという。
FORKERS新サービス、「バリア」と「イーグル」
「FORKERS EYE バリア」(以下、バリア)は、大型フォークリフト(15トン以上のフォークリフト)向けの、安全性向上のためのソリューションだ。車体の前後左右にカメラと超音波センサーを搭載。カメラは、AIを活用した画像認識技術により、ヒトだけを自動検知する。
3メートルより外側でヒトを検知した場合には、緑色のフレームをモニターに表示。3メートル以内に侵入すると、赤色のフレームを表示する。
なお、この時、運転席内の四方に設置したブザーの中から、ヒトを検知した方向のブザーだけが鳴るしくみであり、どの方向にヒトがいるかが、「直感的」にわかるようになっている。
一方、超音波センサーは、3メートル以内に障害物を検知すると、同じようにブザーで警報を発し、モニター上には目の前の実風景の他に、車両と障害物との位置関係がわかるよう上から俯瞰したような画面も表示される。
「バリアは既に一部のお客様にご利用いただいています。好評を頂いている機能の一つが、検知した方向のブザーが鳴るシステムです。大型の場合だと、どの方向に危険があるのかわかりにくいからです。
大型フォークリフトは全国に3,000台ほどあるそうですが、今のところ、このように大型に特化して全てのメーカーの全ての機種にアフターで搭載可能な安全サービスは、我々しか持っていません。
きっかけは、大型車両をもっと安全に使いたいという現場の強いニーズがあったことです。FORKERSの紹介を通じて、そうした現場のニーズを私たちも把握できるようになってきました」(丸氏)
「FORKERS EYEイーグル」(以下、イーグル)は、フォークリフトの爪の映像を手元のモニターで確認しながら作業することで、高積み倉庫での荷積み・荷降ろしを安全に行えるようサポートする製品だ。
高所に荷物がある場合、オペレーターは爪がどのような状態でパレットに入っていくのか、目視での確認が難しくなる。経験と勘で行うのが現場ではあたりまえになっているが、荷物の破損や事故の危険も多い。イーグルを使えば、安全性の向上が期待できる。
FORKERSシリーズについて丸氏は、「最新のフォークリフトでは、標準装備として遠隔監視のサービスが付いている場合もありますが、多くのお客様の現場では、複数のメーカーのフォークリフトが混在していますし、そうしたお客様に、メーカーや車種を問わずアフターで設置可能なFORKERSを是非、使ってもらいたい」と語る。
また、今後の構想について、「これはいまだ夢物語ではありますが、将来は動画として上がってくるオペレーターの普段の運転の様子も、いずれはヒトが確認するのではなく、AIが自動で検知し、規則を守っているかどうか自動報告できるようにできたらいいなと考えています」と述べている。
【関連リンク】
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