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「協創」でつくるIoTビジネス、第3回IoTパートナーコミュニティ レポート1 ―物流・IoT×AI・ヘルスケア

協創を通じ、IoTビジネスを推進する「IoTパートナーコミュニティ」(事務局:株式会社ウフル)は12月18日、9つのワーキンググループにおける1年の活動成果を共有する場「IoTパートナーコミュニティフォーラム」を開催した(場所:東京都港区「ザ・グランドホール」)。

3回目となる今回は、コミュニティに参画していない企業にも公開する初めての「オープン」なフォーラムとして開催。基調講演や協賛講演、ワーキンググループ(WG)の活動成果の報告が行われた。本稿では3回の記事に分け、9つのWGの発表の内容をダイジェストで紹介する。

参画企業は57社に拡大、9つのWGを「協創」で推進

2016年7月に発足した「IoTパートナーコミュニティ」の参画企業は、本年12月時点で57社。物流、IoT x AI、ヘルスケア、セキュリティ、ブロックチェーン、FoodTech、ウェアラブル活用、オフィスIoT、災害対策の合計9つのWG毎に活動を行っている(今回の発表順)。

「IoTパートナーコミュニティ」設立の目的について、冒頭に登壇した株式会社ウフル CIO(チーフ・イノベーション・オフィサー)兼IoTイノベーションセンター所長 エグゼクティブコンサルタントの八子知礼氏は次のように述べた。

「私たちが目指しているのは、アナログの世界とデジタルの世界を融合させるデジタルツインという新しい世界だ。昨今注目されているIoTとは、その際にアナログのデータをデジタルの世界へ吸い上げる手段である。このデジタルツインは一足飛びに実現できるものではなく、トライ&エラーの地道な努力が必要。その最初のステップが、PoC(概念実証)だ。しかし、このPoCがうまくいっている企業は少ないのが実態だ」

うまくいかない理由は様々あるが(下の画像)、「そもそも1社で実現できることではない」と八子氏は指摘。そこで、カギとなるのが「IoTパートナーコミュニティ」のコンセプトである「協創」の取り組みである。

「日本においてたった57社で9つのワーキンググループを運営し、成果を出しているコミュニティは他にない。各WGの運営リーダーが入会基準を定め、活動にコミットできる企業だけが参画できる。また、半年で成果を評価し、場合によっては退会してもらうこともある。情報共有ではなく、ビジネスを構築することが目的だ」

また、WGの発表会においては、「成功体験だけではなく、失敗体験も共有することが特徴」と八子氏は述べた。以降、9つのWGの発表内容について、ダイジェストで紹介していく。

第3回IoTパートナーコミュニティ
PoCを商用化に結び付ける際に重要な点。特に「評価と事業計画立案」のプロセスは「IoT闇のトンネル」と呼ばれ、そこで多くの企業が事業化を断念してしまうという。

次ページ:【物流】】PoCの末たどりついた先は、ヒトの利用シーンに着目する視点

【物流】PoCの末たどりついた先は、ヒトの利用シーンに着目する視点

初めに、「物流WG」の発表が行われた。昨年の物流WGのテーマは、「ドライバーと顧客(受取人)が共に満足できる物流のしくみ」を構築することだった。顧客が荷物を受け取りたいタイミングと、ドライバーが荷物を届けたいタイミングが一致すれば理想だが、IoTを使ってそのようなしくみを目指したのだ。

そこで、トラックにセンサーやGPSを搭載して「滞在時間」をデータ化。タブレットに入力した配送日報のデータと組み合わせ、ドライバーによって滞在時間にばらつきが起こる要因の分析を行うしくみをつくった。また、その分析の結果として、熟練ドライバーの配送ノウハウに依存しない新たなソリューションなどを考案した。

しかし、物流WGのリーダーを務める株式会社日立物流の櫻田崇治氏(冒頭写真・左)は、「課題が残った」と述べる。「配送の精度向上や効率化だけでは使えるソリューションにはならない。視点を変える必要があった」(櫻田氏)

物流WGの参加企業

そこで、今年からは他のWGとの連携も推進。その成果の一つが、「IoT×AI」WGと連携してつくった「フォークリフトのヒヤリハットをAIで分析する」というソリューションだ。これについては、次ページで紹介する。

一方、物流WGは単独でも、「移動販売」の課題解決という新たなテーマに取り組んだ。クルマが家の近くに来て日用品や食品を販売する移動販売は、住宅と店舗との距離が遠い過疎地などを中心に広がっている。しかし、移動販売には課題がある。顧客の立場からすると、移動販売のクルマがいつも来る場所に行ってもまだ来ていない、あるいはもう帰ってしまったということがある。

一方、ドライバーの課題については物流WGのメンバーが現場に赴きインタビューしたところ、「到着したら直接呼びに行くが、お年寄りの方は出てくるまでに時間がかかる」「(呼び出すために)スピーカーを使うとクレームになる」「集合住宅は1件ずつ電話している」「お年寄りが多いためメールやSNSは難しい」という声があった。

物流WGで構築した電話やスピーカーで到着を通知するシステムの構成

そこで、物流WGでは、移動販売のクルマが現地に到着することを自動で顧客に通知するしくみをつくろうと考え、PoCに取り組んだ。その際、昨年の反省も活かし、事業者の「売上」を向上させるというゴールにこだわり、「普段は使わないが、通知がくるなら使いたい」という潜在顧客を取り込むことで、売上を向上させることを狙いにした。具体的には、ドライバーが物理ボタンをおす、あるいはGPSと連動してトラックが特定のエリアに入る。そうすると、顧客の自宅に設置したスマートスピーカーに自動で通知を届けたり、自動音声の電話を行ったりできる。

プッシュ通知のしくみをつくるためStratasys Japanの3Dプリンターを使ってスマートスピーカーを自作するなど、着々と準備を進めていた。しかし、この実証実験は今年の9月に中止を余儀なくされてしまった。

何が起こるかわからない「現場」がフィールドであるIoTの事業化においては、どうしてもつきまとう問題だ。しかし、櫻田氏らは新たな視点に気づいた。

「こういう取り組みでは、システムを構築することに注目しがちだ(下の図の左側)。しかし、今回は通知を受け取るヒトに着目できたことに価値があった(下の図の右側)。そこで、今後は通知の手段においては既存のIoTソリューションと連携し、それらを利用シーンに合わせてコントロールできるような通知基盤を構築したい」(櫻田氏)

今回の物流WGの取り組みで構築した「通知基盤」は、既存のIoTソリューションと連携することで通知手段の選択肢を増やすことができる。

来期はこの「通知基盤」において「オフィスIoT」WGと連携し、実証実験を開始。また、物流WGにおいても新たなテーマを検討中だという。

次ページ:【IoT×AI】動画データ×AIで屋内フォークリフトの位置を特定

【IoT×AI】動画データ×AIで屋内フォークリフトの位置を特定

「IoT×AI WG」が今年取り組んだテーマは、物流倉庫における「動画を活用したヒヤリハット可視化ソリューション」だ。前述した物流WGとの連携により実現した取り組みである。

基盤となるしくみの一つは、三井物産エレクトロニクスが提供しているフォークリフトのIoTプラットフォーム「FORKERS」(※)だ。FORKERSでは、急発進・急停止・急旋回などの「危険運転」を加速度センサーで検知可能。さらには、その危険運転の前後30秒の動画を撮影し、クラウドに自動転送できるため、危険運転が起きた要因を分析できる。

しかし、倉庫内のどこでその「ヒアリハット」が起きたのか、位置を特定するしくみはなかった。事故が起きやすい場所をつきとめ、「死角がある」「荷物の置き方に問題がある」などの詳細がわかれば、さらに安全対策をつきつめていくことができる。GPSを使えば位置を特定できるが、物流倉庫は屋内のため使えない。そこで、同WGはこの問題を「動画データをAIに分析させる」ことで解決しようと考えた。

「IoT×AI」WGで構築したフォークリフトのヒアリハットが起こった位置を特定するシステムの構成

動画データを使う理由について、同WGのリーダーである株式会社オークファンの中村泰之氏(冒頭写真・中央)は「倉庫内は広く、センサーを取り付けようとするとその数は膨大になってしまう。できれば、安価で容易に実現できるソリューションにしたい。また、FORKERSのしくみにより、既に蓄積されたデータがあった。それらをどこまで使い倒せるかが重要だと考えた」と述べた。

ただ、動画だけでも「何となくこのあたり」という位置はヒトの眼でもわかるかもしれないが、倉庫内ではレイアウト変更もあり、そうした不確実性は排除しなければならない。そこで、中村氏らが考えたアイディアが、「倉庫内に座標がわかるタグを写りこませる」という方法だ。そうすれば、動画を見た時に、フォークリフトが倉庫内のどのあたりを走っているかを推定することができる。

実際に活用したのが、株式会社インフォファームが提供している「カメレオンコード」である。座標情報が組み込まれているこのカメレオンコードが写りこんだ動画データをAIで解析し、位置を算出するというのだ。

中村氏らは、10メートル間隔で立っている柱に、遠くからでも認識できるよう「1メートル×1メートル」の大きなコードを張り付けた。一方、フォークリフトには運転手の頭上にカメラが2つ搭載され、そこにコードが写りこむしくみとなっている。

カメレオンコードが写りこんだカメラの動画を解析している様子。

中村氏によると、今回のPoCを通して「紙のコードを柱に貼るだけなので検証が容易」「フォークリフトの位置だけでなく、向きもわかる」「コードは安価なため、数を増やすことで精度を向上できる」など、カメレオンコードのメリットを十分に確かめることができたという。

また、動画データを利用することにおいても、「GPSを使えない屋内環境において、既存の動画データだけで位置を割り出せることは大きなメリット。また、移動軌跡や移動速度も推定できるなど幅が広がる」と述べた。

一方、課題もあるという。2回目のPoCを行った際に、コードが認識されないというトラブルがあった。原因を調べてみると、フォークリフトに使われていたカメラが、画角の広い機種に変更されていた。画角が広いとコードや写りこむ範囲も広くなるものの、「歪み」が大きくなり認識率が下がってしまったのだ。

そこで、中村氏らはアプローチを変えた。これまではFORKERSの動画データを提供してもらい、画像処理を行っていた。しかし今後は、カメラの提供から画像処理まで一貫して行う「位置測定ソリューション」として提供していくこととしたのだ。「これにより、フォークリフトだけではなく、さまざまな動くモノに適用できる汎用的なソリューションとして展開できる。来期はユースケースを探っていきたい」と中村氏は展望を述べた。

「IoT×AI」WGの参加企業

※関連記事:フォークリフトのIoTプラットフォーム「FORKERS」、LTEモデルで本格始動 ―三井物産エレクトロニクス 丸氏インタビュー

次ページ:【ヘルスケア】RFIDで病院のサプライチェーンを全体最適

【ヘルスケア】RFIDで病院のサプライチェーンを全体最適

「ヘルスケアWG」の発表テーマは、「病院とメーカーをつなぐモノのプラットフォーム」だ。具体的には、病院の看護師が使用済みの医療材料の空箱を「IoTゴミ箱」に投函するだけで、使用実績のデータを自動収集できるというしくみである。医療材料の箱にはRFIDが貼付されており、それを「IoTゴミ箱」に内蔵されたアンテナが読み取ることで可能にする。来月から名大病院(名古屋大学医学部附属病院)にて実証実験を行うという。

「IoTゴミ箱」のイメージ

ヘルスケアWGのリーダーを務めるサトーヘルスケア株式会社の友澤洋史氏(冒頭写真・右)は、この取り組みを始めた背景として次の二つの点を説明した。

一つは、RFIDの普及についてである。RFIDの単価は2016年時点で16.5円、2013年の38.3円から大幅に下がっている(みずほ情報総研の資料)。また、経済産業省が昨年の4月に「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」を公表したこともあり、RFIDの価格はこれからも下がるだろうと友澤氏は説明した。また、今年の4月には医療機器メーカーにおいても標準化に向けたガイドラインが公表され、RFIDの病院での活用が進みつつある状況だという。

もう一つは、今、病院にとって「手術」に関わるサプライチェーンの全体最適が重要な課題となっているということだ。そこで、同WGでは病院の手術に関わるあらゆるデータを収集し、最適化するプラットフォームの構築に着手。「IoTゴミ箱」はその取り組みの一つとして位置づけられる。まずはリファレンスモデルをつくるため、stryker社の「インプラント」が入った箱にRFIDを貼付し、PoCを行う予定だ。

一方、インプラントなど医療材の使用実績を自動で収集することで、メーカーにとってはどのようなメリットがあるのだろうか。友澤氏は次のように説明する。

「メーカーの製品は卸業者を通じて病院へ届けられる。卸業者は大変な努力をして、自らが持っている在庫とメーカーの在庫のバランスを見ながら、必要な機材を取り揃えている。しかし、メーカーからすると、自社のどの製品がどれくらい病院に納品されているのかはわからない。そこで、今回のデータ収集のプラットフォームを使うことで、メーカーとして流通在庫の管理につながる」(友澤氏)

プラットフォームをつくることで変わる、「病院」・「医師・患者」・「メーカー」・「卸」の関係

病院からすると、1回の手術で膨大な数の機材をあつかうため、実績の管理が大変だという。さらに、その機材の納品の際には、立ち会いも必要である。「看護師の本来の仕事は患者を診てあげることだが、今はそうではない作業に追われている。その部分を、私たちのプラットフォームがお手伝いできると考えている」(友澤氏)

また、同プラットフォームではクラウドを用いる。そのメリットについて、「複数の病院のデータを使ってベンチマークをつくり、たとえばAとBの病院を比較してコンサルティングを行うといったことができる」と友澤氏は述べた。

今回のプロジェクトについては、来年の4月に開催される医学会総会で発表する予定だという。その時までに他の病院での実証実験も完了し、来年の10月からはエコシステムをつくるパートナー募集を開始する予定だ。

最後に友澤氏は、「今回の取り組みは、パートナーの知見をフル動員して実現した。しかも、皆が病院という現場の課題を理解していたことが大きかった。IoTは1社ではできないとよく言われるが、この半年で実感した」と語った。

「ヘルスケア」WGの参加企業

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