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「新たな顧客接点」としてのラストワンマイルへの取り組み―SORACOM Discovery 2019レポート4、ダイハツ・日本郵便・電通登壇

ソラコム、グローバルプラットフォーマーへ ーSORACOM Discovery2019レポート1

2019年7月2日に品川で開催された「SORACOM Discovery 2019」内にて「IoTがつなぐ、ラストワンマイルへの挑戦」と題された講演が開かれ、ダイハツ・日本郵便・電通の三社がパネリストとして登壇した。

本稿ではダイハツ、日本郵便のラストワンマイルへの具体的取り組みと、講演後半に行われたディスカッションの模様を紹介する。

新たな顧客接点としてのラストワンマイル

講演では、まずモデレーターを務めるStill Day One合同会社・小島英揮氏より、テーマであるラストワンマイルの定義が解説された。

モデレーターを務めるStill Day One合同会社 小島英揮氏

物流業界などで言われるラストワンマイルとは、ネットワークやモノをエンドユーザーに届ける最後のプロセスを意味する。今回の講演では「新しい価値創造を実現するための、新しい顧客接点」という観点からラストワンマイルを捉え直し、考察を進めると小島氏は語った。

その上で、来場者にはビジネスにおけるラストワンマイルとは何かを知ってもらい、自社のビジネスに活用できるロールモデルをパネリストの中から見つけ出してもらうのが、講演の目的だという。

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ダイハツの取り組み

講演の前半では、パネリスト3名が各社のラストワンマイルに関する取り組みについて発表した。

最初に発表したのは、ダイハツ・くらしとクルマの研究所所長の生駒勝啓氏。生駒氏は売り手と顧客をつなげる位置特定技術について説明した。

ダイハツ・くらしとクルマの研究所所長 生駒勝啓氏

営業マンと顧客の間にある感情のギャップ

まず車の購入から顧客の元へ納車するまでの過程における課題についての話があった。

生駒氏によれば、その課題は、「営業マンと顧客の間に生じる、相手に対する関心の変化」なのだという。

営業マンの相手に対する関心が一番高いのは契約の完了までであり、契約後は顧客に対する関心は低下していくという。一方、顧客側の購入した車に対する関心は、契約後にどんどん高まっていくもの。ここで営業マンと顧客の間における感情のギャップができてしまう、という。

このギャップについて、従来は納車までのリードタイムを短くすれば良い、という考え方が普通だったという。しかし、そうした考え方を変え、リアルタイムで納車までの過程を顧客に開示することで感情のギャップを埋めることはできないか、と述べた。

GNSSを使った顧客とのコミュニケーション

上記に対する取り組みとしてダイハツ・生駒氏が紹介したのが、全地球航法衛星システム(Global Navigation Satellite System=GNSS)を使った、車の自動搬送システムだ。

GNSSとは人工衛星から発する信号を用いて位置情報を特定するシステムのこと。対応受信機を車に搭載すれば、車両の位置情報などを遠隔で管理することができるという。

ダイハツではこのGNSSを用いた新車の無人搬送システムを検討しているという。顧客はスマートフォンを介して、自分が購入した車が現在、どのような状態にあるのかをリアルタイムで把握することができると、述べた。

講演ではダイハツの九州中津工場での、無人搬送車の実証実験の模様が紹介された。

無人搬送車の実証実験の模様

生駒氏によれば「GNSSによって、車を売った側とお客様が最後の最後までとつながることができる」とのことだ。

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日本郵便の取り組み

続いて発表したのは、日本郵便・オペレーション改革部長の五味儀裕氏だ。五味氏からは、IoTを利用した郵便・物流オペレーションの可視化について説明があった。

本郵便・オペレーション改革部長 五味儀裕氏

手作業がベースの郵便事業

1日当たり約6,100通の郵便物を取り扱う日本郵便は、まさにラストワンマイルそのものを生業とする企業である。

しかしメールその他の通信手段の普及により、郵便物の引受数が10年間で20%近く落ち込むなど、郵便事業はダウントレンドに陥っているという。

一方で郵便事業では未だに手作業がベースのところが多く、人件費は大きなコストになっているという。

郵便・物流オペレーションの可視化

上記のような問題を踏まえた上で、五味氏は日本郵便が取り組む郵便・物流オペレーションの可視化について説明した。

郵便・物流オペレーションの可視化例

講演で具体的な取り組みとして紹介されたのは、物流拠点の混雑状況の可視化。局内にカメラを設置し、集出荷物の置かれている状態を把握してグラフ化、現在の局内の混雑状況を判断できるという。

「人件費がコストとしてかかる中で、物流を可視化することで業務の効率化や利便性の向上を図っていきたい」と述べた。

最後に電通ビジネス共創ユニットのシニア・プランニング・ディレクターであり、IoT NEWS生活環境創造室長でもある吉田健太郎氏よりIoT時代の消費者とのコミュニケーションについて説明があった。

「IoT時代には、消費者に向けて情報と体験を一体化させて届けることが必要」と吉田氏は述べた。

電通ビジネス共創ユニットのシニア・プランニング・ディレクター/IoT NEWS生活環境創造室長 吉田健太郎氏

次ページは、「ラストワンマイルのイメージとテクノロジーについて

ラストワンマイルに関するディスカッション

パネリスト三社の発表に続き、講演後半ではモデレーターの小島英揮氏が議題を振りながらのディスカッションが開かれた。その中でも特に印象的なやり取りを紹介する。

ラストワンマイルのイメージをどう共有するか

1つ目の議題は「企業内で、ラストワンマイルのイメージをどう共有し、利害調整しているか」。

ディスカッションの模様

これに対しダイハツ・生駒氏は、「自分たちの業務が逐一チェックされているようでやりづらいなど、社内ではまだ否定的な意見が多い。実際の顧客と体験を共有し、顧客の声を広げることで肯定的な意見を増やしていきたい」と答えた。

日本郵便・五味儀裕氏も「従業員を監視する目的があるのではないか、という現場からのネガティブな反応がある」と述べた上で、「現場の方の安全を守る効果もあります、と技術を導入するメリットをきちんと伝えていくことが必要だ」と今後の対策について語った。

ラストワンマイル実現に必要なテクノロジーとは

2番目の議題は「ラストワンマイルの実現に必要なテクノロジーは何か」というもの。

ダイハツ・生駒氏の答えは「自動運転」。単純化されたルートについては自動運転を導入し、車を顧客に届ける流れの中で無人化できる部分は進めて省力化をしたい、という。

日本郵便・五味氏も、例えば郵便物運搬をロボティクス化するなど、人が行う作業を省力化する技術の導入について述べた。また、郵便局への問い合わせ対応についても、AIによる電話対応の導入などを検討していきたいという。

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