サイトアイコン IoTNEWS

初出展のコマツ、無人運転や5G遠隔操作で変わる建設現場の未来 —CEATEC JAPAN 2018レポート4

コマツの「スマートコンストラクション」は、無人運転と遠隔操作で進化する —CEATEC JAPAN 2018レポート3

建設機械メーカーのコマツは、幕張メッセで開催されたCPS/IoTの総合展「CEATEC JAPAN 2018」(10月16日~19日)に初出展し、自動運転の油圧ショベルとクローラダンプを紹介するとともに、第5世代移動通信システム「5G」によるブルドーザーの遠隔操作のデモンストレーションを披露した。


「眼」がついた油圧ショベルとクローラダンプ

(左)新型のクローラダンプは、ZMPのステレオカメラと自動運転システムによって作業者を認知する(右・上)自動運転の油圧ショベルにはAIによる「眼」と地形計測技術が搭載され、無人での運転・施工が可能になった(右・下)クローラダンプにはZMPの自動運転技術が使われている。計画した走行経路に従って走行する他、油圧ショベルとの協調も可能。

コマツはこのほど、自動運転の油圧ショベルを開発した。同社がこれまで提供してきたICT建機にも「自動」の機能はあった。しかし、それは主に施工の精度を上げる意味での自動化だった。

コマツのICT建機にはGNSS(グローバル衛星測位システム)のアンテナが搭載されているため、その建機が地球上のどこにあるのかを特定できる。その位置情報と3Dの地形データ、油圧シリンダに搭載されたセンサーを連動させることで、±3 cmの精度で建機を自動制御することが可能だった。

今回の新しい油圧ショベルは、新たにAIの画像認識技術を用いることで、現場の状況を認識できる「眼」がついたことになる。

その「眼」により周囲にいるヒトやモノを認識し、さらに3DLiDARを用いた地形計測の技術と組み合わせることで、土砂の掘削や積み込み、旋回など一連の建機の動作を自動で行うことができ、無人運転が実現する。

ハードウェアにはNVIDIAのAIコンピュータ「JETSON TX2i」と「Jetson AGX Xavier」を搭載。ソフトウェアにはAIベンチャーABEJAのプラットフォームが使われている。

コマツの油圧ショベルに搭載される、NVIDIAのAIコンピュータ「JETSON TX2i」(左)と「Jetson AGX Xavier」(右)。

一方、クローラダンプには、自動運転ベンチャーのZMPの技術が使われている。「眼」の役割を担うステレオカメラによって作業者を認識し、ヒトが接近した場合には自動停止する。また、GNSSアンテナによって地形に対するダンプの位置を特定できるため、計画した走行経路に基づき、土砂を指定された場所に運搬することができる。

この油圧ショベルとクローラダンプは、互いに協調した作業もできる。幕張の展示会場から8 km離れた「コマツIoTセンタ東京」(千葉県千葉市美浜区)では、「協調作業」のデモンストレーションが行われ、会場の大スクリーンからリアルタイムでその様子を見ることができた。

クローラダンプは無人で走行し、油圧ショベルの前で待機。その状態を検知した油圧ショベルは周囲の土を掘削してダンプに積み込む。ダンプの土が満杯になったら油圧ショベルは自動で停止し、クローラダンプが走り出すという一連の作業を行った。

コマツは実現場における自動運転の油圧ショベルとクローラダンプの実証実験を2019年より開始する予定だ。

次ページ:5Gで無人ブルドーザーを遠隔操作

5Gで無人ブルドーザーを遠隔操作

5G通信で8 km離れた場所にあるブルドーザーを遠隔操作している様子

コマツは、高速・大容量・低遅延の特徴を持つ5Gのモバイルネットワークと光回線と利用した無人ブルドーザーの遠隔操作のデモンストレーションを披露した。

前述の油圧ショベルとクローラダンプと同じく、8 km離れた「コマツIoTセンタ東京」にある無人ブルドーザーを、展示会場に設置されたコクピットから遠隔操作した(上の画像)。

オペレータの前にある複数のモニターには、ブルドーザーに搭載された4つのカメラで撮影した車両前後と左右のブレード、その施工する地形の3Dグラフィック画像などが表示されている。

また、車両の前後左右にある4つのカメラ映像を合成し、ブルドーザーを上方から360度俯瞰できる「フライングビュー」のモニター画面も表示。ほぼ死角のない自由視点での遠隔モニタリングが可能となっている。

5Gのネットワーク技術はNTTドコモが提供している。「フライングビュー」はOKIが新たに開発し、今年の5月にNTTドコモと共同で実証に成功していた技術だ。

カヤックと共同開発、AR/VRソリューション

コマツとカヤックが共同開発した「ランドレポート」の「現場メモ」機能を体験した様子。コマツの展示会場の各ブースの前で専用のスマートフォンをかざすと、水色のARアイコンが登場する(左)。それをスマートフォン上でタップすると、自分やブースの位置を示す地図画面と、タップしたブースの説明内容が表示される(右)。

また、コマツはカヤックと共同開発中のソリューションを2つ紹介した。

一つは、ARと位置情報を組み合わせたスマートフォンアプリ「ランドレポート」だ。スマートフォンのカメラから見える現場空間に、ヒトの位置や作業の進捗状況をARで重ねて表示し、情報を共有することができる。

会場では「現場メモ」という機能を体験することができた。コマツの展示会場にある各ブースの前で専用のスマートフォンをかざすと、水色のARアイコンが登場する。それをスマートフォン上でタップすると、自分の立っている位置や各ブースの位置を示す地図画面と、タップしたブースの説明内容が表示される。

また、このアプリには各現場ごとにチャットを行える機能があるため、現場ごとに大事な記録を残したり、他の作業者とリアルタイムで情報共有をしたりできる。

(左)コマツのブース内で来展者が「ホロジオラマ」を体験している様子(右)「ホロジオラマ」の紹介

もう一つは、VRソリューション「ホロジオラマ」だ。

「ホロジオラマ」は、ドローンで測量して得た地形データから現場と同じ環境を仮想空間に再現し、それをVRゴーグルを用いて見ることが可能。その場にいるような感覚で現場を確認・管理できるとともに、仮想空間上で地形データ(ジオラマ)を共有しながらディスカッションや会議を行うこともできる。

次ページ:「スマートコンストラクション」は次のフェーズへ

「スマートコンストラクション」は次のフェーズへ

コマツが推進する「スマートコンストラクション」は、建設現場に携わるヒト・モノ(機械、土など)に関するさまざまな情報をIoTによってデジタル空間に再現し、最適化することで建設現場の安全・生産性を向上させるソリューションだ。

本稿で紹介してきた自動運転の建機やAR/VRのソリューションはすべて、この「スマートコントラクション」の一環となる。特に、自動運転が「スマートコントラクション」にもたらす影響は大きい。

コマツはかつて世界に先駆けてICT建機を市場投入したが、それは結果として部分最適だという一面もあったそうだ(※)。たとえば、ICT建機によって盛土の生産性を上げても、ダンプ不足の問題からその前の工程である「運土」がボトルネックになっているため、ICT建機の効果が十分に得られなかったのだ。

※関連記事:進化を続けるコマツの「スマートコンストラクション」 —ABEJA「SIX 2018」

そして、コマツは2015年に「スマートコンストラクション」を始動。IoTやAI、ドローン測量などの技術を駆使し、建設現場に全体最適をもたらすソリューションを次々と展開してきた。昨年にはNTTドコモ、SAP、オプティムと4社で「株式会社ランドログ」を設立。「スマートコンストラクション」の「データ収集基盤」と「アプリケーション」の2層を切り分け、「データ収集基盤」をオープン・プラットフォーム「LANDLOG」として展開した。

そして今回、ICT建機の進化版である無人運転の建機が登場することとなった。これにより、開始から3年経った「スマートコンストラクション」も次のフェーズへ移行していくことだろう。

コマツは展示会場で行ったプレゼンテーションにて、無人建機の遠隔操作が可能になることで、「遠隔オペレータ」なる新しい仕事が生まれるとした。

展示会場で披露された動画では、自宅にいる「遠隔オペレータ」がPCを通じて施工依頼の連絡を受け取り、「ACCEPT」した上で、遠隔操作を始めるというコンセプトが紹介された。そこで起きているのは、「遠隔オペレータ」という仕事のシェアリングである。

「スマートコンストラクション」は現場の働き方を変えていくだけではなく、こうした新しい仕事も生み出していくのだ。

モバイルバージョンを終了