進化を続けるコマツの「スマートコンストラクション」 —ABEJA「SIX 2018」

AIベンチャーの株式会社ABEJAは、2018年2月22日、東京都内でAIカンファレンス「SIX 2018」を開催した。そこでは、AIの実装に取り組むさまざまな産業・業界の企業が登壇し、最新の事例が紹介された。

当記事では、コマツ執行役員 スマートコンストラクション推進本部 本部長 四家千佳史 氏(トップ写真)の講演の内容をレポートする。

コマツは、デジタルの力を駆使して建設生産プロセスの”全体”を見える化し、その最適化を実現する「スマートコンストラクション」を展開している。その取り組みはいま、どこまで進んでいるのか。また、それをビジネスとして実装していくために大切なことは何か。四家氏が語った。

コマツは土木建築業の「全体最適」を実践

進化を続けるコマツの「スマートコンストラクション」 —ABEJA「SIX 2018」

土木建築の業界ではいま、労働力不足が深刻な問題となっている。2025年には、建設現場に関わる技術労働者の数が約130万人も不足すると言われている(引用:総務省「労働力調査」)。

これに対し、建設機械メーカーであるコマツは、建設現場の生産性を向上することで、労働力不足の問題を解決しようと考えてきたという。

そこで、まずは「ダントツ商品」をテーマに建機の商品力向上に取り組み、さらには建機の稼働状況の見える化を実現する「KOMTRAX」を手がけてきた。

しかし、これらの取り組みは、「コマツの建機が関わるところだけの部分最適にしかならず、顧客の課題解決には結びつかない」ことに四家氏は気づいたのだという。

そこで、同社が2015年からスタートしたのが「スマートコンストラクション」だ。コマツの建機が関わる施工だけでなく、測量やダンプトラックの土の運搬などすべてのプロセスを見える化し、最適化をはかろうというものだ。

「これまでと同じ”ダントツ”を目指した戦略であっても、スマートコンストラクションは顧客目線に立ったソリューションであり、建機という商品の延長で考えてきたダントツ商品やダントツサービスとはレイヤーが違います」と四家氏は説明する。

また、スマートコンストラクションの背景には、「土木建築業に関わる企業の94%が、社員が10名程度の中小規模の企業」ということがある。

「大手さんであれば、労働力不足を解決する方法を自ら見つけ出せるかもしれません。しかし、小さな企業に対しては、コマツとして何かお手伝いできることがあるのではないかと考えました」と四家氏は語る。

そこでコマツは、現場へ赴いて中小企業の課題を抽出し、一緒にその解決をはかり、企業のデジタルトランスフォーメーションを支援していくとしたのだ。

またその際、必要な商品やツールはコマツ製のものでなくてもよいという。そのような「全体最適」の考え方が、スマートコンストラクションの根底にはあるのだ。

ICT建機は「部分最適」だった

進化を続けるコマツの「スマートコンストラクション」 —ABEJA「SIX 2018」

四家氏は、「全体最適」の考え方に気づいたきっかけとして、ICT建機の取り組みを振り返った。

コマツのICT建機は、GNSS信号による位置情報や3Dの設計データ、油圧シリンダに搭載されたセンサーを組み合わせて±3 cmの精度で建機を遠隔制御するという高機能製品であり、市場投入時は大変注目された。

しかし、「ほとんどの現場でうまくいきませんでした」と四家氏は語る。なぜ、うまくいかなかったのだろうか。二つの事例が紹介された。

一つは、高速道路の路床工事現場の事例だ(スライドの左側)。

工事を行うには、まず必要な土を掘り、ダンプに積み込み、そして現場にその土を盛る(盛土)ことが必要だ。その盛土の工程で、コマツはICT建機を導入した。その結果、盛れる土の量は大幅に増え、生産性は向上することが期待された。

しかし、そうはならなかった。なぜなら盛土する前に、ダンプトラックで運べる土の量が限られるからだった。

では、稼働するダンプトラックの数を増やし、運べる土の量を増やせばいいのかというと、そうもいかなかった。じつは、その前の工程である掘削に使う建機は、ICT建機ではない従来のものであり、その生産性は変わらなかったからだ。

つまり、盛土の生産性を上げても、その前の工程がボトルネックになっているため、ICT建機の効果が得られなかったということだ。

もう一つの事例は測量だ(スライドの右側)。

建設現場では従来から、施工計画と実際に運ぶべき土の量にギャップが発生することが問題になっていたという。その理由は、ヒトが測量するためにどうしても誤差が生じ、そもそも正確な土の量が測量できないことだと考えられていた。

そこでコマツは、平坦な駐車場をつくる工事において、ドローンを使って測量したところ、ヒトが測量した場合の土量とダンプトラック600台分の差があったのだという(当然、ドローンの方が正しかった)。つまり、施工の生産性を上げる前に、そもそも正確な計画すら立てられていないのが現状だとわかったのだ。

コマツの四家氏は、これらの結果から次のように語る。

「コマツはこれまで自分の機械が動いているところの生産性を上げようとずっと考えてきましたが、お客様のオペレーションに立ってみると、私たちの建機が動く前後には色々な工程があります。もしそこにボトルネックがあるのであれば、真ん中の部分最適だけしても、全体最適にはならないということに気がつきました」

スマートコンストラクションの今

進化を続けるコマツの「スマートコンストラクション」 —ABEJA「SIX 2018」

スマートコンストラクションの取り組みは今、どこまで進んでいるのだろうか。実績としては、現時点で4,700現場で導入されているという。

「建設現場の見える化は、スマートコンストラクションにおける中間地点です。お客様からはスタート地点と言われることもあります。ただ3年経ってようやく、建設生産プロセスの全体が可視化できるようになってきました」と四家氏は語る。

また、単純にデータを集めて見える化するということではなく、あらゆる「モノ」のデータを「コト化」して見える化できるようになってきたという。

たとえば、これまでKOMTRAXでは、建機の稼働時間、位置情報、燃料消費量などの個々のデータを集めてきた。しかし、それらのデータそのものを可視化しても意味はないという。

それより顧客にとって大事なのは、どれくらい土を掘ったのか、どういう地形に仕上げたのか、どういう品質にしあげたのか、といった「コト化」されたデータであり、それらがプロセス全体においてようやく集められるようになってきたのが今ということだ。

進化を続けるコマツの「スマートコンストラクション」 —ABEJA「SIX 2018」

スマートコンストラクションでは、「施工シミュレータ」を用いることで、ある量の土を動かすのに、ダンプトラックがどれだけ必要なのか、どこに道つくるのがいいのか、といった具体的なコト情報も見えるという。このサービスは、顧客にかなり喜ばれているということだ。

従来は、工事をスタートしてようやく「土が思ったより多いな」、「少しクルマの台数が少ないかもしれない」ということがわかるのが普通だったからだ。

シミュレータの通りに工事が進まないこともあるというが、ある程度の目安が事前にわかるだけでも、現場にとって、従来とは大きな違いがあるのだという。

「見える化」の次へ

「見える化ができるようになってきましたので、次はそこから気づいた課題を解決し、最適化をはかっていきます。この3年間でそういうステージに入りました」と四家氏は語る。

コマツには、現場を訪問し、顧客と一緒に課題を解決するための約200名のコンサルタントがいるという。そのコンサルタントたちが現場で見つけた課題を、同社の開発部隊にフィードバックし、課題解決に活かすというサイクルを、コマツは日々回しているのだ。

そこで、実際に現場で見つかった課題とその取り組みについて、二つの事例が紹介された。

課題1. ボトルネックは土の運搬

進化を続けるコマツの「スマートコンストラクション」 —ABEJA「SIX 2018」

現場で直面するボトルネックの一つは、土の運搬だ。さきほども述べたが、「掘削」と「盛土」の生産性を向上しても、その中間にあるダンプトラックの生産性を向上できなければ効果がなくなってしまう。

しかし、その肝心のダンプトラックに関して、「ダンプドライバー不足」と「建設機械がダンプに積み込む土の重さがわからない」という二つの問題があったという。

ドライバー不足が叫ばれる昨今、ダンプを運転できるドライバーもかなり減ってきており、それに伴いダンプトラックを保有する企業の数も減少する傾向にあるということだ。

そのダンプトラックの減少を補うため、一台当たりが積み込める積載量を増やすという方法もあるが、国交省としてはこれ以上積載量を増やすことは不可能だと見解を出しているという。

そこでコマツは、ダンプトラックの動線を効率化し、生産性を上げようと考えたという。実際に、ダンプトラックが現場内、あるいは現場から現場の間でどのような動きをしているのかを可視化したところ、そのオペレーションはまだまだ改善できることがわかったのだ。

そこでコマツは、ダンプトラックの最適な動線を現場にガイダンスするソリューション、「TRUCK VISION」を開発した。

「TRUCK VISION」は、施工現場の状況、ダンプトラックの空荷重量、あるいは積み込み土量などのデータを全てクラウドに集約して、最適な動線を導くコト情報をダンプドライバーに提供するというものだ。

ダンプトラックにおけるもう一つの課題は、油圧ショベルなどの建設機械では運ぶ土の体積はわかっても重さがわからないため、ダンプに積み込む土の量が極大化できない、あるいは過積載になる可能性を常にはらんでいるということだ。

大体、建機は一度に6リューベは運べると経験的にわかっているということだが、雨が降った日は水分を含むため、同じ6リューベでも土の重さがかなり変わってしまうという。

そこでコマツは、積み込み時の土の重さを自動で軽量できる「ペイロードメータ」を開発した。油圧ショベルがバケットで土を積み込むたびに、その重さがタブレットで可視化されるのだ。また、その情報はクラウドに集約され、さきほどの「TRUCK VISION」とも連動するということだ。

このようにコマツは、現場の課題一つ一つに対し、それらを解決できるソリューションの拡大をつづけている。

課題2. 3次元で施工する建設現場には目印がない

進化を続けるコマツの「スマートコンストラクション」 —ABEJA「SIX 2018」

スマートコンストラクションでは、ICT建機に搭載されたGPS信号やステレオカメラによって、建設現場の状態が3次元で可視化できることが特長だ。

しかし、建設現場で作業にあたっているヒトからすれば、自分が今見ている実風景が、その3次元の地図のどこにあたるのか見えにくいという声が現場から上がってきたという

そこでコマツは、目の前にある現場の実風景に対し、それが地球上のどこにあるのかを重ねて見ることができるソフトウェアをリリースした。

コマツのICT建機は、このような新しいサービスがソフトウェアとしてアップデートされ、ハード(建機)を買い替えなくても機能をどんどん拡充できるということだ。

コマツのAIを活用した取り組み

進化を続けるコマツの「スマートコンストラクション」 —ABEJA「SIX 2018」

コマツのAI活用におけるコンセプトは、熟練の現場監督やオペレーターが経験と勘で行ってきたことを、AIで代替できるようにするというものだ。その中でも、アプローチは主に2つあるという。

一つは、同社が「建設現場系」と呼ぶものだ。その製品の一つは「EdgeBox」というもので、クラウドでは時間がかかってしまうAIなどのコンピュータ処理を、現場に置いたエッジデバイスを用いてリアルタイムに実行できるというものだ。

たとえばドローンが空中から取得した点群データを使って日々の工事の進捗状況を管理しようとした場合、その点群処理の時間が、クラウドを使っていては時間がかかりすぎる場合がある。

そこで、現場に「EdgeBox」を置いておけば、その日作業が終わったあとに事務所に戻るとすでに処理が終わっており、その日の進捗状況をすぐ見ることができるという。

「EdgeBox」は、同社が出資する株式会社ランドログの「可視化デバイス」の一つとしてラインナップされている。同製品を使った様々なAIのアプリケーションが今後期待される。

もう一つは、「建設機械系」と呼ばれるものだ。先ほどの「EdgeBox」とは違い、こちらは建設機械に搭載される。

建機のオペレーションの効率性は、熟練者と新人で比較するとかなりの差がでてきてしまうということだ。そこで、その熟練者の「目」をAIで補い、オペレーションを最適化しようというのが「建設機械系」の取り組みだ。

「建設機械系」の領域においては、ABEJAと協業し、GPUは先日協業を発表したNVIDIAの製品を使うという。しかし、まだ開発段階であり、詳細はこれからということだ。

最後に四家氏は、「色々な企業様から、コマツさんはビジネスの実装がうまいですねと言われます。でも実際は違っておりまして、実装しようとしているのではなく、お客様のビジネスの課題を何かのツールを使って改善しなければならないと考えた結果が、AIやIoTだったということです」と、顧客目線に立ったビジネスの重要性を語った。

ABEJAが主催した「SIX 2018」の他のセッションの内容についてはこちら。

【関連リンク】
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SIX 2018
コマツが仕掛ける、IoTプラットフォーム「LANDLOG(ランドログ)」。その思惑と、スマートコンストラクションの現状 -コマツ 四家氏インタビュー