2019年7月2日都内にてSORACOM Discovery 2019が開催された。
今回はその中の「特別企画:Best of CES 2019 Finalist 企業による国内スタートアップのグローバル展開とIoTグローバル事例」と題したパネルディスカッションの紹介をしたい。
この講演では、今年1月米国ラスベガスで開催されたCESにおいて「Best of CES 2019」のFinalistに選出された日本を代表するスタートアップ企業であるGROOVE X アライアンス・海外事業責任者村山 龍太郎氏、トリプル・ダブリュー・ジャパン 代表取締役 中西 敦士氏が、グローバル展開戦略やチャレンジについて語った。
また、アメリカと日本の違いなどについて、US SORACOM, INC.CEO, Americasである川本 雄人氏も交えてディスカッションがおこなわれた。
モデレーターはアールジーン/IoT NEWS代表 小泉 耕二だ。
心を豊かにするロボットという発想
まずIoTNEWSの小泉から、グローバル展開していく企業が考えていかなければならないことや、実際にグローバル展開している企業がどのようなことに取り組んでいるのかを聞いていきたいと話したうえで、現在どのようなことに取り組んでいるか伺った。
GROOVE Xの村山氏は、「LOVOT」という家族型ロボットの製造販売を行なっているハードウェアメーカーのグローバルの展開と企業関係のアライアンス、商品のサービス企画を行なっている。
「従来のロボットというものは、効率化を測るものや、家電などといった生活を豊かにするものが中心だったが、LOVOTは人に寄り添い、心を豊かにしていくために開発した」と話す。
LOVOTに搭載されているのは10以上のCPUコア、20以上のMCU、50以上のセンサーだ。
通信はソラコムのSimを搭載しており、大容量通信の際はWi-fiを仕様している。
「LOVOT」は今年のCESに出展し、CES 2019のROBOT部門にて、「Best of CES」のファイナリストに選出された。さらにアメリカのテレビ番組やメディアで取り上げられるなど、評価が高かった。
現在日本で予約を受け付けており、秋冬に発売され、そのあとはアメリカと中国に展開していくという。
次ページは、「人の手を借りたくないというニーズに行き届くIoT」
人の手を借りたくないというニーズに行き届くIoT
次にトリプル・ダブリュー・ジャパン中西氏が、排尿のタイミングを予測する「D Free」という商品の説明を行った。
下腹部にDFreeを貼り付け、膀胱の膨らみを超音波センサーで常時計測する。そしてセンサーがとらえた膀胱のふくらみ具合をデータ処理した上で、アプリ上で10段階で表示するというものだ。
介護側にメリットがあるのはもちろん、いつ排尿してしまうか分からないという本人の不安を取り除き、外に出れなかった方の社会復帰にも役立っているという。
D Freeは今年のCESで「Innovation Awards」、IHS Markit「Innovation Awards」、Engadget「Best of CES」の3つのアワードを受賞した。
現在日本以外にカリフォルニア、パリに支社があり、販売を開始している。
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グローバル展開を視野に入れた開発
そしてIoTNEWS 小泉はグローバル展開に話を向け、なぜグローバル展開をしていったのか中西氏に聞いた。
中西氏は、会社設立当初から世界中に広がるプロダクトを作る目的で作ったという。
しかしD Freeが世界中に広まったきっかけは意識的に行ったのではなく、あるイベントでの登壇を日本のメディアが取り上げ記事を書いたところ、英訳され拡散され、世界中から問い合わせが殺到し、英語圏でない方からの問い合わせもあったという。
そこから海外進出していく際、どこの国で販売していくかの決め手は、「各国のニーズを満たしているかどうか、マーケットはあるのか、大きな事業者やカントリーマネージャーなどとの関係づくりができるかどうかなどを考慮し決めていく」と語る。
小泉がヨーロッパの中でもパリに支社を出した理由を聞くと、中西氏は、「ヨーロッパの大陸では介護事業者大手のほとんどがパリに集中しているからだ」と話す。営業の際もイベントに出展し、介護業者と対面で話し、導入をしてもらうという流れだ。
一方アメリカでは問い合わせからの成約が多いため、電話対応もできるようにサンディエゴに拠点を持ち、電話番号を持ち営業を行なっているという。
国や地域ごとの文化や状況を把握し、それに合わせたアプローチをしているということだ。
世界共通のニーズと浸透させるための課題
続いて小泉が、日本での発売もまだの段階で、LOVOTのグローバル対応を2020年に掲げている理由を村山氏に聞いた。
村山氏は、GROOVE Xの目的がプロダクトを作ることではなく、産業を興すことを目的にしていたため、グローバル展開は当初から意識していたという。
しかし初めは実用的なことを求めるアメリカで、ロボットが情緒に訴えかけるというサービス自体が受け入れられるか心配だったが、CESでの反応を見て早めに参入する必要があると感じ、急ピッチでグローバル展開に持ち込んだという。
「まずはアメリカ、中国と市場の大きな国に展開し反応を見て、その後さらに販売国を広げていきたい」と語った。
その際課題と感じているのが販売の立て付け部分だという。
「LOVOTは触れ合ってこそ価値がわかるものだと考えているため、触れ合う機会の場をどう展開していくか模索している」と語った。
次ページは、「日本とアメリカでの戦略の違い」
日本とアメリカでの戦略の違い
次にIoTNEWS 小泉は、シアトルに拠点を置くSORACOM, INC.CEO, Americasである川本氏に日本での活動をアメリカ国土で展開する際の注意点について聞いた。
川本氏は、「日本とアメリカでは国土の広さの違いから、営業の仕方に違いがある」と述べた。
日本であれば東京一極集中型であり、営業が東京にいれば大部分をカバーすることができる。
しかしアメリカでは大型の都市がNY、LA、シリコンバレー、シアトル、シカゴと、点在している。
そのためソラコムでは、日本とアメリカの会社でブランディグ、ポジショニングが全く違い、ウェブサイトも別物にしているという。
国土の広さからどうしても対面での営業が難しく、IoTを導入している企業を探すだけでも時間と労力が取られてしまう。そこでUSのソラコムでは、デジタル中心にインバウンドな営業にしているという。
ウェブサイトにチャットボットを設けたり、リクエストデモボタンを作り簡単なデモを紹介している。
またUSのみでFree Simというサービスを行なっており、Emilと住所を入力してもらい、Simを送り、スタートアップやディベロッパーに使ってもらうという。
「アメリカは規模が大きい分大変ではあるが、IoTのマーケットは肌感覚で日本の10倍から20倍はあり、やりがいはある」と語った。

