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【前編】コマツ四家氏・ウフル八子氏が語る、建設現場のオープンプラットフォーム「LANDLOG」はいかにして生まれたのか

IoTで世界をリードする建設機械メーカーのコマツ。始まりは、2001年から標準搭載した、世界中にあるコマツの建機の稼働状態をモニタリングする「KOMTRAX(コムトラックス)」だった。

2015年には、建設現場の安全・生産性を向上させるソリューション事業「スマートコンストラクション」を展開。「労働力不足」という土木建築業における重大な課題を解決するため、自社の建機性能の向上にとどまらず、従来のコマツのビジネスとは関係のない領域を含めた「全てのデータ」を収集することで、土木建築のバリューチェーン全体を最適化するそのソリューションは、IoTビジネスの模範事例として注目を集めた。

そして2017年、同社はNTTドコモ、SAP、オプティムと4社で「株式会社ランドログ」を設立。「スマートコンストラクション」の「データ収集基盤」と「アプリケーション」の2層を切り分け、「データ収集基盤」をオープンプラットフォーム「LANDLOG(ランドログ)」として展開。第3社企業が、LANDLOGに蓄積されたデータを活用して、自由にアプリケーション開発を行える環境を構築した。今年の5月からはパートナー制度「LANDLOG Partner」の提供を開始し、エコシステムを拡大している(※1)。

産業別プラットフォームの「先駆け」とされるLANDLOGを、その構想段階から支援してきたのがIoTソリューション事業を手がける株式会社ウフルだ。同社は現在、国内企業10社の産業別プラットフォーム構築を支援している。LANDLOGは両社の強力なパートナーシップの元に生まれた。

実はその背景には、コマツのIoTビジネスの「仕掛け人」である同社執行役員 スマートコンストラクション推進本部長 四家千佳史氏と、ウフルCIO/IoTイノベーションセンター所長 八子知礼氏の出会いがあった。

このたび、そのお二人に出会いのきっかけやLANDLOGの立ち上げに至るまでの経緯について語っていただいた。本稿ではそのインタビューの前編をお送りする。モデレーターは、2015年のIoTNEWS立ち上げ以来、二人を取材し続けてきた小泉がおこなった。

構想からわずか4か月、「オープンにする予定はなかった」

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): お二人が知り合ったきっかけについて教えてください。

コマツ 四家千佳史氏(以下、四家): 今から3年前でしょうか、「スマートコンストラクション」の紹介をしてほしいということでイベントに呼ばれ、八子さんとパネルディスカッションをしました。

ウフル 八子知礼氏(以下、八子): 2015年の10月20日です。当時はまだ私が前職のシスコシステムズにおり、大和ハウス工業さんが開催した「Industrial Internet研究会」で初めてお会いしましたね。

小泉: そのイベントは、私も取材させて頂きました(※2)。そうですか、あの時が初めてだったんですね。

八子: そうなんです。ぼくはそれまでずっと四家さんにお会いしたいと思っていました。そこで、大和ハウスさんから四家さんの登壇の予定を組みましたと話を聞き、参加者として行くつもりだったのですが、実はパネルディスカッションをしてくださいとのことでした(笑)。

小泉: そうでしたか。私も、その時に初めて四家さんとお会いしました。お二人は、今では一緒にお仕事されています。そのきっかけは何だったのですか?

四家: 「スマートコンストラクション」にはプラットフォームの基盤やエコシステムが必要ですが、それらはコマツの中では手がけたことがないものでした。

そこで、ある時に八子さんとお話している中で、私の方からサポートしていただけないかと打診をしました。そこから「LANDLOG」の構想が生まれてきましたし、色々なパートナー様に参加してもらうためにどうしたらいいかという議論を進めていきました。

コマツ四家氏・ウフル八子氏が語る、建設現場のオープンプラットフォーム「LANDLOG」はいかにして生まれたのか
四家千佳史 氏:コマツ執行役員スマートコンストラクション推進本部長。1968年福島県生まれ。1997年に福島県で建機レンタル事業を行うBIGRENTALを創業。2008年、同社とコマツレンタル(コマツ100%出資)が経営統合し、同時に代表取締役社長に就任。2015年1月よりコマツ執行役員スマートコンストラクション推進本部長に就任、現在に至る。

八子: 実は、それが2016年5月18日の「IoTConference」(IoTNEWS主催)の懇親会のことなんですよ。私から四家さんにカンファレンスのご登壇をお願いし、懇親会で色々とお話ししている中で、「八子さん、何かやろうよ」とお声がけをいただいたのです。その頃、私はウフルに転職していましたから、「弊社ではこんなことならできますよ」と、ご紹介だけしたのですが。

小泉: では、個人的に八子さんにご相談したことがきっかけとしてあって、だんだんと取引が始まっていったということなんですね。

四家: そういうことですね。

小泉: 今でこそプラットフォームの「お手本」として知られるLANDLOGですが、なかなかあのような構想は思いつかないと思います。アイディアはどのように生まれたのですか?

四家: そもそもLANDLOGの「オープン」という構想はだいぶあとから出てきたんです。昨年の7月に、展示会(メンテナンス・レジリエンスTOKYO 2017)で「スマートコンストラクション」を出展するという話があり、ウフルさんにはその企画運営をお手伝いしてもらっていました。その議論の中で、「いまオープン化を考えているんだ」という話を八子さんにさせていただきましたね。

小泉: その展示会は、私も取材させていいただきました(※3)。「LANDLOG」という名前がブースのど真ん中にありました。

四家: そもそもあれは予定になかったんですよ。「スマートコンストラクション」を展示する予定でしたから。急遽、全部変えたんです。

小泉: え、そうだったんですか…?

八子: それはもう、すさまじいスピード感でしたよ。オープン化の議論が始まってから、展示会までが半年もないくらいでしたから。

八子知礼 氏:松下電工(現パナソニック)、複数のコンサルティングファームを経た後、シスコシステムズのビジネスコンサルティング部門のシニアパートナーに就任。2016年4月よりウフル専務執行役員兼IoTイノベーションセンター所長。通信/メディア/ハイテク業界中心のビジネスコンサルタントとして新規事業戦略立案、バリューチェーン再編等を多数経験。2018年7月よりウフルCIO(チーフ・イノベーション・オフィサー)に就任。株式会社アールジーン社外取締役や広島県産業振興アドバイザーを歴任。著書に『図解クラウド早わかり』『モバイルクラウド』(いずれも中経出版)、『IoTの基本・仕組み・重要事項が全部わかる教科書』(SBクリエイティブ)、『現場の活用事例でわかる IoTシステム開発テクニック』(日経BP)がある。

四家: プラットフォームをオープンにしようと決めたのが3月、そこから4か月で展示会でした。八子さんと最初に展示会の構想を企画したときは、オープン化の予定は全くありませんでしたね。

八子: 初めはクラウドプラットフォーム「KomConnect(コムコネクト)」のパートナリングやカンファレンスを行い、比較的クローズドにパートナーを集めていきましょうという話でした。3月にいきなり四家さんから「オープンにしたい」とお聞きした時は、本当に驚きました。

ぼくはそこから、「四家さんの周りで起きるイベントは、毎回これくらいのスピード感で進んでいくのだな」と実感しました。

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コマツとウフルが創った、新しいエコシステムの芽

小泉: コマツさんとウフルさんは、事業の内容はもちろん、企業風土やお付き合いしている企業も全然違いますね。

四家: ウフルさんは第一線で活躍された方が集まっている会社です。そういう意味では、ウフルさんにお願いすれば、パートナリングからコンサルティングまでワンストップで対応していただけるということは、本当にありがたいと思っています。

小泉: 特にLANDLOGのパートナリングなどにおいては、「ウフルさんだからできる」という部分があったと思います。

四家: そうですね。パートナリングの方法はほとんどウフルさんのノウハウにお任せしました。そもそも、コマツは自前主義が強かった会社ですから、当然パートナリングのノウハウはありませんし、わからないことだらけでした。

小泉耕二:1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役/IoTNEWS代表。IoT/AIコンサルタント。大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)、Cap gemini Ernst & Young、テックファーム株式会社より2005年より現職。著書に、『2時間でわかる図解IoTビジネス入門』(あさ出版)、『顧客ともっとつながる』(日経BP)がある。

小泉: コマツさんには「コマツみどり会」もありますが、そのような組織とLANDLOGにおけるオープンなコミュニティというのは、実際にどう違うものですか?

四家: 「みどり会」はコマツのモノ作りを支える製造現場のパートナーが参加する組織体です。

「みどり会」はどちらかというと、コマツのブランドで出せる技術を世界中から探していこうという考え方ですが、私が八子さんにお願いしていたのは、コマツのブランドではなくて、「LANDLOG」のプラットフォーム上で、参画する企業それぞれのブランドで事業を進めていただくということですので、これは「エコシステム」に近いものだと思います。

小泉: 八子さんに伺いたいのですが、多くの企業が「みどり会」のような協力企業の既存コミュニティを持っていると思います。それと「エコシステム」をつくるということは、まるで性質が違いますし、実際につくるのはかなり難しいことだと思うのですが、いかがですか?

八子: 難しいですよ。それをコマツさんが実現できているのは、意思決定のスピードが速いからです。圧倒的に違います。

もう一つは、コマツの取り組みを、もっとたくさんの人に知ってもらいたい、あるいはこれまで建設現場に関与していなかった業界や企業にも貢献してもらうことで建設現場をよりよくしていきたい、という強い思いを持っておられることです。

とにかく、コマツさんの課題認識が「現場をよくする、現場の安全と生産性を上げる」ということなんですね。

我々は当時、ウフルとしてのパートナーエコシステム(IoTパートナーコミュニティ)を既に運営していましたから、そこで実践している考え方を踏襲しながら、コマツさんだけではリーチの難しい、建設現場に関係のない企業さんに参画していただくことが我々の価値だと考えました。

四家さんからは都度、「どうしてこの会社なの?」というご質問もありましたが、それに対して理由をご説明すると「なるほどね、それなら話をしてみよう」とご納得いただき、進めていきました。四家さんの場合には、ご納得されたら、「じゃあすぐに声かけて」とおっしゃいます。「いいんですか?」とびっくりすることも度々でした。

小泉: パートナー企業をリクルーティングされる時に苦労された点はありますか?

八子: 「オープンプラットフォーム」というものに対し、自分たちに何ができるのか、どうして建設現場のビジネスの話なのに、自分たちに声がかかっているのかということを、理解いただけないことですね。

ご説明しても、「どうやって協力していいのかわからない」という会社さんが多いんです。そのような場合には、2、3回通って、「こういう趣旨なんです。こういうデータが出せて、こういうアプリケーションができるんじゃないですか」という説明を重ねていきました。

その結果、「何か行けそうな気がします」という会社さんと、「もうちょっと待ってください」という会社さんと、二通りいらっしゃいます。

小泉: 相手の企業さんは、いわゆる「業務提携」としてとらえられているんですか。それとも、あくまでシステム間連携として見ているのでしょうか?

八子: それについては、「システム間連携だけ、データだけ出して終わりということではないですよ」とお伝えしています。始めから、「これはITの話をしているのではなく、建設現場をよくする、そのためのパートナーシップの一員として何ができるかを一緒に考えてください」とお願いをしています。

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条件は一つ、「社会課題の解決」の軸は絶対にぶらさない

小泉: 四家さんは、「オープン化」に至る取り組みの中で、これまでの事業とは違った点や新たにお気づきになった点は何かありましたか?

四家: 私が確信したのは、「ぶれてはいけない」ということです。私たちのこれまでの取り組みは、一貫して「社会的な課題を解決する」ということ、「安全で、生産性の高い、スマートな未来の現場」を1日でも早く実現するということです。

その目的に対する手段は色々と変わりますが、そこは走りながらやっていけばいいんです。ただ、「社会課題を解決する」という姿勢は絶対にぶれてはいけない。そのためにはコマツだけで解決する、あるいはコマツだけで囲い込むという考え方は一切排除しました。

「社会課題を解決することが目的なんだ」としてぶれずに進めていけば、目的に到達するスピードは速いし、結果として参加してくれている方々もきっと幸せになるのだと私は思います。

小泉: すごいです…。普通は、なかなかそのような考え方にはならないと思います。

四家: 弊社の両トップ(取締役会長 野路國夫氏、代表取締役社長/CEO 大橋徹二氏)も同じことを言います。「社会課題の解決からぶれてはいけない。お客様の現場を、安全で、生産性の高い、スマートな未来の現場にすること。そのためにはコマツだけが囲い込むのではない。そうすれば、最初の絵と結果は違うかもしれないが、それは結果として進化してるはずだ」と。

必ずしもコマツの社員全員が理解しているわけではないと思います。ただ、会長から言われたのは、「わからないところがいいんだ。6万人(コマツグループの社員規模)がわかる話をしていても仕方がない、わからないことをやることが重要なんだ」ということです。

「KOMTRAX」はクローズドなシステムで、その目的は我々の建機をたくさん売ること、部品やメンテナンスをたくさん受注することに留まっています。

一方、ある意味でその対極にあるのが今回の「オープン化」であり、目的は「コマツの建機を使うお客様だけでなく、全てのお客様の現場での課題を解決する」というところに行きつきます。

ただ、オープン化の目的を社内で説明するのはものすごく大変ですよ。「何のためにコマツがそれやるんだ」と訊かれても、「コマツのためではない」と私は答えます。「じゃあ誰のためなんだ」と訊かれると、「お客様のためです」と答えます。理解不能でしょうね(笑)。

小泉: (笑)。でも、それを「理解」してしまうというのもまた違うのかもしれませんね。

八子: だから、スピードが大事なのかもしれませんね。ゆっくり説明し、説得をしていると、どこかで話が合わなくなってきますから。

昨年の3月にオープン化するという話を四家さんからお聞きして、それから1週間後にはJV(ジョイント・ベンチャー、今のLANDLOGのこと)をつくるかもしれないと言われ、驚きました。「本当ですか?それを7月に発表するんですか」と。でも、その時にはどの企業がランドログに参画するのかも決まっていたんです。これはとんでもないスピードで進んでいるなと、衝撃を受けました。

(後編はこちら

※1 目指すのはエコシステムによる協創、ランドログが建設生産プロセスの変革を加速するパートナー制度「LANDLOG Partner」の提供を開始
※2 コマツのスマートコンストラクションがわずか8か月で実現できたわけーコマツ 四家氏、シスコ 八子氏 対談
※3 コマツが仕掛ける、IoTプラットフォーム「LANDLOG(ランドログ)」。その思惑と、スマートコンストラクションの現状 -コマツ 四家氏インタビュー

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