あらゆるモノがつながるIoT時代、クルマもその一つとなる「コネクテッドカー」の分野が注目を集めている。既に、車載センサーから集めたデータによる走行状態の管理やテレマティクス保険などの法人向けソリューションの導入が始まっている。
2013年10月の設立以来、そうしたサービスを先駆けて市場投入してきたスマートドライブだが、今年から新たなフェーズに入る。本日(8月6日)、総額17億円の資金調達を発表(※)。新しい技術領域を拓くための「SmartDrive Lab」を立ち上げ、その皮切りとして中国の深センに拠点を開設するなど海外展開も進める。
5年間で蓄積したデータと、それに伴い強化されたアルゴリズムやAIによって、新しいサービスを創出するための基盤が整ってきたことが背景にあるという。今後の事業展開について、代表取締役の北川烈氏にIoTNEWS代表の小泉が聞いた。
※シリーズCラウンド総額17億円の資金調達を実施。同資金調達引受先は、株式会社産業革新機構、ゴールドマン・サックス、株式会社モノフル(日本GLPの新規事業専門子会社)、2020(鴻海ベンチャー投資のパートナーファンド)の4社。
フリートマネジメントはロジスティクスや個人向けにも展開
小泉: 新たに資金調達されるということですが、今後の事業展開について教えてください。
北川烈氏(以下、北川): これまで法人向けのフリートマネジメント(IoTを活用した車両管理)が弊社のメインの事業でしたが、今後はそれを物流業界向け、個人向けにも展開していきます。
また、「SmartDrive Lab」(スマートドライブ・ラボ)を設立し、AIを使った事故リスク分析や渋滞予測、ダイナミックマップの構築、ブロックチェーン技術などさまざまなソリューション開発に向けて取り組んでいきます。
この5年間でデータを蓄積し、データを取れる“間口”が広がり、集まってきたデータの“深い分析“もできてきました。ですからこのタイミングで資金調達を行い、しっかり攻めていこうというのが狙いです。
小泉: それぞれの事業について、詳しく教えて頂けますか。
北川: まずはフリートマネジメントですが、これまでは「SmartDrive Fleet」として、ドライバーの事故リスクを分析して保険会社にデータを提供したり、クルマがどのように使われているのかを分析した知見を法人向けに提供したりしていました。
そこで蓄積したノウハウや知見は、ロジスティクスの分野にも活かせます。そこで、弊社は日本GLP株式会社のグループ企業である株式会社モノフルと提携します。GLPは、日本・中国・ブラジルで物流倉庫のシェアがNo.1のグローバル企業です。
GLPが持つ物流倉庫のアセットやデータと、弊社のデータを組み合わせることで、顧客が倉庫の中から荷物をどのように運んでいるかがわかるなど、様々な提携が考えられます。
個人向けには、「SmartDrive Families」をローンチします。高齢者が運転するクルマに弊社のシガーソケットを差しておくと、その方がどういう運転をしているのか、どこを走っているかなどがわかり、家族にも通知できるというサービスです。
高齢者の運転事故は多いため、ニーズは大きいです。現在はβ版ですが、今月から先行予約を始め、9月には正式リリースします。
次に、私たちのコネクテッドカーの世界観を体現するサービスとして、カーシェアでもレンタカーでも購入でもない、新しいクルマの持ち方ができる「SmartDrive Cars」(本年4月にリリース)の事業も強化していく予定です。
月額で保険や整備費用、駐車場料金が込みですべてサブスクリプションになっており、安全運転をすると、月額がどんどん安くなっていく仕組みです。
利用状況によって利用料が変わる、「スマートフォンみたいにクルマが使える」といったイメージです。「今日の運転がいくら」というように、使った分だけユーザーがお金を払うような世界観を目指しており、スマートフォンで運転のリスクや車検の日程などもすべて管理できます。
私たちのビジネスでは、データ量が増えてくることが優位性になります。「正解データ」が集まってくると、アルゴリズムがどんどん強化されていきます。データは法人向けの車両から取ってきましたが、最近では「SmartDrive Cars」や「SmartDrive Families」によって個人のクルマからもデータが取れるようになり、間口が広がっています。
大きく変わる物流業界、求められるのは汎用プラットフォーム
小泉: ロジスティクス向けのソリューションについて詳しく教えて頂けますか。
北川: ロジスティクスではまず、ドライバーがどのように運転しているかなど、車両の管理が行えます。
物流の場合は、ドライバーの運転時間が長く、労働環境があまりよくない場合も多いのです。その中で物流企業は、何の業務にいちばん時間を使っているのか、荷物を待っていたのか、運転していたのか、休憩していたのかなどの乗務記録を国交省に報告するのが義務化されています。そうした課題に当社のサービスが対応できます。
次に「ルーティング」。どのような経路で荷物を運ぶのが効率的であるかを、データをもとに提案します。
荷物を運ぶにあたっては、たとえば「3時までに来てください」という場合と、「2時半から3時半の間にとりあえず荷物だけ置いておいてくれればいい」などといった複雑な条件分岐があります。
そういった条件を入力すると最適なルートを導き出すという機能を、今まさに付加しているところですが、ゆくゆくは倉庫内のデータと連携するなど用途を拡大していきたいと考えています。
小泉: 倉庫内のデータと連携しているソリューションというのは、既に世の中にあるのでしょうか。
北川: ないと思います。物流の倉庫では、WMS(倉庫管理システム)というシステムが使われている場合が多いですが、倉庫ごとにカスタマイズされてしまっていて、統一のプラットフォームになっていないのが実際です。
業界トップの大手企業のように、自社専用の統合されたシステムをつくったという事例はあるものの、汎用的なプラットフォームとなると、ないですね。
小泉: 色々な分野で、システムの「民主化」ということが言われています。
北川: そうですね。とくに物流は大きく変わっていくと思うのです。
ヤマト運輸や佐川急便、日通といったトラックを数万台持っているような企業は他にほとんどなく、100台以下の中小企業が9割以上です。その中で今、物流業界を統廃合していこうという動きも進んできています。
5台くらいの台数であればそもそもシステムは要らないのですが、統廃合により100台などの規模の会社が増えてくると、私たちが提供するような汎用的なシステムが求められてくると思います。
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「SmartDrive Lab」とは?
小泉: 「SmartDrive Lab」について教えてください。
北川: この5年間で、AIやブロックチェーンなどの技術領域も広げてきました。今後はそうした技術テーマに対し、さらにリソースを割いていこうと考えているのですが、その拠点になるのがSmartDrive Labです。
その皮切りとして、6月に、深センにオフィスをつくりました。現地のスタートアップと技術提携したり、その技術を東南アジアなどに販売したりしていくためです。
技術領域をいくつか紹介すると、AIにおいては、事故リスク分析です。数日間の走行データを解析すると、将来事故を起こすドライバーか否かを、AIが高い精度で判定する技術を開発しております。
センサーは、(従来のシガーソケットだけでなく)カメラとも連携していきます。ドライブレコーダーのカメラの画像データを解析することで、ドライバーが急ブレーキをした原因などを分析できます。
カメラ本体は他社の製品ですが、クラウド上でデータ連携を行い、当社が解析をします。また、タイヤの空気圧計とも連携しており、温度センサーもこれから始めます。このように、私たちのプラットフォームで解析できる幅がひろがってきているのです。
また、クルマのビッグデータを使ってダイナミックマップをつくり、渋滞の予測を行うアプリケーションも、経産省のプロジェクトに採択されています(経産省「産業データ共有促進事業費補助金」)。
こうした技術は学会でも発表していきます。私たちは閉じて事業をするつもりはなく、開発した技術はみんなに使ってもらってブラッシュアップしていけばいいと思っています。
小泉: オープンマインドは大切ですね。さきほどロジスティクスの話がありましたが、ロジのソリューションというのは、自社のコスト削減の話などが多く、社会全体の話になることは少ないように思います。
たとえばトラックが道路を走りながらデータを集めていくと、「この道路を舗装すればもっと早く荷物を届けられる」ということがわかります。でも、その情報を国交省が上げてくれと言っても「何でそんなことをする必要があるの?」となってしまいがちです。
でも御社の場合はそこの立ち位置が違いますから、「データはどんどん上げていこうよ」という話ができるわけですね。
北川: 「囲い込む」という発想が弊社の中にはありません。オープンソースにした結果、どこかに持っていかれてしまうような技術であれば、そもそもうちがだめだったねということになるので。みんなでブラッシュアップしていいものができれば、それでいいのではないかと思います。
設立から5年、「構想がようやく現実になってきた」
小泉: それぞれのサービスについてお聞きしてきましたが、主な収益になっているのはどの分野ですか。
北川: 既存事業である法人向けのフリートマネジメントが大きいです。ただ。物流も個人向けも、始めたばかりですが既に売り上げは立っています。
とくに個人向けの「SmartDrive Families」は、高齢者の事故の問題もあり、まだβ版ですが引き合いは多いです。
小泉: IoTビジネスでよくあるのは、データを集めることはできても、そのデータを使って何ができるかわからないということです。ですから提案する企業側も、「こんなデータがあるから使いませんか?」という提案をしてしまいがちです。
そうすると、テレマティクス保険のように、「このデータを使ってこのようなことができそうだ」と、ある程度の予測ができる場合はいいのですが、そうしたニーズが顕在化しておらず、「あったらいいな」とぼんやり思っているくらいの領域では、なかなかうまくいきません。
アップルのスマートフォンがいい例です。ひとたびできてしまえば、確かにそうだねとみな思いますが、できない限りは顕在化しなかったニーズだと思います。御社はそういうことを先取りし、次々と進めていかれるなという印象を私は持っています。
IoTの次はデータ連携や解析だとみな言うのですが、やりません。なぜなら、多くの企業がデータはまだたまっていないし、出口も見えていないからです。そういう意味では、御社は出口を意識されながら着実に進められています。
北川: ありがとうございます。構想したことがようやく現実になってきたと思っています。ラボも新たにつくり、将来的なテーマにも取り組めるような状況になってきました。
まずは2、3年、今のビジネスをしっかり伸ばしきり、並行して中長期的に弊社の技術的付加価値が創出されるような領域にも投資していきたいと考えています。
小泉: これだけ事業が拡がってくると直販も厳しくなってくると思います。商流において他社と連携するということもされるのでしょうか。
北川: はい。当然、視野には入れています。やはり1社だけでやるのは厳しいですから。そういう意味では、私たちは株主の企業さんとうまく連携しながら進めていきたいと思っていますし、オープンプラットフォームを目指していますので、株主ではない企業とも提携していきたいと思っています。
たとえば、アクサダイレクトさんは弊社の株主ですが、だからといって他の保険会社と協力してはいけないというわけではありません。実際に、あいおいさん(あいおいニッセイ同和損害保険)とは今年の3月に提携を公表しています。
”コア技術”で、コネクテッドカーの一歩先を進み続ける
小泉: コネクテッドカーは日本に限らない分野でもあります。
北川: そうですね。とくに東南アジアには大きなマーケットがあると考えています。
小泉: トヨタなどが、コネクテッドが標準装備となった新型車を本格展開しようとされていますが、そういった動きについてはどのようにお考えでしょうか。
北川: すごくウェルカムです。実際に走らせないとデータはたまりませんから、私たちにはすでに走っている車にも後付けでつけられるというスピード感と、メーカーに縛られないオープンな立ち位置があります。
それまでは、どういうアルゴリズムで保険のリスクを算出するべきか、お客さんにどうフィードバックすると運転の仕方が変わるか、そういったことは結局、クルマがコネクテッドになって、データが取れてからしかわからないのです。
ただ、私たちはそれを5年前からやっています。ノウハウもたまってきているなかで、クルマメーカーからも既に相談を受けています。一部のクルマからデータを取っているが、「これはどう料理したらいいですか」と。
そういう場合には、そのクルマと弊社のクラウドをつないでもらって、さまざまに料理したものを返すなどしています。
あと、私たちはメーカー横断的にデータを活用できるというのがそもそもの立ち位置なので、たとえばトヨタさんからデータをもらったとしても、日産さんやホンダさんのデータも加味したアルゴリズムを使うことができます。
それは、クルマメーカー単体ではできません。ですから、彼らとしても、弊社のアルゴリズムを使った方がいいよね、という考えもあると思います。
小泉: 一方で、クルマメーカーからすると、自分たちでやらないと自分たちのノウハウがたまらないということもあります。ですから、当面は一緒にやっていきつつも、なんとなく市場が成熟してきたら、自分たちは自分たちでやりますとなるのかもしれません。でもその頃には、御社はもう別の領域に行っているわけですよね。
北川: そうですね。コネクテッドや自動運転の世界はどんどん広がってくれた方がいいと思っています。私たちで全部やる必要もありません。市場の進化を後押しできればいいと思っています。
囲い込もうという気もまったくないですし、技術的なラボの成果を隠しておこうという気もないです。どんどん出していって、他社でも活用してもらえればいいと思います。
小泉: 御社がやることで、市場が拡がりますよね。誰も何もしないと市場の拡がりが遅くなってしまいます。これからどんどん新しいサービスが出てきそうで、楽しみです。
北川: 自動運転やコネクテッドカーの世界観をつくるコアな技術を私たちが担っていきたいと思います。
さきほどご説明したルーティングやカメラの活用というのはそれに近いのです。人が運転しようがクルマが勝手に動こうが、どういうスケジュールでどういうルートを辿るべきか、というのは必ず必要になってくるので。まずはそのあたりですね。
本日は貴重なお話、ありがとうございました。
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