ストックホルムの電動キックボードで感じた、IoT成功に大事なこと

日本でも普段の生活でIoTを実感することが多くなってきたが、それをビジネスとして成功させるにはツールを揃えるだけでは難しい。環境を整えることも重要だ。

9月から11月にかけて、リテールや決済・金融系のイベントの取材と視察でヨーロッパ、アメリカに出張する機会があった。年に数回、海外の各国を仕事で訪れるが、ほんの1年のブランクでも光景が大きく変わっていることがあり驚く。

自転車王国の光景が一変

昨年と今年、ともに9月にスウェーデンのストックホルムを訪れたが、この1年で最も変わったのは「電動キックボード」の登場だった。1年前は自転車がさっそうと駆け抜けていた自転車道を、今年は電動キックボードが我が物顔で走っていた。

ストックホルムの電動キックボードで感じた、IoT成功に大事なこと
市内のあちこちに電動キックボードをピックアップできる駐輪場がある

街のあちこちに電動キックボードのポート(公式の駐輪場)が作られているが、シェア自転車のようにポートに返却する必要はなく自分の好きな場所で乗り捨てられる。そのため日常の移動手段として市民が使うだけでなく、観光客が市中の観光名所を巡るのに使っている。

Googleマップでは車や徒歩だけでなく電動キックボードでの移動時間とルートも検索できるようになっていた。

ストックホルムの電動キックボードで感じた、IoT成功に大事なこと
Googleマップでは所要時間も表示される

電動キックボードはハンドルにあるQRコードをアプリで読み取ってロックを解除し、次にロックするまでの時間を分単位の金額で支払う仕組みだ。

ストックホルムでは4つほどのサービスが展開されているが、料金設定が違うだけで使い方はほとんど同じ。現地在住者によると市民に人気があるのは「Voi」、海外からの観光客に好まれるのは「Lime-S」とのことだった。

最大の人気の理由は気軽さで、スマートフォン近くにあるキックボードを探し、ロックを解除して移動してロックするだけ。分単位という料金設定も明快。使う人が増えるほど乗り捨てられる場所も増え、その分に違うニーズとマッチできるタイミングも増えるので、使う人が増えれば増えるほど便利になる。

こうしたサービスの実現にはスマートフォンアプリ、GPS、QRコード、課金システムが欠かせない。利用者だけでなくサービスを提供する側としても、市中のあちこちに乗り捨てられたキックボードの場所、バッテリー残量を把握する必要がある。これはまさにIoTによる利便性向上を具現化した乗り物と言っていい。

最大のメリットが課題に

ただし便利なだけではなく、急激な普及に伴っていくつかの課題も浮き彫りになっている。中でも、最大のメリットである「どこでも乗り捨てられる」点の裏返しとして、次の利用者がピックアップするまで、それが「放置キックボード」になってしまうという点が問題になっている。

ストックホルムの電動キックボードで感じた、IoT成功に大事なこと
商店の前に乗り捨てられたLime-S(左)とVoi(右)

乗り捨てたられたキックボードの場所はGPSで捕捉され、アプリの地図上に表示される。

固定ポート以外ではそれを探してピックアップすることになるが、乗り捨てられた場所が商店の前だとしても、次の利用者が見つかるまでの間は放置されたままになる。日本でいう駅前の放置自転車のように商店主が移動しようにも、盗難防止ブザーが鳴動してしまうため簡単に移動できない。本当は自分の店の前に放置されて面白くないと思っていても、どうすることもできないとクレームになっているそうだ。

こうしたことから、ヨーロッパではキックボードの運用に規制を検討する自治体も出てきている。

日本に必要なのは法整備だけではない

日本では現段階では公道を走行するには一定の制約がある。

公道を走るには原動機付自転車と同等の前照灯、ナンバープレート、方向指示器などの搭載が必要で、もちろん免許の携帯とヘルメット着用が必須だ。スウェーデンでは電動キックボードは自転車扱いのため免許は不要で、ヘルメットの着用義務もない。しかし車道へのはみ出し、歩道への乗り込み、二人乗りや飲酒運転など、モラルを問われる利用者が人身事故を引き起こすケースも散発している。

それでも、スウェーデンはまだ環境としては整っていると言える。

1970年代から自転車道や自転車専用レーンの整備が進み、その比率もいまでは市街地の9割を超え、自転車専用信号の設置も充実している。その既存インフラを電動キックボードは活用しているのだ。

ストックホルムの電動キックボードで感じた、IoT成功に大事なこと
スウェーデンでは市内のあちこちに自転車専用道やレーン、信号機が整備されている

しかし日本ではどうだろう。

ここ最近でようやく自転車レーンの整備が始まったが、堂々と乗用車が駐車しているが、とくに取り締まりされている気配はない。それどころか、霞が関にある日比谷公園近くの自転車レーンでは、車道との区分けに置かれたパイロンが縁石の上に移動されたりしたこともあった。今のままでは交通事故が起きてしまうリスクが高いと言える。

ストックホルムの電動キックボードで感じた、IoT成功に大事なこと
日本では自転車道の整備、ドライバーのモラルが追いついていない

いま都内でサービスが提供されているシェアサイクルですら、信号無視や歩道と車道を縦横無尽に突っ走る一部の利用者に懸念の声が上がっている。電動キックボードの普及にはそれに適した道路環境の整備、そして自動車と電動キックボード利用者のモラルも問われると感じた。

ストックホルムで見た電動キックボードの現状は、IoTの利活用を成功させるにはサービス設計や法整備だけでなく、関係各所が一丸となって適した環境を整えることが重要であることを気付かせてくれたケースだった。

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