今回は、私の具体的なコンサルティングの経験から、業務改善と業務改革の違いや、 業務のDXを実現するために用いられるBPMSというものを紹介しながら、具体的なアプローチを解説いたします。
目次
業務改善と業務改革の違い
業務改善と業務改革は似て非なるものです。
業務改善とは
業務改善とは、基本的な業務の流れは変えずに、ムリ・ムダ・ムラをとりのぞいて業務の作業効率をより良い方向に高めていく活動のことを言います。紙中心のアナログだった時代から、ExcelやWordを駆使して書類を作成して、FAXではなく電子メール等最大限活用して情報のやり取りをしながら効率化をおこなうような改善は多くの企業が取り組んできました。
では、現在はどうでしょう。さまざまなITツールやSaaSサービスが登場し、時間や場所の制約を受けずにひと手間もふた手間も減るようになりました。そのような業務環境の変化によりとても便利になったという実感を持っている人も多いと思います。
私が携わったプロジェクトでも、長年、紙による帳票とハンコによる承認といった古い仕事のやり方から、ワークフローシステムを導入することで、申請作業の効率化や承認処理期間の短縮化により生産性の向上を実現させることができました。
しかし、これからのよりいっそうの少子高齢化に伴う人材不足のことを考えるとここで満足をするわけにはいきません。企業が今までと同じもしくはそれ以上の成果を出すためには、一人一人の生産性を最大限にあげて行かなければなりません。そのためには今までの延長上の業務改善ではなくさらに進んだ取り組みをしなければならなく、それこそが業務改革です。
業務改革とは
業務改善に似た言葉で業務改革というキーワードがあります。
業務改革とはBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)とも言われますが、本来の業務の目的を達成するために業務全体を見直し、再構築をすることです。
ビジネス上の目的を達成するために、役割や業務の流れを抜本的に変えたり、システムの新規導入や入換えなどを行っていきます。
実現するためにはもちろん、自分達の組織だけでなく周りの組織も巻き込んでいくことになります。会社または組織全体で仕事のやり方を抜本的に改革して生産性を最大限にすること、業務のDXとはまさにこの取り組みそのものと言えると考えます。
- 業務改善は、仕事の流れを変えずに、ムリ・ムラ・ムダを取り除いて業務を効率良くすること
- 業務改革は、本来の業務の目的を達成するために業務全体を見直し再構築すること
- 特に業務改革では、周りの組織も巻き込む必要があることも多い
業務改革を支えるマネージメント手法BPM
業務改革を支えるマネージメント手法としてBPM(ビジネスプロセスマネージメント)があります。BPMとは、業務プロセスを可視化/再設計して、実施した業務の状況のモニタリングを行い、問題や非効率なことがあれば是正して、継続的に改善を行なっていく活動をいいます。
昨今、我々のビジネス環境は日々変化をしています。ビジネスの環境が変われば提供するサービスも変化が必要です。このような様々な変化に対応をしていくためには、業務プロセスは固定的なものではなく、ビジネスの状況に合わせて変化をさせていくものだと捉えることが重要です。
BPMは、業務を継続的に改善をしていくということだけでなく、変化に対応をしていくという観点でも重要なマネージメント手法と言えると考えます。
業務プロセスのデジタル化でDXを実現するBPMS
BPMを実行することができ、業務プロセスのデジタル化を実現するソリューションの代表としてBPMS(Business Process Management Suite/System)が挙げられます。
BPMSとは、国際標準であるBPMN(Business Process Model and Notation)で書かれた業務プロセスを実装し、BPMを実現するためのITツールであると一般社団法人 BPMコンソーシアムでは定義しています。
ちょっとわかりづらいと思いますので、次の章で具体的に説明します。
業務プロセス図の国際標準表記法BPMN2.0
BPMSの解説に入る前に、まずBPMN2.0について解説します。BPMNはいわゆる業務プロセス図です。一般的に業務プロセス図は、登場人物ごとにレーンがあり、タスクを示す「箱」や分岐を示す「菱形」や業務の流れを示す「線」で結びながら書かれます。この表記の仕方が国際基準で定義されており、それに従い書くと、誰が見ても同じ解釈で業務プロセスを把握できるというものです。2.0は現在のバージョンを示しています。
BPMNを用いると、例えばタスクを示す箱でも、人がやるタスクなのか、システム的な処理が行われるタスクなのか、メールで行うタスクなのか、などもう一段階細かいレベルで部品が定義されています。
BPMSでは、このBPMNで書かれた業務プロセスに沿って、システムが順番に業務のプロセス管理をしてくれます。
一連の業務をシステムが自動的に進行をしてくれるので、マニュアルを見なくても、新人でも業務を標準化された手順で進めることができ、動く業務マニュアルといった表現もされることがあります。
BPMS上にBPMNで定義した業務プロセスを設定し実行すると、設定された業務プロセスに沿ってタスクが組織または担当者に割り当てられ、処理を進めていくことができます。
これにより業務がどこまで進んでいるのか、誰がどの処理に時間が掛かっているのかなどをリアルタイムに把握ができるようになります。例えば、同じプロセスでも人により処理の時間が異なれば、その原因について分析を行い、より効率的にするにはどうすれば良いのかを検討し、それをしくみ化することで更なる改善を行うことができます。
BPMSの活用で最も重要なのは、作りっぱなしにせず、PDCAサイクルを回しながらビジネスプロセスの改善をし続けるということです。
SIベンダーに丸投げで、業務システムを作るより、BPMNの書き方を覚えて、直接BPMSを作るアプローチの方が、誰でも改善し続けられるというところがありがたい。
BPMSとワークフローは別のもの
似たようなことができるITツールとしてワークフローシステムがあります。ワークフローシステムは申請手続きの決裁処理を行うシステムであるのに対して、BPMSはその申請手続きの前後の業務プロセスも含めて管理を行いかつ継続的にプロセス改善を行うことを目的としています。
例えば新しい業務委託先と契約を交わして、新たに取引を開始するケースで考えます。ワークフローシステムはおもに契約書が整い、この金額でこの業務をこの会社に委託しても良いかどうかを、申請者の近い上長から順番に決裁をとるシステムです。
しかしその契約申請の前後には関連した業務が存在します。
例えば、管理業務を行う部署に依頼して、業務委託先の与信や反社チェックを行い新規取引先として登録するプロセスがあったり、取引に関する決裁の承認が済んだ後、契約書の製本や押印処理、最近ではクラウドサービスを使った電子契約であったりします。
また、最終的には締結した契約を台帳に記録して、契約書を決められた場所に保管するところまでが一連の業務になります。
BPMSはこの一連の業務のプロセスを管理し、継続的な改善活動を行います。
業務の自動化を実現するBPMS
多くのBPMS製品には、ビジネスプロセスマネージメント以外の業務の生産性向上を実現するための便利な機能がたくさん実装されています。
BPMSを使わない一般的な仕事の進め方は、自分のタスクを実施し完了したら、次の人に次のタスクをメール等で依頼し、皆が順番に自分のタスクをすることで仕事が流れていきます。BPMSではこのタスクを行うことを今までのように人がやるのではなく、BPMS製品に実装された自動化の部品を組み合わせて、コンピューターに処理をしてもらうことで自動化を行い、業務における生産性の向上を行うことが可能です。
例えば、業務プロセスの途中で、市販のRPA製品を起動させRPA側のシナリオが完了したら、RPAが作成したExcelデータをBPMSが自動的に組み込んで、自動的に次の人にタスクを渡したり、別のデータベースから取ってきた情報とエクセルデータを元に自動的に計算を行い、計算結果を別のデータベースに送信するなど、実装されている機能を組み合わせるとたくさんの自動化を行うことが可能になっています。
みなさんの自動化された仕事は、仕事の結果を次の人に渡すところまで自動化されていますか?
どのような自動化ができるのかについては、また別の記事で紹介をしたいと思います。
BPMSでPDCAサイクルを回して更なる業務改革
そしてもう一つBPMSを運用する上で重要になるのがPDCAサイクルを回すということです。
一度BPMSに作り上げた業務プロセスは必ずしも最適な状態とは限りません。BPMSを使って業務を行うことで、今まで見えなかった人の業務がリアルタイムに可視化されます。
例えば、ある組織や一人の担当者に業務が集中していることが定量的にわかったり、同じ処理を行うとしても人ごとに処理に時間が掛かっている時間がバラバラだったり、今まで感覚的にしか捉えていなかったことが定量的に可視化することができます。
そして、可視化されることで、人員的対策、またはプロセス変更など対策をおこなうことができます。このようにPDCAを継続的に行うことで、より一層生産効率を高めることができるのです。
BPMSの多くはノーコード/ローコードで構築、設定ができるので、会社内に扱える人員を整備し、スピーディーにPDCAを回せる体制を整えることもとても重要です。
- BPMSとワークフローシステムは別モノ
- 自分のタスクの自動化にとどまらず、次のタスクへの受け渡しも自動化
- ノーコード/ローコードなので、自分達でPDCAが回せる
業務プロセスのデジタル化により何が具体的に変わるのか
ここまでは、業務改善と業務改革の違いやBPMの考え方やBPMSがどのようなITソリューションなのかについて解説をしてきました。ここからは皆さんの日常の業務になぞらえて、起きがちな業務課題を振り返り、そのような課題をBPMSがどのように解決するかを事例を見ながら解説をしていきたいと思います。
ケース1:システムやサービスの注文受付業務
あるサービス部門の担当者Aはクライアントから受領した紙の申込書をもとに、社内の複数の部署に対して様々な手続きをしなければなりません。
業務の解説と課題
私が体験した企業では、上の図のような業務フローとなっていました。それぞれどんなことをやっていたかというと、下記のようでした。
- 顧客から紙の申込書を受領
- 受領した申込書をスキャナーで電子化を行い紙と電子ファイルをそれぞれ保管
- 申込書の記載情報をもとにシステム部門、経理部門、顧客サポート部門それぞれに、Excelフォーマットの作業依頼書を作成
- 作成した作業依頼書を各部門にメールで送信し、システム部門にはシステムの環境構築依頼、経理部門には会計処理に必要な手続きの依頼、顧客サポート部門へはサポート体制構築の依頼
- 依頼書を受け取った各部門はそれぞれ作業を実施
- システム部門は処理の途中で不足情報があることがわかり、担当者A経由で情報を確認
- 依頼先各部門の作業が済み担当者Aに完了をメールで連絡
途中担当者Aは、どの手続きがどこまで進んでいるのか、どこかで止まっていないかの確認を、メールの送受信履歴を頼りに行っていため管理工数が掛かってしまっていました。
時には、他部門に依頼を行い担当者Aの手を離れた後、通常の対応期間が過ぎても完了の連絡が来なければ都度依頼先に処理状況の確認を行っていました。
依頼先で処理漏れが発生し手続きが滞ってしまってることもあり、処理漏れが発覚後急ぎ対応してもらったものの、遅れて全部門の処理が完了したということもしばしば起きていました。その結果、サービス提供時期が予定よりも遅れてしまい顧客からの信頼を失ってしまう、という問題が発生していました。
みなさんは、どこが問題だったかわかりますか?
では、このようなケースでBPMSを活用するとどのようになるでしょうか。
BPMSを活用した業務の進め方
- 顧客はあらかじめ指定されたWEBフォームからサービスを申込み
- 担当者Aはシステムイから申込見の通知を受領
- 顧客からの申し込み情報は自動的にPDFに変換され指定したフォルダに保存
- 担当者Aは申し込みされた情報を起動したWEB画面で確認。フォームで確認し各部署に依頼をするための情報をいくつか記入して「申請」ボタンを押下
- 担当者Aが申請を行ったことで、システム部門には環境構築依頼、経理部には会計上の顧客登録や処理の依頼、顧客サポート部門には保守体制準備依頼が自動的に通知され各部門は処理を実施
- 担当者Aは各部門での処理が終了した通知を受領
- サービスの準備が整ったことをクライアントに通知
- 顧客はサービスを利用開始する
BPMSを活用してビジネスプロセスがデジタル化されることで、どのような点が変わったか気づきましたでしょうか。まず、担当者Aは、WordやExcelを作ったり情報を転記をする作業を行う必要はありません。管理記録として残すことになっている申込情報も自動的にPDFに変換され指定のフォルダに保管されました。
そして次の仕事を依頼するのに、いちいちメールに申請書を添付して丁寧な文章を書く必要もなく、システム上でタスクが次の人に割り当てられます。
さらには、タスクが自分の手を離れても、業務プロセスが他部署の誰のところまで進んでいるかすぐに確認ができます。依頼先の部署も次に何を自分たちがやらなければならないのかが明確なため処理忘れや遅れが発生することを防ぐことができるのです。
ケース2:定期的な集計業務
担当者Bは、月初と毎週月曜日に複数の社内システムから出力したデータをExcelで集計し、顧客に提出するための実績レポートを作成していました。
業務の解説と課題
- 各システムからログデータを出力
- ログデータを集計できるように加工
- 実績レポート作成
- 実績レポートの2重チェック
データを出力する社内システムは、特定業務を行うために開発をしたシステムであったため、データを出力することはもともと想定しておらずデータベースを直接検索しなければなりませんでした。また、データベースから出力されたデータは集計できるデータ構造ではなかっため、集計できるように複雑な加工を行っていました。
ミスをすると顧客に誤った報告をすることになるため慎重に実施し、ほかの担当者に協力をしてもらう、つまり人による二重チェックを行っていました。さらに、膨大なデータの加工、集計処理はExcelを扱うPCの性能にも依存することもあり、毎回、対応時間が何時間もかかっていました。
こういうケースもよくありますよね。どうやって改善したら良いと思いますか?
BPMSを活用した業務の進め方
- 月初めまたは週初めにシステムが自動的に集計のプロセスを起動
- 各社内システムから集計に必要なデータを自動的に収集
- 収集したデータをあらかじめ規定したルールに基づいてシステムが加工
- 加工されたデータをもとにシステムが実績レポートを作成
- 担当者Bは作成された実績レポートの内容を確認し問題がなければ社内に展開
このケースのように、多くのBPMS製品は外部のシステムとのDB連携やExcelなどの表計算ソフトとも連携ができるアプリケーションが備わっていることが多いです。今まで手動でいくつかのcsvファイルを加工、結合していた作業も、自動化の機能によりシステムが代わりに行ってくれます。
また今まで自分のPCで手動で集計をする場合、扱うデータ量が大きくなると利用しているパソコンのスペックに依存して時間がかかってしまうことがあります。しかしシステムが自動的に処理をしてくれるため時間は要しません。さらに、BPMSシステムが自動的に作業をしてくれるので出来上がったファイルを確認するだけの手間に減ったり、人によるミスが発生しないので2重チェックを行う手間も省くことができます。
ケース3:マネージャーによる担当者管理
マネージャーCは、契約済みの顧客のサポートを行っている部門の管理者です。部門には顧客サポート業務を行うスタッフが数名おり、それぞれが担当顧客の対応をしています。
業務の解説と課題
- 担当者Dは顧客Aを担当しており、顧客対応のため毎月残業が3時間発生
- 担当者Eは顧客BとCを担当しており、顧客対応のため毎月残業が5時間発生
- 担当者Fは顧客Dを担当しており、顧客対応のため毎月残業が10時間発生
マネージャーCは担当者ごとに処理のスピード、精度等が違うことは肌感覚として認識をしていましたが実情までは把握することができていませんでした。実際、常に残業が多い社員がいるが、対応しなければならない業務の件数が多いのか、そもそもスキルの問題で対応処理時間がかかってしまっているのか、はたまたもっと効率的な業務の進め方があるのかについて正確に把握ができてないため、抜本的な対策が打てないままでいました。
BPMSを活用した業務の進め方
- 顧客ごとにどんな業務がどれくらい発生しているか把握
- 担当者ごとに業務毎の処理時間の把握
- 業務プロセスごとにボトルネックになりやすい箇所を把握
今までは顧客ごとにどれくらいの工数がかかっているのか、担当者ごとの処理スピードのばらつきを把握することができませんでした。しかし、BPMSを導入してからは、顧客ごとの対応件数などの量や担当社ごとの処理スピードなどを把握することができるようになりました。そのため不得意業務に関して教育を強化したり、担当者ごとの顧客割り当てのバランスを調整しやすくなりました。
アナログな業務管理の方法では実態を把握することが極めて困難です。人ごとに処理のスピードが異なることが肌感覚としてわかっていることは多いですが定量的ではありません。結局、処理能力の高い人間に業務が集中し優秀な人が疲弊してしまうという結果を招くことも皆さんの周りでも起きているのではないでしょうか。
しかしBPMSをうまく活用し、担当者ごとにプロセス上のどこの業務で処理時間に差が出ているのかなどを細かく確認できるようになれば、教育やツールの導入により対策を行い、誰がやってもばらつきのない業務の進め方を実現できるようになります。
BPMSは、業務プロセスのデジタル化、業務改革をするにはとても有効なITツールといえます。
当社では現状の業務プロセスの可視化、可視化した現状に基づきあるべき姿の設計、BPM導入、導入後の自走の支援までワンストップでサービスを提供させていただきます。
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1975年生まれ。株式会社アールジーン 取締役 / チーフコンサルタント。おサイフケータイの登場より数々のおサイフケータイのサービスの立ち上げに携わる。2005年に株式会社アールジーンを創業後は、AIを活用した医療関連サービス、BtoBtoC向け人工知能エンジン事業、事業会社のDXに関する事業立ち上げ支援やアドバイス、既存事業の業務プロセスを可視化、DXを支援するコンサルテーションを行っている。