デジタル活用で変わる歯科の現在と未来-株式会社Dental Prediction 宇野澤 元春氏

2022年10月、IoTNEWSの会員向けサービスの1つである、「DX事業支援サービス」の会員向け勉強会が開催された。本稿では、その中から株式会社Dental Prediction宇野澤 元春氏のセッションを紹介する。

株式会社Dental Prediction代表取締役 宇野澤 元春氏(以下、宇野澤氏)は、Dental Predictionの代表取締役であり、歯科医師でもある。宇野澤氏は「歯科業界では、今、デジタルを活用した大きな変化が起きている」と述べた。

本公演では、歯科業界のDX事業を推進している宇野澤氏に歯科業界に起きている変化と同社の取り組みについて紹介いただいた。

Dental Predictionの特徴

宇野澤氏は、日本大学松戸歯学部を卒業した後、千葉大学医学部付属病院で口腔外科の臨床研修医として従事し、千葉大学大学院の医学博士課程を修了した。その後、宇野澤氏は渡米し、ニューヨーク大学で歯科技術を修学。その後、宇野澤氏は医学と歯学の知識と歯科医師としての経験を基にDental Predictionを立ち上げた。

Dental Predictionには、現在6種類の専門医が在籍している。
Dental Predictionには、現在6種類の専門医が在籍している。

Dental Predictionでは、宇野澤氏がニューヨーク大学に在学していた当時の講師が役員を務めており、さらに下記6種類の科の専門医が在籍している。

  • 虫歯や歯の根の治療を行う「歯内療法科」
  • 口腔内の状態や生活習慣病などの全身的な状態に応じて予防・治療を行う「歯周治療科」
  • 歯の欠けた患者に対して、被せ物などの治療を行う「補綴歯科」
  • 歯並びを治す治療を行う「矯正歯科」
  • 人工歯根によるインプラント治療を行う「口腔インプラント科」
  • 口腔内スキャナーやCAD/CAMを使った、低侵襲な治療を行う「デジタル歯科」

宇野澤氏は、「各科の専門医が集結したDental Predictionでは、歯科業界の課題に対して、専門医の知識や経験とデジタルを活用することで解決する」とした。

Dental Prediction のソリューション

Dental Predictionは、歯科医師から受け取ったCT画像を独自の技術で処理し、3Dモデルを作成している。また、作成した3Dモデルは、XRのコンテンツ作成やデジタル模型の作成に活用されている。
Dental Predictionは、歯科医師から受け取ったCT画像を独自の技術で処理し、3Dモデルを作成している。また、作成した3Dモデルは、XRのコンテンツ作成やデジタル模型の作成に活用されている。

Dental Predictionでは、CT画像から3Dモデルを作成し、デジタル模型やARコンテンツを提供する「DenPre3DLab」と、XRとデジタル模型を活用した診断・治療指導を行うサービスを提供している。

同社は、「DenPre3DLab」や診断・治療指導を通して、歯科業界が抱える「治療前のトレーニング」や「治療前のシミュレーション」、「経験の浅い歯科医師による治療」における課題を解決し、歯科医師の治療技術の向上を支援している。

宇野澤氏は、「我々が提供するデジタル模型やARコンテンツは、患者の口腔内を完全に再現するものではなく、あくまでも参考程度に活用してほしい」と述べた。

ユースケース①:治療前のトレーニング

歯科医師は、高度な技術が求められる治療行為を行うため、豚の顎骨やマネキンを使用した治療トレーニングを休みの日や空いた時間に行ってる。しかし、豚の顎骨やマネキンでは、患者毎に異なる神経や動脈、歯の角度などを再現できないため、精度の高いトレーニングを行うことができない。

歯科医師は、精度の高いトレーニングを行うために患者の口腔内の構造を再現した模型を使うべきだが、歯科業界特有の課題があるため、豚の顎骨やマネキンを使ったトレーニングが一般的になっている。

宇野澤氏によれば、「これまでに歯科業界では、患者のCT画像から作成した3Dモデルを治療トレーニングで使用しようと試みたことがある。しかし、クリニックなどの小規模に展開することが多い歯科業界では、高額な3Dモデル作成ソフトを導入することが難しく、3Dモデルを活用した治療トレーニングが広まることはなかった」という。

また、すでに治療が進んでいる患者は、金属を利用した補綴治療(欠損した歯に対して、被せ物を施す治療)を受けている可能性が高い。そういった患者の口腔内をCT撮影すると、CT画像内に金属部分を中心とした線状のノイズが発生するため、ノイズ除去処理をしないといけないのだが、ここでも手間やコストがかかる。

現在、歯科医は治療前のトレーニングで豚の顎骨やマネキンを使用しているが、これからは、デジタル模型を活用する。
現在、歯科医は治療前のトレーニングで豚の顎骨やマネキンを使用しているが、これからは、デジタル模型を活用する。

Dental Predictionは、「DenPre3DLab」を提供することで、デジタル模型を使った精度の高い治療トレーニングを実現するのだ。具体的には同社が、歯科医師から患者のCT画像を受け取り、独自の画像処理技術でノイズを除去し、CT画像を重ねた時にできる段差を滑らかにするスムージング処理を加えた3Dモデルを作成する。そして、3Dモデルを3Dプリンターへ入力し、デジタル模型を作成する。

このデジタル模型は、骨や歯、神経に加え、独自開発の素材を活用して歯茎も再現している。同社は、「DenPre3DLab」を月額2,000円と、画像処理や解析をする場合は1症例毎に10,000円という価格でサービスを提供している。

ユースケース②:治療前のシミュレーション

これまで、歯科業界では、紙やCT画像を活用して治療シミュレーションを実施してきた。しかし、紙や画像では、立体的に器具の挿入角度や動脈の位置などを確認することができず、得られる情報に限界があった。

この画像は、Dental PredictionとHoloeyesが協力して提供する VRコンテンツのイメージである。
この画像は、Dental PredictionとHoloeyesが協力して提供する VRコンテンツのイメージである。

Dental Predictionは、Holoeyesと協力し、患者のCT画像から作成した3Dモデルを基にしたVRコンテンツを提供している。歯科医師は、VRコンテンツを活用することで、立体的な情報を基に治療シミュレーションを行うことができる。

さらに、Dental Predictionは、VRデバイスを導入できていない歯科医院でも、手持ちのスマートフォンで治療シミュレーションを行えるARコンテンツの提供も行なっている。

本講演で宇野澤氏は、「DenPre3DLab」で提供するARコンテンツのサンプルを披露した。同社のARコンテンツは、スマートフォンのカメラ機能でQRコードを読み取ることで使用できる。

この画像は、「DenPre3DLab」で提供するARコンテンツのサンプルだ。歯と神経が3Dポリゴンで表現されている。
この画像は、「DenPre3DLab」で提供するARコンテンツのサンプルだ。歯と神経が3Dポリゴンで表現されている。

歯科医は、このARコンテンツを活用することで、実際に削らないとわからない神経の位置(上の画像、緑色で示されている)や病辺の予測をスマートフォンで行うことができる。また、ARコンテンツは、歯だけではなく口腔内のCT画像を表示することができるため、歯科医師が患者に対して行う治療説明にも活用できる。

ユースケース③:経験の浅い歯科医師による治療

宇野澤氏によれば、「医科では、医師を含む様々な医療スタッフがチームを組んで治療にあたるのだが、歯科は医師が単独で治療にあたるという特性がある。そのため、歯科医師個人に高い治療技術が求められるのだ。しかし、情報のインプットだけでは歯科の治療技術を取得できず、アウトプットの場が必要となる。」という。

特に経験の浅い歯科医師は、経験したことのない症例の診断・治療を行う場合、医療ミスが発生する可能性が高いため、不安を抱えたまま診断・治療を行う。

そこで、Dental Predictionは、診断・治療の技術指導と治療支援を行う。具体的には、同社に在籍するメンバーが指導医となり、経験の浅い歯科医師に対してARコンテンツを用いた治療シミュレーションを行い、そのシミュレーションを受けた経験の浅い歯科医師は、実際にデジタル模型を使って実習する。そして、指導医がフィードバックを行う。

経験の浅い歯科医師は、デジタル模型を使った実習で治療を経験するため、自信を持って診断・治療を行うことができ、治療中は、同社による治療支援が受けられるため医療ミスが発生し辛くなる。

Dental Prediction による5GとXRを活用した国内外の取り組み

宇野澤氏は、「これまで、Dental Predictionでは、人員リソースの面で、課題があったため、サービスの提供を関東に限定していたが、サービス提供地域を広範囲へ広げるため、5Gを活用した実証実験に取り組んでいる」と述べた。

この画像は、宇野澤氏が大阪の歯科医師に対して、VRを活用した治療説明を行っているシーンである。
この画像は、宇野澤氏が大阪の歯科医師に対して、VRを活用した治療説明を行っているシーンである。

Dental Predictionは、大阪産業局のIoT・ロボットビジネス実証実験支援プログラム「AIDORエクスペリメンテーション」の一環として、2021年7月にHoloeyesとソフトバンクと共に5GとXRを活用した治療支援における実証実験を実施した。

今回の実証実験でDental Predictionは、東京にいる宇野澤氏が指導医として大阪の歯科医師にARコンテンツやVRコンテンツを通して、治療方法の指導と治療支援を行った。

具体的には、指導医が大阪の歯科医師に対し、患者のデータを基に同社が作成した3DモデルをVRコンテンツで共有し、診断や治療の症例検討を行った後に解剖の手順を確認する。その後、指導医はARコンテンツを操作しながらデジタル模型を使って治療方法を指導し、大阪の歯科医師は、指導を受けながらデジタル模型に治療の実習を行う。

最終的に、指導医は東京に居ながら大阪で治療をしている歯科医の支援をARコンテンツを通して行った。

同社は、ニューヨーク大学(アメリカ)、キングサウード大学(サウジアラビア)、メルボルン大学(オーストラリア)などの海外の大学と連携しており、2021年12月には、シンガポールの歯科医師に対して5GとXRを活用した遠隔医療の実証実験を実施するなど海外に向けた取り組みも進めている。

その他、同社の海外に向けた取り組みとしては、2023年1月にドバイで開催する「アラブヘルス2023」への出展も決まっている。

最後に宇野澤氏は、「今後は、国内外の大学と連携して、金銭的な理由や時間的な理由で海外留学を断念している医師に対して、どこにいても最新の治療と治療器具の体験と相談ができる場を提供したい」と締め括った。

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