日本の林業は、現在、戦後の積極的な造林により人工林の半数以上が伐採適齢期を迎えており、林野庁の発表によると、国産材利用の増加等を背景に木材自給率が上昇傾向にある。一方で、林業従事者数は30年間で約1/3まで減少している。加えて、林業従事者は伐木作業中の倒木事故などの労働災害が多く、死傷率は全産業平均の約10倍と最も高く、早期の対応が急務とされている。
また、持続可能な森づくりや災害対策の観点から、伐採後の植林や育林の必要性が高まっているが、シカ等の動物による新苗等への食害が深刻になっている。
このような課題に対応するため、IoTの活用が期待されているが、山間部では、IoTを活用するための通信環境そのものが整っていないことが問題となっている。
こうした中、山梨県小菅村、北都留森林組合、株式会社boonboon、株式会社さとゆめ、東日本電信電話株式会社(以下、NTT東日本)は、豊富な森林資源を有する小菅村山間部にIoTを実装して、林業に関する課題解決及びSmart Villageの実現に向けた実証実験を2020年2月から開始する。
同実証実験ではまず、森林面積95%の小菅村に、LPWAの規格で最大送信出力である250mWの機器で長距離通信を可能にし、中継機のメッシュマルチホップ機能により広範囲へのエリア拡張を実現することで、従来無線の届きにくかった山間部のネットワーク環境を構築する。メッシュマルチホップ機能とは、無線機に備え付けられたセンサーを中継器として利用し、広範囲におよぶ通信を可能とするネットワーク技術のことである。
そして、以下の内容を2月中旬から9月までの期間、実施する。
- 林業従事者の労働災害抑止
双方向通信可能な子機や専用アプリを活用して、以下の3つの仕組みを提供する。これにより、緊急時の現場から事務所への救助要請や、業務を円滑化するコミュニケーションが可能となる。- SOS発信
伐木作業中の倒木事故等で負傷した際、子機本体のボタンを押下することで、SOS信号を発信できる。また、子機に内蔵された加速度センサーにより転落など急な衝撃をもとにトラブルを検知し、SOS信号の自動発信も可能で、緊急事態の早期発見・早期対応に貢献する。 - 位置情報把握
子機内臓のGPSで補足した作業者の位置情報を地図上に表示することで、救助要請者の居場所を把握でき、迅速かつ効率的な救助を実現する。 - チャットコミュニケーション
専用アプリを介して、テキストや位置情報をチャットで送受信することで、これまで携帯電話の電波が届く所まで移動して行っていた業務連絡等の作業効率化が図れる。
- SOS発信
- シカ等の獣害対策
子機に内蔵されたセンサーが罠の作動を検知した際、予め指定した宛先に捕獲通知がされ、捕獲の早期発見・駆け付けや巡回ルートの最適化が可能になる。また、巡回が困難な場所には、カメラを設置して、捕獲有無や害獣種別・大きさ等を画像で確認することで、巡回稼働の効率化を図る。
各社の役割は以下の通り。
- 山梨県小菅村
・実証実験フィールドの提供
・街づくり政策案の検討 - 北都留森林組合
・林業業界に係る知見の提供
・ICTを活用した労働災害抑止のユーザビリティや効果の測定 - boonboon
・獣害対策に係る知見の提供
・ICTを活用した獣害対策のユーザビリティや効果の測定 - さとゆめ
・他ユースケースへのLPWA活用の検討 - NTT東日本
・実証実験全体の企画・運営
・林業業界における最適な無線通信環境やユースケースの検証とノウハウ蓄積
今後は、多様なパートナーとともに、林業業界の他の課題へのICT実装やデジタルトランスフォーメンション化の検討を進める。また、同実証実験で整備したLPWAのネットワークをSmart villageの基盤として、他の産業への活用を通じた地域の活性化や地域経済の循環を目指すとした。
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