2016年度診療報酬改定では、医薬品・医療機器の評価に関して「費用対効果評価制度(※1)」が試行的に導入され、2019年4月より本格実施されている。これは、高額な医療技術の増加による医療保険財政への影響についての懸念などに対応するものだ。また、制度の変化に対応するため、今後臨床試験の早期フェーズから医療経済評価を考慮した製品開発戦略を立案することが重要になると考えられている。
そのため、医薬品・医療機器メーカーでは、医療経済評価の担当者が以下の天順により費用対効果の評価を実施する必要がある。
- 医学論文などからQoLに関する情報、さらには診療情報や費用を含むリアルワールドデータ(※2)など膨大な情報ソースから、当該薬・機器に関する「効果」と「総費用」に関連する適切なデータを収集
- それらのデータを基に、標準的な診療パターン、パラメータの設定、コスト集計などを行って、生存年とQoLの関係指標QALY(※3)や総診療費用推計、新薬・新医療機器による増分コストと効用の関係指標ICER(※4)などを算出
しかし、これらの作業には医療経済評価に関する幅広い知識と経験が必要であり、膨大な時間と手間がかかるという課題がある。
そこで、株式会社日立製作所(以下、日立)は、AIを活用して、新規に開発する医薬品・医療機器の費用対効果評価の高度な解析を支援する「Hitachi Digital Solutions for Pharma/医療経済評価ソリューション」を本日から提供開始した。
「Hitachi Digital Solutions for Pharma」は、医学論文などのオープンなデータや診療情報などのリアルワールドデータなどの医薬品業界に関するデータを収集・蓄積・分析して、医薬品バリューチェーンでのイノベーションを支援するLumadaのサービス群だ。治験情報提供サービス、バイオマーカー探索サービスなどを提供しており、順次サービスメニューの拡充・提供を行っている。
今回提供開始された医療経済評価ソリューションは、従来、医療経済評価の専門家が医学論文や治験、診療情報などの膨大なデータを基に行っていた解析作業を、日立独自のAI技術を活用したビッグデータ分析を行うことで、高効率に費用対効果の算出根拠に必要なパラメータ(※5)の抽出や因子の探索が行え、医薬品・医療機器メーカーの事業拡大支援と患者のQoL向上に貢献する。
同ソリューションでは、まず、医薬品・医療機器メーカーとともに、対象薬・機器の分析に用いるモデル選定や比較対象技術の論文調査を行う。そして、以下の費用対効果分析と層別化因子解析を行い、レポートとして顧客に提供する。
- AIを活用し、膨大なデータから費用対効果の算出根拠に必要なパラメータ抽出の効率化を実現
日立のAI技術であるテキスト構造化技術(※6)や診療プロセス解析技術(※7)を用いて、膨大なデータから費用対効果評価の算出根拠に必要なパラメータを抽出する作業を、解析者の経験に依存することなく、効率よく実施することができる。 - AIを活用した層別化因子の探索が可能で、製品開発戦略立案におけるシミュレーション業務を効率化・高度化
医薬品・医療機器の製品開発戦略立案では、対象薬・機器を有効性や安全性などの観点でグルーピングして、医療経済評価を踏まえた事業性評価のシミュレーションを行う必要があり、専門知識を有する研究者が行っていた。同ソリューションでは、AIを使った層別化因子解析技術(※8)を活用しており、奏効/非奏効や有害事象の発生率などに影響をあたえる因子の探索ができ、これまで熟練者に依存していた製品開発戦略立案業務の効率化と高度化が図れる。
同ソリューションのメニュー内容は以下の通り。
- 分析手順作成支援
- 分析に用いるモデルなど分析方法の決定
- 比較対照技術の論文調査(システマティックレビュー)の実施
- 費用対効果評価分析
- 決定した分析方法に従い、医学論文・治験・診療情報などの医療データからの必要なパラメータの抽出(コストデータ抽出等)
- モデルとパラメータを用いたシミュレーションによる分析
- 層別化因子解析
- 奏効/非奏効や、有害事象の発生率などに影響をあたえる因子の探索
日立は、同ソリューションを開発にあたり、2018年に国内医薬品メーカーと共同で評価検証を行い、その有効性を確認した。また、医療経済評価の分析手順について医療経済学会理事である国際医療福祉大学医学部の池田俊也教授が監修した。
※1 費用対効果評価制度:医薬品や医療機器の費用対効果を評価し、それに基づいて保険償還の価格調整を行なう制度(医政発0329第43号「医薬品、医療機器及び再生医療等製品の費用対効果評価に関する取扱いについて」、厚生労働省「平成28年度診療報酬改定説明会(平成28年3月4日開催)資料」)
※2 臨床現場から得られるデータ(レセプト診療報酬請求)、DPC(入院時医療の包括払い制度)、電子カルテ、健診等
※3 Quality Adjusted Life Years(質調整生存年)。評価する医療技術により、患者の生存年数とQOLがどれだけ向上するかの指標
※4 Incremental Cost-Effectiveness Ratio(増分費用対効果比)。QALY1単位を得るために必要なコスト
※5 ICERを計算するための、病態遷移モデルの遷移確率、各病態でのQoL・コストなどのデータ
※6 医薬分野で特有の複雑な単語同士の関係を抽出し、知識化する技術
※7 診療プロセスにおける診療行為を、辞書等を基に意味づけし、グラフ化する技術
※8 人による作業では作業量が膨大となるような多数の候補因子がある場合(因子数500~)でも、AIにより迅速に奏功群や有害事象の発生率などに影響をあたえる因子の探索を可能にする技術
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