AIに仕事を頼む技術 —なぜ「営業資料を作って」と頼むと失敗するのか?

「ChatGPTを全社員に導入しました」 「生成AI活用コンテストを行いました」

2024年以降、そんなニュースをよく目にするようになりました。

しかし、それらの企業から聞こえてくる「現場の本音」は、必ずしも明るいものばかりではありません。

「結局、メールの下書きくらいにしか使っていない」「AIに指示を書くのが面倒で、自分でやった方が早い」

そして、ある程度AIを使いこなしている人たちでさえ、「企画のアイデア出しや『壁打ち』相手にはなるが、実際の資料作成などの実務は結局自分でやっている」 というのが実情ではないでしょうか。

つまり、「仕事が減った実感が全くない」のです。

「魔法の杖」を手に入れたはずなのに、なぜ、私たちの仕事は楽にならないのでしょうか?

その原因は、私たちがAIを「検索エンジンの延長」や「ただの賢い辞書」、あるいは「話し相手」として扱っていることにあります。

AIを本当の「労働力」として使い、仕事を「完遂」させるためには、アプローチを根本から変える必要があります。

必要なのは、業務をAIが理解できる単位までバラバラにする「タスク分解」と、それを自律的に実行させる「エージェント化」の技術なのです。

今回は、AIを「自律的に働く相棒」に変えるための、具体的なやり方を解説します。

なぜ、「営業資料を作って」と頼むと失敗するのか?

まず、よくある失敗例から見ていきましょう。

「来週、A社に訪問するから、いい感じの提案資料を作っておいて」

そう言ってAIに指示を投げた経験はないでしょうか?

そしてAIが出してきたのは、

「貴社の課題を解決します」
「顧客満足度を向上させます」

といった、どの会社にも当てはまるような「毒にも薬にもならない、当たり障りのない文章」。

結局、人間がゼロから企業のHPを調べて、書き直す羽目になる、そんな経験はありませんか?

なぜこうなるのでしょうか?AIの性能が低いから?いいえ、違います。

指示の解像度が粗すぎるのです。

私たち人間にとって「提案資料を作る」は一言で済むタスクですが、実はこれは高度な「複合タスク」の集合体です。

提案資料を作るというタスクを要素に分解してみる

調査: A社の公式サイトやニュースを見て、最新の中期経営計画や動向を把握する。

抽出: A社が抱えているであろう「課題」や「注力領域」を特定する。

照合: 自社の製品・サービスの強み(スペックや事例)と、A社の課題をぶつけ合わせる。

構成: 相手に響くストーリー(起承転結)を組み立てる。

執筆: スライドごとの文言に落とし込む。

優秀な営業マンは、これを無意識に脳内で処理しています。

しかし、AIにはその「無意識の文脈」がありません。

これら5つの工程をごちゃ混ぜにして「提案して」と丸投げされれば、AIは混乱して、ハルシネーションを含む、一般的な回答しか出せないのは当然なのです。

「タスク分解」の技法 ——AIが処理できる最小単位とは

では、使える提案資料をAIに作ってもらいたい時は、どうすればいいのでしょうか。

答えはシンプルです。業務を「AIが迷わず実行できる最小単位」まで分解するのです。

私はよく、業務を以下の3要素で分解することをお勧めしています。

Input(入力): 何を見て?
Process(処理): 何をして?
Output(出力): 何を出すか?

例えば、先ほどの「営業資料作成」という業務なら、こう分解します。

×悪い依頼:
「A社の提案資料を作って」

○良い分解:
「以下のタスクを順番に処理して、A社の提案資料を作って」

■タスク1(調査):
A社のURLやニュースから「中期経営計画」や「動向」を把握する
(Input: URL/企業名 → Process: 検索/スクレイピング → Output: 要約テキスト)

■タスク2(抽出):
テキストから「経営課題」や「注力領域」を特定する(箇条書きで3つ挙げる)
(Input: 要約テキスト → Process: 構造化データ抽出 → Output: 経営課題リスト3選)

■タスク3(照合):
抽出した課題に対し、自社製品で解決できるポイントを挙げる
自社製品やサービスの強みをスペックシートや事例集を参照し、A社の課題をぶつけ合わせる
(Input: 経営課題リスト+自社ナレッジ(RAG) → Process: ナレッジ検索 & マッチング推論 → Output: ソリューション提案の骨子)

■タスク4(構成):
相手に響くストーリーを組み立てる
(Input: ソリューション提案の骨子 → Process: 構成案作成 → Output: スライド構成案(スライドのタイトルとキーメッセージ))

■タスク5(執筆):
スライドごとの文章に落とし込む
(Input: スライド構成案 → Process: ドラフティング → Output: スライド原稿)

このようにタスク分解すれば、AIは「何をすればいいか」迷いません。

「検索はこのAIに」「資料作成はこのAIに」と使い分けることも可能になります。

「チャット」から「エージェント」へ

「理屈はわかるけど、そんな細かい指示を毎回チャットで打つ方が面倒だよ」 そう思った方もいるでしょう。

その通りです。毎回コピペしていては日が暮れます。

そこで登場するのが、「AIエージェント」です。

エージェントとは、先ほど分解したタスク(1〜5)を、あらかじめプログラムされた手順(ワークフロー)に従って、自律的に連続実行する仕組みのことです。

チャットボットが「人間が都度プロンプトを入力して待つ」道具だとすれば、エージェントは「一度手順を教えれば、あとはゴールまで自走する」ロボットのようなものです。

人間がやるのは、最初の「A社」という社名(またはURL)を入れるだけ。あとはエージェントが勝手に検索し、課題を見つけ、自社製品と照らし合わせ、提案書の構成案を作って、「終わりました」と報告してくるのです。

つまり、本来AIに指示を出す際に目指すべきは、チャットでうまく答えを引き出せる方法論ではなく、「エージェント」の構築なのです。

【実践編】冒頭の「営業資料作成」はどうすれば解決する?

ここで、冒頭の「失敗した営業資料」の話に戻りましょう。

タスク分解とエージェント化の考え方を使うと、この業務はどう生まれ変わるのでしょうか?

正解は、「資料を作って」という1つの指示ではなく、以下のような「5ステップのエージェント・フロー」を組むことです。

実際にDifyなどを使ってエージェント・フローを組む場合のプロンプト(指示)の例を以下に示します。

それぞれ何をしているかは、自然言語で書かれているので、見れば同具体的な指示を出せば良いかが理解できるはずです。

ステップ1:ターゲット調査(Research)

あなたは優秀なリサーチャーです。
ターゲット企業である `{{company_name}}` について、以下の観点でWeb検索を行い、情報を収集・要約してください。

# 検索・抽出の観点
1. **中期経営計画:** 最新の計画における「全社方針」と「注力投資領域」は何か?
2. **直近のニュース:** 過去1年以内のニュースで、業務提携、新店舗オープン、DX推進などの動きはあるか?
3. **社長メッセージ:** トップがインタビュー等で語っている「危機感」や「将来ビジョン」は何か?

# 出力形式
それぞれの観点について、箇条書きで簡潔にまとめた「企業動向サマリー」を出力してください。

ステップ2:課題の抽出(Analysis)

あなたはプロのビジネスアナリストです。
ステップ1で得られた「企業動向サマリー」を分析し、この企業が抱えているであろう「経営課題」を3つ特定してください。

# 入力情報
{{step1_summary}}

# 思考プロセス
単にテキストから抜き出すだけでなく、その背景にある「現場の課題」を推論してください。
(例:「店舗拡大中」→「店長育成が間に合っていない」「在庫管理が煩雑化している」など)

# 出力形式
以下のフォーマットで3つの課題を出力してください。
1. **課題タイトル:** (例:多店舗展開に伴う在庫管理の複雑化)
2. **推論の根拠:** (サマリーのどの部分からそう判断したか)
3. **検索用キーワード:** (次のステップで自社事例を探すための単語。例:在庫適正化, 自動発注, 業務標準化)

ステップ3:ソリューションの照合(Matching)

あなたはソリューション・アーキテクトです。
「ターゲット企業の課題」と、検索された「自社のナレッジ(製品・事例)」を突き合わせ、最適な解決策を提示してください。

# 入力情報
– ターゲット企業の課題: {{step2_issues}}
– 参照した自社ナレッジ: {{context}} # 指示
課題ごとに、最も効果的な自社製品または機能を1つ選定し、その理由を論理的に説明してください。
「なぜなら、同業他社の〇〇社も同様の課題をこの機能で解決したからです」というように、事例(Evidence)を必ず含めること。

# 出力形式
## 提案の骨子
– **アプローチする課題:**
– **提案する解決策(機能名):**
– **選定理由と事例:**

ステップ4:ドラフト作成(Drafting)

あなたはトップセールスの提案書ライターです。
ステップ3の「提案の骨子」を基に、相手の心に響く提案資料の構成案(全5スライド)を作成してください。

# 入力情報
{{step3_matching_result}}

# 制約条件
– 全体のストーリーは「起承転結」を意識すること。
– 各スライドには、スライドのタイトルだけでなく、具体的な「ボディコピー(本文)」まで書くこと。
– 専門用語を使わず、経営層にも伝わる平易で力強い言葉を使うこと。

# 出力形式
Markdown形式で出力してください。

## スライド1:表紙 & キャッチコピー
– タイトル:
– キャッチコピー: (課題解決後の未来を一言で表す)

## スライド2:現状の課題(共感)
– タイトル:
– ボディコピー: (御社の現状はこうではありませんか?という問いかけ)

## スライド3:解決策の提示(自社製品)
– タイトル:
– ボディコピー: (ズバリ、この機能で解決します)

## スライド4:導入効果の証明(事例)
– タイトル:
– ボディコピー: (同業他社での数値的成果)

## スライド5:未来の展望(ROI)
– タイトル:
– ボディコピー: (導入後に御社が得られるメリットとネクストアクション)

ステップ5: 提案資料生成

### ステップ5: 提案資料生成(Coding)

あなたは、世界トップクラスのプレゼンテーション・デザイナー兼Marpエンジニアです。
ステップ4で作成された「提案書ドラフト」を、スライド生成ツール「Marp」で読み込めるMarkdown形式に変換してください。

# 入力情報
{{step4_draft}}

# 制約事項とデザインルール
1. **基本設定:**
コード冒頭には必ず以下のFront-matterを含めること。
“`yaml

marp: true
theme: gaia
size: 16:9
paginate: true

“`

2. **スライド構成:**
– **タイトルスライド:** 先頭行に “ を記述し、背景反転でインパクトを出す。
– **通常スライド:** ヘッダー(#)と箇条書き(-)で構成する。

3. **視覚演出:**
– 重要な数字は `**太字**` にする。
– 画像配置は `![bg right:40%](https://dummyimage.com/600×400/cccccc/555555&text=Image)` 等のプレースホルダーを使用する。

# 重要
– **JSON形式は使用しないこと。**
– 解説は不要。Markdownコードのみを出力すること。

出来上がったデータは、Marp対応ツールなどを使えば、その場でスライドになります。

AIを監督する新しい仕事

エージェント化に成功すると、人間の仕事は激変します。

顧客のHPを隅から隅まで読む必要はありません。過去の提案の事例集をひっくり返して探す必要もありません。

人間に残された、そして人間にしかできない重要な仕事。

それは、エージェントが上げた成果物をチェックし、承認する「監督」としての役割です。

「この課題分析は鋭いけど、提案する製品はこっちの方がいいな」

「論理は合っているけど、相手の担当者の性格を考えると、もう少し柔らかい表現にしよう」

「この情報は古いから修正が必要だ」

AIはまだ完璧ではありません。たまに嘘(ハルシネーション)もつきます。

だからこそ、最後の砦として人間がこのプロセスの中に入り、品質を担保するのです。

あなたは「作業者」を卒業し、AIという優秀な部下を束ねる「監督者」になる。これこそが、AI時代の正しい働き方なのです。

「業務の設計図」を描ける企業が勝つ

AI導入の成否は、高価なツールを買うことではなく、泥臭い「タスク分解」ができるかどうかにかかっています。

この「業務の設計図」を描ける企業だけが、AIを本当の同僚として迎え入れることができます。

しかし、実務において最も難しいのは、AIを使うことではなく、「自分の無意識の業務を、AIにわかる言葉で定義し直す(=分解する)」ことそのものです。

「自分の業務のどこがエージェント化できるかわからない」 「分解してみたが、プロンプトがうまく書けない」

そうした壁にぶつかった時は、ぜひ私たちにご相談ください。

IoTNEWSの提供する「AIBoost」では、このプロセスをワンストップで支援しています。

AI導入戦略相談(分解):
御社の業務を棚卸しし、「どこをAIに任せるべきか」をタスクレベルまで分解・選定します。

エージェント開発(構築):
分解したタスクを自動実行する、御社専用のAIエージェントをプロトタイプ開発します。

実践的AI教育(定着):
社員の皆様が、AIの「監督者」として活躍できるよう、指示出しや評価のスキルを教育します。

「チャットボットを入れたけど楽にならない」と悩んでいる皆様。それはAIのせいではなく、「頼み方」の問題かもしれません。

まずは御社の業務の「分解」から始めませんか?

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