熱狂するロボット、その先に「使える未来」はあるのか ーCES2026レポート3

CES2026レポートの第三弾は、人型ロボットについて。

第二弾で、フィジカルAIを推しているエヌビディアと、それに呼応する形で動く産業界について解説した。

このトレンドの中で、人型ロボットも急速に注目を集めていて、CES2026の会場でも、ロボットが主役級の賑わいを見せている。

格闘をするロボット、マラソンで“中国一”を競うロボット。映像映えするデモは人だかりを生み、SNSでも拡散されている。

一方で、洗濯物を畳む、物を仕分けるといった「生活や現場に近い作業」のロボットを見ると、動きはゆっくりで、慎重にさえ見える。

正直なところ「これ、実用に耐えるの?」と感じた人も多いはずだ。

では、この「ギャップ」は今後解消されるのか。

それとも、人型ロボットは派手なデモ止まりで、決定的なユースケースは生まれにくいのか。

本稿では、CESで見える現象を「技術」「プロダクト」「市場」の3つの視点から整理し、現実的な未来像を考察する。

なぜ「格闘・マラソン」は盛り上がり、「畳む・仕分ける」はイマイチに見えるのか

まず前提として、ロボットの「見せ方」と「使い道」は別物だ。

格闘や走行は、ロボットの基礎能力を派手に示せる効果がある。

バランス制御、転倒耐性、関節出力、加減速、制御の応答性・・・観客が直感的に「すごい」と感じやすい性能指標がわかりやすく表現される。

つまり、競技デモは能力のショーケースとして優れているのだ。

一方、洗濯物を畳む・仕分けるといった作業は、観客にとって「地味」であるだけでなく、ロボットにとっての難所が凝縮されている。

特に布の扱いは厄介だ。

掴んだ瞬間に形が変わり、重なり、裏返り、シワの状態が無数に分岐する。

人間にとっては、単純に見えるし、当たり前にやっていることだが、ロボットにとっては状態が多すぎて、成功率を上げるには認識・把持・触覚・力制御・リカバリ動作といった様々な能力が必要となる。

その結果として、デモは慎重にならざるを得なくなるし、遅く感じる。

さらにCESという舞台も影響するのかもしれない。

人前でのデモは安全性を大切にするからだ。

落下や衝突、挟み込みはブランドにとって悪影響があるため、速度も力も抑えて、手堅く成功するように設計しがちだ。

だから「遅い」という印象が強まってしまう。

つまり、会場で見える「物足りなさ」は、単に技術が未熟というより「難所を安全に見せている」ことの副作用でもある。

今後、状況は改善するのか?

こういった物足りなさが今後改善するのか?について、結論から言うと、改善する可能性は高いといえる。

特に改善余地が大きいのは「遅さ」そのものではなく、「失敗率」と「例外対応」だ。

実運用で嫌われるのは「遅いロボット」より「止まるロボット」である。

止まる、落とす、引っかかる、想定外の姿勢で固まる。こうしたことがよく起きることが一番のコスト要素となるからだ。

しかし、ここで効いてくるのが、AIの進化だ。

近年のロボットは、単なる動作生成ではなく「状況理解 → 手順分解 → 実行 → 失敗からの復帰」という一連の流れ全体に関して、「賢く」していく方向に進んでいるといえる。

つまり、ロボットが「賢く迷える」ようになるほど、実用性は上がるのだ。

エヌビディアの講演でもあったように、今や身近にはなかなか起きないような状況もバーチャル空間上に生み出すことができるようになりシミュレーションを行うことができる。そして、それを前提としたロボットの頭脳は、あらゆるシーンでの訓練が可能となる。

その結果、ロボットが飛躍的に「賢く」なることは間違いないと言える。

また、触覚センサーや力制御の進歩も重要だ。

例えば、仕分けやピッキングをロボットが行う場合、認識だけでなく「触って分かる」情報が必要になる。

CES2026 ロボットの触覚

滑る、柔らかい、重い、引っかかる・・・こういった感触を指先で検知し、力を微調整しながら動かせるようになると、失敗率が下がる。

速度は後から上げられるが、まず必要なのは「繰り返し成功する」ことである。

そしてもう一つ、意外に見落とされがちなのが「遅さが許されるユースケース」の存在だ。

家事は、必ずしも「今すぐ」完了する必要がない。

「夜のうちに畳んでおいてくれ」「朝までに仕分けされていれば良い」という価値が成立するなら、速度は絶対条件ではなくなる。

もちろん、その場合でもコストが釣り合うかは別問題だが、「遅い=使えない」とは言い切れないだろう。

それでも「決定的なユースケース」が生まれにくい理由

改善が見込める一方で、万能家事ロボのような、わかりやすい、誰でも欲しいと感じる「決定的なユースケース」が短期で立ちにくい理由もはっきりしている。

CES2026 NEURAVERCEのロボットたち

第一に、コストだ。

人型で両腕があり、多指で器用に動かすロボットは、構造が複雑で、製造も保守も高くなる。

家庭向けで最も普及した成功モデルといえば、掃除ロボットだが、この本質は「単機能で価格が現実的」「環境を選ばず動く」「止まらない」ということが三拍子揃っていたはずだ。

逆に、家事全般をやろうとすると難易度もコストも跳ね上がってしまい、実現は難しくなる。

第二には、家庭環境は例外だらけということだ。

床にモノがある、狭い、子どもやペットが入る、収納が統一されていない、洗濯物の種類も置き方も毎回違う・・・

工場や倉庫より変動が大きく、運用設計が難しい。

つまり、家庭で「何でも屋」を成立させるには、技術だけでなく生活環境そのものを再設計する必要がある。

第三に、企業現場ですら「ロボットを入れる」だけではROIが出ないことが多いということだ。

ロボットが得意な形に向上のレイアウトを寄せる、棚や容器を標準化する、治具を作る、動線を整える・・・

こうした「半構造化」の投資が入ることで解消できる可能性が高まるが、ここまでやり切れる企業は限られる。

ロボットの普及は、技術だけでなく現場の意思決定と設計能力にも依存するのだ。

まず伸びるのは、「万能」ではなく「用途特化×環境設計」

ではユースケースがないのかというと、そうではない。

むしろ伸びる領域は明確だ。キーワードは「半構造化」「用途を絞る」「人と分業する」である。

例えば物流。仕分けやピッキングは難しいが、現場側が容器・バーコード・棚配置・搬送を整えれば、成功率は上がる。

工場でも同様で、部品供給、治具へのセット、検査補助などは、工程設計とセットで導入すると現実味が増す。

施設や店舗での巡回、清掃、搬送、夜間作業も、時間制約が緩く、動線を設計しやすい分、導入の確度が高い。

家庭でも可能性はある。

ただし「一体の人型ロボが全部やる」のではなく、家電・収納・動線を含む「仕組み」側にロボ機能が溶け込む形が現実的だ。

例えば、ランドリーの一連の流れを前提にしたステーション化、収納の規格化、ロボが扱いやすい形の環境を先に作る。

ロボット単体で世界を変えるのではなく、ロボが働きやすい世界を作るという発想が当面は鍵になるだろう。

しかし、家庭ではそのために多額の費用をかけたり、ロボットが動きやすい家をわざわざ買おうという方は少ないのではないだろうか。

こう考えると、エンタメやホビー用、もしくは、ロボット掃除機脳ような用途が限定できるものとならざるを得ないのではないか。

CESの熱狂は「序章」勝者は地味なところで決まる

CES2026のロボット熱は、ロボ時代の到来を示す一方で、まだ「競技会」の色が濃い。

特に、2025年に人型ロボットが大きく話題になったことから、人型ロボットの出展が多かった。

ヒュンダイに買収されたボストンダイナミクスの新型ロボットAtlasは、56DoFを備え、完全回転式ジョインを備えているため、首も腕も反対まで回り込むので、人のように「振り返る」と言う動作をすることなく、反対側の作業を行うことができる。

また、触覚センサをもつハンドがあるため、高度な作業も行うことができると言うことだ。

下の映像を見るとわかるが、ここまでできるなら、「役に立つシーンもありそう」と感じるのではないだろうか。

格闘やマラソンは派手だが、事業の本番は地味な領域で決まる。しかし、派手な演出の陰で実用に耐える性能があるのかどうか、コストが見合うのかどうかが、今まさに重要なポイントになっている。

失敗しない、止まらない、現場に溶け込む。そしてコストが合う。

ここを満たすために必要なのは、AIやハードの進歩だけではなく、用途を絞り、環境を整え、人と分業する設計思想だ。

だから今の状況は「ロボットに決定的ユースケースがない」ではなく、「万能を目指すほど遠回りになる」という段階にある。

改善は進むが、ユースケースは、ドラえもん的な万能ロボではなく、現場や生活の仕組みと一体化した形で、静かに生まれていく。

CESの熱狂を「未来の確約」と見るのではなく、「社会実装のための課題が可視化された」と捉えるのが、最も現実的な読み方といえるのではないだろうか。

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