日本よりも進んでいるエストニアの電子政府とは

日本政府はマイナンバーカードを利用してキャッシュレス決済を行った人に最大5千円分のポイントを還元することを来年の9月にはじめる。

狙いはいくつかあり、「現在のキャッシュレス決済還元事業が来年6月に終わるため、その際の消費の落ち込みを防ぐこと」「キャッシュレス決済そのものを普及させていくこと」があるが、特に「マイナンバーカードの普及」というのが重要な位置づけとなっている。

マイナンバーカードを普及させたいと考えているということは、裏を返せばマイナンバーが普及していないという事実があるからで、実際、マイナンバー制度がはじまって約4年が経過しているが、普及率は12.8%にとどまる。

これには、デジタル・ガバメント閣僚会議で麻生太郎財務相が「メリットがない」と指摘するように、マイナンバー制度によって受けられるサービスが国民の「使いたい」という意欲を掻き立てられていないことが原因とされている。もちろん政府としても様々な普及策を講じており、来年の1月末にはスマホとマイナンバーカードで所得税の確定申告書の作成・送信が可能となったり、再来年の3月には、同カードが健康保険証として利用できるようになる。

ただし、今年に行われた「行政手続き等の棚卸結果等の概要」によると、年間21億件を超える手続きのうち、オンラインで実施できる手続きは種類ベースで12%、件数ベースで71%というのが今の実態だ。まだ、オンライン化されていない手続きは多い。

海外に目を向けると、最も電子化が進んでいる国はエストニアで「電子政府」や「電子国家」などと呼ばれている。世界で唯一、国政選挙にて電子投票が行えるほどにIT立国化が推進されているのだ。

行政手続きの99%がオンライン化されているサイバー先進国

エストニアはバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)のうち最も北に位置する国だ。西側はバルト海、北側はフィンランド湾に面している。

エストニアの地図

国土は九州と同じくらいで、人口は130万人のヨーロッパの小国だ。かつてはソ連の一都市だったが、1991年に独立した。独立後は、行政主導で国民番号(eID)とクラウド連携(X-Road)という基盤を整備し、様々な行政サービスをオンライン上で提供していることから、サイバー先進国として注目されている。

サイバー先進国というだけあって、行政手続きの99%がデジタル化されている。デジタル化されていないのは、結婚、離婚、不動産売却の3つだ。これらの手続きは慎重な判断を要することなので、あえてオフライン(リアル)での手続きが必要となっているようだ。

それ以外は全てオンラインで手続き可能だ。なお、日本でいうマイナンバーカードに相当する本人確認と署名を行うために必要なIDカード「eIDカード」は保有が義務付けられているので、ほぼ全ての国民が所有している。このIDカードを使ってポータルサイトを開くと、氏名、生年月日、住所、納税額、学歴、病歴、犯罪歴などあらゆる個人情報を閲覧することができたり、行政サービスを受けられる。

行政サービスとしてはどのようなものがあるのだろうか。

  • 確定申告ができる。(3日後に還付金が振り込まれる)
  • 企業の登記申請、年次報告書の提出、取締役会リストの変更ができる。
  • 医療記録、来院履歴、病歴、X線写真の病院間共有ができる。
  • 大学の入学願書申請ができる。
  • 出生届や子どもの命名ができる。
  • 学校への入学申請、成績表へのアクセスができる。

このような電子政府においては、国民だけでなく、勤務する職員の仕事もスムーズになる。たとえば、警察官が違法に駐車してある車を発見した場合、ナンバープレートから特定個人の情報(住所、違反歴)を確認できる。一方で、その情報を誰が閲覧したかも記録され、持ち主に分かるようになっている。理由もなく閲覧した場合は罪に問うことができるため、システムがむやみに濫用されることもないという。

このように政府側、国民側も無駄な時間を削減することができる。エストニア政府機関であるエンタープライズ・エストニアによれば年間1407年分が節約されているという。

システムの一部を世界に公開、「e-Residency 」とは

Application for e-Residency

2014年、エストニアは新規事業として「e-Residency」というプログラムを立ち上げる。パスポート、顔写真、そして申請手続き料の100ユーロ(東京は追加で30ユーロかかる)さえあれば、エストニアの仮想住民になることができるというプログラムだ。

仮想住民になると、日本にいながらにして、エストニア法人を設立できる。手続きは1時間以内、審査も1日程度だ。外国人はエストニアでビジネスができ、エストニア政府は法人税の税収が上がるというメリットがある。

このe-Residencyが立ち上げられた背景にあるのは、エストニアの人口が緩やかに減少を続けており、外貨を獲得する必要があったためと言われている。

公式サイトでは、どの国からe-Residencyに申請が多かったのかといったデータを閲覧でき、2019年11月18日時点では約63,000人が仮想住民となっている。ちなみに、日本からは2,981人が仮想住民となっているようだ。

電子政府化が進んだ理由とは

電子政府化が進んだ理由は2つある。

1つめは、ITに秀でた人材がたまたま居たことだ。エストニアは1991年にソ連から独立したが、独立当時は国の主力産業もなく、資源も無かった。そこで同国が目をつけたのが、ソ連が残した最先端技術の研究所であるサイバネティクス研究所だった。ここの研究所職員がソ連崩壊後もエストニアに残り続けた結果、国家システムをゼロベースで構築できたという。

2つめは、ソ連崩壊後も残り続けているロシアという大国の脅威だ。エストニアは、いつかまた侵略されるかもしれないという恐怖感から、政府関係の全ての情報をデジタル化しておき、いつでもバックアップできる体制を整えている。

現に、政府関係の全てのデータベースはルクセンブルクに置かれているため、エストニアが侵略されて領土が奪われても、データベースは奪われない。物理的に政府が機能しなくとも、IDカードを持った国民がインターネットで政府のサイトにアクセスすれば、エストニアという国はオンライン上で機能し続けることができるようになっているのだ。必要な時に必要なだけ政府機能を使用できる「Government as a service」を体現している国家だ。

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