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DX時代の正しい事例の読み解き方(事例マニアにはなってはいけない)

「次はデジタルトランスフォーメーションだ!」「DXをやろう!」と社内で決まったとき、明確に何かの課題があるわけでもなく、「とにかくデジタルトランスフォーメーションだ!」と掲げる企業が多いものです。

DXという言葉は、デジタルトランスフォーメーションの略なのですが、この言葉には「何を」トランスフォームするのか、ということに触れていません。

つまり、デジタルによって、「何を」トランスフォームするのか、については、みなさんが決める必要があります。

多くの方がDXのプロジェクトでつまずく、初めの原因は、この「何を」の部分が決まらないことなのです。

考えてみたら、おかしなことですよね。

これから大金を投じて、自社のビジネスをデジタルによって変えていこうとしているわけですから、当然、「何をどう変えたいか」ということが初めにあるべきです。

しかし、残念ながら、これが難しいのです。

DX時代の正しい事例の読み解き方
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デジタルで「何を」トランスフォームするかを決められない

DX時代の正しい事例の読み解き方(事例マニアにはなってはいけない)
カニをネット通販で販売するのはDXなのか?

例えば、あなたが、カニがたくさん取れる地域で、カニの販売をしている事業者だとします。現状、自分が経営する販売所で売るのと、漁協を通して全国の市場に流通させるのと、2つのビジネスがあるとします。

そういうカニ販売事業者が、「もっと売り上げを伸ばしたい」と考えた時、初めに思いつくのは「ECサイトでもカニを販売する」ことではないでしょうか。

楽天が登場した2000年頃から考えると、インターネット通販でカニを販売するのはかなり一般的になってきていますから、今日時点でECサイトでカニの販売をしていないとすると、ちょっともったいないなと思う人も多いはずです。

このECサイトでのカニの販売は、DXと言えるのでしょうか?

私の答えは、「イエス」です。

デジタルの力を使って、売り上げを伸ばそうとしていますよね。

DXの定義の一つとして、「ビジネスモデルをデジタルの力を使って変革する」というのがあるのですが、このカニ事業者は、まさにこれを実現しています。

「カニの販売」や「インターネット通販」は、多くの人にとって馴染み深いビジネスなので、シンプルに「何を」やるべきかが思いつくワケですが、これが、複雑なビジネスを行っている企業の話になると、とたんに難しくなるのです。

大抵の人は、カニのインターネット通販の話を聞いて、「自社の製品もインターネット通販で売ってみてはどうだろう」となるでしょう。

DX事例を集めて応用することに意味はない

こういう考え方の人は、「事例」を集めたがります。ある私の知人は「事例マニア」といれるくらい、事例に精通しています。そして、事例にいくら精通しても、自社のビジネスには応用することができないので、貪るように事例が聞けそうなセミナーに参加してさらに事例を集めています。

では、なぜ事例マニアは、自社のビジネスに応用できないのでしょう。

理由は簡単です。

ビジネスは一つとして同じものがないからです。

たとえ同じ業界、閉鎖的な環境であってもです。

ビジネスは人が行う以上、個性が必ずでます。全く同じビジネスをコピーすることは、不可能なのです。

なので、あるカニ事業者がインターネット通販で成功したからと言って、他のカニ事業者が成功するとは限りません。

なぜ成功したのかを細かく知ったところで、同じことを再現することは不可能なのです。

DX時代の正しい事例の読み解き方(事例マニアにはなってはいけない)
事例の企業と、事業の全ての要素が一致しする企業などない

なので、唯一できることとしては、「自分の会社をよく知るということ」なのです。

カニのインターネット通販で成功した企業は、自分たちのカニの良いところをうまく見せられていたのかもしれないし、既存のビジネス以外にインターネット通販をやるための人材や、運営体制が作れたのかもしれません。

では、事例とどのように向き合うと良いのでしょうか。

DX事例との向き合いかた

先ほども書いた通り、事例は、あくまでも「ある企業において、取り組みがうまくいった例」にすぎません。

自分の会社で参考にするには、その本質がどこにあるのか?について知ることが重要です。

例えば、カニのインターネット通販であれば、「通販をしたらうまくいった」という表面的な動きだけでなく、「組織構造はどうなっていたか」「意思決定はどのように行われたか」「なぜ、現在の販売チャネル(ECサイトやソフト)を選定したのか」など、その事例の背後に潜む、その企業特有の事情についてよく知る必要があるのです。

「ベストプラクティス(成功事例)」だとか、「スタンダード」だとか、そういう言葉に振り回されず、成功事例の裏にどういう「事情」があったのかを知り、それを自社は真似することが可能なのか?を考えます。

すると、多くの企業で、「マネなんかできない。それはその企業特有のアプローチだ。」と気づくはずです。

そうなった時に、自分の会社なら、なにができるか?ということを考えるワケなのですが、ここでもう一段問題が起きがちです。

DX事例はお手本ではない

事例を自社に取り込もうとした時、やりがちなのが「事例をお手本として、自社の取り組みを事例に近づける」というやり方です。

先ほどから申し上げている通り、事例を作った企業には「事情」があるのにもかかわらず、事情がことなる企業がそれをお手本としたところで、マネできるわけもないのです。

つまり、自社のデジタルトランスフォーメーションを実現したいと考えた時、似たような企業の取り組み事例を集めて、参考にするところまではよいのですが、それを「お手本」として真似たり、同じ仕組みを導入したからと言って、同じ結果は生まれないということなのです。

私は長らくデジタルソリューションを導入する立場で仕事をしてきましたが、現場の事情を無視して新しいソリューションを導入しようとしたり、逆に、現場の事情にひきづられすぎて新しい取り組みをやめてしまったりする企業が多すぎるなと感じております。

こういったことが起きてしまう一番大きな原因は、「何かの施策を始める前に、自社のことをきちんと知らない」ことが一番大きいのではないかと思います。

自社のことがよくわかっていれば、例えば、自社とは全く異なる業界のニュースであっても、その本質には自社に関係してるところが見えてくるし、ニュースの捉え方が大きく変わるはずです。

例えば、JRは、SUICAをスタートして、改札業務のスループット(単位時間あたりの処理数)がかなり改善されました。

DX時代の正しい事例の読み解き方(事例マニアにはなってはいけない)
JRはSUICAでスループットを大きく改善した

こういうニュースを読んで、「ああ、デジタル技術を使って生産性改善をするのだな」とだけ感じる人もいれば。「デジタル技術を使うと、品質管理が個体の単位でできるのだな」と感じる人もいるはずです。

なぜSUICAで品質管理の話になるのでしょう?

まず、人手でやっていた作業がデジタルに置き換わることで、処理の速度が飛躍的に向上するわけですが、そこに、SUICAという「世界に一つのカード」をかざすという行為によって、「誰が」「いつ」「どの改札を通ったか」がわかるだけでなく、「正しい課金」も行うことが可能になります。

その結果、キセルの被害が減ったワケなのですが、これは、世界に一つのカードが、通過する際に、何らかの情報をチェックする(この場合課金可能かどうかをチェックし、課金する)という流れが必要になります。

例えば製造業で何かの商品を作っていて、その商品一つ一つを識別する何らかの情報が付加されていたら、その商品に対して行った作業の履歴を管理できるわけなのです。

つまり、現象から見ると「スループットの向上」という事例であっても、実は、作業品質を向上させる施策でもあるわけです。

単純に事例について解説されている側面だけを知るだけでは、「自社とは関係ない」と思ってしまうのです。

では、DX事例はどう読めば良いのか?

気になる事例に当たった時、まず事例の構造を絵に描きます。

これが「概念化」と呼ばれるステップで、多くの人が苦手とするのですが、どういうインプットとアウトプットがあるか、そしてその間で行われているであろう出来事はどういうことがあるか、そういったことを絵に描いてみるのです。

SUICAであれば、インプットは、人がSUICAを改札機にかざすこと。そしてアウトプットは、改札機のドアが開くこと。ですよね。

間で行われていることは、

1)SUICAに書かれたIDや残金といった情報を読み取る
2)これから乗車する場合は、残金が最低金額以上あればドアを開ける
3)これから乗車する場合でも、残金が最低金額以下であれば、「残高不足」エラーを表示し、ドアを閉める
4)下車する場合は、乗車駅から下車駅までの運賃を計算し、残金からさしひいてドアを開ける
5)下車する場合で、運賃が残金より多い場合は、「残高不足」エラーを表示し、ドアを閉める

ということだと推測できます。

これを絵に描くと、SUICAにあるIDがキーとなって人乗車状況を識別していて、IDに対して紐ついている情報(この場合残金)の妥当性をみて、何らかの情報を付加する。

ということが行われています。

同じように製造現場などで、製品IDを識別して、問題がなければ工程を完了したという情報を付加するということで、トレーサビリティが実現できます。

もし、製品のトレーサビリティが社内で問題になっていたら、SUICAの事例はよく調べる必要があるかもしれません。

私であれば、例えばSUICAはどういう技術でID認証をしているのだろうか、他のID認証の仕組みはないだろうか、コストはどれくらいかかっているのだろうか、とこれをきっかけにさまざまな調査を始めると思います。

概念化のステップが実現できてしまえば、対象が駅の改札でも、工場のラインでも、どちらでも似たようなことができると思えるはずです。

ところが、これを駅の改札の事例であって、当社には関係がない、とみてしまう人は、せっかく有益に情報に触れていても、それを有効に活用することができないでしょう。

ネット検索の落とし穴

ネットで情報が簡単に検索できる時代、検索エンジンに答えを求めるような検索ばかりしていると、直接的な課題を解決する記事にぶつかると思うかもしれないですが、実際は、広告的なオウンドメディアにぶつかり、結局は問い合わせてたくさんの企業からの営業を受けるということになるでしょう。

もちろん、やりたいことが決まっていれば、そうやってできる会社を探すのは悪くないやり方だと思いますが、そもそもやりたいことが見えない時に答えを求めるような検索をすると、時間の無駄になってしまうことが多いのです。

なぜなら、ネットの向こう側には、思考停止をした人を集めて捕まえることに長けた企業がたくさん待ち構えているからです。

では、そういう業者に騙されないようにするにはどうしたらよいのでしょうか?

それは、なるべく構造的に理解ができるように事例解説をしている記事を読むようにするとよいのです。

「こういうことが始まった」とか、「○○億円の売り上げを見込んでいる」といった、表面的なことを書いてある記事が気になったら、同じ事例やニュースについてさらに検索して、(間違っていても良いので)構造的に解説しようとしてる記事を探し、理解するようにすると、いつの間にか自分の中に引き出しがたくさんできているものです。

そういう構造的に理解する情報収集に慣れてくると、自分でもあたりがつくようになるので、実際に構造的にどうなっているかを分析してみることで、実際の事業企画や業務改革のプロジェクトの中で役立つパターンをたくさん持てるようになるのです。

デジタルトランスフォーメーションは総合格闘技

私は、「DXは総合格闘技」という言い方をよくします。

これまでの「デジタル化」は、部分最適とよくいわれますが、ある部署の範囲の中でデジタルを活用することが多かったのです。

一方で、DXは、「ビジネスモデル」や「ビジネスプロセス全体」を変えるためにやることなので、他部署のことや、今関係のない業務知識、デジタルに関する経験など、かなり多角的に必要になります。

「DX人材」などという言い方をする方もいるようですが、要は、企業を横断的に理解し、全体の方向性を変えるような取り組みをやるには、総合格闘技的なスキルが必要になるわけでして、必然的に多面的な情報収集能力を必要とします。

概念化によって、事例を構造的に理解することで、その関係性や応用性をときほぐし、DXの役に立つ知識を得ることができるようになるのです。

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