製造業におけるローカル5Gのユースケースと現状の課題 ーNECものづくり変革セミナー

日本電気株式会社(以下、NEC)は、2021年7月2日に「NEC ものづくり共創プログラム New Normal社会におけるものづくり変革セミナー」をオンラインにて開催した。

同セミナーにて、NEC スマートインダストリー本部 本部長の豊嶋 慎一氏が登壇し、NECが行うローカル5Gの取り組みやユースケースの紹介があった。

NECは、ハードウエアの提供だけでなく、コンサルティングサービスやインテグレーションサービス、マネージドサービスを提供している。

1つ目のコンサルティングサービスは、5Gの導入にあたって規格検証や実際の電波状態などの技術検証、ユースケース検証、利用シーンを想定した検証などの検討、検証を行うサービスである。

2つ目のインテグレーションサービスは、設備の構築だけではなく、5Gの免許を取得するための現地調査や電波調査、免許取得の代行手続きを行うサービスである。

そして、3つ目のマネージドサービスは、設備導入後の運用や監視、保守対応などをNECが顧客の代わりに実施し、顧客の負担を軽減するサービスだ。

今回、こういった経験を踏まえた「スマートファクトリーにおけるローカル5Gの導入」についての公演があった。また、本記事では公演の後に直接インタビューさせていただいた内容も盛り込んでいる。

製造業におけるローカル5G、4つのユースケース

ご存知の通り、5Gは、特性として「超高速」や「超低遅延」、「多数同時接続」といった特徴がある。また、通信の安定性も大きな特性である。そうした特性を活かして製造業のスマートファクトリーを実現してくわけだ。

豊嶋氏は、その際、以下の4つの視点でユースケースがあるとした。

  • 見える化
  • リモート
  • 自律化・自働化
  • 柔軟化

5Gを活用した「見える化」のユースケース

まず、初めに「見える化」だが、カメラやドローンなどの移動機に搭載したカメラや、作業員が装着しているXRなどから収集した画像データ通信に5Gを使うことにより、リアルタイムでの遠隔監視や作業指示に活用することができる。

5Gを活用した「見える化」では、大量のカメラを設置し、高解像度な映像を取得することが可能になる。また、ドローンやAGVなどの移動体を活用して高解像度な映像を撮影することで、カメラを設置が難しい場所や人が立ち入れない現場の把握を行うこともできる。

XR活用の際のデータ通信として5Gを活用することで、作業者の目線を確認し、離れた場所から作業者への指示を行うことができる。その結果、作業経験の浅い作業者でも効率的な作業を行えるという効果がある。

こういったユースケースは、以前から話題となっているが、実際のローカル5Gを活用した現場ではどういう評価となっているのだろうか。

大量に設置した

5Gを活用した「リモート」のユースケース

5Gを活用した「リモート化」では、「ケーブルの作業」や「形状にばらつきのある部品の検品」など、自動化が難しい作業に対して、5Gを活用することにより、遠隔で人が操作する仕組みを構築することが可能になるのだという。

また、人が駆けつける必要のある、チョコ停などの異常が発生した時に、リモートで対処する仕組みの構築も可能になるとした。

「リモート化」のユースケースである。

他にも、現在工場内でドローンを飛ばす実証実験をしている企業は増えてきているのだという。

ドローンを飛ばすことで、現地の様子をつぶさに理解することができるからだ。

ローカル5Gを使えば、その映像もかなりクリアな映像となるし、たとえば産業機械の表示内容をドローンで読み取ると言ったことも可能になるはずだ。

現在、海外の工場などで起きる生産停止が、案外段取りの問題であったり、現場の人の動きの問題であったりするが、こういったこともドローンでみることができれば早期の改善が可能となるはずだ。

5Gを活用した「自律化・自働化」のユースケース

「自律化・自動化」のユースケース。
部品倉庫や工場ラインで稼働しているAGVなどとNECマルチロボットコントローラーを5Gで繋ぎ遠隔から制御などを行い自働化・自律化を実現する。

5Gを活用した「自律化・自働化」では、NECマルチロボットコントローラー(AGVを制御するシステム)と実際のAGVが5Gで繋がり、制御指示を受け動き、動いた結果に対しフィードバックを行い、細かな自動制御や変化に追従する動きも今後実現していくとしている。

その一方、どんどん無人化が進むとされている工場だが、「今後全てが自動化されるということは今のところイメージできていない」ということだ。

というのも、チョコ停は自動化では直せないなど、工場のメンバー自体が懐疑的なところがあるからだ。

5Gを活用した「柔軟化」のユースケース

「柔軟化」のユースケースである。
ライン設備を5Gの無線通信で繋いでいるため、ライン変更などを柔軟に行える。

5Gを活用した「柔軟化」では、5Gの安定した無線通信の活用により、生産工程を構成する生産設備のレイアウトを柔軟に変更できることがメリットだ。

その結果、オーダー毎に制御を変えることができるので、オーダーやロッドに対して、工程の変更などを柔軟に行えると期待されている。

製造業におけるローカル5Gの到達点と課題

豊嶋氏によると、「現状、こういったユースケースにおいて、一定の成果が上がっている」ということだ。

その一方で、XRや、ドローンを活用したユースケースは、生産現場の「周辺の改善」となるものの、「生産現場そのものの」改善が難しいのではないかと感じ質問をしたところ、

「現在、生産現場の改善のためのPoCにも取り組んでいるが、現場の改善というよりも、現場を構成する産業機械を製造するメーカーなど、自社製品やサービスにローカル5Gを取り込むことで価値を高めたいと考える企業がの取り組みが多い。」

ということだった。

「たとえば、サーボモーターの制御をするなど、産業用Ethernetを使った高速処理を行うようなシーンでのローカル5Gの利用は、たとえフルスペックでの5G通信性能が出たとしても、現状難しいところがある。しかし、それ以外にもカバーできる領域はある。現在は、そこをチャレンジしているところ。チャレンジだけでなく5Gの活用可能な範囲の見極めも行なっている。」

と述べた。

NEC スマートインダストリー本部 本部長の豊嶋 慎一氏
NEC スマートインダストリー本部 本部長 豊嶋 慎一氏

ユースケースが顕在化したとしても、アンテナの設置ノウハウが必要であるという課題や、生産現場におけるリアルタイムス処理を考えたときの、「遅延」だけでなく「ゆらぎ」の課題も発生するのだという。

現状、5G-NSA(Non Stand Alone)が主体だが、4Gの技術を応用していることもあり、規制があるため電波が工場の外に漏れてはいけないという制限がある。

また、ミリ波を使っていたため、直進性が高く、障害物があると電波が必要な設備に届かなくなるという問題がある。低遅延性などの性能を見ていくことも重要になる。

必要な通信を実現するために、電波を測定をしたり、チューニングをしたりしないといけないくなるので、技術検証にも時間がかかる。

他にも、産業用Ethernetの場合、確かに高速処理ができて、信頼性も高いが、その一方で画像データなど大きなデータを送受信するのには向いていないところがある。そこで、ローカル5Gを活用した通信では、画像データなど大きなデータをやりとりする前提で考えられるような通信をする前提で利用すれば良いのだ。

豊嶋氏は、「現在、ソフトウエアPLCという考え方も登場しているが、5Gでは大きなデータを通信できるので、カメラをたくさん置いて監視に使う、といったこれまでなかったシーンを考えると、チューニング次第では、うまく使えるのではないかと考えている。」とした。

ローカル5Gのコスト

現在、ローカル5Gは、Wifiに比べて現状では高コストな状態でもあるが、コンシューマ向け5Gが広がる中、徐々に部品コストなどが下がってくる可能性が高い。基地局の設置ノウハウに関しても増えてきている状況なので、徐々にこういったコストも低減されてくると思われる。

実際、PHSを社内の内線電話として活用しようとした際も、初めの頃は繋がらなかったり、途中で切れたりと、うまく通信ができていなかったことがあるが、それと同じで、徐々にノウハウがつくことでこういった問題は解決されるだろう。

NECにおけるローカル5Gの取り組み

ローカル5Gを活用し、
工場内を5Gで繋ぎ、離れているところから部品棚の物のピッキングを行っている様子である。

NECプラットフォームズの甲府工場において、昨年度からローカル5Gを導入した実証実験を行なっている。

同工場では、スーパーコンピューターやPCサーバー、金融端末製品などの多品種変量生産を行なっている。工場内では、労働力不足やニューノーマル社会に向けて、自動化やリモート化を加速したいと考えている。そこで工場内では、5Gで繋ぎ離れているところから、部品棚のものをピッキングする実証を行っている(上の画像)。

その上で、複数の部品棚にロボットを配置し、AGVで必要な部品を必要なラインに運ぶ仕組みを実証している。この仕組みは、作業者が移動することなく複数の部品棚のピッキングが可能なため、作業者の負担軽減や人手不足の解消にもつながると期待されている。

その他、AGVや設備、ロボット、人が行う作業など、あらゆるものづくりデータをリアルタイムに「NEC Industrial IoT Platform」に集約しコントロールすることで、ものづくりを技術的に改善する取り組みを行っている。

他企業との共創による取り組み

自社での取り組み以外でも、さまざまな企業との共創が進んでいる。

例えば、コニカミノルタとKDDIとの共創では、コニカミノルタのR&D施設にハイブリッド5Gオープンラボを解説し共同で実験を行なっている。

また、リコーとの共創では、リコーの工場にローカル5Gの導入を行い製造業務で実際にどのような効果が出せるか、ユースケースを作れるかを一緒に検討し、事業としてソリューションの開発実業化を視野に入れ対応している。

さらに、総務省との実証プロジェクトでは、NECマルチロボットコントローラー(AGVの制御システム)とAGVを実際に繋ぎ、5Gを介してどのような運用が行えるかを実証している。

豊嶋氏は、こういった「共創」をキーワードとし、より良い5Gソリューションを提供していくとした。

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