DXにおけるプロジェクトマネージャーのあるべき姿-PMI ベン・ブリーン氏インタビュー

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が、東証一部上場企業1,000社を対象に行った調査では、「DXの取組みに関して成果をあげられている企業は少ない」と報告されている。その要因の1つが、DXをリードする人材の不足だ。

特に、多様なステークホルダーが登場するDXのプロジェクトでは、プロジェクトマネージャーの手腕が問われる。

しかし、プロジェクト運営のためのスキルは、各人がプロジェクトの推進過程で成功と失敗を繰り返しながら、独自に学んでいるのではないだろうか。

そこで、プロジェクトマネジメントスキルのグローバルスタンダードである国際資格「PMP(Project Management Professional)」の認定を行っている、PMI(Project Management Institute=プロジェクトマネジメント協会)の太平洋責任者、ベン・ブリーン氏にプロジェクトマネージャーに求められる資質やスキル、プロジェクト推進上で起きる課題について伺った。(聞き手、IoTNEWS 石井庸介)

PMIの掲げるミッション

石井庸介(以下、石井):まずは、PMIについて教えてください。

ベン・ブリーン氏(以下、ベン・ブリーン):PMIは1969年にアメリカで創立されて以来、プロジェクトマネジメントを改善・継続し、遂行するための方法をグローバルに展開することを、ミッションに活動しています。

発足して約50年経過し、今ではメンバーは60万人、200カ国で展開されています。また、我々が主催しているプロジェクトマネジメントに関する資格PMPの保有者は180万人となっています。

石井:ご経歴を教えてもらえますか。

ベン・ブリーン:私は、オーストラリア出身の建築構造分野のエンジニアで、25年ほど前にシンガポールに移り住みました。もともとはエンジニアでしたが、私の強みが、一歩下がって全体像を俯瞰し、多様な人たちを導いて、目的を達成することでした。その後、次第に、構造エンジニアからプロジェクトマネジメントへと活動の幅を広げていきました。

関わった案件でいうと、シンガポール最大の建設プロジェクトの1つであるマリーナベイサンズなどがあります。日本のプロジェクトに関わった経験もあります。その後、PMIに参画しました。

石井:なぜ、PMIに入ろうと思ったのですか。

ベン・ブリーン:私が、PMIに入ったきっかけは、同協会のCEOスニル・プラシャラ氏から、シンガポールで行われるプロジェクトマネジメントのイベントに来ないか、と声を掛けられたことです。

そのイベントには、約1000人もの参加者がいて驚きました。そこで、PMIという組織がいかにプロフェッショナルで、強固なコミュニティを持ち、素晴らしいネットワークを築いているのかを知り、PMIへの参画を決めました。

プロジェクトを推進するうえで直面する様々な課題

石井:当社は、企業のDXプロジェクトの推進を御支援させていただくこともあります。実際に、私もそのようなプロジェクトに参画したことがあるのですが、プロジェクトを推進していくうえで様々な課題に直面してきました。

例えば、組織の中で熱心に働く人とそうでない人がいると思います。このような課題についてはどのようにお考えでしょうか。

ベン・ブリーン:自分の仕事に、情熱をもって取り組んでいる従業員ばかりではないということは、まさしく、課題となっています。

それは、個人が重要視している価値観と企業のビジョンが、一致していないため起こる問題です。そこで、PMIでは、個人と企業のビジョンをマッチングするプログラムを用意することで、組織の変革に貢献をしています。

石井:意思決定にまつわる課題についてはいかがでしょうか。例えば、何か物事を決める時には、色々な選択肢の中から正解と思えるものを1つ選び取っていく必要があると思いますが、選ぶのが難しい場面もあります。

ベン・ブリーン:どの選択肢も一見よさそうに見えたとしても、細かく選択肢を見ていったら、しっくりこないということが、必ずあるはずです。もし、それでも全部正しく見えると思ったときは直感に頼ります。

もちろん、私自身直感に従って失敗したことはありますが、それも大事な経験です。失敗から学ぶことが、優れた人材になれるチャンスだと思うようにしています。

石井:失敗したら、何が悪かったかを検証し、次に活かすという姿勢が大切ということですね。他によくある課題としては、計画の遅延があると思います。プロジェクトが当初の計画通り進まず、延期を繰り返す。これについてはどのように考えますか?

ベン・ブリーン:各ステークホルダーにきちんと状況を伝達し、支援してもらえる状況を作ることが大事です。ステークホルダーと議論し、どうすれば遅延を最低限に抑えることができるかを一緒に考えることができます。

また、そもそも、計画の遅延をなるべく生じさせないよう、リスクマネジメントをしていくことが重要です。プロジェクトに大きな影響を与えるのはどこか特定し、そのリスクを最低限に抑えられるようにします。これは、プロジェクトの期間中ずっと継続しなければなりません。

石井:参考になります。

プロジェクトマネジメントスキルの国際資格PMPとは

石井:ところで、PMIでは、プロジェクトマネジメントの専門知識を有していることを証明する資格として、PMP(Project Management Professional)の認定プログラムを行っています。この資格はどのようなものでしょうか。

PMP取得者の分布
PMP取得者は世界各国に分布しており、グローバルスタンダードな資格となっています

ベン・ブリーン:PMPは、世界で180万人が取得しているグローバルスタンダードの資格です。資格を取得すると、仕事を構造的に把握することができ、パフォーマンスが向上します。例えば、先ほどお話したプロジェクトの遅延を最小限に抑えるためのスキルである、ステークホルダーマネジメントやリスクマネジメントのスキルも、PMPの取得を通じて身につけることができます。

石井:プロジェクトの推進を任された人たちの働き方、生産性に寄与する資格なんですね。しかし、PMPの取得をせず、プロジェクトマネージャーを任されている人も見かけます。実務を経験しながら、スキルを養っていくというのも重要だと思いますが、PMPを取得しておくと、スキルアップにかける時間を短縮することができたりするのでしょうか。

ベン・ブリーン:そう思います。20年前に自分がPMPを取得していたら、プロジェクトのデリバリーはどれだけ変わっていたものかと思います。

補足
PMPの受験資格
・最終学歴が高校卒業の場合:直近8年間に5年以上かつ7500時間以上のプロジェクトマネジメント実績 +35時間の公式研修
・最終学歴が大学卒業の場合:直近8年間に3年以上かつ4500時間以上のプロジェクトマネジメント実績 +35時間の公式研修
が必要となる

求められているPM像

石井:プロジェクトマネージャーとして、求められるスキルは、時代の移り変わりとともに変化しているのでしょうか。

ベン・ブリーン:今まで以上に、プロジェクトマネージャーには、柔軟さや俊敏さが求められるようになってきています。昨今では、次に起きることが全く読めません。次に起こるパンデミックは何なのか、どんなテクノロジーが今後出現し、仕事をどう変えるのか、全く分かりません。

そういった中で、できるだけ柔軟性を持ち、できるだけたくさんのツールやスキルを使いこなすことができると、次に迫り来る不可避の大きな変化に対しても、最適な意思決定ができます。このような準備しておくことが、プロジェクトマネージャーにとって重要です。

石井:ツールを使いこなすということも重要なんですね。他に、プロジェクトマネジメントスキルが高い人の共通点を教えて下さい。

ベン・ブリーン:顧客・同僚の気持ちへの共感やコミュニケーションなど、定量的に測るのが難しいスキルを、持っている人だと言えます。PMIでは、それを「パワースキル」と呼んでいます。

石井:仕事をする中で、そのようなスキルの重要性を感じたことはありますか?

ベン・ブリーン:ありました。私が経験を積めば積むほど、関わるプロジェクトはどんどん複雑化していきました。例えば、マリーナベイサンズのプロジェクトでは、現場の作業員が約15,000人いました。

この場合、一部のメンバーとだけのやり取りでは不十分で、多くの人と関わる必要がありました。そのような状況でも、プロジェクトマネジメントスキルを持った人は、結果を出していました。

つまり、プロジェクトが複雑化するほど、プロジェクトマネジメントスキルを持っているか否かで、成果に明確な差が出ると分かりました。

石井:DXはプロデューサー、デザイナー、アーキテクト、UXデザイナー、エンジニア等、様々な人物を巻き込んで取り組まなければならず、プロジェクトも複雑化します。そこでは、パワースキルによってステークホルダー間の調整を行うことが重要になってきそうですね。

激しい環境変化の中で成功する、「ジムナスティックな組織」とは

石井:コロナの影響で大きく世界が変わり、DX化の推進で組織のあり方も変化しています。そんな中、PMIが考える「変化に強い組織」とは、一体どのようなものですか。

ベン・ブリーン:我々は、パルス・オブ・ザ・プロフェッションと呼ばれる調査を毎年行っていて、その結果から、コロナ禍において成功している企業とそうでない企業との違いを知りました。

コロナ禍において成功している企業というのは、特に成果を重視する企業で、デリバリーにおいても柔軟さをもった企業でした。こうした特徴を持つ企業のことを、我々は「ジムナスティックな組織」と呼びます。また、「ジムナスティックな組織」というのは、ダイバーシティ&インクルージョンを大事にしています。つまり、多様な考え方を受け入れているということです。

補足
「ダイバーシティ&インクルージョン」とは多様性を受け容れ、様々な意見やアイディアを聴き入れることで組織の競争力を高める成長戦略のこと。
出典:JUAS ダイバーシティ&インクルージョン研究会 2018

石井:多様な考え方を受けいれていると、八方美人のようになってしまわないでしょうか?

ベン・ブリーン:もちろん、プロジェクトマネージャーとしては、どこかのポイントで、意思決定をして前に進んでいかなくてはならない瞬間が出てきます。まずは、いろんな考え方、情報を集めたうえで適切な意思決定をしていくことが大切ということです。

PM人材に対するニーズの高まり

PM需要の増加
レポートによると、プロジェクトマネジメント指向のスキルを必要とする仕事の数の増加、経済成長に伴う需要の増加、退職率の影響により、2030年までに2,500万人の新たなプロジェクト専門家が世界規模で必要になると予測されています

石井:PMIの調査によると、「2030年までに新たに2500万人のPM人材が必要だ」という調査結果があったと思いますが、PM人材の需要が増えているということでしょうか。

ベン・ブリーン:業界によって状況は異なりますが、コロナ禍で世界各国の政府は、積極的に基幹インフラとヘルスケアの領域に投資をしています。なので、特にこの2つの領域は、これから忙しくなると思います。

石井:最後に、読者に向けてメッセージがあればお願いします。

ベン・ブリーン:マッキンゼーの調査によると、今後10年の間でテクノロジーの進化によって、約8億種類の仕事が失われるであろうといわれています。

これはすなわち、多くの仕事がIoT、AI、AR、ビッグデータに置き換わる可能性があるということです。そのため、自分たちの仕事を守るという意味でも、スキルを身につけることが、とても大切だと感じております。

石井:本日は、貴重なお話をありがとうございました。