コロナ禍における「需給最適」のDXの現状と課題 ―Conference X in 広島レポート1

各産業・業界においてDXに先駆的に取り組む企業が登壇し、DXの実践事例を議論する「Conference X in 広島」(株式会社INDUSTRIAL-X主催)が2021年8月31日、オンラインで開催された。

八子氏「DXはいまや避けて通れない」

冒頭のオープニングトークでINDUSTRIAL-X代表取締役社長の八子知礼氏は、「Conference X」の趣旨について次のように述べた。

「何事も予測不可能で、変化することが前提となるVUCAの時代と言われて久しい。さらにコロナ禍は、産業や生活に大きな影響を与えた。DX(デジタルトランスフォーメーション)はいまや避けて通れない。弊社は、コロナとの戦いが長引くことを受け入れた上で、それでも経済、ビジネス、生活を前に進めることを昨年の夏に決意し、逆境でもDXに取り組み果敢に挑戦するリーダーたちから示唆を共有していただくべく、この『Conference X』を企画した」。

また八子氏は、同イベントのカギであるDXの本質について、「デジタルトランスフォーメーション(DX)というと、デジタル技術そのものに焦点があたることが多い。だがその本質は、ビジネス全体にわたってデジタル技術を活用することで、既存のビジネスやライフスタイルをまったく『新しい姿』に変革することにある」と強調した。

では、「新しい姿」とは何か。「デジタルツイン」だと八子氏はいう。デジタルツインとは、IoTによって集めたデータから現実世界と同じ環境をデジタル空間上に再現し、AIを使った解析やシミュレーションを行い、さらにその結果を現実世界へフィードバックし、最適化をはかるプロセスのことだ。不確実で予測の難しい時代に、このデジタルツインをいかに高速に回すかがカギとなる。これが八子氏のいう、DXで目指す「新しい姿」のモデルだ。

コロナ禍における「需給最適」のDXの現状と課題 ―Conference X in 広島レポート1
INDUSTRIAL-Xが提唱するDXのロードマップ。

しかしそうは言っても、DXは長期的な取り組みになる。八子氏は上の図を用いながら、DXのロードマップを示した。左軸が既存事業、右軸が新事業だ。多くの企業が、ペーパーレスやモバイルワークなどの既存事業のデジタル化にもがいているという。八子氏はこの段階をDX1.0(IT化)と呼ぶ。一方で、新規事業の創出ができて初めてDX2.0となるが、そのためにはDX1.0、DX1.5を同時並行で、会社全体で進めていくことが重要だという。

INDUSTRIAL-Xは7月6日に、「DX実現に向けた課題とコロナ禍における意向調査」の結果を発表した。これによると、やはりDX1.0にとどまる企業が多い。だが一方で、「光も見えている」と八子氏はいう。昨年に比べて、「顧客獲得」(7.8%→22.2%)や「新規事業拡大」(6.3%→13.8%)をねらう企業が増えているのだ。

他方で同調査から浮き彫りとなったDXの課題は、「DX推進人材の確保・育成」だという。昨年の段階では、外部からDX人材を採用すればよいと考えていた企業が多かった。だが、実際にはマーケットにDX人材は豊富にいるわけではなく、いたとしても給与水準が高いといったさまざまな課題があることが見えてきたのだ。DXを進めようとする企業が増えてきた結果明らかとなったことではあるが、引き続きDX人材の確保・育成は課題となりそうだ。

「DX実現に向けた課題とコロナ禍における意向調査」の詳細はこちら

3社幹部が語る、コロナ禍でのDXの現状と課題

「Conference X in 広島」のテーマは、「需給最適(Demand Chain)/地域工場(Smart Factory)/食品業界(Food Business)/ 地方創生(Region)」の4つだ。まず初めに、「需給最適(Demand Chain)」をテーマに、以下3社の登壇者と八子氏(モデレーター)が議論を行った。

株式会社イズミ 執行役員 未来創造推進事業部長 岡本圭史氏
株式会社シノプス 取締役 岡本数彦氏
マツダ株式会社 執行役員 MDI&IT担当 木谷昭博氏

コロナ禍における「需給最適」のDXの現状と課題 ―Conference X in 広島レポート1

株式会社イズミは、広島県広島市に本社を置くスーパーマーケットチェーンを展開する企業。登壇した岡本圭史氏は2年前まで家電メーカーに勤めていたが、故郷の広島に貢献したいという思いで同社に転職。前職では開発・製造プロセスでのIT化を推進。現在では未来創造推進事業部長として、同社のDXを主導している。

株式会社シノプスは、大阪市北区に本社を置くIT企業。94社のスーパー、5,411店舗に需要予測・自動発注のシステムを納入している。登壇した岡本数彦氏は、小売業の需要予測、自動発注システムに関する導入プロジェクトを数多く手がけ、現在ではリアルタイムに在庫を把握する「sinops-CLOUD」を立ち上げ、全体を統括している。

マツダ株式会社は広島県に本拠を置く自動車メーカー。登壇した木谷氏は、入社後は製造の試作工場に配属。学生時代から「デジタルは嫌い」だったというが、配属後は3DCAD/CAMの開発に携わってきた。その経験を活かし、2016年からはバリューチェーンのすべての領域をデジタルでつなぐ「マツダ・デジタル・イノベーション(MDI)」の企画・推進を担当している。

議論はまず、「コロナ禍において最も困ったことは何か?」というテーマから始められた。マツダの木谷氏は、在宅勤務への対応をあげた。同社の従業員数は、工場を除いて約13,000人。当初、在宅勤務に使えるVPN環境は、最大500人分しかなかった(出張の持ち出し用)。そこから木谷氏が中心となって急ピッチで対応し、2020年の8月には在宅勤務が可能な社員のうちほぼ全員がテレワークできる環境を構築した。大きな苦労があったという。

コロナ禍における消費者の変化

一方でスーパーマーケットを展開するイズミは、コロナ禍によってリアル店舗のあり方の大きな転換を迫られることになった。あたりまえのことだが、かつてはいかにスーパーに顧客が来てくれるかが何よりも重要だった。しかしコロナ禍では、「顧客をたくさん集客してはいけない」というジレンマに直面する。岡本氏は、何よりも重要なのは「お客様に安心・安全を提供すること」だと強調。そのために、ECなどのさまざまな手段を検討しながら、変革の真っただ中にある。

シノプスでは、コロナ禍によって発注や来店客数の予測が難しい状態が続いているという。実際、コロナ禍での人の流れや動きが読めないのは、小売業に限らずすべての業界での課題だと言えるだろう。一方で、シノプスの岡本氏によれば、巣ごもり需要によって配達の物量は以前より上がっているが、その結果物流センターが飽和しかけているという。そこで自動発注システムを手がけるシノプスは、ケース単位にまとめた発注やピークとなる曜日から他の曜日に分散して発注するといった工夫により、物流センターを支援している。

自動車の販売の現場では、コロナ禍はどのように影響しているのだろうか。木谷氏によれば、欧米では今まさに大きな変化が起きているという。ディーラーに足を運んで商談し、車を購入する顧客の数が「半減」しているのだ。その代わりに、ネット上で車種の選択や見積もりなどを行う顧客が急増している。以前からこうした流れはあったが、コロナ禍で加速したという。「日本もいずれそうなるだろう」と木谷氏はいう。マツダでは欧米の事例を参考に、日本でも対応を急いでいる。

またマツダでは、昨今の変化の激しい状況において、従来は月次単位でグローバルにデータを統合して計画・生産を行っていたが、これからは週単位でのオペレーションに切りかえられるよう対応を急いでいるという。自動車は生鮮食品と違って長期在庫が許される分、小売業などよりリアルタイム性のある在庫管理のしくみは遅れていると木谷氏は自戒する。「これからは自動車業界も、生鮮食品などと同じように在庫をおさえて収益を上げる努力をしていく必要がある」(木谷氏)。

在庫管理の要となる、自動発注・需要予測のシステムを提供するシノプスの岡本氏は、あらためてPOSデータの重要性を強調する。小売店では、POSデータをベースにすれば、どれくらい在庫をもてばよいかを高い精度で予測できる。一方で発注をベースに予測を立てる卸売業やメーカーでは、そうはいかない。とりわけ食品メーカーは、自社で所有しているデータだけでは精度の高い予測は難しいという。そこでシノプスは、POSデータをもとに、メーカーが所有していないデータを用いた高精度な予測システムの提供などを進めている。