ライオンが求める「DX人材」について聞いてみた

筆者らは今回、ライオンが募集している「DX人材」について話を聞くために、同社の研究開発本部がある平井事業所に足を運んだ。

ロビーに展示されたライオンの製品群を眺めていたり、廊下を歩いている白衣を着た研究者の姿を見たりしている限りでは、ライオンとDXはちょっとイメージ的に遠いようにも思えてくるのだが、実際はまったくそうではない。

ライオンは1891年の創業以来、「より良い習慣づくりで人々の毎日に貢献する」というパーパス(存在意義)にもとづいて、事業を進めてきた。事実、さまざまなライオンの製品たちが、私たちの「良い習慣づくり」を支えてくれている。

とはいえ、具体的にどんな習慣が人々の健康によい影響を与えるのかということ、つまり習慣と健康の因果関係については、まだわからないことだらけだ。そこでライオンは、デジタル技術やデータサイエンスを駆使することで、その「習慣の科学」を解き明かそうとしている。だからDX人材が必要なのだ。

2021年1月にDX推進部が始動

ライオンのDXの中核を担うのは、2021年1月に設立されたばかりの「DX推進部」だ(※)。DX人材の採用と育成もこの部門が一括して行っている。

※DX推進部の実績や進行中のプロジェクトの詳細などについては、下記の記事を参照してほしい。
デジタル技術で「習慣を科学する」、ライオンがえがくDXのあるべき姿とは ―ライオンDX推進部 黒川博史氏インタビュー

DX推進部発足の経緯は、同部門の部長である黒川博史(くろかわ・ひろし)氏の経歴を抜きにして、語ることはできない。

ライオンが求める「DX人材」について聞いてみた
ライオン DX推進部長 黒川博史(くろかわ・ひろし)氏。2007年に入社し、同社の基幹技術である油脂の基礎研究に従事。2017年からデジタル・イノベーション・プロジェクトへ参画。2018年に同社で立ち上がったイノベーションラボを経て、2019年より研究開発本部 戦略統括部 データサイエンス室長に就任。2021年1月より現職。

大学・大学院で有機化学を専攻していた黒川氏は、2007年にライオンに入社。約10年間、同社の基幹技術である油脂(石鹸や洗剤などに欠かせない有機化合物)の基礎研究に従事してきた。一方でさまざまな分野に興味をもっていた黒川氏は、その「好奇心」が買われて、2017年に「デジタル・イノベーション・プロジェクト」というプロジェクトへ参画することになる。

それ以来、黒川氏はアメリカ・ラスベガスで毎年1月に開催されているコンシューマー向けテクノロジーの見本市CESなどに足を運び、世界のDXの潮流を目の当たりにする。「このままではライオンはDXの潮流から取り残される」という危機感すら抱いた。

それから黒川氏は、2019年から研究開発本部 戦略統括部に新設された「データサイエンス室」の室長に就任する。現在のDX推進部の前身にあたる組織だ。研究所にいる統計や機械学習を得意とするメンバーとチームを組む形で、着実に実績を積み重ねてきた。

その成果が社内でも認められ、DXの中核を担う新設部門として、1月からDX推進部が立ち上がったわけである。なお黒川氏はライオンの設立以来、最年少で部長に就任したという。

ライオン独自のDX人材制度

こうした歴史を経て誕生したDX推進部では、すでにDX人材の採用や育成のしくみも確立している。DX人材の人事を統括しているのは、DX推進部の渡辺麻梨子(わたなべ・まりこ)氏だ。渡辺氏がライオンに入社したのは2007年。つまり黒川氏とは同期ということになる。

ライオンが求める「DX人材」について聞いてみた
DX推進部で人材の採用や育成を統括する、渡辺麻梨子(わたなべ・まりこ)氏。情報システム部門の所属と人事経験が、現職にまさに活きているという。

渡辺氏は在学時、心理学と認知学を専攻。ライオンに入社後は、情報システムの部門に配属され、営業活動支援のシステムやイントラネットの構築などの業務に5年間従事した。それから研究開発本部(平井事業所)の人事部門に異動し、研究者の採用や育成を担当。そして5年後には本社人事部門の健康管理部門へ異動した。

実はそこで、データサイエンス室と共同で社員の健康診断のデータを分析するプロジェクトが始まる。ここで邂逅した渡辺氏と黒川氏が中心となり、DX人材の採用や育成の制度をつくりあげていくことになるのだ。

DX人材の採用

ライオンのDX人材の採用には、次の4つの柱がある。「新卒採用」、「キャリア採用」、「キャリアチェンジ(社内異動)」、「副業の受け入れ」である(具体的な募集要項は記事末尾を参照)。

新卒採用は、大学で統計や機械学習を専攻していた学生、もしくはIT関連の知識や資格をもち、デジタルの分野で活躍したいと考えている学生などが対象となる。キャリア採用は、ライオンのHPやいくつかの人材エージェントから募集している。

キャリアチェンジ(社内異動)では、たとえば研究所にいる統計の知識をもった社員を抜擢して即戦力にするなど、社内の潜在的なリソースを積極活用している。

また同社は2020年から社員の副業を認めているが、同時に社外から副業として業務にあたってもらう人材も広く募集している。実際に、DX推進部発足の初期段階から活躍している、フリーランスのデータサイエンティストなどもいるということだ。

ライオンのDX人材の採用方針は、「多様性」を重視しているという。その意義について黒川氏は、

「社外から考え方の違う人が来てくれると、「こういう視点もあったんだ」という気づきを得ることができます。結果、課題に対する解決策の幅が広くなります。やはりずっと同じ組織の中にいると、それまでの(経験的な)常識を疑いづらくなってしまいます。その意味で、逆にライオンの社員が、副業で外に出ていくことも重要だと思っています」

と語っている。

DX人材の育成

デジタル技術で「習慣を科学する」、ライオンがえがくDXのあるべき姿とは ―ライオンDX推進部 黒川博史氏インタビュー
ライオンのDXを担う2種類の「翻訳家」(画像提供:ライオン)

ライオンのDX推進部には、主に「デジタルナビゲーター(DN)」と「データサイエンティスト(DS)」という2種類の職種がある。黒川氏によれば、DNとDSは「翻訳家」である。DSは、現実世界の事象を機械(AI)に対して翻訳する。一方でDNは、AIが導き出してくるアウトプットを、(現場の)人にわかるように翻訳する。

DNはある意味、業務課題のある現場とDSの間の橋渡しをする役割だと言える。最近では、こうしたすべての役割を一人のDX人材が担うための教育なども推奨されている。ただ、「そんなスーパーマンみたいな人はなかなかいない」と黒川氏は言う。そこでライオンは、あくまで組織的に、チームとしてDXを推進していくということに重きをおいている。

ライオンが求める「DX人材」について聞いてみた
ライオンのDX人材の育成制度(画像提供:ライオン)

また人材の育成においては、それぞれの職種やレベル(インターン→見習い→独り立ち→棟梁)に応じて、最適な学習環境を提供している。特にDSは、学習によるスキル習得がとても重要になる。

ただし、学習によってスキルを習得するだけではなく、学習したことをくりかえし実践することも重要だ。黒川氏は、「机上の学習ではなく、実際の現場から上がってくる「生きている課題」は面白いと、DSは手応えを感じてくれています。そうした体験ができる場をどれだけ用意できるかが、私や渡辺の課題です」と語っている。

一方でDNは、特定の業務に対する深い理解が必要だという。たとえば、研究開発に関わるDXなら、研究所にある程度の期間在籍していた経験があり、どういうしくみで研究が行われているかなどを熟知していることがまず重要となる。

つまりDNの仕事は、自身が長い年月をかけて培った経験やスキルとDXのかけ算だと言える。高度な専門性をもちながらも、さまざまなことにチャレンジしてみたいという人には、とても魅力的な職種ではないだろうか。

DX推進部の魅力

現在では多くの企業がDXを推進している。ただ、その方法は企業によって多様だ。たとえば、プロジェクト単位で進めるか、DX専任ではなくDXと従来業務の兼任にするか、正式に部門を立ち上げるか。また部門を立ち上げたとしても、その社内での位置づけも企業によってさまざまだろう。

では、なぜライオンは「DX推進部」という今の形を選んだのだろうか。

「この点は社内で何度も議論してきました。私が何よりも重要だと考えたのは、資産を会社として共有し、遺していくということでした。私も経験があるのですが、プロジェクト単位でDXを進めると、それが完了したときに、その過程で培ってきた経験やノウハウが資産として残らなくなってしまうということもあります。

また兼任の体制にすると、課題にコミットできず、中途半端になる懸念があります。さらに人材育成も、部として包括的に担うことで、責任をもって短期的に集中して進めることができます」と黒川氏は語る。

ライオンが求める「DX人材」について聞いてみた
(左)黒川博史氏、(右)渡辺麻梨子氏。ライオンのDXを支える、同期の二人。

社内の各部門の間に入り込み、いわゆる「部門の垣根」を飛び越えていくことも、DX推進部の重要な役割だという。「さまざまな部門の間をつなぐバインダーの機能を担いたい」と黒川氏は言う。

とりわけDX推進部と情報システム部門との関係については、お話を聞いていて、とても興味深かった。

DX推進部には今、渡辺氏ともう一名、情報システム部門に所属していた社員がいる。10年以上所属していたことから、同部門の業務のあらゆることを熟知している。

この二人が橋渡しをしてくれることもあり、DX推進部と情報システム部門は今とても良好な関係を築くことができているという。オフィスフロアが隣接していることも、よい影響をあたえているようだ。「進行中の案件について気軽に進捗を聞いたり、相談したりできることはとても重要なことです」と渡辺氏は語っている。

両部門の役割分担も明確だ。企画とPoCはDX推進部で行うのだが、その後の実装段階では情報システム部門に依頼してシステムを構築する。

従来は、各部門で企画した案件を、情報システム部に依頼したときにはもう手一杯で、対応できないということも少なからずあった。しかし今では、DX推進部が各部門と情報システム部門の間に入り、綿密に情報交換をすることで、余裕をもって準備ができるようになってきたという。

「よい関係性が築けていることで私たちDX推進部は、情報システム部門が進めている業務の理解も深まっています。そこで逆に、私たちから各部門に、情報システム部門が行っていることやその魅力を伝えることができる。これもDX推進部、その中でもデジタルナビゲーター(DN)の役割だと思っています」(黒川氏)

またDX推進部では、他の企業との交流機会も多いという。たとえば、他の企業で同じようにDXを推進する部門の人たちと、月に1度くらいのペースで交流する機会をもっている。「こうした機会を通して、弊社のDXの特色や進行の度合いが、客観的に見えるようになってきました。また非競争領域については、課題や悩みなどを積極的に共有しています。得るものは非常に大きいです」と黒川氏は語っている。

ライオンのDX推進部はまだ発足したばかり。多様なDX人材が集まることで、さらなる躍進が期待される。

ライオンではこんな人材を募集中

2021年10月20日時点での募集要項です。詳細はコチラからご確認ください。

企業名

ライオン株式会社(Lion Corporation)

募集職種

 IT技術職 / データサイエンティスト、マーケティング / リサーチ・データ分析

仕事内容

 データサイエンティストをマネジメントして、業務テーマをデータ分析の観点から推進する。

応募資格

必須要件

  • 理数系のバッググラウンド(統計を基本とする数学的知識を有しているレベル)
  • 機械学習、深層学習の知見
  • データサイエンティスト、エンジニアとしての実務経験
  • 民間企業でのマネジメント実務経験

歓迎要件

  • 消費財企業での実務経験

求める人材像

  • データ分析だけでなく事業へのアウトプットイメージを描ける方
  • 新しい環境、業務に対して好奇心を持って前向きに取り組める方
  • デジタル技術に固執せず本質を見極め、ゴールに対して推進できる方

雇用形態

正社員

給与

経験・能力等考慮の上、弊社規程により決定致します。(年収:400万円~800万円)

月給制+賞与年3回(3,6,12月/業績連動)+その他手当(通勤交通費支給、テレワーク手当、家族手当等)

福利厚生

制度

健康保険・労働(雇用・労災)保険、厚生年金、共済会、持株会、財形貯蓄、貸付金 他

諸施設

転勤者社宅(借上)、屋内禁煙 他

その他

各種文化・体育サークル活動

勤務地

【関東】
 本社オフィス(テレワーク制度あり)・DX推進部(東京都墨田区)
 JR総武線『両国駅』/地下鉄都営浅草線、大江戸線『蔵前駅』
 〒130-8644 東京都墨田区本所1-3-7

勤務時間

8:30~17:15(フレックスタイム制(コアタイムなし))

休日・休暇

土日祝日

ライオンの人材募集ページ

 https://www.lion.co.jp/ja/company/recruit/career/

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