IVI理事長 西岡靖之氏に聞く、日本の製造業が発展するために今必要なこと

IVI(インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ)は、日本流のものづくり×デジタルの標準をつくり、世界に発信するべく2015年6月に発足した。現在、製造業に関わる企業230社以上が参加。毎年10以上の業務シナリオワーキンググループ(WG)が設定され、実際の生産現場で実証実験を重ねてきた。2022年4月には、企業間のデータ連携を容易に行うための基盤「企業間オープンフレームワーク(CIOF)」の商用化がスタートした。このほど、IVI理事長の西岡靖之氏に、CIOFの狙いから日本の製造業の現状やカーボンニュートラルに至るまで、多岐に渡るテーマで話をうかがった(聞き手:IoTNEWS代表 小泉耕二)。

テキストの方は、まとめて要点を読みたい方、動画は全編通して視聴したい方向けです。

工場大改革 ー実践ものづくりDX
IVI理事長 西岡靖之氏インタビュー

  • ゲスト西岡氏とIVIのご紹介
  • ドイツと日本、製造業の違い
  • 製造業とカーボンニュートラル
  • カーボンニュートラルの基準作りとデータの裏付け
  • カーボンニュートラルにおけるIVIの取り組み
  • 製造業の置かれている現状
  • つながる製造業を実現するCIOF
  • スマートシンキングによる工場変革
  • 工場の未来



日本流のものづくりを世界に発信

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 今回は、IVI理事長・法政大学教授の西岡靖之先生にお越しいただきました。まず初めに、簡単に自己紹介をお願いします。

IVI西岡靖之氏(以下、西岡): 私は大学で機械工学を専攻し、卒業してからはIT企業に就職しました。SE(システム・エンジニア)です。プログラミングをやっていました。今でもやっています。

ソフトウェアなら誰でもつくれるだろうと思う人もいるかもしれませんが、それは大きな間違いです。さまざまな法則や最適化の方法など、学ばなければならないことがたくさんあります。それらを学ぶために退職して博士課程に進学したのですが、その後はアカデミアの道に進むことになりました。

小泉: IVIは西岡先生が中心となって2015年6月に発足されました。どのような経緯があったのでしょうか。

IVI理事長 西岡靖之氏に聞く、日本の製造業が発展するために今必要なこと
西岡靖之博士。IVI理事長、法政大学大学院デザイン工学研究科 システムデザイン専攻教授。1985年に早稲田大学・理工学部機械工学科を卒業後、国内のソフトウェアベンチャー企業でSEを経験。1996年に東京大学大学院・博士課程を修了。東京理科大学・理工学部経営工学科助手、法政大学・工学部経営工学科専任講師、米国マサチューセッツ工科大学客員研究員(2003年~2004年)などを経て、2007年から現職。

西岡: 当時、日本の製造業は元気がないと言われていました。また、第4次産業革命(インダストリー4.0)というキーワードがドイツで誕生し、日本でも「黒船がやってきた」と注目を集めました。当時、私は日本機械学会の生産システム部門長を務めていました。そこで、日本流のものづくりのデジタル化を議論するため、生産システム部門に「つながる工場」分科会というコミュニティをつくりました。

当初はセミナーや勉強会を行っていましたが、それだけでは何も変わりません。海外から情報を輸入するだけではなく、日本からも積極的に情報を輸出することが必要だと考えました。「日本のものづくりはこんなにすごいぞ」ということを、デジタル化というコンテキスト(文脈)で言いなおそうとしたのです。そうした目的で発足したのがIVIです。

小泉: 毎年ドイツのハノーバーで開催されている世界最大の産業見本市「ハノーバー・メッセ」でも、西岡先生はご講演されていましたね。IVIはドイツの製造業(インダストリー4.0推進団体)とも連携していますが、日本とドイツではどのような違いがあるのでしょうか。

西岡: ドイツの製造業は日本と違っていて、デジタル化に前向きで、明るいイメージをもっています。また、私が特に感じた重要な違いは、「協調領域」に関する考え方です。日本はどちらかというと、個々の企業が内に秘めているもの(技術など)を大事にして戦うというイメージですが、ドイツは企業間の情報交換もオープンで、フランクです。これは私にとって大きな刺激になりました。実際に、このドイツ製造業の文化はIVIの活動にも取り入れられています。

小泉: 日本の製造業のデジタル化は遅れているという声もありますが、実際はどうなのでしょうか。

西岡: デジタル化はだめですが、生産技術や品質管理においては、まったく遅れていません。逆に日本の製造業は、中国や東南アジアの企業からも注目されています。IT系のキラキラした技術は確かに目を引きますが、実際に工場で困っている人の目線からすると、重要なのはそれだけではないのです。カイゼンや加工技術など、日本の製造業には優れた技術やノウハウがたくさんあります。

カーボンニュートラル化のカギは「つながる」こと

小泉: 続いて、「カーボンニュートラル」というテーマでお話をうかがいます。西岡先生は先日、IVIの公開シンポジウム(2022年3月10日~11日に開催)でこのテーマについて講演されていました。製造業に限らず、日本全体が(温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きゼロにする)カーボンニュートラルの取り組みを始めています。製造業については、現在どのような状況にあるのでしょうか。

西岡: カーボンニュートラルは、人類が避けて通れない地球規模の課題です。GHGプロトコルという団体が、スコープ1、スコープ2、スコープ3という温室効果ガス(GHG)の算定基準を設定しています。スコープ1は燃料の燃焼などによる直接の排出量、スコープ2は使用する電力にともなう排出量、スコープ3はバリューチェーン全体の排出量が対象となります。

スコープ1とスコープ2においては、その算定と排出量の抑制は、自社の取り組みだけで完結します。ところが、昨今注目されているスコープ3においては、バリューチェーン全体の排出量ですから、自社だけでは解決できません。つまり、部品などを取引先から仕入れ、製品をつくってお客様に販売するという流れの中で、カーボンの消費量(GHGの排出量)がどのように受け渡されていくのかを、社内外においてきちんと追跡できなければなりません。

そうすると、中堅中小の製造業は大変です。排出量を可視化するための大きな投資は難しいですし、そもそもどこにどんな在庫があり、いつ仕入れたものがどう加工・出荷されるのかを可視化できていない企業もあります。何でもデジタル化すればよいということではありませんが、少なくともデータをあとからでも追える、あるいはそのデータの信憑性を担保できるという体質に変わっていかないと、極端な話、今後は市場から排除される可能性もあります。

小泉: Appleは(2015年から)部品を提供するサプライヤーに対して、再生可能エネルギーへの移行を呼びかけています。今後は、自社の基準に合わせられない企業とはお付き合いできないという流れになることも予測されます。これはAppleのような大手企業からできることのように思えますが、それでも大手企業に限らない問題になっていくのでしょうか。

西岡: 確実にそうなると思います。ただし、重要なのはその方法です。カーボンニュートラルによって、中小企業の強みである技術力が損なわれたり、価格競争力がなくなったりすることは、あってはなりません。

IVI理事長 西岡靖之氏に聞く、日本の製造業が発展するために今必要なこと
IoTNEWS代表 小泉耕二

西岡: そのために個々の企業はまず、「情報の見える化」を企業体質として身につけておく必要があります。これはカーボンニュートラルのためというわけではなく、競争力の強化のためです。妙な言い方かもしれませんが、カーボンニュートラルにかこつけて、そういう体質に変わる(トランスフォームする)ということは、企業にとってチャンスなのです。いずれは誰もがやらなければいけないことなのですから、先にしかけた方がいいでしょう。

小泉: カーボンニュートラルに明確な基準はあるのでしょうか?

西岡: 明確な基準はまだなく、これからの課題です。日本でも政府やJEITAなどが基準作りを進めていますが、これは御上が(トップダウンで)決めればよいという話でもありません。それぞれの業界での自律的な標準を決めていく必要があります。

カーボンニュートラルの基準作りを進めるにあたっては、次の2つのことが重要です。

1つは、デジタルデータによる裏付けです。昨今では品質不正がくりかえし問題となってきましたが、これは製造の管理や記録作成に人間が介在している限り、なくならない問題だと言えます。そこで、少なくとも機器のデータはIoTで直接取得し、あとは人間が色々な付随データを入れられる、という状態にしておくことが必要です。機器のデータさえIoTで取得しておけば、データを改竄することは難しくなります。改竄すれば、それが統計的におかしなデータであることがわかってしまうからです。

次に重要なのは、情報の見える化です。つまり、データをIoTで機器から収集し、そのデータから最終的なGHG排出量に換算して、それを取引先に明確に開示できることが必要です。

小泉: IVIにはさまざまな製造業の企業が参加していますが、そこでカーボンニュートラルの基準作りについて議論はされているのでしょうか。

西岡: 基準の策定という段階にはまだ至っていませんが、カーボンニュートラルを実現するための実証実験は、IVIの業務シナリオWGですでに始めています。今年の3月に1つ目の実証実験が終わり、今年度4月からはさらにそれを拡張する取り組みが始まっています。また、それにあわせて実証実験の成果をどういう形でモデル化し、広げていくかの議論も進めているところです。

インダストリー4.0の波はどうなったのか?

小泉: 現在、日本の製造業がおかれている状況や課題について、西岡先生はどのように考えていますか(製造業にも多様な分野がありますので、概観で構いません)。

西岡: 「匠の技」とよく言われるように、伝統的な日本のものづくりを継承していこう、という美しい物語がまずあります。一方で世界的には、インダストリー4.0のようなデジタル化の流れ、標準化、グローバルなサプライチェーンといった次元の違うものづくりへのシフトチェンジが起きていることも事実です。

インダストリー4.0は当時、「ディスラプティブ(破壊的)」なテクノロジーとうたわれていました。つまり、工場の自動化が進み、従来の属人的な工程がソフトウェアに置き換わるということや、物ではなくデータがビジネスの中心になり、データを保有する企業がリアルの工場を凌駕するということがさかんに言われていました。

ところが、実際に今の状況を見ると、そうはなっていません。それはそれで一安心なのですが、しかしインダストリー4.0の背景にある理論は今でも脈々と動いています。つまり、リアルの工場は決してなくならないけれども、製造業におけるソフトウェアやデータのレバレッジはどんどん効き始めています。

実際にデータは、品質管理や顧客ニーズの把握、設備の保全などあらゆることに力を発揮します。また、ネットワーク接続による設備の遠隔管理の重要性は、コロナ禍において再認識されました。多くの企業が、「これは現場に行かなくてもできる」、「海外工場のこのオペレーションは出張しなくてもできる」といったことを学習してきたと思います。

こうした流れの中で、現在の日本の製造業の問題は何か。それは、ソフトウェアの技術者がほとんどいないということです。これはピンチです。ですから、いわゆるDX(デジタル・トランスフォーメーション)においても、ビジネスモデルや製品のアーキテクチャを変革するということだけでなく、社内の人材のスキルや役割分担、競争力の基準も変革していくことが重要です。それができるかどうかが、今後の製造業の分岐点になるのではないかと思います。

企業間のデータ連携を容易に行うための基盤「CIOF」が商用化

小泉: IVIは2022年4月から、「Connected Industries Open Framework(CIOF)」(企業間オープンフレームワーク)の商用化をスタートしました。これはどういうしくみなのでしょうか。

西岡: 簡単にいえば、企業間を「つなげる」ためのしくみです。従来から日本企業は、会社の内部では阿吽の呼吸と「すりあわせ」でうまくやっていました。あるいは、系列会社や取引年数の長い企業であれば、密に連携することもあったと思います。

しかし、取引先の年数が浅い企業には手の内を見せないことが多いです。そのため、さまざまな企業と(安全に)取引をするには、その企業と取引をするためのオーバーヘッド(間接費用)が発生します。つまり、企業ごとに異なる対応(企業ごとにログイン画面を変えるなど)をしなければならないのです。そのため、たとえニーズがあっても、そのコストを避けるために取引をあきらめる、ということも起きてしまいます。

では、逆に企業間がつながるためのコスト(オーバーヘッド)が減っていくと、どうでしょうか。むしろニーズに応じて他企業とどんどん取引をすることで、利益を上げるというビジネスモデルに転換できるのです。そうしたコストのかからない「つなぎ目」をどうつくるかが重要であり、それをつくるための基盤がCIOFです。CIOFを使えば、データフォーマットやデータ活用基盤の異なる他企業と容易にデータ連携をすることができます。

小泉: 「フレームワーク(Framework)」という言葉はシンプルな分、直感するのが難しい言葉だと思います。CIOFにおけるフレームワークとは、具体的にどういう意味合いなのでしょうか。

西岡: これは「プラットフォーム」と言い換えることもできます。ただし、プラットフォームという言葉は、すでにできあがった一つの具体的なしくみを指すことが多いですね。「フレームワーク」という言葉でイメージしているのは、個々のプラットフォームをつくるための基本的なルールやしかけのことです。

小泉: なるほど。このフレームワークはどういう単位で使われるのでしょうか。たとえば、会社に1個なのか、それとも業界に1個なのでしょうか。

西岡: CIOFを使う主体は、さまざまな企業をつなげるプラットフォーム事業者だと思ってください。企業をつなげる方法は色々ありますが、プラットフォーム事業者はCIOFを使うことで、企業間をオープンに、セキュアにつなげることができます。

小泉: 企業間がつながる、という考え方は浸透してきているのでしょうか。

西岡: メリットは理解していても、実際につながるまではなかなかうまくいかない、というのが現状です。しかし、企業間は競争関係にあるわけですから、これは当然のことだと言えます。

そこでCIOFは、2社間の相対取引の基本的な枠組みを提示しています。2社間の取引がセキュアに、トレーサビリティを担保して――つまり第3者によるエビデンスを残すような形で――行えるようなしくみです。こうしてまずは2社間がつながり、契約の雛形や辞書(共通言語)、認証のしくみをつくります。すると、今度はその2社のうちのいずれかが別の企業とつながり、1対2になります。それがさらに拡大して1対Nになります。

つまり、2社間の1つがノードになることで、ネットワークがどんどん広がっていくのです。ビジネス環境もいわゆる生態系と同じで、最初からネットワークを完成させることはできません。自律的・自己増殖的に企業間をつなげていくという考え方が、CIOFの根底にはあります。

IVI理事長 西岡靖之氏に聞く、日本の製造業が発展するために今必要なこと
(左)IoTNEWS小泉耕二、(右)IVI理事長・法政大学大学院教授 西岡靖之氏

小泉: なるほど。プラットフォームというと、たとえばGoogleのような大きな会社が、他のさまざまな企業をつなげていくということをイメージしますが、そうではないと。むしろ「つなげよう」といきなり声をかけても企業は引いてしまいますから、まずは2社間で、受発注の方法など簡単なことから始めていくというわけですね。

はじめは1対1だった関係が1対2になり、やがて1対Nになる。Nの側が自分の取引先を誘うことで、網の目のように広がっていく。そうすることで、気がつけば多くの企業があたりまえのようにCIOFを利用している、という状況が期待できるわけですね。

西岡: 他社と取引するには、ルールを合わせることが必要です。従来の方法は、こちらのルールに相手が合わせるか、こちらが相手のルールに合わせるかの二つでした。でも、お互いに思いやりがあるのであれば、共通にすればよいのです。問題はどうやってそれを実現するかですが、その方法を提案しているのがCIOFです。

重要なのは、自社の強みを殺さないことです。むしろ自社の強みを活かす形で、取引を増やしていくことが重要です。具体的に言えば、企業は互いにつながることで、取引(受注~納品)の前後にあるビジネスチャンスを獲得しやすくなります。受注して納品して、もうその後は取引しないということであれば、CIOFはいらないでしょう。しかし、つながることで取引の前後も関係を維持することができます。逆に言えば、つながっていない企業はそのチャンスを獲得できないことになります。

小泉: なるほど。世の中が変化し、つながる企業が増えるほど、CIOFのようなしくみが必要になってくるわけですね。

ITとOTをつなぐ組織の思考法「スマートシンキング」

小泉: 西岡先生は、『スマートシンキングで進める工場変革 つながる製造業の現場改善とITカイゼン』という著書を2021年に出版されました。ここで解説されている「スマートシンキング」とは何でしょうか。また、この本を書かれたきっかけについて教えてください。

西岡: 一言でいうと、IT企業で働く人たちと製造業で働くOTの人たちをつなげたかったのです。それための思考法が「スマートシンキング」です。

ITにはITの、OTにはOTのツールや考え方、メソッドがあります。たとえば、ITにはシステム設計を視覚的に図式化するUML(統一モデリング言語)という方法があります。一方で製造現場(OT)の人は、ホワイトボードやポストイットなどを用いたアナログな手法を好みます。

こうした「言葉」の違いから、ITとOTの人たちの間では「会話」がうまく進まないということが、製造業のデジタル化において問題になってきました。両者の溝をうめるには、共通の言語が必要だと考えました。言語といっても、視覚的にわかる図式を用いることが有効です。具体的には、「なぜなぜチャート」や「ロジックチャート」などの16種類のチャートを用いながら、問題発見→問題共有→課題設定→課題解決を進めていくという枠組みです。



書籍名:スマートシンキングで進める工場変革 つながる製造業の現場改善とITカイゼン

著者:西岡靖之

出版社:日刊工業新聞社

出版日:2021/12/25

現場担当、プロジェクト推進担当、マネージメント

西岡: スマートシンキングは、いわば「組織のシンキングメソッド」です。さまざまなデザインシンキングの方法がありますが、その多くは個人の思考法であり、組織の思考法というのはあまり例がありません。しかし、製造業がさらに成長するには、組織知能が大切です。実際にスマートシンキングは、IVIの業務シナリオWGにおける基本的な手順になっています。

小泉: 専門用語はいっさい使わずに、誰でも直感的にわかるような図を用いることがポイントなのですか。

西岡: 正確に言うと、専門用語は使っても構いません。重要なのは、その言葉の「翻訳」を注意書きにしておくことです。初めからむりやり標準語にすると、喋れなくなりますからね。異なる環境で異なる言葉が使われていますが、結局は共通の意味や役割があります。

そのため、それぞれの言葉を名寄せ(情報の集約)していくと、だんだんと「辞書」ができてくるのです。その辞書をもとにすれば、異なる環境に属する者どうしでも会話ができます。この共通の辞書をつくるための方法を説いているのが、スマートシンキングだと言えます。

小泉: 同じ会社の中でも、部署が違うと「言葉」が理解できないことがあります。そういう場合は、部署間をつなげる役割の人が、スマートシンキングを導入すればよいのでしょうか。

西岡: そうですね。さらに言うと、それは必ずしも全社的な取り組みにする必要はありません。全員がやらなくても、個々の課題に応じて断片的にヒアリングしたり、書いてもらったりすればよいのです。そうすると、だんだんと断片がつながって、問題点が見えるようになります。

小泉: なるほど。とかく業務フロー図というと、最初から最後まで登場人物をすべて書き出して、関係性を整理したくなるけれども、その必要はないわけですね。

西岡先生のお話を伺っていると、まずは全体ではなく部分にクローズアップし、そこから少しずつ始めていくと、やがて全体が自然につながるという考え方が一貫しているなと感じます。いわゆる戦略コンサルタントにありがちな、まずは全体を俯瞰してトップダウンで上から順番にやっていくという発想とは真逆ですよね。

西岡: 両方(トップダウンとボトムアップ)が大事だとは思います。ただ、KPIや理想の状態を設定しても、そこに到達するためにどうしたらよいのかを考えなければ、うまくいきません。そこがなければ、現場は疲れてしまいます。上から言われたからやろう、ということではすでに失敗です。

DXの先にある、30年後の「未来の工場」の姿

小泉: 最後に、製造業の未来について、西岡先生の予測をお聞かせください。

西岡: 現在では工場がどんどん廃業し、事業者数が減っているという実態があります。一方で問題は、これから新しく製造業に参入しようとする若い人たちがどれくらいいるだろうか、ということです。現在のスタートアップの多くはITやインターネットの分野であり、工場で製品をつくるようなスタートアップというのは、あまりイメージできないでしょう。製造業は大きな設備投資や資本金が必要であり、当然のことだと言えます。

ただ、私はその現状がこれから変わっていくのではないかと考えています。つまり、工場をもたなくても個々の企業が簡単にものづくりに参入できる時代が来るのではないかと。具体的には、その段階に行くまでに、工場のカテゴリーは次の3つに集約されていくだろうと思います。

1つは「コンビニ工場」(どこでも工場)です。これは、お客さん(製品の消費地)に近いところで生産する工場です。コンビニのように近所に1個というわけにはいかないまでも、宅配エリアごとに工場があるイメージです。最終製品を常時在庫しておくのではなく、受注があればその工場で部品を組み立てる、アセンブリ(組立)型の工場です。

2つ目が「シェアリング工場」(だれでも工場)です。設備投資をして、大量生産で製品をつくります。シェアリングなので、自社のオリジナルのブランドだけではなく、色々な企業に製品をつくる設備と製造プロセスを提供します。ただし、最終製品の設計と組み立ては行いません。半導体の製造がわかりやすい例です。

3つ目が「コネクテッド工場」(いつでも工場)です。つまり、「つながる工場」であり、IVIが目指してきた工場のあり方です。得意とするコア領域をもちながらも、企業間をつなぐ技術やノウハウをもっていることが特徴です。

全体の図式でいえば、コンビニ工場とシェアリング工場を結ぶような位置づけになります。コネクテッド工場は、取引先とつながればつながるほどコア領域を活かし、ビジネスを拡大することができます。これは情報産業に近い業態になると思います。たとえば、Amazonは本来物流が強みの会社ですが、そのコア領域を活かしてあらゆる分野に広がっています。

私は、以上の3種類の工場をうまく組み合わせることで、日本の製造業がさらに魅力的になり、成長し続ける産業になると期待しています。

小泉: 本日は貴重なお話をありがとうございました。