米国スマートホームの行方とその主役は誰になるのか

2016年6月23日、米国最大手のスマートホーム企業、iControl network社がケーブルテレビ大手のCOMCAST社に買収されるという発表があった。

iControl側のブログによると、政府の承認待ちということなので決定ではないがほぼその流れになるとみられている。

そもそも、米国のスマートホーム事情になじみがない人のために書くと、2010年に米国最大手のセキュリティ企業ADT社(日本のセコムのような企業)のスマートホームハブとして利用されだし、2011年にくだんのCOMCASTが運営するXFINITYという動画サービスを中心としたサービスの一環としてスマートホームのクラウドサービスを提供している。

日本では、GoogleやAppleの動きに注目する人が多いからか、スマートホームというと関連企業のnestの動きがよく報じられている。確かに優れたエコシステムが構築されているし将来性も私自身かなり注目しているところだが、市場全体としてみればこれからという評価をすべき状況ともいえる。

日本とは異なり、面積の広い戸建て、かつセントラルヒーティングが主流の米国においては、nest Thermostat(サーモスタットという温度調節機器)を導入することで電気効率がよくなり約20%の電気使用料金が削減できるとされている。市場規模としても日本の10倍はある米国で、かつDIY文化が根付いているという環境や、都市全体のエネルギー効率を考えてもこういった施策をしていくことは重要であるとされていることからも可能性を感じている企業は多い。

日本においても、CO2削減に端を発したエネルギー効率の改善に対する政府の方針も固まってきており、その方面への支出もされていることから、エネルギーの効率化を趣旨としたスマートホームのサービスは徐々に浸透してくと見られている。

こういった大きな流れと、使ってみると便利なことがわかるスマートホームの各種デバイスの普及は気づいた時には広がっているというような性質のものだとも思われる。「現状わざわざ買ってまで使わない」という考え方も消費者心理としては理解できるが、大きなインターネットの普及という流れの中、CDがMP3(というか楽曲をダウンロードするというスタイル)にとってかわられるような変化、そしてその後もCD自体は残り続けているというような変化をイメージするとわかりやすいだろう。

こういった社会の動きを含めた大きな流れの中で、スマートホームを見ることで、単なるデバイスを見て「これは意味がない」というような議論はなくなると信じたいところである。

iControlのいいところ

さて、話を戻すと、iControlはスマートホーム黎明期に、スピーディーにスマートホーム向け、クラウドサービスを構築したことだといえる。しかも、自社のブランドにこだわらず、ADTならADT向け、XFINITYならXFINITY向けとユーザインタフェースすら変えることを良しとした。これが、おそらくもともと多くの顧客を持つ(顧客から見るとブランド価値がある)企業との提携に成功した大きな要因ではないかと推測される。

さらに、iControlはZigbeeというスマートホームでは標準的な通信手段で他のスマートホーム機器と接続することができるので、例えばスマートライト(電燈)や、スマートプラグ(電源)、スマートランドリー(洗濯機)、スマートカメラ(セキュリティカメラ)などと連動して動くことが保障されているデバイスも多い。

日本での動き

日本では、iControlは東急系列のケーブルテレビ企業iTSCOMと2014年に提携しており、2015年02月よりサービスが開始されている。

米国も日本も同じなのだが、実はケーブルテレビ網は他社のケーブルテレビ網と地域が区別されていて競合関係になることがない。

つまり、iTSCOMやCOMCASTからすれば、他のケーブルテレビ会社とも提携しやすい環境にあるということなのだ。

実際、iTSCOMは、2016年度中に国内30社のケーブルテレビ企業と提携し、310万世帯をカバーする予定だとしている。

スマートホームにおけるプラットフォーマーの限界

IoTは、ご存知の通り、モノとクラウドがつながって価値を提供する。インターネット事業者はモノをつくるときに発生するような面倒な制約がすくないことから簡単にクラウドサービスを構築し、時に他社のよいところをコピーする。

しかし、モノ側はそうはいかない。開発には時間がかかり、気温や湿度、衝撃など、様々な条件下でのテストを通過し、必要に応じて国の認可を取らなければいけないのだ。

そこまでであれば、正直、資金があればできなくはない。しかし、実際はそこからが大変で、「個客に販売し、長期にわたって利用してもらう」ことが重要なのだ。

多くの営業マンを抱えて、個別訪問などをしながら個客を開拓していった歴史もあるだろう。

そういった企業にとってみれば、IoT時代がくることでちょうどよいクラウドサービスとの接続は、スタート時にはとてもよい考え方だといえるが、市場がそれなりに立ち上がってきた場合、「顧客を持っているのは自分たちである」ということに気づき、似たようなクラウドサービスなら自社でも作れると思うはずだ。

しかも、直面した顧客の生の声を直接聞いている、モノやサービスを提供している事業者からしてみれば、本質的な意味でのクラウドサービスの改善もできるに違いない。

実際、COMCASTはiControlに出資しながらも、すでに自社製のSTB(セットトップボックス)「X1」を使ったスマートホームでバイスを制御するしくみを作っていて、音声認識ができるSTBも配布しだしているという。

米国におけるスマートホームの市場が立ち上がりだしている今、そのクラウドプラットフォームを提供するサービス事業者にとって、「提携する価値」を問われる時代がやってきているのではないだろうか。

日本のメディアをみていると、「IoTのエコシステムの主役はクラウドプラットフォームで、それが中心となってエコシステムが回る」というような論調も見かけるが、この事例を見ていると決してその単純な構図だけではないことがわかるのではないだろうか。