5Gならではのビジネスはどこから始まるのか?[Premium]

私は、CES同様、MWCも8年連続視察している。

CES2015でSamsungが「IoT時代の幕開け」を宣言して以来、個人的にはCESを「表」、MWCを「裏」という視点で分析している。

表と裏というと少し語弊があるかもしれないが、CESは「プロダクトを軸」に、提供できることを見せていくことがメインになっているのに対し、MWCはその裏で「必要となるネットワーク、インフラ、つまり環境整備」について語られているからだ。

2015年当時のMWCでは、「コネクテッドデバイス」が急速に増大する時代に向けて、大量のデバイスが収容可能な5Gが必要であることが明らかになった。

スマホだけであればLTEでも十分という状況の中で、IoT時代になるからこそ、5Gが必要ということが明確化された印象的な場であったと記憶している。

そして、2016年のMWCでは、ネットワークスペックも「用途によって最適化」していくべきという課題提起とともに、「ネットワークスライシング」という5Gの大きな魅力が明確化された。

そして、昨年、MWC2017では、5G時代を踏まえたユースケースが複数展示され、「5Gをどのように使っていくべきか、5Gらしい活用方法はどのようなことか」、というところに注目が集まっていた。

こういった流れも踏まえMWC2018は「5G時代の儲け方」が少しでも垣間見えるかと期待していたのだが、実態を見る限りでは少しタイミングが良くなかったようだ。

フレキシブルな対応に向けたネットワークのソフトウェア化

2017年の1年間、世界でスマホは約15億台出荷された。

生活必需品となったスマホはどの国でも確実な市場を構築し、日本の人口の10倍以上の規模に成長した。

この市場の中でイニシアチブを持つQualcommは期待に応えるSoC(System-on-a-chip:集積回路にプロセッサやコントローラなどを搭載したもの)を開発し続けている。これからもスマホが高速になり、より快適に、そして省電力になっていくことは間違いない。

スマホの世界は、完成されたバリューチェーン、既存のビジネスモデルの中で、今後も進化、競争が起こっていくのだろう。

一方、5Gの必要性が明らかになった後、ネットワークレイヤーとアプリケーションレイヤーをセットで管理するソフトウェアやシステムの提案が増加した。

ネットワークベンダーやキャリア(オペレーター)はもちろん、SIに強い企業もアプリケーションレイヤーからネットワークレイヤーに触れようとしている。

3G、4G、5Gといった通信世代の進化はソフトウェア領域の拡大と連動しているため、ソフトウェア、つまりアプリケーションレイヤーからのアプローチは当然の流れともいえる。特に5G時代になるとネットワーク機器がハードからソフトへ大きくシフトすることが予想されている。

ネットワーク機器のソフトウェア化は、5Gの魅力と言われている「ネットワークスライシング」を推進していくためにも必要である。そして、この「ネットワークスライシング」は、「用途別に通信を最適化するため」のものだ。

無線帯域が有限であるため、まだ需要が見えない様々な用途にフレキシブルに対応するためにはソフトウェアでネットワークスライシング含めてマネジメントしていくことが求められる。

シンプルに言えば、提供するネットワークを変更したり、調整したりするたびに、ハードの入れ替えをするのはナンセンスということである。

一方で、5Gで提供する通信スペックを固めることは現状では不可能だ。

現状の人が利用するハンドセット(スマホやガラケー)だけの市場でも、時間帯やエリアによって、ネットワークの使われ方は大きく異なる。住宅街は日中ネットワークの利用が減り、ビジネス街で高い負荷がかかる。朝晩はその逆になるというのがわかりやすいだろう。

このような状況に対して、無線帯域だけでなくネットワーク設備を効率的に活用するためには、状況に応じた柔軟な対応ができる仕組みが常に求められている。

そんな中、期待の5Gは、ハンドセットだけでなく、車や計測機器、放送機器、監視カメラ、自動販売機、ウェアラブルデバイス・・・といった、様々なデバイスで利用されることが見込まれている。

実際には、この中には5Gならではの通信が不要なものもあるが、焦点はそこではなく、大事なことは、「多様な用途、大量のデバイスが無線ネットワークを利用するようになる」ということなのだ。

客観的には需要が大きく拡大することはもちろん、市場規模も大きく成長することが間違いないように見える。しかし、2017年末に3gppで5Gの仕様が決まり、各国で5Gの開始に向けたカウントダウンが始まった中、通信領域に関わる主要プレイヤーからは楽観的な空気はあまり感じられない。

どうも解決できていない課題を持ったまま5Gをスタートしなくてはならない悩みを抱えているように思えた。

5G時代の儲け方と利用シーンが見えずらいワケ

スマホ向けのサービスとしての5Gであれば、現状の完成されたビジネス構造の上で、通信キャリアは投資と回収についてビジネスプランを練ればよい。

これまで同様、早期に投資をすれば、当然コストは割高になるだろう。スマホ向けに5Gならではの価値提供ができなければ、コスト回収が困難になっていくというわけだ。

日本はケータイ先進国であり、世界で最も早く3Gの通信サービスを開始した。当時ガラケーは世界でも最先端でもあり、3Gではコミュニケーションだけでなく、リッチなコンテンツを用意し、ガラケー上でどんどん「使う」ことを推進していた。さらに、パケット定額制も導入することで、ARPUを高止まりさせて投資を回収した。

また、4Gはスマホの普及と重なったため、データ通信量が急増することが確実だった。そこで、ネットワークの進化は必須だったといえる。

その結果、スマホ化で料金プランが定額制から再び従量制になるという、ある意味「奇跡的なプラン変更」が実現した。

今まで固定額の使い放題だったものを、デバイスを変えるタイミングで「使い方によっては青天井」となるプランにしたのだから、iPhoneを筆頭にスマホというのは通信キャリアのビジネス的にもイノベイティブな存在だったと認めざる得ない。

さらに、ご存知の通り、スマホシフトが急速に進んだこともあり、個人の月々の支払金額は増加したこともあり、4Gの投資に関してはしっかり回収できたのではないだろうか。

これを踏まえると、スマホ向けに特化した5Gのビジネスを考えるのであれば、現状の通信キャリア周りにいる関係者は、仕組みが全てわかっていることもありビジネスをシミュレーションしやすい。

一方で、5GがスマホだけのためであればLTEのままでも大きな問題は無く、5Gの必要性はさほど高くない。

これらのことから、3Gや4Gの時のような投資回収のシミュレーションが描きにくいといえるのだ。つまり、「5G時代の儲け方」が見えてこない理由はここにある。

スマホの5G対応で確実なARPU増が見込めるのであれば、とりあえず5G化して、ハンドセット以外の部分は状況に応じて対応すれば良い、というスタンスでも良いだろう。

しかし、そもそものスマホ領域は、既にパケット単価はどんどん安価になっており、50GB/月のプランも登場するなど、データ通信定額制まで秒読みのようにも感じられる。

過去のようなARPU増加を考えようにも、スマホの大きさや現状の使い方を踏まえると、LTE環境において提供が難しいマス向けのリッチコンテンツが次々と出てくるということも予想しにくい。

ハンドセット向けの通信料金はより安価に、もしくは適度なところで定額制が提供される、ということが順当な見方なのではないだろうか。

では、5G開始後、スマホ領域以外のどんな領域で新たな収益が得られるのか。

個人的にはこの部分が一番重要なところだと思うのだが、なかなか見えてこないのが現状だ。

5G時代に向けて、通信もビジネスに組み込むチャンス

誰もが技術的な価値を感じる「低遅延」や「高速・高品質」には、新たな「対価」、「値付け」が可能なのだが、実際は、その利用実態や規模等が見えないことでビジネスモデルもきちんとシミュレーションができず、決められない状況なのではないだろうか。

特にコネクテッドカーで求められる低遅延に関しても、初期の5Gのサービスエリアでは試験的な導入に留まる。さらに、そもそもコネクテッドカーの普及はスマホの何倍も時間がかかる可能性すらある。

逆にある程度の規模で短期間で普及させられる5Gを活用したIoTサービス、デバイスがあれば料金プラン含めて、自由度の高い交渉が可能な最期のフェーズかもしれない。

これまで3Gや4G等を利用する場合、決められた料金プランに従わざる得なかった。MVNOの登場で多少の幅は出てきたものの、実現したいビジネスと一体化した通信スペックと料金制度ではなかったことが多い。

例えば、事故が起きた時だけ通報するための通信モジュールを車に搭載しようとした時、いつでも通信ができるようにするためには月額利用料がかかる。5年に1回しか通信しないかもしれないのに毎月コストがかかってくる。これは誰がどうやって支払うようにすべきなのか。

ごく少量のデータを毎月月末にセンターに送信する。本当に数バイトのデータだ。それでもスマホ向けと同じ通信を使わざる得ない状況であれば、SIM1枚に対してスマホの最低料金が必要になる。

そこで、eSIMという考え方がある。eSIMは、物理的なSIMを提供するこれまでのやり方ではなく、様々なデバイスに対して論理的に通信可能な状態にしていくことだ。

これを使うことで、このような用途での利用が増加すると思われており、コンシューマー向けに提供することも考慮すると、提供する価値とともに、「一つのデバイスに対する通信について、いくらくらいまでならコンシューマが許容する金額なのか」を検討しなくてはならない。

他にも、屋外のイベントでVR向けのに4K映像をアップリンクしようとした場合、現在の「従量制」ではコンシューマはどれだけの料金を払わされることになるのかがわからない。品質担保のために帯域保証型にし、その上で低遅延でインタラクティブなサービスにしようとした場合、現状の料金の考え方では、間違いなく法外な金額になるだろう。

では、どんなプランであれば、ビジネスが拡がっていくのだろうか。

これは通信事業者ではなく、ビジネスを展開する企業や業界がイニシアチブを持ち、通信事業者とともに5Gのビジネスモデルを創造していくことが必要だと思われる。

誰が最初に「5Gならではのビジネス」を展開するのか、どの市場から始まるのか、現状では予想ができないこともあり、登場を期待するとともに少しでもそこに携わっていきたい。

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