スマートフォンによってヒトの生活はどう変わったのか、IoT/AI時代のマーケティングを考える[Original]

IoTNEWSの運営母体である株式会社アールジーンは、3月23日、「小売りのマーケティング」をテーマにセミナーを開催。本稿では、同セミナーに登壇した株式会社電通 BDA局 情報通信業界コンサルタント 吉田健太郎氏(トップ写真)の講演の内容を紹介する。

2008年に日本でもiPhoneが登場し、スマホ時代が幕開けした。それから10年が経った。街へ出かけても、電車に乗っても、誰しもが「スマホ」と向き合っている。スマホがいまやヒトの生活や社会に欠かせない存在であることは、多くのヒトが納得できることだろう。

しかし、その「実態」について知っているヒトはどれくらいいるのだろうか。世の中の誰もが自分と同じスマホの使い方をしているとは限らない。ヒトはどのようにスマホと向き合い、ヒトの生活や社会はどのように変わってきているのだろうか。

セミナーに登壇した吉田氏がリーダーを務める「電通モバイルプロジェクト」では、ガラケー時代の2003年から2か月に1度、モバイルユーザーの利用状況を調査し、その「実態」を追い続けてきた(下図)。今年の2月には86回目の調査が行われた。

スマートフォンで世の中はどう変わったのか、IoT/AI時代のマーケティングを考える

スマートフォンで世の中はどう変わったのか、IoT/AI時代のマーケティングを考える

吉田氏は、電通が2014年にスタートさせた「電通スマプラ」のリーダーも務める。「電通スマプラ」では、定期的なスマホユーザーの調査実績をベースとして、企業のマーケティング支援およびコンサルティングを行っている。

「スマホユーザーはなぜそのような行動をとるのか、その要因をデータに基づいた実態から考える。さらに、そこから生活者の購買行動におけるインサイトを開発し、企業がとるべき打ち手まで考えるのが私たちの役割」と吉田氏は述べている。

今回、吉田氏には「成熟スマホ市場の実態 スマホユーザインサイトは? ポストスマホはどうなる?」というテーマで、スマホユーザーのリアルな実態と、そこから見えてくる社会の変化について語っていただいた。

【目次】

  1. アプリの”断捨離”が進んだ
  2. スマホでヒトは”わがまま”に
  3. スマホの”沼”で進化したヒトの目
  4. 企業は「コト消費」できる場を提供せよ
  5. ポストスマホはハンズフリー

1. アプリの”断捨離”が進んだ

スマートフォンで世の中はどう変わったのか、IoT/AI時代のマーケティングを考える

スマートフォン(以下、スマホ)は日本でどれくらい普及しているのだろうか。電通がモバイル(携帯電話)を保有する15~49歳の年齢層を対象に行った調査によると、スマホの比率は増加傾向にあり、2018年1月時点で約9割まで上昇した(上図)。

スマホが爆発的に普及するようになった背景には、2014年からスタートした新料金プランがあるという。キャリアの値下げ競争に加え、国民の負担を低減するようにと政府の後押しもあり、消費者は2014年からリーズナブルな料金でスマホを使えるようになったのだ。

そのような背景から、利用者は増えた。しかし、その結果何が起きたか。キャリアが対応できる通信容量は有限であるため、一人あたりが使える通信量が「7Gbyte/月から3~5Gbyte/月」(吉田氏)に減ったのだ。

それにより、「スマホユーザーは月々の通信量を気にするようになった」と吉田氏は指摘。電通の調査によると、2018年1月の調査で、「データ通信を気にしている」と回答した人は、全体の61.5%だったという。特に、スマホの保有率が高い若年層の女性ほど「気にしている」という(10代女性の8割が「気にしている」と回答)。

スマートフォンで世の中はどう変わったのか、IoT/AI時代のマーケティングを考える

定額で安くスマホが使えるとしても、規定の容量を超えてしまうと、月末にかけて通信速度が遅くなり、ユーザーにとってはストレスとなる。その結果、ユーザーはアプリのダウンロードや動画の視聴はWi-Fi環境下で行う、あるいは普段利用しないアプリは削除するという(上図)、「スマホアプリの断捨離」(吉田氏)が始まったのだという。

2. スマホでヒトは”わがまま”に

電通が関東の15~59歳のスマホユーザーを対象に行った調査によると、3年前と比較してスマホのサービス利用率はもう伸びていないという(下図)。たとえば、スマホで「音楽を聴く」と回答した人は、3年前で57.2%、現在で54.7%だ。ほとんど変化していないと言える。

スマートフォンで世の中はどう変わったのか、IoT/AI時代のマーケティングを考える

「3年前に音楽を聴いていた人は、現在も音楽を聴いている。どんなにスマホが便利で、使えるサービスが豊富になっているとしても、ヒトは自分の関心のある用途にしかスマホを使わない」(吉田氏)ことがわかるという。

一方で、前述したように通信量やバッテリーは有限であるため、スマホのアプリを最小限にしぼる「アプリの断捨離」が進んでいる。

これらから、次のことが言えるという。ヒトは自分にとって関心のある情報は残し、不要な情報は排除する。その結果、「目に飛び込んでくるすべての情報が自分の”好き”や”興味”の範囲内であるという環境の構築が進んでいる」(吉田氏)というのだ。この生活者の行動を、吉田氏は「セルフキュレーション」と呼ぶ。

「かつては見たいものはなくても何か面白い番組をやっているだろうと思い、テレビをつけているヒトが多かったと思う。しかし今は、スマホを手にとりツイッターを開くと、自分がフォローしている人の情報が目に入ってくる。つまり、テレビよりスマホの方が、自分の”興味”に出会える環境が整っていると言える」(吉田氏)

生活者の「セルフキュレーション」の傾向は、小売企業のマーケティングにとってはチャンスだと吉田氏は指摘する。ヒトは自分の”興味”を同じ方法で探索し続けるため、その”興味”さえつかめば、広告や戦略PRの効果が大きいと考えられるのだ。

3. スマホの”沼”で進化したヒトの目

では、小売企業はどのような方法によって、生活者の”好き”や”興味”の中に入っていくことができるだろうか。それを考えるうえで、ヒトの情報探索の方法が「Search」型から「Discover」型へ変化していることを考慮すべきだという。

スマートフォンで世の中はどう変わったのか、IoT/AI時代のマーケティングを考える

ガラケーが主流だった時代には、モバイル以外のところからきっかけ(Attention)を得て、それを調べる(Search)ためにモバイルを使っていた。インターネット検索のような使い方だ。

しかし、今の生活者はスマホを常に見ているため、そこから新しい”好き”や”興味”を発見(Discover)し、そこから情報源へと枝分かれしていく。つまり、きっかけを得て情報を得るまでのプロセスがスマホですべて完結してしまうのだ。

それがあたりまえになると、生活者はスマホの画面からなかなか抜け出せない「”沼”のような状態」(吉田氏)に入り込んでいくという。

経験がないだろうか。何気なくスマホ画面をスクロールしていて、ふと目に留まったものをタップする。そうすると、そのままずるずると引き込まれて行って、気がつくと当初の目的とは全然違うコンテンツに「はまっている」というようなことが。それが、”沼”であり、「企業はそのメディア環境をマーケティングに活かすべきだ」と吉田氏は述べる。

スマートフォンで世の中はどう変わったのか、IoT/AI時代のマーケティングを考える

具体的には、スマホの”沼”の中で「ふと目に留まらせる」ことが重要だと吉田氏は指摘する。電通の調査によると、スマホユーザー95%が、「気になる情報は文字や画像でも自然と目に留まる」と回答している。

「これまでは耳寄りな情報と言うように、自分にとって関心のある情報に気づくセンサーは耳だと考えるのが一般的だったが、今では日々スマホを使うことによって、ヒトの目のセンサー機能が進化している」(吉田氏)という。だからこそ、企業はいかにスマホ画面のなかに、生活者が「ふと目に留める」ような情報を差し込んでいくかが重要だという。

4. 企業は「コト消費」できる場を提供せよ

これまで見てきたように、スマホによってヒトは「セルフキュレーション」、つまり自分にとって快適な環境づくりを進めるようになった。その結果、どうなったか。「生活者は忙しくなった」と吉田氏は述べる。

かつてインターネットに求められた主な役割とは、ヒトが情報を収集する効率を上げることだった。しかし結果として起きたのは、ヒトがやりたいことが増えたということだ。

スマホにおいてはどうだろうか。「暇つぶし」のツールとしてつくられた電話やメール以外のアプリケーションによって、生活者は暇つぶしをしている時間がなくなったのだ。つまり、インターネットとスマホ。この二つによって、ヒトはやりたいことが増えて、物凄く忙しくなってきているのだ。

その結果として、「生活者は時間の有限性を意識するようになった」と吉田氏は述べる。つまり、やりたいことはたくさんあるが、時間がない。一方で、楽しいことができる環境は整っている。そこでヒトはどのような行動をとるか。次の二つが考えられるという。

一つは、時間を費やす対象を慎重に選ぶということだ。最近では体験情報を発信するコンテンツが増えているというが、ヒトが限られた時間で失敗したくないために、他者の成功体験に基づいて意思決定をしているのだと吉田氏は分析する。

もう一つは、「せっかくだから前のめりでやる。つまり、ガチでやるということ」(吉田氏)だ。ひとたび意思決定をすれば、その限られた時間に徹底的に時間と労力を費やそうとする傾向があるというのだ。

以上のことは、たとえばテーマパークやハロウィンを楽しむ若者の行動を分析してみるとわかりやすいという。まずは、当日楽しむための準備に時間と労力をかける。たとえば、メッセージアプリのグループで企画会議をする、SNSのスポット検索を活用し、「当日、どこでどのように写真を撮るか」を計画する、当日着る衣装を自作する、などだ。

当日は、プラン通りに楽しむことはもちろん、SNSで写真や動画を投稿するなど、楽しい時間の「共有」も欠かさない。その後は、食事などに行って当日の話題で盛り上がり、次のイベントの企画を立てるという流れだ。

吉田氏は、「”楽しい”はちゃんと拡張して『コト消費』にする。そのために、時間と労力をかけてみんなでつくり、共感を生み出す。これが、スマホを介した生活者の行動特性の一つだ」と説明する。

これをマーケティングの視点で見た場合には、テーマパークやハロウィンに限らず店舗においても「日本に9割ほどいるスマホユーザーたちに対して、ものを買うだけでなく、時間を『コト消費』する価値のある場所を提供する」(吉田氏)ことが大事だという。

5. ポストスマホはハンズフリー

これまでスマホを手に入れた生活者の実態を、吉田氏の解説にもとづき見てきた。しかし、スマホも普及し始めてから10年が経った。次のデバイスを期待する時期に来ているとも言える。

スマホからIoTへ

スマホの次として、吉田氏は「ハンズフリー化が起こる」と予測する。

「スマホによって生活者は忙しくなった。これからは、生活者はこの忙しさを低減することをテクノロジーに対して求めるだろう。たとえば、スマホは都度ポケットなどから取り出して操作するという手間がある。この手間を省くため、顔認証や音の認証、無線通信を使った自動認識などで、ハンズフリー化が期待される」(吉田氏)

つまり、スマホの次は、何かスマホのような個人のデバイスではなくていいというのだ。「これからは、スマホの機能があちこちに切り出され、スマホはもはやIoTデバイスの一つにしかすぎなくなる。機能が切り出される先は、ウェアラブルかもしれない。店舗にある顔認証のカメラかもしれない。AIスピーカーかもしれない。それが何になるか、企業は今から考えるべきだ」と吉田氏は説明する。

最後に吉田氏は、企業が生活者の心をつかむためには、スマホやアプリに”人格”を持たせることが大切だとして、次のように述べた。

「本来、スマホはコミュニケーションツールであり、会話するもの。だから広告なども会話として失礼ではないかどうかを考えるべきだ。コト消費が重視される時代では、時間と労力を費やす価値があると感じるかどうかが重要。顧客にそう判断させるには、その先にいる”人格”が大切だ」

【関連リンク】
電通(DENTSU)

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