日本の”ものづくり”を世界へ発信、IVIがかかげる「ゆるやかな標準」

IoTNEWSの運営母体である株式会社アールジーンは、4月20日、製造業のIoT/AIをテーマにセミナーを開催。本稿では、同セミナーに登壇した一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)エバンジェリスト 鍋野敬一郎氏(トップ写真)の講演の内容を紹介する。

あらゆるモノがつながるIoT時代は、ヒトや企業もつながることが競争力となる時代へと進んでいる。そんな中、日本の製造業をつなげ、日本のものづくりの競争力を高めようとしているのが、インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)だ。

IVIとはどのような組織なのか。発足して3年経った今、どのようなユースケースが生まれてきているのか。エヴァンジェリストの鍋野敬一郎氏に語っていただいた。

IVIが目指すのは、「ものづくり」の世界標準

日本の「ものづくり」を世界へ発信、IVIがかかげる「ゆるやかな標準」とは?

IVIは、日本機械学会生産システム部門の「つながる工場」分科会を母体として、2015年6月に設立(理事長:法政大学教授 西岡靖之氏)。発足当時の参加企業は50社程度だったが、今では220社まで増えた(2018年3月22日時点)。会員数は620名以上だ。

製造業を中心とした企業が垣根をこえてつながるエコシステムを提供するのみならず、工場内にセンサーを取り付けてデータを集め、生産性の向上に活かすなどの一連の実証実験を行うことが特徴だ。毎年、20以上のユースケースを生み出している。

「自社で工場をもち、実際にものづくりを行っている企業」が正会員とされ、ITベンダーなどを含むサポート会員は正会員の推薦がないと加入できない仕組みとなっている。あくまで製造業が主体の団体なのだ。

IVI設立の背景について、鍋野氏は「ドイツからはインダストリー4.0が、アメリカからはインダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)が世界標準を勝ち取ろうと台頭してきた。そのなかで、ものづくりに強いはずの日本からも何か発信しなければならないと考え、発足したのがIVIだ」と述べた。

「日本のものづくりの強みを理解し、多くの企業とのあいだで合意することで、まずは日本のものづくりの標準をつくりたい。そして、最終的にはそれを世界標準にすることをIVIは目指している」(鍋野氏)

日本の「ものづくり」を世界へ発信、IVIがかかげる「ゆるやかな標準」とは?

IVIがかかげる「つながる工場」と「ゆるやかな標準」とは

IVIの取り組みの根幹となるのが、「つながる工場」と「ゆるやかな標準」の考え方だ。

「つながる工場」とは、昨今、世界や日本国内で起きている製造業のデジタル化の基本的な考え方を指す。製造業のバリューチェーンに関わるあらゆる設備・モノ・ヒトを「デジタル」でつなげ、ものづくりがもたらす付加価値を高めていくということだ。

「ゆるやかな標準」は、日本特有、IVI特有の考え方であり、日本のものづくりの標準を世界標準に高めるうえで肝となるものだ。鍋野氏は次のように説明した。

「工場の現場では、難しいシステムやITの言葉は通じない。工場ごとにも独自の考え方やノウハウがあり、同じ言葉を使ったとしても、行く先々でニュアンスが異なる。そもそも、製造業には共通言語や標準といったものがないのだ。そうしたなかで、企業が垣根をこえて競争力を高めていくには、互いに共通した部分(最大公約数)を標準としながらも、異なる部分も尊重し、議論を深めていく仕組みが必要だ。それが、IVIが目指す『ゆるやかな標準』の基本的な考え方だ」(鍋野氏)

また、「欧米の製造業はトップダウンが基本。標準は上から降りてきて、そのために最適なモデルを組むというスタイルだ。しかし、現場のPDCAやカイゼンに強みを持つ日本は逆のアプローチの方があっている。現場からボトムアップでノウハウを吸い上げ、標準をつくっていくのだ」と鍋野氏は述べた。

毎年、約20件のワーキンググループが進行

日本の「ものづくり」を世界へ発信、IVIがかかげる「ゆるやかな標準」とは?

IVIの取り組みの中核となるのが、「業務シナリオワーキンググループ(WG)」だ。620名の会員のうち、約250人がWGに参加し、毎月東京と名古屋で行われる定例会に参加し、議論しているという。2017年は、22件のWGが進められた(上図)。

「1年間を1サイクルとして活動しているが、期の途中からでも参加は可能。また、4社以上の企業が集まれば新たにWGを立ち上げることもできる」(鍋野氏)

WGの活動は、IVIのシナリオ構築手順に沿って進められる。まず、「AS-IS」として課題を提起し、それを解決するためのシナリオを、「システム用語を使わず、ヒトを『役者』とするなど、現場ががわかりやすいような表記」(鍋野氏)で作成する。

そして、シナリオを遂行するための実証実験を正会員企業の工場の中で行い、企業内の実装やプラットフォーム化へとつなげていく。

「ふつうは一社のなかだけで行うことを、ITベンダーのみならず、同業他社も一緒に議論して進めていくことが特徴だ」と鍋野氏は述べた。

日本の「ものづくり」を世界へ発信、IVIがかかげる「ゆるやかな標準」とは?

地域ごとにセミナーも開催。中小製造業での取組事例から、地域単位でアワードを選出するなどの取り組みも行っている(上図)。2017年は富山県の「RFIDタグの可能性の追求」が最優秀賞を受賞した。

発足から3年、セカンドギヤで「もっと攻めていく」

以上のようなWGを中心に活動を行ってきたIVIは、2018年で設立から4期目を迎える。これまでの3年間は、ドイツの先進事例を学びながら日本のものづくりの特長を再認識し、そのための仕組みを整備する「ローギヤ」の期間だったと鍋野氏は振り返った。

しかし3年経った今、「このまま同じことを続けていても、ドイツやアメリカの後追いにすぎず、日本は勝つことができない。そこで、4月からIVIはセカンドギヤに移行する」と鍋野氏は述べた。

日本の「ものづくり」を世界へ発信、IVIがかかげる「ゆるやかな標準」とは?

さまざまな取り組みを強化していく中で、カギとなるのは日本のものづくりの強みである「リアルなデジタル」をどう活用するかだという。

日本のものづくりに弱みがあるとすると、それはITやソフトウェアの分野だと鍋野氏は指摘。「工場で使われるシステムは欧米の製品が多い。そのため、その分野は欧米主導にならざるを得ない。製造現場でITに詳しい人が少ないというのも弱みだ」(鍋野氏)

一方、日本の強みは「エッジ」の領域だという。「たとえば、カイゼンのノウハウ、組み込み系ソフトウェア、ハードウェアの実装だ」と鍋野氏は述べた。

「ものづくりにおけるデジタルのデータは、モノの中にある。つまり、ものづくりに必要な”リアルの”データは、エッジに強い日本が持っている。これを、IVIでは『リアルなデジタル』と呼び、欧米に対する対抗軸としていく」(鍋野氏)

また、集めた現場のデータをすべてオープンにしてはいけないと指摘。「欧米は、エッジ側のデータを自分たちも活用できることをデジタルの目的の一つとしている。それに対し、日本はどのデータを守り、どのデータをオープンにするのか、何はアナログとして残し、何をデジタルにする必要があるのかを明確にしていかなければならない」と鍋野氏は述べた。

これは、IVIが目指す「ゆるやかな標準」を基本とする考え方だ。つまり、オープンにすべきところは標準化し、世界での日本の存在感を高めていく。一方で、守るべき領域はしっかりと守る。そのためには、「ゆるやか」でなければならないということなのだ。

日本の「ものづくり」を世界へ発信、IVIがかかげる「ゆるやかな標準」とは?

日本が進めるべき工場の姿として、IVIは「エッジでERP(Edge driven Resource Planning)」という概念を提唱。工場内のデータをすべてクラウドERPに集約するトップダウン型ではなく、データはエッジ側で管理し、必要な部分だけクラウドと連携する自律分散型を進めていくという。

匠の技術を、”デジタルで”若手に伝承

鍋野氏はこの3年間の取り組みから生まれた3つのユースケースを、動画も用いながら詳しく紹介。本稿ではその中の一つである「人と設備が共に成長する工場ものづくり改革」という事例を紹介する。

ある自動車メーカーと、同社の工場にある設備メーカー(工作機械メーカー)が共同で行ったこの取り組み。まず1年目では、「匠の技術をデジタルを使っていかに効率的に、速く若手に伝承するか」がテーマだった。

工作機械で金属の加工を行うとき、「思った通りの(寸法)精度が出ない」ということが、若手技術者にはしばしば起こる。

そんな時は、匠が若手に最適な作業の方法を教えるのだが、匠の作業を若手が横で見ながら説明を聞いても、「結局なぜ精度を出せるのかよくわからない」という場合があるという。匠は、経験や勘からそれを実現していることが多く、再現性よく若手に伝えることが難しいのだ。

そこで、「匠から若手へ技術を伝承する」手段として「デジタル」を活用。センサーや設備のデータから匠の「五感」を解析し、匠は可視化したチャートを若手と共有しながら技術を伝承することが可能になったのだ。

2年目はさらに高度化を推し進め、AI(機械学習)を用いたという。

初めて担当する加工機で、教えられたとおりに作業をしても、狙い通りの寸法が出ない。そんな時は、過去の「補正値」を参考にするのだが、それを用いてもうまくいかないことがある。時間を経て、設備内外のさまざまな環境が変わっているからだ。

そこで、過去の作業のデータを学習したAIが、そのときに最適な補正値を導くことで、改善したという。つまり、「AIが匠の代わりをした」ことになるのだ。

なお、これらのデジタル技術を活用することで、ヒトのスキルは向上する。そこでIVIは、スキルアップを見える化する仕組みもつくったという。これらをすべてあわせて、「人と設備が共に成長する工場ものづくり改革」となるのだ。

3年目はさらにディープラーニングを導入。現在、IVIではその成果をまとめている最中だという。このように、IVIでは課題に対して1か年ごとに実証実験を行い、ものづくりの高度化を進めている。

「ゆるやかな標準」を世界に発信していく

日本の「ものづくり」を世界へ発信、IVIがかかげる「ゆるやかな標準」とは?

IVIは、これまで見てきた「ゆるやかな標準」に基づく指針を、「IVRA-next」と題したリファレンスアーキテクチャとして提案し、和文/英文の文書としてまとめている。先月の23~27日にドイツで開催されたハノーバーメッセではIVI理事長の西岡靖之氏がその内容を発表したという。

「日本の製造業には、IVIの考え方に共感してくれる企業がもっとあるはずだ。見学でも参加でも、基本的にはいつでも可能だ。ぜひIVIに参画してほしい」と鍋野氏は呼びかけた。

【関連リンク】
IVI(Industrial Valuechain Initiative)