ボッシュ株式会社は、新たに、主にウェアラブルデバイスで使用できるMEMSの自己学習型AIセンサー「BHI260AP」を開発した。2本の記事にわたり、その特徴やボッシュの狙いについて紹介をしている。
前回の記事では、同センサーを開発した背景や、ボッシュがソフトウェアを含むソリューションとしてセンサーを提供することの狙いについて紹介した。(前回記事はこちら)
本稿では、具体的にどのような体験が可能なのか、デモンストレーションの様子と共に紹介する。
「BHI260AP」の仕様
「BHI260AP」の大きさは3.5×4.1(mm)で、MEMSには加速度センサーとジャイロセンサー、マイコンのシステムが搭載されている。一般的な3軸加速度センサーの大きさが、2×2(mm)程なので、ジャイロセンサーとマイコンが搭載されているということを考えると、「BHI260AP」が小型であることがわかるだろう。
マイコン機能にアルゴリズムを実装することで、センサー単体で、データを収集し、そのデータを分析するという工程を完結することができる。「BHI260AP」内で閉じた形で処理が可能なため、システム全体で省電力化が可能になる。
ボッシュでは、同センサーをハードウェア単体として販売するだけではなく、センサーを利用したソリューションとして提供を行っている。アルゴリズムを変更することで、同じセンサーでも別のソリューションとして提供することが可能だ。
14種類のフィットネス・アクティビティの検知や、4種類の機能、ボッシュがこういったセンサーを開発した意図などについては、前編を参照してほしい。
実際にボッシュが開発したソリューションを紹介する。
フィットネストラッキングソリューション
フィットネストラッキングを実際に利用している様子。すぐにフィットネス動作を検知してカウントしている事がわかる。新しいパターンも簡単に登録することができている。
フィットネストラッキングのソリューションは、加速度センサーとジャイロセンサーを利用して、フィットネス動作のトラッキングができる。
14種類のフィットネス動作の検知パターンがあらかじめ実装されていて、エンドユーザーが操作を行わなくても、自動的に自律して検知を行う。パーソナライズ機能も搭載されており、OEMメーカーやエンドユーザーでも、動作検知パターンを自身の骨格や動きに合わせたものに変更が可能だ。
また、動作検知パターンを変更するだけではなく、全く新しいパターンを登録することもできる。登録されていない動作も、5回ほど繰り返し動作をすることで、センサーが検知し新しいパターンとして登録することが可能である。
デモンストレーション:自動で高精度なトラッキングができることで利用者は継続して使用したくなる

フィットネストラッキングを行う場合、パーソナライズが重要になるそうだ。
実際に、初期設定のまま運動を行ってみたが、中々正しい動作パターンが検知されなかった。これは、ボッシュの本社があるドイツ人の骨格に合わせた検知パターンになっているからだという。パーソナライズを行い、自身の動作を正しく学習させることで、正しい動作パターンを1回目から検知を開始するようになった。
また、操作をせずに、次のフィットネス動作を実施してみたが、すぐに検知しカウントを開始した。ユーザーが操作せずとも種目が変わったことを検知するため、非常に使い心地がよく感じた。ジムでフィットネスを行う際に、種目を変える度にスマートフォンを操作して設定を変更するのは、面倒だと感じる人も多いのではないだろうか。
フィットネスの記録を行う場合、これまでは、種目や重量、回数をメモで記録する方法が一般的だった。スマートフォンやウェアラブルデバイスを活用し記録するという方法が増えてきているが、実際の動作を正しく検知したり、回数に誤りが無いことが、利用者の体験にとって重要になるだろう。
せっかく回数を検知していても、その後手入力によって修正する手間が毎回発生してしまうと、だんだん面倒くさくなってしまう。回数が正しく検知されて、修正などの手間がかからないことで、使いやすく継続して利用したいという気持ちが湧きそうだ。

また、あらかじめ登録されていない動作パターンを、ユーザーが登録するというデモンストレーションも実施した。ボッシュ株式会社 ボッシュセンサーテック アプリケーション エンジニアリング マネージャーである宮地浩輔氏が、空手の型を登録し、実際に動作を行った。上手く動作することができれば正しく検知することができるが、型が乱れると検知できなかった。
フィットネストレーニングの種目だけではなく、このようなお手本がある動きを模倣するというシチュエーションでもソリューションの活用できそうだ。例えば、有名野球選手のスイングを学習すると、野球少年が、その野球選手のスイングに近付ける練習が可能になるだろう。
スイミングトラッキングソリューション

スイミングトラッキングは、ストロークの回数や泳法、ターン回数を検知することができる。
あらかじめプールの大きさを設定することで、ターンの回数から全体の距離を算出し、どの泳法でどのくらいの距離を泳いでいたかを可視化する。
PDR(Pedestrian Dead Reckoning:歩行者推測航法)ソリューション
PDRは、GPSなどの絶対位置ソリューションの精度を上げるために利用されるソリューションだ。PDRとは、6軸センサーによって、ある基準位置からの相対位置を測定する技術である。GPSの場合、信号を受信した2点をつなぐことで、移動を可視化することができる。PDRは、このGPSによる2点の間を詳細につなぐことが可能になるので、利用者の移動を可視化できるということだ。
GPSと比較すると、PDRは消費電力を抑えることができる他、屋内や地下道などのGPSの電波が通じない場所でも位置を特定することができる。そのため、工場や倉庫内での従業員の経路トラッキングにも使用することができるという。工場内の危険エリアを特定し、その場所に従業員が立ち入りしているかどうかを確認するという使い方も可能だ。
その他、子供の見守りや高齢者の徘徊を検知するという使い方も想定できる。
デモンストレーション:実際に移動してみることで、精度の良さを体感できる
PDRのデモ動画。腕に付けたデバイスが位置を特定している。
PDRのアルゴリズムが搭載されたデモ機を装着し、屋内の会議スペースを歩くデモンストレーションも実施した。
GPSが搭載されていないデバイスだったが、歩行ルートがスマートフォン上に正確に表示されるのを確認することができた。会議スペースの中で、細かく移動してみてもしっかりと経路を記録した。
GPSなどの絶対位置ソリューションと組み合わせることで、より正確な位置が検出できるようになることはもちろん、GPSの電波が届きにくい屋内でも正確に位置を測定できる。
精度の高さを実感することで、倉庫や工場でも利用が可能であることを感じることができた。人の動作を検知して可視化する、その結果をもとに最適化をシミュレーションするということが、「BHI260AP」によって更に高精度で実現されていきそうだ。
実際に2つのデモンストレーションを体験することで、センサーとしての精度の高さと、ソフトウェアが一体化されていることでの利便性の高さを感じることができた。センサーの精度が高いことがエンドユーザーのより良い体験に寄与することを、「BHI260AP」を搭載したデバイスを実際に使用してみて理解することができた。
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大学卒業後、メーカーに勤務。生産技術職として新規ラインの立ち上げや、工場内のカイゼン業務に携わる。2019年7月に入社し、製造業を中心としたIoTの可能性について探求中。