株式会社富士通研究所は、IoT向け無線通信技術Sigfoxに対応した、電池交換不要のセンサーデバイスを開発した。
同社は今後、センサーデバイスの実用化に向けた実証実験を進め、同技術を「FUJITSU Cloud Service K5 IoT Platform」や富士通フロンテック株式会社のセンサーソリューションの接続デバイスとして搭載し、2018年度の製品化を目指すとしている。
IoTシステム普及の本格化にともない、昨今では、センサー情報を直接クラウドに無線送信できるLPWAに対応したセンサーデバイスへの期待が高まっている。そして、そのようなシステムを実現するために、利便性やコストの面から電池交換の手間を省くため太陽電池を利用し、設置が手軽で小型なデバイスの開発が求められている。
富士通研究所ではこれまで、太陽電池のみの電力でビーコンを動作させる電源制御技術を開発してきた。従来は、温度による太陽電池の発電電力のバラツキに対して、蓄電素子を大きくして対応してきたが、今回、温度センサーで測定した温度に合わせて電波送信のタイミングを制御する技術を開発した。
電力を効率よく利用することにより、電波送信に必要となる蓄電素子を半減することが可能となった。これにより、82×24×6mmまでデバイスを小型化することができた。
同技術を適用したセンサーデバイスを試作し、センサーから約7km離れたSigfox基地局経由で温湿度データを取得できることを確認。これにより、電源確保や電源ケーブル増設が困難な場所でも、同センサーデバイスを置くだけで測定データの取得が可能となるため、IoTシステムの導入や運用管理におけるメンテナンスフリーが期待できる。
開発の背景
昨今、IoTシステムの普及が進み、2020年には数百億個もの膨大なIoT機器がネットワークを経由してクラウドに繋がると予測されている。
IoTシステムを実現するためには、現場に設置した多数のセンサーデバイスからの情報をクラウドで集めて分析する必要があるため、低消費電力で広い領域を対象にデータをクラウドに直接送信できる無線通信技術としてLPWAが注目を集めている。
これらのセンサーデバイスには、LPWAに準拠するとともに、利便性やコストの面から、電池交換の手間のかからない太陽電池などを利用し、かつ小型化が期待されている。
課題
富士通研究所では、これまで、BLE(Bluetooth Low Energy)を用いた近距離無線でのデータ送信を小型回路で実現する電源制御技術を開発してきた。同技術では太陽電池により電力を蓄え、発電と消費の電力バランスを監視・調整することで確実に無線回路を起動し、電池交換が不要なBLE対応のセンサーデバイスを実現している。
ここで、長距離無線のLPWAは、少量のデータをゆっくり送信して長距離での通信品質を確保するため、BLEに比べて送信に要する時間が長く、一回の送信にBLEの約1500倍の大きな電力が必要になり、従来の電源制御技術を用いたセンサーデバイスではLPWAに対応できなかった。
開発した技術
今回、回路規模を小型化しつつ、送信電力を確保する新たな電源制御技術を開発。開発した技術の特長は以下の通りだ。
温度による電力変動を許容する電源制御技術
温度センサーによって取得した温度データを元に、LPWA無線の電波送信のタイミングをリアルタイムに制御する電源制御技術を開発。
同技術により、LPWA無線の動作下限電圧を下回らないように、温度によって異なる起動電圧が最大となるタイミングで電波送信を行うため、効率的な電力利用により温度による無線回路の消費電力と太陽電池の発電電力のバラツキを許容することができる(図:動作タイミングチャート)。
従来必要だった電源変動へ対応するための余分な蓄電素子が不要になり、最小限の蓄電素子の構成により、センサーデバイスの小型化が実現できる。
温度センサーを確実に起動させる電源監視技術
温度データを取得するためには、電源電圧の変動が生じても小さな電力で温度センサーを確実に起動し続ける必要がある。
これに対して、電源電圧の変動を分析し、温度センサーの動作可能な電力が蓄電されているか否かを簡単な回路で正確に判別する電源監視技術を開発した(図:温度センサーを確実に起動させる電源監視技術)。
同技術により、温度に合わせた最低限の電力で温度センサーの不要な動作停止を防ぐことができるという。
効果
同技術をLPWAの一規格であるSigfoxに適用し、電池交換不要でLPWAの通信を実現するセンサーデバイス(82×24×6mm)を実現。10分に1回、7日間の温湿度データを照度4000ルクスの環境下で、約7km先の基地局にダイレクトに送信できることを実証した。
あわせて、Sigfoxクラウドに接続できるIoTプラットフォームとしてのSigfox Ready Program for IoT PaaS認定を取得した富士通株式会社のIoTデータ活用基盤サービス「FUJITSU Cloud Service K5 IoT Platform」を経由して、データ可視化することも実証した(図:開発したLPWAセンサーデバイスとクラウド経由での利用シーン・データの流れ)。
これにより、電源確保や電源ケーブル増設が困難な場所でも、センサーデバイスを配置するだけで、センシングデータをクラウド上から簡単に取得できる。
【関連リンク】
・富士通研究所(FUJITSU LABORATORIES)
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。