ニッチマーケットを狙う、IoT/AIプロダクト企画の考え方

前回のプレミアム記事で、五感やカラダを拡張するようなモノが登場するとよいというものの、大抵の企画はすでに実現されていて今イメージされているものを実現するには技術の進歩を待つ必要があるという点について指摘した。

では、新機軸のプロダクトをデジタル起点で起こすことは難しいのだろうか。

マーケティングの考え方には「ニッチ」という考え方がある。

例えば、日本国民全体が喜びそうな歯ブラシを作るのが「マス」の考え方だとすると、「ニッチ」は歯槽膿漏に悩む人にピッタリな歯ブラシを作るということだ。

いわゆる「困りごと」を解消する製品となるので、その性能が実際の問題を解決するようなモノであれば、価格がよほど高くない限りは歓迎される。

しかし、ニッチを考えるとき、多くのメーカーが悩むのは次のポイントだ。

「これまで1億人に対してPRやプロモーションをして、シェアにして1%、100万人の人に愛されてきたプロダクトを作ってきた。一方、特定の悩みを持つ100万人に対して同じことをやった場合、1%の1万人にしか利用されないと商売にならない。」

しかし、この考え方はニッチマーケットを狙ってはいるものの、ニッチ戦略としては間違った見方をしている。

ニッチ戦略とはどういうことなのか

ここでニッチ戦略をとる場合は、100万人の100%、つまりターゲットを総どりするつもりで戦略や戦術を立てないといけないのだ。

「そんなことできるのか?」

という声が聞こえてきそうだが、母数が少ない以上、当然だがシェアをとる以外に道はない。

例えば、SONYのWenaというスマートウォッチがある。

いわゆる時計なのだが、ベルトの部分に非接触ICチップが埋め込まれていて、時計をつけながらSUICAで駅の自動改札をくくり抜けられるというものだ。

これは、どんな課題を解決したニッチマーケットを攻めているといえるだろうか。

  • 時計はおしゃれなものをつけたい
  • 便利な機能のある時計をつけたい
  • 改札を通るときにいちいちスマホやパスケースを出したくない

wenaのヘッド部分は、SEIKOやBEAMSなどとコラボレーションして、おしゃれさを訴求している一方で、バンドの部分に非接触ICや通知機能、小型ディスプレイなどを搭載して、おしゃれと機能美を両立しようとしている。

これは、初期のスマートウォッチがデジタルガジェットとしてガジェットオタクにはうけるものの、一般のいわゆる時計をしている利用者には抵抗があるという市場調査があったことからスタートしたと思われる。

こういったアプローチは、ほかにもFOSSILがMisfitを買収して、様々なブランドのデジタル腕時計を作っているという例もある。

私は、この考え方は、ソニーという会社が必要とするほどは儲からないのではないかと考えている。

なぜなら、マーケット規模はどんどん小さくなっていて、もともとそれほど大きくない「高級でもおしゃれな時計をつけたい」という市場を総どりできないからだ。

というのも、そもそも時計は何でもよい、つけたいと思わないという人が多い中、高価でもおしゃれな時計を身に着けたいという利用者の中で、特定のブランドの特定の製品をつけたいという利用者がいて、その中でもデジタル機能を搭載してほしいという利用者をターゲットとしているからだ。

一方、アップルウォッチは、5,000万本近く出荷しているといわれており、アップルウォッチを身に着けたいという利用者を取り込んでいる。この数はMacの発売台数を超えそうな勢いなのだという。

アップルからすれば、Mac(iPhoneではない)を買うようなアップルファンが5,000万人くらいいて、その人たちの何割かは買うのではないかという見通しがあったのだと思われる。これが、アップルウォッチの盤面に傷がつかないようにするシールを作る会社であれば、アップルが期待するような市場はないことは容易に想像がつく。

その結果、アップルはアップルウォッチは作るが、シールは他社に任せるということになるのだ。

余談だが、Huaweiは、まだ全世界にそのスマートフォンが普及していなかったころ、ディスプレイを保護するシールはあらかじめ貼って出荷していた。

つまり、セグメントを多重に絞り込んでいったニッチ市場は、それなりのニーズを顕在化することはできても、実際はかなり苦戦を強いられる覚悟が必要となる。

しかし、多くのデジタルサービスを取り入れようとしているモノづくり企業において、多重に絞り込んだニッチ市場を「ニッチ」と呼びがちだという感覚がある。

最近私が見たプロダクトとしては、P&Gがシミを画像認識で見つけ出し、ピンポイントでシミを隠すコンシーラーを吹き付けるデバイスを作っていた。ほかにもライオンはほうれい線を伸ばすデバイスを作っている。こういったデジタルデバイスは、見慣れないものなのでうまくPR、プロモーションを行わないと簡単には広がらないかもしれないが、うまく体験をプロデュースできればニッチとは言えない規模のマーケットが潜在的にあるといえる。

デジタル起点でのハッカソンやアイデアソンや、オープンイノベーションプログラムがいろんなところで行われているが、多くの利用者をすでに持つメーカーは今一度自社の顧客に注目して、その悩み事をデジタルの力で解決できるようなプロダクトを企画してみるとよい。