
村田製作所が「機器の販売」ではなく、「データの販売」に注目した理由
IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 東南アジアで「グローバルIoTデータサービスプラットフォーム」を提供することになった背景を教えてください。 村田製作所 津守宏晃氏(以下、津守氏): きっかけは、村田製作所がインドネシアで行っている「トラフィックカウンター」というデータ販売事業です。道路に設置したセンサーから交通量などのデータを取得し、企業や行政に提供するサービスです。このサービスを実現するにあたり、データ販売の手続きやインドネシア政府への対応など、日本企業が外国のデータを扱うことの大変さを痛感しました。 しかし、逆にこうしたハードルを乗り越えることさえできれば、日本企業がもつさまざまな技術を東南アジアにもちこむことができます。私たちと同じ苦労をせずに、日本企業が東南アジアでのデータ販売ビジネスに参入できる環境をつくりたい。このような考えから、プラットフォームの提供に至りました。 小泉: 今回、電子部品メーカーである村田製作所が「データ販売」に目をつけたのはなぜでしょうか。 津守氏: 弊社は確かに電子部品の企業です。しかし、そうした部品やデバイスは、電気信号を扱うためにあります。この電気信号が、要するに「データ」です。つまり、弊社がやっていることをつきつめていくと、デバイスから上がってくるデータ(電気信号)をデリバリーすることだといえます。村田製作所の役割は、データをデリバリーするサプライチェーンを提供することにあると私は考えています。 小泉: 従来は温度センサーを販売していましたが、これからは温度センサーが取得するデータも販売していくということでしょうか。 津守氏: おっしゃるとおりです。 小泉: IoTが注目されるようになってから、データ販売の重要性はさかんに議論されてきました。とはいえ、実際にデータを売る企業も買う企業も、それほど現れてきていないという印象があります。津守さんは、そうしたIoTの現状をどう見ていますか? 津守氏: IoTのビジネスでよくある悩みは、とりあえずデータを取ってはみるものの、実際にそのデータが何に使えるのかがはっきりしないということです。私自身、それに対する一般的な答えをもっているわけではありません。しかし、弊社ではトラフィックカウンターの事業を進める中で、データ販売の一つのモデルをつくることができました。
東南アジアの行政機関に交通量のデータを販売
小泉: トラフィックカウンター事業について具体的に教えてください。 津守氏: 道路にセンサーのボックスを設置して、車の交通量などのデータを取得します。そのデータの活用法はさまざまですが、弊社が最初にターゲットにしたのは広告業界です。広告業界では、屋外看板の視聴者数のデータを取得することが重要ですが、それを交通量のデータで代替するという取り組みです。しかし、サービスを開始する寸前で、新型コロナウイルスの感染が拡大しました。外出規制により、屋外看板の市場自体が冷え込んでしまい、プロジェクトは頓挫してしまいました。 そこで、次はインドネシア政府に提案を行いました。東南アジアの中には、ODA(政府開発援助)で日本のITシステムを導入する国もあります。しかし、彼らに必要なのは、データを活用して、街をよくしていくことであって、高価なシステムそれ自体ではありません。そこで、「システムの投資は弊社が行うので、データだけ買ってください」という提案をしたところ、「そのモデルいいね」と快諾してくれたのです。 小泉: 具体的には、どのようなデータを提供しているのでしょうか。 津守氏: 車の交通量やスピード、道路の占有率、気圧、雨量や温湿度、二酸化炭素の排出量など、必要に応じてさまざまなデータの取得が可能です。 たとえば、交通量のデータからコロナ禍における外出機制の効果測定を行いました。また、道路を走行する車のスピードが一定の速度を下回ると、二酸化炭素の排出量が増えます。そのため、交通量をモニターし、渋滞が起きている場所などには対策を打つということもしています。 センサーは、現時点でジャカルタ市内に約100か所設置しています。データは2020年から無償で提供してきましたが、2022年2月からは購入いただいています。交通データを政府の要望に合わせグラフ化して、ダッシュボードの閲覧権とデータのダウンロード権を販売しています。データ販売のノウハウをプラットフォーム化し、日本企業に展開

「グローバルIoTデータサービスプラットフォーム」の特徴
- データビジネスに必要なパーツや機能をワンストップで提供
- 機能:データ収集に必要なセンサー・ネットワークからデータ活用に必要なクラウド機能、エッジ・クラウド両面のシステム監視・運用までIoTシステムに必要な機能・運用を提供
- 体制:必要なデータの収集方法、集めたデータの活用方法や解析の支援、現地資本の現地企業によるデータ販売・販促活動などビジネス推進にあたっての体制面までを提供
- 現地法規制に対応した堅牢・安全なプラットフォーム
- すでに東南アジアで法規制に対応したデータビジネスを実践しているプラットフォーム
- BCR承認・CBPR 認証取得済みの IIJ が提供するクラウドサービスがベース
- データ保管と利活用にあたって必要なセキュリティサービスの適用(ZTNA/SWG/CASBなど)


データを活用する企業と共に苦労して、IoTビジネスをつくりあげる
小泉: データを取得できても、それを有効に活用できなければ意味がありません。データを有効に活用するには、何が必要でしょうか。 津守氏: 重要なのは、実際にデータを活用する人が、それを加工したり、必要なデータを取得するための機器を検討したりできるような環境をつくることです。 IoTでは一般的に、事業者がSI(システムインテグレーター)に委託をして、システムを構築します。しかし、これでは一方的にデータが上がってくるだけで、それらが本当に必要とされるデータなのかわからないことが多いのです。 データを活用する人が、データ活用の目的や、必要なデータのあり方を明確に理解していれば理想です。その基準に合わせて、「このデータはいらない」、「このデータは重要だ」、「このデータはこう加工したら使える」といったことがわかります。また、必要なシステムや機器を、必要なデータから逆算して要請することもできます。しかし、それは実際にデータを活用する人たちが、試行錯誤しなければ見えてこないことです。 そこで弊社は一つの試みとして、データを活用するダッシュボードを、行政の担当者がBIツールを使って独自に作成できるようにしています。弊社としてはそれを管理するのが大変なのですが、データを活用する人たちが、自分たちの裁量でデータを加工するということが重要なので、徹底しています。実際、ダッシュボードのグラフやページは日々めまぐるしく変化し、しだいに最適な形に「進化」していることがわかってきました。 小泉: そうして本当に必要なデータやその形式がわかってくると、今度は逆算して、どんなシステムや機器が必要なのかということもわかってきますね。 津守氏: おっしゃるとおりです。村田製作所の立場からすれば、こうして必要なデータのあり方が定まってくると、それに必要な部品やデバイスとはどういうものなのかということも見えてきます。 従来は、「必要なデータ」と「機器の性能」の間が分断されていたので、弊社としてどういう機器をつくればよいのか、SIやお客様に質問するということをしてきました。しかし、機器と(最終的な)データの間のサプライチェーンがなめらかにつながっていくと、必要な機器の情報もしだいに集まってくる状況になっていくと思っています。 小泉: なるほど。それが津守さんの冒頭の「温度センサーを売るのではなく、温度のデータを売る」という話につながってくるわけですね。 岡田氏: その津守さんのお話には、私もすごく共感します。結局のところ、お客様が欲しがっているものは結果であり、中身ではありません。ところが、私たちは性能や品質をわかりやすく評価できる個々のパーツにのみ注目してしまいがちです。パーツ(システムや機器など)を提供するだけでよいほど、IoTのマーケットが充実してくればよいのですが、現状ではパーツだけではどうにもならない場面の方が多いのです。 つまり、私たちが直接現場に行って、そこで課題を解決したいと思っている人と、最初から最後まで一緒にやりとげる必要があるのです。こうした考えから、IIJはこれまで水田や工場など、さまざまな現場に足を運んできました。 データ販売においても、都市OSのような基盤を用意するだけではうまくいきません。実際にデータビジネスをやろうとしている人たちと、何が必要なのかを一緒に考え、苦労して、現場で作り上げることが大切です。今回提供するプラットフォームも、たんなるIoT基盤ということではなくて、日本企業と一緒にIoTビジネスをつくりあげていくような場にしたいという思いがあります。 小泉: 貴重なお話をありがとうございました。無料メルマガ会員に登録しませんか?
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。
