近年の温暖化に対する暑さ対策として、暑熱環境が人体へ与える温熱的な負担を可視化する技術が求められている。日本電信電話株式会社(以下、NTT)では、機能素材「hitoe」で培ったウェアラブルデバイス技術を活かし、環境が生体に対して与える影響を把握するためのウェアラブル生体・環境センサの開発に着手してきた。
「hitoe」とは、NTTと東レ株式会社が開発した機能素材で、ナノファイバー生地に高導電性樹脂を特殊コーティングすることで、耐久性に優れ、非金属素材でありながら生体信号を高感度に検出できる。体の表面にhitoeを密着させることで、心拍数や心電波形、R波の間隔から推定される睡眠データなどの生体情報が取得できる。
また、ナノファイバーを使用しているため、家庭洗濯への耐久性があり、肌への密着性も上がるため衣服や帽子など人の体に密着した形で生体信号が取得でき、より高感度な測定が可能となる。
今回、NTTは、「hitoe」を電極として縫製したウェアに装着し、心拍数・心電波形などの生体情報に加えて、ウェア内の温度や湿度の環境情報を取得・送信するウェアラブル生体・環境センサのプロトタイプを開発した。
開発されたウェアラブル生体・環境センサは、インナーウェアの前面正中部に装着し、アウターウェア内の温度や湿度、また上半身の加速度や角速度を計測する。インナーウエアの肌接触面には「hitoe」を縫製して、心電位を取得する。取得したデータは、センサに搭載した無線モジュールによりセンサ着用者のスマートフォンやIoT-GWに送信され、リアルタイムにデータをモニタリングすることが可能だ。
また、計測したデータを元に、ウェアラブル生体・環境センサの内部で心拍数、RRI(※)、歩数、上半身の傾きなどの様々な特徴量を解析して、内蔵メモリに蓄積する機能を備えている。これにより、スマートフォン等と常時接続していない場合でも、計測を継続して必要な特徴量を後から一括して読みだす等の使用方法も可能になった。
従来は、複数のセンサを用いて連続的に計測・解析・通信を行うと、CPUの負荷が高くなり、消費電力が増加し、動作時間が短くなって頻繁な充電が必要となったり、大きな電池が必要になることが課題だった。そこで、CPUを休止させた状態で複数のセンサからのデータをバッファに蓄積し、短時間のみCPUを起動させて一括して波形処理や特徴量解析を実行するマルチセンサデータ信号処理技術を構築して、CPU負荷の低減を達成した。
これにより、小型な電池を用いても100時間以上の連続計測が可能となり、重量12gの小型・軽量な筐体内に複数のセンサと電池等を収容することが実現した。さらに、人間工学に基づいて設計された筐体形状により、屈曲や臥位などの動作を妨げず、快適に装着し続けることが可能だ。
今後、NTTは、大学などの専門機関と連携し、リハビリ支援や暑さ対策などのヘルスケア分野での有用性を検証するとした。
※ 心電波形(ECG)上のR波とつぎのR波の間隔。
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