量子コンピューティングは、従来のコンピュータには処理できない計算問題を解ける可能性を持っており、エネルギー貯蔵、化学工学、材料科学、創薬、プロセスの最適化、機械学習などの分野での変革が期待されている。しかし今までの量子コンピューティングの利用に関しては、主に実用性が限られた概念実証研究の域に留まっていた。
このような中、Amazon.com, Inc.の関連会社であるAmazon Web Services, Inc.(以下、AWS)は、年次カンファレンス「AWS re:Invent 2019」で、量子コンピューティング技術の推進に向けたAWSの計画の一環として以下の3つの主な取り組みを発表した。
- D-Wave、IonQ、Rigettiの量子テクノロジーを一元化した「Amazon Braket」
Amazon Braketは、量子アルゴリズムの構築、量子コンピュータシミュレーションによるアルゴリズムテスト、また各種量子ハードウェアアーキテクチャの比較試験のための共通の開発環境を提供し、科学者や研究者、開発者向けに量子コンピューティングの展開を支援するフルマネージドサービスだ。Amazon Braketにより、複数のベンダーと関わる必要がなくなるほか、単一のテクノロジーに制限されることもなく、Jupyterノートブックなどの使い慣れたツールと、これまでと変わらないAWS環境下で、すぐに量子コンピューティングを取り入れることができる。Amazon Braketを使うことで、各種量子テクノロジーの現機能だけでなく、将来実装予定の機能も評価することが可能だ。現段階では、D-Waveの量子アニーリング、IonQのイオントラップ装置、Rigettiの超電導チップに対応しているが、今後他のテクノロジーにも対応していく予定。
顧客やパートナーは、実際に使用する量子テクノロジーに関わらず、Amazon Braketの開発者向けツールキットを用いて、量子アルゴリズムをデザインすることができる。これにより、顧客は低レベルの量子回路を実行することも、フルマネージドのハイブリッドアルゴリズムを実行することも可能になり、一連のソフトウェアシミュレーターや量子ハードウェアの中から適切な組み合わせを容易に判断できるようになる。
現時点ではプレビュー版のみ公開している。
- 量子テクノロジーの普及を推進する研究施設「AWS量子コンピューティングセンター」
量子コンピューティングは急速に進歩しているが、一方で、現段階では使える量子ハードウェアの規模が限られており、開発ツールも完成されておらず、専門家が全体的に不足しているため、短期間で量子アプリケーションを構築することは困難だ。AWSは量子コンピューティング技術の開発推進の一助となるべく、AWS量子コンピューティングセンターをカリフォルニア工科大学に設立した。同センターでは、現実社会の問題を解決することを目標にAmazonおよび学術界の量子分野の専門家が協働し、量子コンピューティングの技術に関する長期的な課題解決や用途の研究開発に取り組む。
- 顧客の量子コンピューティング戦略をサポートする「Amazon Quantum Solutions Lab」
Amazon社内の量子コンピューティング分野の専門家やAmazonのテクノロジー・コンサルティングパートナーと顧客を結び付けるプログラムだ。量子コンピューティングの実用的な用途の特定や、量子テクノロジーの有意義な用途開発の促進を目的とし、顧客企業における専門性の向上を支援する。1Qbit、Rahko、Rigetti、QCWare、QSimulate、Xanadu、ZapataなどのAmazon Partner Network(APN)パートナー各社が、Amazon Quantum Solutions Labに参加している。
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