ソニーが先日発表した、「ヒアラブル」デバイス、SONY Xperia Ear Duo。これ自体は、2月にバルセロナで行われたMWC(Mobile World Congress)でも発表されていた。(写真はMWC2018において撮影)
できることを簡単に紹介すると、特徴としては、まず写真の通り、「耳を完全にふさがない」という構造になっていることだ。不思議に思うかもしれないが、耳を密閉しなくてもよい音質で音楽を聴くことはできる。
密閉しないため、没入感はなくなるものの、外界の音は聞くことができるので、例えば、「音楽を聴きながら友達と話をする」というようなこともできるのだ。
また、ワイヤレスなのでどちらかというと「補聴器」に近い構造となっていて、音楽ファンで、四六時中音に包まれていたいというような人にとっては朗報だといえるだろう。
さらに、このデバイスにはタッチパッドがついていて、パッドを指でなぞったり、タップしたりすることで様々な操作を行うことができる。
また、音楽だけでなく、メールの読み上げやLINEの操作などもでき、音声応答エンジンを使うことで音声による指示もある程度は受け付けるというところが新しいのだ。
最近、スマートスピーカーの是非について、ソーシャルメディア上で議論されるのを見かけるが、そもそもスピーカーは実現性の一つであって、本質的には音声応答、自然言語解釈、などとといった「エンジン部分」に重要性があることは知っている読者も多いだろう。
一方で、音声応答エンジンに対する期待がかかる一方で、それをうまく活用した製品で、多くの人が欲しくなるようなモノはなかなか登場しなかった。しかし、電池のもちやタッチパッドの使い勝手に慣れが必要であることなど、乗り越えるべき壁はそれなりにあるが、今回のXperia Ear Duoには、ここを打開する可能性が秘められている。
では、生活者にとって、ビジネスマンにとってどういう利用シーンが考えられるのだろう。少し発展的に考察していきたい。
生活者における利用シーン
単純に音楽が常時聞けて、外界の音も聞こえる、しかもワイヤレスということになると、常時装着が可能になってくる。
これまで自転車やバイクでイヤホンを付けて運転をしている人は、外の音が聞こえず危ないなと思っていたが、そういったシーンでも没入感がないものの音楽を楽しむことができる。
しかも、メッセージングサービスを着信したときに読み上げたり、逆に音声で伝えた内容を友達のメッセンジャー上でテキストにする、といったこともできるので、あとは、声でちょっとした移動経路の検索などができるようになったら、ほぼ日常で困ることはないのではないかとすら思う。
通信そのものをこのデバイスができるわけではないので、親機としてのスマートフォンを持ち歩く必要はあるが、どのみち複雑なことを調べたり、ゲームをしたりするにはスマートフォンが必要なので、それ自体はあまり問題にならないだろう。
こういうことができるようになると、今回対応が発表された、LINEやRadiko以外のコンシューマ向けの事業者は色めきだすのではないだろうか。
なにせ、自分の発信する情報を音声にして伝えることができるのだから、例えば、地震が起きそうな時音声で伝えることもできるだろうし、IoTNEWSのような情報発信メディアは音声でのサービスを始めるとラッシュ時でも情報を取ってもらえる可能性がでるだろう。
他にも、料理をしていて、音声で作り方をサポートしてくれるサービスや、フィットネスコーチがあたかもそこにいるようなアドバイスをしてくれるサービスなども思いつく。
学習というところでは、常に英語での会話が流れてきて、音声で回答していくというようなことも考えられる。
ビジネスにおける利用シーン
ビジネスの現場においては、ハンズフリーでの電話やLINEでのやり取りが一層進むことが想定される。ほかにも、スケジュールを通知してくれたり、営業先への道案内をしてくれたりと、常時装着している前提だからこそできることは増えるだろう。
また、外部音も聞こえるという特徴から、作業現場などでも活用されることが期待できる。例えば、作業指示をオペレーターから受けながら作業をするとか、荷物を持った状態で運ぶ場所を変更するなどといったこともできる。
グループチャットもできるので、広大な敷地で部材の位置確認をするようなシーンにおいて、複数の人が部材を探すことがあるが、発見したということを簡単にメンバーに伝えることもできる。
テキストでのコミュニケーションが主体だったときは、タイプの速度などのこともあり、人によってメッセージングサービスの利用度合いが異なっていたが、音声でのやり取りが主体になれば、さらにスムーズなやり取りが実現可能となる。
事業に「ヒアラブル」を取り込む時のポイント
これまでも、スマートフォンはあったし、イヤホン+マイクがあればほぼ同等のことができたのに、なぜ、今回のデバイスがここまでの可能性を広げるというのだろうか。
それは、常時装着を前提とした外界の音が聞き取れるということと、音声応答技術の進化によるものだといえる。
今後、装着感や操作感を改善した類似商品が多くのメーカーから登場することが予測されるが、発売後実際に体感するなかで、自社のビジネスへのうまい活用を考える必要がある。
では、事業に「ヒアラブル」を取り込む時のポイントはどういうことがあるのだろうか。
これまでのコミュニケーションを見直す
まずイメージしやすいのは、これまでのコミュニケーションを見直すことだろう。
テキストでやるのが当たり前、会って話すのが当たり前、ということを一度棚卸して、「音声でもできること」を探すのだ。
両手がふさがっている業務を探す
両手がふさがっている業務を見つけると、たいていの場合、両手があくまで次の作業ができないというビジネスプロセスになっているはずだ。そこで、両手がふさがっているためできなかったことを探し、音声での対応を考えることで、効率化がはかれる可能性が高くなる。
グループで行う作業で、担当者間の位置が離れている業務を探す
担当者間に距離があるのに、共同で作業をしなければならない場合に、電話で連絡を取りながら、チャットツールでやり取りをしながら作業をしていたのではないだろうか。こういうシーンが多い業務についてヒアラブルデバイスをうまく活用すると、コミュニケーションが円滑になって、多くの時間が削減できる可能性が高いだろう。
実際に使ってみると他にもたくさんできることがありそうだが、今後類似デバイスが登場し、自社のための業務アプリケーションを取り込んだ業務システムができてくることで、本格的な事業への活用が活発化するだろう。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。