多くの企業がデジタルの活用を考えていて、新しいデジタル技術やテーマが出るたびに右往左往させられている。
しかし、それはデジタルをツールとして活用する「デジタル化」の話であって、デジタルを戦略の中心に置くことにはならない場合が多い。
「デジタルを戦略の中心に」などというと、例えば製造業でコンピュータが製造を取り仕切ってくれるというようなイメージを持つかもしれないが、決してそういう話ではない。
IoTが広がる中、リアルで起きている状況や状態はどんどんデータ化され集約される。その結果、デジタルの力でシミュレーションすることで未来が予測できるようになるのだ。
すべての企業活動を予測しようと思うと、当然「すべて」の活動をデータ化する必要があり、そんなこと現実的ではないと考える人もいるだろう。
しかし、実際にデジタルを戦略の中心にできた企業は、特定産業においてカテゴリーキラーとなっている。
わかりやすい例で解説していこう。
デジタルを中心にした企業
初めの例は、タクシーサービス「UBER」だ。これはご存知の方も多いだろうし、利用したことがある方もいるのではないか。
ここで、UBERに「あいのり」サービスがあるのはご存知だろうか。
これは、3名までの利用者が、3名とも別の目的地に行くのだが、UBERのアプリでそれぞれが目的地を設定すると、一つのクルマが三人をピックアップする。そして、それぞれの目的地に到達するのだ。
もし、顧客が付近に3名しかいなくて、クルマも1台しかいなければ、こんなこと簡単だと思うかもしれないが、例えばサンフランシスコ市街地で多くの利用者が様々な場所に行きたいという意思表示をしていて、クルマもたくさんあったとしたらどうだろう。
どのクルマが誰を拾うのかは簡単ではない。
国内のタクシー会社では、電話をかけると配車担当がドライバーを割り振っているが、正直このレベルになると人力ではできない。
これは、すべての顧客とクルマの位置情報がクラウド上に展開されていて、デジタルの力でシミュレーションすることができるので、一番最適な配車を実現することができるというのだ。
ここで、これまでのタクシーサービスを振り返ってみよう。
利用者は、通常道路を走っている流しのタクシーに対して手を上げて拾うか、配車サービスに電話をして迎えに来てもらう必要がある。
まず、UBERはすべてを配車サービスをデジタル化した。
つまり、スマートフォンのアプリでの配車を実現したのだ。
ここまでであれば、通常のマッチングサービスの域を超えておらず、正直大したことではないかもしれない。
しかし、「クルマにのって移動する」という根本的な価値のみならず、「決済する」「乗り心地のよいドライバーのクルマに乗る」「安く乗る」「早く到着する」「一人で言ったり移動する」・・・といった、利用者の満足度を高めるための仕組みをどんどんデジタルの力で実現して行ったのだ。
そして、デジタルを中心にタクシービジネスのビジネスモデルを再構築したことが大きいといえる。
このやり方は物流企業などでは簡単に真似ができる。
宅配事業をデジタル中心に再構築してみる
では、例えば、宅配事業をデジタル中心に再構築してみるとどうなるだろうか。
現在、ECサービスなどで商品を注文すると、宅配事業者は商品の集荷を行う。そして、集荷された荷物は配送先にあった配送センターに集約され、目的地の近隣の配送センターに運ばれる。そこで、配送予定日時が確定し、実際に配送される。
ここまでの流れを大手の配送事業は1社でまかなっているのだ。
しかし、UBERのように一般の人をアルバイトのように雇い、配送事業者をデジタル中心に再構成したとしよう。
ECサービスなどで注文すると、この企業は配送を担当する個人のスマートフォンに集荷指示を行う。集荷した個人は、その荷物を近隣の配送センターまで運ぶ。
ここから、配送先の近隣の配送センターまでは、まとまった量の輸送となるので別の運送業社と提携し運ぶこととなる。そして、配送先付近の配送センターに到着したら、また、配送を担当する個人のスマートフォンに配送指示を行って配送するのだ。
このビジネスモデルをデジタルの力で構築することができたら、この配送事業者は一台のトラックも持たずに配送サービスを実現できるようになる。
もちろん、法規制や集配担当者のモラルに関するトラブルをどう回避するかなど、課題はいくつもあるがこのような「デジタルによる配送の再定義」が行われれば、宅配業界はその業界構造を大きく変える可能性がある。
デジタル中心に再構築するヒント
宅配事業者のように、自社のビジネスをデジタル中心に再構築したいと思った場合、どのようにすればよいのだろう。
まずは、自社のサービスと、それを利用する最終顧客を含めた全体でのビジネスプロセスを図で表すのだ。今回の例だと、「ECで注文してから、荷物が届くまで」がこれにあたる。
その上で、極力ヒトの手を介さずにこのビジネスプロセスを実現しようと思ったら、何をデジタルで行うべきかを明確にする。集配から、配送までのステータス管理と、荷物が今誰が持っていて、次にどこに(だれに)渡さなければならないかを明確にすることとなる。
その上で、最適化を行うにはどうすれば良いかを肉付けしていくのだ。例えば、集配担当のモラルを守るため、利用者に集配担当者のサービスレベルを評価してもらったり、荷物をバケツリレーする上で、待ち時間が予定より少なければ評価を上げていくなどの仕組みを作るのだ。
こうやって、極力デジタルの力だけでビジネスプロセス全体を動かすことができれば、デジタル中心のビジネスモデルとなっているはずだ。
デジタルを戦略の中心にするということのイメージがついただろうか。オペレーションレベルではヒトの介在が減り、顧客満足度を上げたり、サービスレベルを上げることにヒトは注力するようになる。そうして磨き上げられたサービスは既存産業におけるカテゴリーキラーとなるのだ。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。