登壇者
- 株式会社コアコンセプト・テクノロジー取締役CTO兼マーケティング本部長 田口紀成氏
- 株式会社電脳交通 代表取締役CEO 近藤洋祐氏
- 株式会社ツバメックス開発部 課長 荒井善之氏
- 株式会社INDUSTRIAL-X 代表取締役 八子知礼氏(モデレータ)
現状のDXのトレンドをどう見ているか?
本セッションは、INDUSTRIAL-X八子知礼氏の司会のもと、いくつかのトークテーマに沿って議論が展開された。八子氏が最初に投げかけたのは、「現状のDXのトレンドをどう見ているか?」というテーマだ。 まずはツバメックスの荒井善之氏が回答した。ツバメックスは新潟県新潟市に本拠をもち、金型の製造と販売を中核とするものづくり企業だ(2019年からはサンスターグループに参入)。荒井氏は同社に入社後、金型製作における3DCAC/CAMの作成に従事し、その後はIT推進チームでツバメックス独自の金型製造基盤「TADDシステム(Tsubamex Auto Die Design system)」の構築などを手がけてきた。 その荒井氏は「現状のDXのトレンド」について、DXの本質は「チェンジ」(変革)にあると語った。 「私は金型業界に約30年いる。ふりかえれば、オフィスオートメーション(OA)、ERP、PLMなどさまざまな言葉が出てきた。しかし多くの場合、それらの単語の意味を理解しないまま時が過ぎた。私が思うに、それらは部分最適のイメージが強かった。それに対してDXという言葉は、チェンジ(変革)を前面に出しているという印象があり、それは意味があると思う。これまでITは部分最適のツールで、世界とつながらない、全体のシステムとつながらないという課題があった。それに対してDXがチェンジという意識を芽生えさせてくれたという意味では、いい言葉だと思う」(荒井氏)。 電脳交通は、タクシー会社向け配車システム「電脳交通」などを手がける徳島発のベンチャー企業。代表取締役CEOの近藤洋祐氏は、祖父が経営していた廃業寸前の吉野川タクシーを承継し、経営のV字回復に成功。2015年に電脳交通を設立し、現場目線でタクシー業界のDXを内側から推進している。 その近藤氏は、タクシー業界では「今DXが進んでいる」と手応えを語った。 「タクシー業界は従来からアナログだ。お客様の注文を電話で受け、その内容を手書きでメモし、アナログ無線で読み上げる。こうした一連の作業はミスが起こりやすく、工数も多い。しかし、2015年頃からタクシー業界もようやくデジタル化が進んできた。高齢化が進むタクシー業界では、業務の入口から出口まで全体のプロセスを最適化していくことが急務。そのため、色々な技術と向き合い始めた。今、大きなムーブメント(つまりDX)が起こっている」(近藤氏)。 コアコンセプト・テクノロジーは、企業のDX支援やIT人材調達の支援などを手がける企業。田口紀成氏 は2015年に取締役CTOに就任し、製造業向けIoTソリューションの検討・開発に従事するとともに、 現在はマーケティング本部長も務める。従来は製造業のエンジニアとして、3D CAD/CAMシステムの開発や金属加工のIoT化研究に従事してきた。 その田口氏は、昨今のDXのトレンドとして、「全体最適」をめざそうとする企業が増えていると語った。 「私たちはさまざまな企業から(DXの)相談を受ける。その印象では、従来は部分最適の相談が多かったが、今では横串で全体最適を進めようとする企業が増えている。たとえば、製品軸からサービス軸へ提供の形を変えるなどだ。そうすると、見ている範囲も製造や設計といった個別の部門にとどまらなくなる。ただし、そうなってくると、今度は人材が足りないという課題に直面する。現在ではそうした人材の相談も増えている状況だ」(田口氏)。

デジタルでビジネスを推進するうえでの課題
本セッションの2つ目のトークテーマは、「デジタルでビジネスを推進するうえでの課題」だ。これについて田口氏は「人材」の問題をあげた。 「お客様からの相談において、DXにおける課題と解決策はきちんと出てくる。しかし問題は、それを解決するためのリソース(人材)だ。基本的には、採用して、育成しないといけない。しかし、いきなりは育たない。これが今一番の課題だと感じている。自動化(AI)でリソースも補うことも大切だが、いま求められているのはそうしたデジタルのしくみをつくる人材なのだ」(田口氏)。 一方でツバメックスの荒井氏は、製造業における現場の課題は、「第三者から見ると明らかに効率が悪くても、やっている本人はそれを課題だと思っていない(気づけない)」ことにあるという。 「たとえば以前に、職人といわれる60~70歳の現場の従業員の1日の業務をモニターしてみたことがある。その結果わかったのは、業務時間の2~3割は物を探しているということだった。その職人からすれば、その時間の使い方はあたりまえだと思っている。しかし第三者からみるともったいない」(荒井氏)。 ツバメックスの現場では今、iPadが1人1台支給されている。業務の2~3割の時間を、物を探すことに使っていた職人にもiPadを渡し、物の入荷情報や保管場所などをビューワで簡単に見られるようにした。すると、物を探す時間はほとんどなくなったという。 ただ興味深いことに荒井氏は、「その職人からすると業務の内容が少し変わっただけで、効率的になったと思っていない」という。つまり、第三者的な効率性と、本人の意識や仕事に対する考え方は別々に考えていく必要があるということだ(この点についての議論は以降でも展開される)。 「デジタルでビジネスを推進するうえでの課題」について電脳交通の近藤氏は、「DXを進めるうえで重要なのは、(全体のDXのプロセスの)入口から出口までを責任をもってマネジメントができるPM(Project Management)の存在だ。しかしPMの人材はどの業界も足りていないという課題がある」と語った。 また近藤氏によれば、PMはその能力だけでなく、プロジェクトが終わるまで責任をもって担えるかが重要だという。 「PMが1~2年などの短い期間でいなくなると、プロジェクトはうまくいかないことが多い。たとえば、私たち(電脳交通)が関わっているような地域交通の課題解決であれば、行政の担当者がマネジメントを担当するが、その担当者は(異動などで)いなくなってしまうことがある。 一方で、地方の民間企業であれば、よくも悪くも人材の流動性が低い。そのため、最後まで責任をもってマネジメントしてくれるPMがいる。その結果、DXが推進される。こうした点から、私は地方の方がDXは進みやすいと思っている。地方にはDXにおいて多くのヒントがある」(近藤氏)。アプローチや取り組み方にどんな変化があったか?
次のトークテーマは、「(DXの)アプローチや取り組み方にどんな変化があったか?」だ。ポイントは2つ。コロナ禍によってどう変わったかという点と、同時にその変化は、これまでの自社の歴史の中でみればどういう位置づけになるかという点だ。 ツバメックスの荒井氏は、コロナ禍によって大きく変わったこととして、「リモートワーク」をあげた。 「ものづくりといえば、基本的にはフェイストゥフェイスの世界だ。つくった現物を実際に見ながら、顔を合わせて議論をする。どんなに遠方でもそのために足を運ぶのが普通だった。ところが、コロナ禍ではそれが難しい。そこで、弊社では金型のチェックも「Microsoft Teams」などを使ってリモートで行うようになった。もちろん最終的に実物を見てきちんと確認する必要はあるが、その段階に行くまでにも3~4回のチェックが必要であり、その工程ならリモートに置き換えられる」(荒井氏)。 「現場を重んじる工場でリモートでの対応は大変だと思うが、現場からの反発はあったか?」という八子氏の質問に対して、荒井氏はやはりあると答えた。だが、荒井氏の以下の言葉からは、それでも進めていくことが重要であり、またそれは実際に可能なのだということがわかる。 「問題は、ITやデジタルの技術と自分(たち)は遠いのだと思っていることにある。具体的にいうと、たとえばものづくりの職人はパソコンやマウスなどは使いたくないと思っている。ただ、それでも職人たちが便利に使えるようなITツールはある。その一つがiPadだ」(荒井氏)。 iPadは指を(上下左右に)動かすことで操作する。これはマウスと違って、操作に身体の動き(腕や手指の触覚)がともなう。この感覚が、職人には高評価だというのだ。実際、iPadを早く回してくれという職人からの声があがるようになった。次にiPadに慣れてくると、もっと手早く色々な情報がほしくなってくる。すると、今度はパソコンがほしいという声もあがってきたという。 荒井氏は、「無理強いをしても難しいと思う。現場の職人は特にそうだ。したがって、彼らが喜んで使えるものを見つけることが大事だ。それが、ITに詳しい人の仕事でもある」と語った。
DXを進めていく上での今後の挑戦
続いてのトークテーマは「DXを進めていく上での今後の挑戦」。これについてツバメックスの荒井氏は次のように語った。 「弊社では、(金型の)ものづくりのすべての情報を1つのしくみで、一気通貫でコントロールするシステム(TADD)をつくった。できるならこのしくみを、弊社と同じような金型製造を手がける企業に展開して、一緒に使いたい」。 またコアコンセプト・テクノロジーの田口氏は、目指すのはDXの「内製化」だと語った。「お客様の中でDXを内製化するには、そのための組織づくりが不可欠。弊社はそこにも貢献したい。これは弊社にとって大きなチャレンジだ」。 電脳交通の近藤氏は今後の挑戦について、「タクシー業界でデジタル化は少しずつ進んでいるが、市場としては元気がない。正直なところ、市場を大きくするには自分たち(電脳交通)だけの力では厳しい。そこで、タクシー業界ではない企業とも連携することで、タクシー市場を一緒に大きくしていきたい」と語った。 また一方で近藤氏は、ビジネスの「公益性」の観点を強調した。 「DXは時間がかかる取り組みだ。それはどの業界も変わらない。明日明後日にいきなり技術革新が起こるわけではない。また、日本は人口が減り、高齢化も進み、あらゆるものがシュリンクする社会にある。だからこそこれからの時代には、自社の商売だけではなく、公益性の観点をもちながらビジネスをつくっていくということが経営に求められるだろう」(近藤氏)。 最後に八子氏は、3社に共通しているのは、DX成功の裏には「地道」な取り組みがあること、そして中長期的な視野での「大義」をもっていることをあげた。「足元の課題はそれぞれ色々あるだろう。しかしそれでも目線を上げて、中長期的な課題にも目を向けてみてほしい」(八子氏)。無料メルマガ会員に登録しませんか?
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。
