横河電機、エッジコントローラで自律制御AIを活用できるサービスを提供開始

実プラントでは物理的、化学的な事象が複雑に影響する中での制御の難しさから、熟練運転員が介入しなければならない制御箇所が数多く残っている。また、そのような箇所は品質や収益に直結するような、難しい制御であることが少なくない。

既存の制御技術には、PID制御(※1)と高度制御(Advanced Process Control、以下APC)(※2)がある。複雑な制御をPID制御やAPCを使って行うには、長い時間と多くの労力をかけた調整が必要となる場合がある。また、PID制御やAPCが適用できず、運転員が制御で使用する操作量を自ら考えて入力する手動制御しかできていない箇所もある。このような背景から、自律制御AIを活用して人手に頼らずに複雑な制御を実現したいという要求があった。

横河電機株式会社は、OpreX Realtime OS-based Machine Controllers(e-RT3) のオプションサービスとして、装置を制御するエッジコントローラ上で自律制御AI(強化学習AI、アルゴリズムFactorial Kernel Dynamic Policy Programming 以下、FKDPP)を活用できるサービスを開始する。

横河電機、エッジコントローラで自律制御AIを活用できるサービスを提供開始
エッジコントローラ e-RT3
同サービスは、制御箇所に応じて、パッケージあるいは導入支援のコンサルティング、トレーニングプログラムを提供するものである。パッケージに関しては国内および海外において、コンサルティングサービス、トレーニングプログラムについては国内から順次海外に提供していく。

自律制御AI(FKDPP)による制御は、PID制御、APCとは異なる新しい制御技術である。2022年には、このAIを利用し、制御の状態を乱す大きな「外的要因(外乱)」もある中、化学プラントで既存の制御手法が適応できず、「手動制御のみでしか対応できなかった箇所」を35日間、自律制御することに成功した。同サービスは、この自律制御AIでAI制御モデルを作成し、エッジコントローラに実装して活用する。

同サービスは、AIの高度な専門知識なしに、企業側で制御モデルを生成してコントローラに組み込めるよう、使いやすさを追求した。また、既存の設備を活かしながら部分的にエッジコントローラを後付けすることで自律制御AIが適用できる。制御周期は0.01秒から対応しており、高速性が求められる装置の制御にも対応可能だ。

PIDやAPCが組めなかった制御箇所に対して自律制御AIを適用させることで、自律化と最適制御を同時に実現する。外乱に左右されにくい安定した制御ができる。また、制御対象ごとに効果は異なるが、設定値を上回ってしまうオーバーシュートという状態を抑える。例えば、オーバーシュートの不要な加熱などによるヒーターへの負荷を低減するため、装置の寿命を延ばすことなどが見込まれる。

さらに、PID制御に比べて整定時間を短くするため、省エネと生産性の向上に貢献するほか、制御箇所によるが、例えば品質を維持しながらエネルギーの使用量を削減するといったような複雑な条件を満たすことも可能としている。

同サービスの開発にあたり、オートチューニングしたPID制御と比較して、AI自律制御はオーバーシュートを抑制しながら、整定時間を約65%(約30分が約10分に)短縮できることが確認できた。 

横河電機、エッジコントローラで自律制御AIを活用できるサービスを提供開始
オートチューニングしたPID制御とAI自律制御を比較した例
なお、同システムの利用にあたっては、別売のエッジコントローラ、自律制御AIを用いた学習サービスのお申し込み、AI制御モデルを実装するためのエッジコントローラ用ソフトウェアパッケージ、AI制御モデルを実行するためのライセンスが必要となる。用途に応じて、導入を支援するトレーニングプログラム、関連するコンサルティングサービス、エンジニアリング等を提供するとした。

※1 PID制御:1922年にNicolas Minorskyが発表したプロセス産業やファクトリーオートメーションの一部の基盤制御技術で、流量、温度、レベル、圧力、成分などの制御で幅広く一般的に使われる。現在の値と設定値との偏差に応じたP(比例)、I(積分)、D(微分)の各動作の計算結果を足し合わせた操作量で、「目標値」に向けて制御するものである。特徴から、設定値を上回ってしまうオーバーシュートという状態になることがあり、一方でオーバーシュートを避けると整定までに時間がかかるという課題があった。
※2 APC(高度制御):プロセスの応答を予測できる数学的なモデルを用いて、生産性や品質をより向上させるための設定値をリアルタイムにPID制御ループに与えるもので、制御性を向上させるだけでなく、増産や省力化、省エネルギーを目的とした制御にも適用しやすいという特長がある。高度制御を導入すると、プロセス値のばらつきが小さくなり、運転限界(最もパフォーマンスが発揮できる状態)に近づけることが可能になる。しかしながら、非線形の化学反応や、設備自体の変化などには対応が難しいという制約があった。

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