AIを導入した企業では、その効果がまず業務の効率化として表れ始めている。
IPA(情報処理推進機構)の「DX動向2026」によれば、AIを導入・試験利用している企業の8割超が何らかの効果を得ており、その企業のうち91.6%が「業務が効率化したり迅速化した」と答えている。
一方で、効果を得た企業のうち「売上や利益が向上した」と答えたのは3.9%で、その効果が売上にまで届いている企業はまだ少ないのが実情だ。
このように、成果が出始めている効率化のために使うAIを「守りのAI」とすれば、売上を生むために使うAIは「攻めのAI」と呼べる。
本稿では、日本企業の守りのAIの成果を確認した上で、AIが売上を生む領域を「売上の方程式」として把握することで、攻めのAIへの道筋を示したい。
守りのAIの進捗度合い
まずは、日本において守りのAIが、どの程度成果を上げているか整理したい。
総務省の「令和8年版 情報通信白書」によると、日本企業で最も多い活用業務は「議事録・メール作成補助」で約7割を占め、効果を実感する割合も72.3%に達する。
IPAの「DX動向2026」では、AIを導入・試験利用している企業のうち、期待以上または期待どおりの効果を得たのは31.8%で、「一定の効果はあった」を含めると8割を超える。
帝国データバンクの2026年3月の調査でも、生成AIを活用している企業の86.7%が「業務への効果が出ている」と答えた。
効果の中身を見ると、「業務が効率化したり迅速化した」が91.6%、「企画提案等の品質や速さが向上した」が48.9%、「残業時間の削減につながった」が29.2%である。
人手不足が続く日本企業にとって、これは十分に意味のある成果だと捉えられる。
一方で、同じデータは、AIの置き場所が社内に集中していることも示している。
IPAの調査では、AIの用途は「文書・音声の要約・翻訳・校正」が82.5%で最も多く、「自社製品・サービスの高度化」は10.9%、「生産・物流・サービス提供の計画支援」は6.0%にとどまる。
効果の内容でも、「顧客満足度が向上した」は4.5%、「売上や利益が向上した」は3.9%だった。
組織としての取り組みも、個人の効率化が中心である。
生成AIの組織での利用状況は「個人で業務利用している」が63.3%で、「部署の業務プロセスに組み込まれている」は11.9%にとどまる。
また、総務省の「令和8年版 情報通信白書」によれば、生成AIによる業務変革について「組織的な取組はない」と答えた企業は、日本で27.0%にのぼり、米国の1.4%、ドイツの4.9%、中国の2.6%を大きく上回る。
つまり、日本企業のAIは「守り」の領域で成果を出しつつある一方、顧客や市場に向けた「攻め」の領域には、まだほとんど置かれていないのが実情だ。
守りで得た余力を、攻めの原資に
前章で見たとおり、日本企業の守りのAIは着実に成果を上げている一方、攻めのAIはまだ取り組みが進んでいない。
しかし、守りのAIを続けているだけでは、売上にはつながりにくいと考えられる。
IPAの「DX動向2026」によれば、AIの用途は文書の要約や作成など社内の効率化が中心で、こうした守りのAIで効果を得た企業のうち、効果の内容は「業務が効率化したり迅速化した」が91.6%と大半を占め、「売上や利益が向上した」は3.9%にとどまっている。
また、海外の調査からは、AIの効果の表れ方が置く領域によって違うことがわかる。
McKinseyの2025年調査によると、個別の用途でコスト削減の効果を得ている企業は多く、特にソフトウェア開発、製造、ITで目立つという。
一方、AIによる売上増が最も多く報告されているのは、マーケティング・営業、戦略・コーポレートファイナンス、製品・サービス開発の領域だった。
つまり、売上を求めるなら、どの領域にAIを置くかも設計する必要があるということだ。
とはいえ、ここから攻めのAIへ一気に大きなリソースを割くのは、現実には簡単ではない。
日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査2026」によると、IT予算のうち新しい施策に充てる「バリューアップ予算」の比率は24.1%で、回答企業は3年後にこれを32.7%まで高めたいとしている。
しかし、3年前の調査でも3年後の目標は33.0%だった。それでも実際の比率は24%前後で横ばいが続いている。攻めたいという意思はあっても、予算は思うように動いていないのが実情だ。
だからこそ、守りのAIで生まれた余力が意味を持つ。議事録や資料作成の効率化で浮いた時間や人を、攻めの領域に振り向けることで、新たな予算を待たなくても、小さく始めることはできる。
では、攻めのAIはどこに置けばよいのか。
前述したMcKinseyの調査では、売上増が報告されやすい領域の大まかな傾向を示しているものの、どこにAIを置けば売上が動くかは、業種や事業によって異なる。
自社に当てはめて考えるには、自社の売上をいくつかの要素に分け、どの要素にAIを効かせるかを見極める枠組みがあるとよい。
そこで次の章では、その枠組みを「売上の方程式」として示し、AIを置く場所の地図にしてみたい。
「売上の方程式」で描く5つの領域
売上を分解すると、AIを置くべき場所が見えてくる。本稿では、売上を次の式で捉える。
売上 = ①顧客数 × ②単価 × ③継続・頻度 + ④新しい収益源
さらに、⑤開発スピードが①〜④のすべてを底上げする。
以下、項ごとに「何をするか」と「何で測るか」を示す。
① 顧客数を増やす:営業・マーケティング
一つ目が、見込み客を見極め、提案の質を上げる領域である。ここは売上との距離が最も近く、成果を直接測りやすい。
リーガルテック企業のLegalOn Technologiesは、自社の営業活動にAIを組み込んだ。
予測AIで見込み客の「有望度」をスコア化し、生成AIで「なぜ有望か」の根拠を文章にして営業担当者に届ける仕組みだ。
同社の発表によれば、架電数は16.8%増え、商談化率は15.1%向上した。
また、旅行大手のエイチ・アイ・エスは、顧客のサイト閲覧履歴や検索条件を生成AIで分析し、店頭での提案を支援する「相談予約ダッシュボード」を開発した。
相談予約を利用した顧客の成約率は、導入前より約5ポイント上がったという。
2つの事例に共通するのは、AIが人の仕事を代わりにこなしたのではなく、人の判断を強くした点だ。測るべき指標も、作業時間の削減ではなく、商談化率や成約率である。
この領域で最初に手をつけやすいのは、すでにデータがたまっている場所だ。
多くの企業には、顧客管理システムの商談履歴、マーケティングツールの行動データ、問い合わせの記録がある。
これらは、これまで担当者が経験と勘で読み解いてきた情報だ。AIに読ませれば、有望な顧客の優先順位づけや、提案の切り口の提示に使える。
そしてこれは、業種が違っても考え方は同じである。
製造業や卸売、建設など、取引先との商談を重ねて受注する企業であれば、過去の引き合いと受注・失注の記録、顧客ごとの購買履歴、問い合わせの内容をAIで分析することで、営業担当者が「次にどの顧客を、どんな提案で訪ねるべきか」を判断しやすくなる。ベテラン営業の暗黙知を、若手が使える形にすることにもつながる。
注意したいのは、AIの出力を営業の現場が信頼できるかどうかだ。
例えば、「この顧客の有望度は80点」と数字だけを示されても担当者には理由がわからず、すぐに電話をかける判断にはつながりにくい。
LegalOnの事例では、有望度のスコアに加えて、「なぜ有望なのか」の根拠を生成AIが文章で示していた。
このように、数字の理由がわかってはじめて現場はAIの判断を使いこなせると考える。
② 単価を上げる:価格設定と付加価値
二つ目は、需要や顧客の状況に応じて、価格を最適化する領域だ。
例えば、航空券やホテルでは、混み合う時期は高く、空いている時期は安くと、需要に合わせて価格を変える方法が広く使われている。
こうした値付けには、「いつ、どれだけ売れそうか」を先に見積もる必要があるため、AIは過去の販売データなどからこの需要を予測する役割を担える。
ただし、価格にAIを使うときは顧客の信頼が問われる。
価格の決め方が不透明だと、短期の売上と引き換えにブランドを損なう恐れがあるため、測るべきは単価だけでなく、顧客の継続率もあわせて見るべきだ。
一方、製造業や卸売、建設など、取引先との交渉や契約で価格が決まる業種では、「値付けを動かす」よりも「価値に見合う価格の根拠をつくる」と捉える方が現実的だろう。
例えば、顧客の業種や過去の問い合わせ内容をAIで読み取り、その顧客が重視する点を前面に出した提案書をつくる。あるいは見積もりに、製品の稼働データやサービスの利用実績からAIで試算した「導入すれば電気代がどれだけ下がるか」といった効果の見込みを添える。
定価を上げなくても、値引きを求められにくくなれば、実際に受け取る単価は上がるという発想だ。
③ 継続・頻度を上げる:アフターサービスと保守
三つ目が、販売した製品やサービスとの接点を、継続的な収益に変える領域だ。
製造業の設備保守のほか、ITシステムの運用・保守、建物や設備の管理、定期契約のサービスなど、売った後も顧客との関係が続く企業にとっては、大きな可能性を持つ領域である。
ここでは、その代表例として製造業の設備保守を取り上げる。
この場合の鍵は、同じ技術をどこに置くかだ。予知保全や故障診断のAIを自社工場に置けば、保全コストの削減になる。
一方、顧客に納めた設備の保守サービスにAIを置けば、それは顧客の稼働率を守る商品になり、継続的な売上を生む可能性が高まる。
日本の製造業は、長年にわたって顧客に納めてきた設備と、その保守記録を持っている。
この「インストールベース(顧客のもとで稼働している自社製品の基盤)」は、AIで保守サービスを高度化するうえで、海外の新興企業にはない資産になる。
ただし、自社工場で使っている予知保全や故障診断のAIを、顧客向けの保守サービスとして売るには、技術とは別の設計が要る。
一つは料金形態や契約内容である。
保守を「壊れたら直す」作業として請け負う形では、AIで故障を未然に防ぐほど修理の依頼が減り、自社の売上はむしろ減りかねない。
一方、「設備を止めない」ことを約束する契約として売れば、AIで故障を防ぐほど自社の修理コストが下がり、利益が増える。
同じAIでも、料金形態や契約内容によって、自社の収益につながるかどうかが変わる。
料金形態や契約内容が決まれば、何で成果を測るかも見えてくる。「壊れたら直す」契約なら修理の件数や売上が指標になるが、「設備を止めない」契約であれば、測るべきは保守契約の継続率や、顧客1社あたりのサービス売上である。
もう一つは、データの扱いだ。
顧客の設備から集めた稼働データを誰が持ち、何に使ってよいのかを、契約の段階で顧客と合意しておく必要がある。
IPAの調査でも、企業間のデータ連携の課題として「データ連携を活用したビジネスモデルや収益化の仕組みが描けない」が31.8%にのぼった。
つまり、技術より先に、収益の設計図を描けるかが問われているということだ。
④ 新しい収益源をつくる:自社で磨いたAIを商品にする
四つ目が、社内の効率化で実証したAIを、他社向けの商品にする領域だ。
業種を問わず考えられる道筋だが、国内では製造業で実例が見えやすい。
日立製作所は、品質保証業務を支援するAIエージェント「品質ナレッジシステム」を、まず自社工場に導入した。
その結果、トラブル対応事例の検索時間を約9割、対応レポートの作成時間と不具合の原因分析時間をそれぞれ8割以上削減したという。
その結果を受け、2026年4月から、産業向けソリューション群「HMAX Industry」のラインアップとして、製造業などの顧客向けに提供を始めている。
この事例から読み取れる型は、「自社で効率化を実証し、その成果を商品として外に出す」という順路である。
社内の効率化は、それ自体が終点ではなく、新しい収益源の試作にもなりうる。
この道筋が有効なのは、社内での実証がそのまま商品の信頼性を裏付けるからだ。
「自社の現場でこれだけ削減した」という実績は、顧客にとって何よりの判断材料になる。しかも、長年の業務で培った現場の知見は、汎用的なAIを提供する海外の大手企業には簡単に真似できない。
もちろん、すべての企業が日立のように外販事業を持てるわけではない。
中堅・中小企業であれば、自社の知見を組み込んだAIを取引先や同業に提供する、あるいはAIを組み込んだサービスとして自社の製品やサービスに付けて売る、といった形が現実的だろう。
大切なのは、社内の効率化に取り組む段階から「これは外に出せるか」という視点を持っておくことだ。
⑤ 開発スピードを上げる:研究・商品開発
最後が、設計や試作、検証のサイクルを短くする領域だ。
市場への投入が早まれば、①〜④のすべてに効果が波及する。
総務省の「令和8年版 情報通信白書」によると、米国企業では、生成AIの効果を実感する業務として研究・商品開発が47.5%と最も高い。日本企業の同じ業務は39.1%で、効果の実感は議事録・メール作成(72.3%)に大きく偏っている。
つまり、開発の現場にAIを置くことは、日本企業にとって伸びしろの大きい選択肢であると言える。
開発の領域でAIが効くのは、試行錯誤の回数を増やせるからだ。
過去の設計データや試験結果、不具合の記録をAIで検索・分析できれば、技術者は同じ失敗を繰り返さずに済み、より多くの案を短い期間で検討できる。
前述した日立の品質ナレッジシステムも、品質保証で得た知見を設計や製造の上流へ戻すことを目指している。
開発が速くなれば、顧客の要望に早く応えられ(①)、付加価値の高い製品を出しやすくなり(②)、新しいサービスや商品の種も増える(③④)。
つまり、⑤は単独の領域というより、方程式全体の係数を大きくする領域だと言える。
自社の地図を描く4つの問い
地図は、他社の事例を眺めるだけでは描けない。自社の売上の方程式に当てはめて、次の4つを問うことから始めたい。
- 自社の方程式で、最も伸びしろがある項はどれか。 顧客数か、単価か、継続か、新しい収益源か。答えは業種や事業の成熟度によって異なる。
- AIを置こうとしている場所は、売上を生む中核業務か。 議事録やメール作成で止まっていないか。支援業務の効率化は入口としては有効だが、それだけでは売上は動きにくい。
- その領域のデータは、社内にあるか。 商談履歴、顧客の利用データ、設備の保守記録。AIの効き目は、置く場所にあるデータの質に大きく左右される。
- 成果を売上側の指標で測る設計になっているか。 作業時間の削減ではなく、商談化率、単価、継続率、新規収益で測れるか。
4つ目の問いは、特に重い。
IPAの「DX動向2026」によれば、AIに限らずDX全体で見ても、成果指標を設定している企業は23.9%にとどまる。
設定している企業でも、指標の対象が「経営改革(デジタル事業売上高、市場シェア等)」なのは16.3%しかない。測らないものは、動かせない。
また、地図を描いた後には、体制の問題が残る。
同じ調査では、AI導入を主導しているのは「IT部門の長」が46.0%で最も多く、CAIO(最高AI責任者)は2.9%だった。
売上の方程式に手を入れるのは経営の仕事であり、IT部門だけに任せて済む話ではない。
最初の一歩として勧めたいのは、4つの問いを経営会議の場で一度通してみることだ。
答えが出ない問いがあれば、それが自社の地図の空白であり、空白を一つずつ埋めていく過程そのものが、AI戦略を描く作業になる。
守りのAIの先に、攻めのAIという選択肢を
守りのAIである議事録やメール作成の効率化は、それ自体が価値のある取り組みだ。
その上で、浮いた時間や人を売上の方程式のどの項に振り向けるかを決めれば、守りのAIは攻めのAIを支える原資にもなる。
売上の方程式という地図を持てば、AIは「コスト削減の道具」であると同時に、「売上の設計図」にもなり得る。
守りを固めながら、攻めの一手をどこに打つか。自社のAIの置き場所を、一度見直してみてはどうだろうか。
出典
- 総務省「令和8年版 情報通信白書(概要)」
- 総務省「令和8年版 情報通信白書」組織的な取組状況
- IPA「DX動向2026」報告書本文
- 帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査」
- JUAS「企業IT動向調査報告書2026」
- McKinsey「The state of AI in 2025: Agents, innovation, and transformation」
- LegalOn Technologies:生成AI Innovation Awards ファイナリスト登壇
- 日経クロストレンド:HISが独自接客AIで店舗の成約率5ポイント向上
- CX Clip by KARTE:HIS「店舗×Webデータ×AI」
- 日立製作所 プレスリリース:品質ナレッジシステム

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